ナマクラ!Reviews

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第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー
1.事件の始まり
2.事件視聴者
3.事件から二十年後
4.事件
5.事件から三カ月後

answer.――― 75 点

長い地理描写、政治背景などを含めた歴史語り、または専門知識のひけらかしは、ともすると説明口調になり、読者の作品に対する興味を著しく損なうものだが、この作家は面白い!という信頼は、読者にそのまま頁をめくる我慢を許す。伊坂幸太郎の<集大成>的作品!と評される本作は、まさに読者に我慢を強いる一作。巷の評判通り、著者の作品を複数作読んだことのある人にとっては、平凡な主人公像、潜む愉快犯、カットバック形式などからも<集大成>という形容にも大いに頷けるのではないだろうか。もっとも、集大成だからと言って、本作が著者の最高傑作ではないだろう。それは上記の通り読者に我慢を強いる事実にある。一章から順に読んでいくならば、本作は<記憶力>を求められる。踏み込めば、本作のいわゆるオチは三章【事件から二十年後】にて語られる。故に読み飛ばして、その章については最後に読んでも構わない。だが、何故にそんな構成にしたかと言えば、本作は著者の作家としての挑戦―――あるいは、単なる自己満足に端を発する。マンネリの打破。多作の作家ほど自分と向き合うことは多くなり、読者以上に自作のストーリー展開を意識していくものだ。概してマンネリの打破を試み始めると、その過程で必ず本作のように今までの作品で披露してきた方法論を組み合わせる<集大成>が出来上がる。そして、一流の自負がある作家ほど読者に我慢を強いる仕上がりになると思う。それというのも、その著者は今まで読者に<我慢をさせたことがない>ためだ。本作の冒頭で、首相が暗殺される。そして、主人公は濡れ衣を着せられ、逃亡する。真犯人は誰なのか!?がオーソドックスな読者の関心事だが、本作はそこを端折る。三章【事件から二十年後】で実は明らかにされているのだが、読者は初見では読み流すだろう。なぜなら三章がオチだと思わないからだ。本作は読み終わって初めて三章の意味に気づく。物語が逃亡劇と暗殺の真相、ふたつあることに気づく。長く書いてしまったが、本作への結論はこうだ―――この構成、面白い!と思えるのは、伊坂幸太郎のファンだけであり、また、この構成を評価出来ないと、決して面白いと唸れる作品ではない。楽しく読みたいならば、読みづらくても三章の内容を記憶しておくのが良いだろう、そして、ラストに「大変よく出来ました」の判子を押して貰いましょう。ちなみに、第5回本屋大賞「1位」にランクイン。がしかし、伊坂幸太郎は書店員の固定ファンが多いみたいだから本屋大賞は殿堂入りってことで良いんじゃねえかな?「1位」の内容じゃないよ。

第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎 本屋大賞 山本周五郎賞

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第6回本屋大賞 10位:モダンタイムス/伊坂幸太郎

モダンタイムス (206x300)
(あらすじ)
29歳の会社員となった渡辺拓海の前で、見知らぬ男が「勇気はあるか?」と訊いてきた。「実家に」と言いかけたが、言葉を止めた。拷問を受けた翌日、拓海は失踪した五反田正臣の代わりに、「ゴッシュ」という会社から依頼されたシステム改良の仕事を引き継ぐことになる。

answer.――― 69 点
本作の見所を挙げるなら、……拷問場面だろうか。ドSな妻に浮気を疑われ、実際、本当に浮気をしているSEな主人公が巻き込まれたのは、国家的陰謀!と風呂敷はデカいものの、市井の者が出来る程度のアクションで幕を閉じられる本作。制作時期を共にしていたらしい前年の本屋大賞第1位の『ゴールデンスランバー』と同じ“小市民の反抗”な作風で、その意味でも兄弟作と云えるものだが、……いつも通り台詞こそ小気味良いものの、だらだらだらだらだらだらと続く頁に「とりあえず、長い。そして、やっぱり長い」と思わずクレームまで繰り返したくなる。こうなると1位から10位への大幅なランクダウンも、伊坂幸太郎という作家が迎えた賞味期限を象徴しているように思えてしまった。伊坂好太郎と言えば……!の十八番《日常》は、現代よりおよそ50年後の近未来にもかかわらず、さした技術革新も起こらず「変わっていない」としている設定。徴兵制が敷かれているのがミソだが、そこは押し出されず、単なるファッションと化している。要するに、著者にとっては労せず現代を演出出来る有用なアイディアだが、読み手には特に還元されないサボタージュなアイディア。まだ伊坂作品を手に取ったことのない新規の読み手へ向けた“野心”を感じられない仕上がりとなっている。それでも、懲罰な拷問を受けながらも善性に満ちた伊坂好太郎節は健在だし、『魔王』(未読)とも世界観を共有しているようなので、ファンならば満足出来るのではないでしょうか。ただ、やっぱり長過ぎるとは思う。ドS妻・佳代子がいなかったら、個人的に「……Give up!」していた“見限り”な一作でした。

第6回本屋大賞 10位:モダンタイムス/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 伊坂幸太郎 本屋大賞

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第1回本屋大賞 5位:重力ピエロ/伊坂幸太郎

重力ピエロ
(あらすじ)
半分しか血のつながりがない「私」と、弟の「春」。春は、私の母親がレイプされたときに身ごもった子である。ある日、出生前診断などの遺伝子技術を扱う私の勤め先が、何者かに放火される。町のあちこちに描かれた落書き消しを専門に請け負っている春は、現場近くに、スプレーによるグラフィティーアートが残されていることに気づく。連続放火事件と謎の落書き、レイプという憎むべき犯罪を肯定しなければ、自分が存在しない、という矛盾を抱えた春の危うさは、やがて交錯し……。

answer.――― 83 点
熱心な読者とは言えないが、伊坂幸太郎のピークはいつなのか?と訊かれれば、おそらくこの『重力ピエロ』ないし次作の『アヒルと鴨のコインロッカー』までだと答えると思う。日常にモノホンな「事件」を起こし起こさせる「優等生」伊坂幸太郎。本作は当時の彼の持ちうる《日常》を余すことなく出し尽くしただろう一冊。「日常」―――伊坂幸太郎にかぎらずだが、実のところ、すべての作家がすぐに尽きる「(世界)観」が《日常》である。それというのも、人生は「自分」一度しか体験出来ていないからだ。そして、《日常》とはその説明を省いてしまえば実質的にモラトリアム、思春期に培った感性(&記憶)の吐露に他ならない。社会人以降の《日常》は、多くは業界(社会)の説明、専門分野の知識の披露でしかなく、思春期の産物ではない、社会人の《日常》らしい《日常》を演出するためには「結婚」「転職」「介護」などの《責任》関わるイベントを用いなければならない。また、日常は本来的に面白いものではないために……云々、と。こう《日常》と連呼してもやはり抽象的になってしまうので切り上げるが、何にせよ、《日常》を武器とする故に伊坂幸太郎は作品を上梓する毎に摩耗&劣化し、ついにはストック尽きて、「この10年間で小説に対するモチベーションがかなり変わった。最初は読者の反応を気にして、執念をもって小説を執筆していたが、最近は小説を書くこと自体が楽しくてしょうがない」なる発言を残して10年代に到る。最近の作品が気抜けのサイダーのような出来なのは実際、気抜けで書いているからなのである。本作より後発の世界を終わらせてまで《日常》をひねり描いた『終末のフール』を読んでみればお察し出来るように、《日常》のストック気にせず存分に披露出来た初期作品こそ伊坂幸太郎の筆が躍動した跡だ。本作はそのとびきりの「跡」、マイケル・ジョーダンからDNAまで著者の世代が薫るネタを台詞に、地の文に仕込みに仕込んだ、レイプ有り!殺人有り!正義は……!と性悪説&性善説入り混じる快作。暇を持て余している大学生にピッタリの良質な大衆小説です。

第1回本屋大賞 5位:重力ピエロ/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 伊坂幸太郎 本屋大賞

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第4回本屋大賞 4位:終末のフール/伊坂幸太郎

終末
1.終末のフール
2.太陽のシール
3.籠城のビール
4.冬眠のガール
5.鋼鉄のウール
6.天体のヨール
7.演劇のオール
8.深海のポール

answer.――― 61 点

隕石が落ちてくる、確実に……そんな報道が世間に浸透して数年、人々は達観/諦観しながら日々を過ごしていた。飛び抜けて面白い作品は創らないが、素晴らしく安心して読めるエンターテイメントを提供してくれる作家・伊坂幸太郎。が、この作品に限っては趣向が違う。1章を読み終わる頃には、彼が書く必要のなかった小説だと気づけると思う。これをアマチュアが書いたとして、だからアマチュアなんだよ、となじられるハズだ。詰まる・詰まらない以前に、自分は伊坂幸太郎だということを意識して欲しい。優等生が平均点を取ってしまった感じで後味が悪い。終末描くなら、レイプの一つでも起こしてくださいや!

第4回本屋大賞 4位:終末のフール/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 伊坂幸太郎

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第3回本屋大賞 3位:死神の精度/伊坂幸太郎

死神の精度
1.死神の精度
2.死神と藤田
3.吹雪に死神
4.恋愛で死神
5.旅路を死神
6.死神対老女

answer.――― 72 点

雑誌「オール讀物」他で掲載した短編をひとつにまとめた作品。表題作は第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞。さて、このナマクラ!Reviewsにおいて、優等生と云えば、伊坂幸太郎その人であることは御存知の通り。丁寧な文章、誰にも優しいユニセックスなストーリー、安定した刊行ペース―――まさしく<プロ>の所業、彼が職業欄に堂々と<作家>と書くことに異論を挟む人はまずいないだろう。大衆小説とは、一般大衆を対象にして書かれた通俗的、娯楽的小説……というならば、彼の作品はまさしくどれもが<大衆小説>の名に相応しい。しかし故にというか、私にはいつも物足りなさがつきまとう。その印象は、本作でも変わらず。作品の形としては、クールで少しずれている死神の一人を主人公にした連作短篇。主人公の仕事は対象を7日間調査し、その死の<可否>を報告するというもの。基本的に死神たちは「可」を出すというように、本作でもよく「可」が出される。大概、この手の設定は死ぬことを願いたくなるような嫌なキャラクターを登場させて死神による「可」判定でその留飲を下げるものだが、そこは伊坂幸太郎らしく大前提「可」を逆手に、90°ほど傾けるストーリーアレンジを披露。そう、登場人物はほぼ全員「善性」を有している。そして、作中のルールを器用に用い、悪を挫くのである。そんな90°アレンジもあり、暇潰しにはまさに適当なクオリティ。短編ということもあり、気軽に読める。ただ、―――感銘を受けることはいつも通り、無い。ただ(これまたいつも通りなのだが)、唯一、終章にて一作品としてのサプライズが起こる。終章だけ他章の話が唐突に紛れるのだ。どこか似通うストーリー展開が続いたなかでのサプライズ。悪い点数を取ったな、と思わせて、皆が解けない問題に唯一答えられたようなサプライズ、……優等生である。伊坂幸太郎の作品は、暇潰しの精度としては抜群だ。

第3回本屋大賞 3位:死神の精度/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎

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第2回本屋大賞 5位:チルドレン/伊坂幸太郎

チルドレン
1.バンク
2.チルドレン
3.レトリーバー
4.チルドレンⅡ
5.イン

answer.――― 74 点

伊坂幸太郎と云えば、―――ギャング!という初期の先入観に応えた冒頭の銀行強盗劇から幕を開ける本作は、「短編集のふりをした長編小説」をコンセプトに、理屈にならない理屈で相手を困らせるのに何故か憎まれない男・陣内を全編で脇役として登場させる連作短編。作中の時間軸は、陣内が家裁調査官になる前/なった後の二つがあり、「バンク」「レトリーバー」「イン」ではなる前のストーリー、「チルドレン」「チルドレンII」ではなった後のストーリーが描かれている。表題作を時間軸に跨いでの一作品の流れを楽しむ体だ。ハイライトは表題でもある四章「チルドレンII」だろう。作品全体で訴えている性善説をバッチリと決めてくれる。もっとも、ハートフルな作品ではあると思うが、手持無沙汰を埋める程度の面白味で、読んで心動くような感動は得られない。個人的には、家裁調査官という耳慣れない職業の存在を知ったのが本作の収穫だった。法律用語では、14歳、15歳の少年を年少少年、16歳、17歳の少年を中間少年、18歳、19歳の少年を年長少年と呼ぶらしい。一番面白そうな登場人物は盲目の少年の恋人だったな。全編で盲導犬にさえ嫉妬する彼女が視点人物だったら、もっと違った印象になったかもしれない。

第2回本屋大賞 5位:チルドレン/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎

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第1回本屋大賞 3位:アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎

アヒル
No animal was harmed in making this film.
この映画の製作において、動物に危害は加えられていません。

―――映画のエンドクレジットによく見られる但し書き

answer.――― 78 点

いざ吹き終わる口笛、ボブ・ディランの「風に吹かれて」―――引っ越して早々、本屋に広辞苑を盗みに入らないか?と誘われた大学生の椎名。どこかのんびりとした強盗計画とその計画が練られることになった背景を描いた本作は、伊坂幸太郎らしい優等生なエンターテイメントが詰め込まれた一作。日本人にあまり馴染みのないだろうブータンについての発言が目立つ本作だが、そこが肝と言うか、ブータンを知らないからこそその文化、生活に対して想像力を働かされ(話が本当かどうか読者自身疑うため)、昨今、現代人に推奨されているスローライフ、そして、異国ブータンへ憧憬を抱かせる。現在と過去が切り替わるカットバック形式のため、その都度、集中力を削がれるのが難点だが、だからといって途中で投げ出すことなく最後まで読ませる筆力がある。すべての事情が呑み込めたときを待つように……物語の終わりに椎名へ届けられた家族からの連絡は、仮に読者自身が受け取ったとしても落ち着いて処理できることだろう。読了後も余韻を残し、読者を少し大人にしてくれる伊坂作品のひとつ。

第1回本屋大賞 3位:アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎

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