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第8回本屋大賞 5位:シューマンの指/奥泉光

シューマンの指
(あらすじ)
シューマンに憑かれた天才美少年ピアニスト、永嶺修人。彼に焦がれる音大受験生の「私」。卒業式の夜、彼らが通う高校で女子生徒が殺害された。現場に居合わせた修人はその後、指にピアニストとして致命的な怪我を負い、事件は未解決のまま30年の年月が流れる。そんなある日「私」の元に修人が外国でシューマンを弾いていたという「ありえない」噂が伝わる。修人の指に、いったいなにが起きたのか。

answer.――― 76 点

どこのレヴューにも<二転三転>というフレーズが踊る奥泉光による、講談社創業100周年キャンペーンの枠で書き下ろされた(設定となっている)本作。その概要はシューマンをコンセプトにした異色ミステリー!と謳えば聞こえはいいが、前半は登場人物たちの感性を借りたシューマンについての評論で、物語の進展をどこまでも阻む。この前半を厳しく断じたいのは、読ませる工夫を怠っていることだ。こういう評論まんまな書き方しか出来ないのならばまだしも、仮にも「伊坂幸太郎大ちゅき♪」な書店員が審査員の本屋大賞にランクインしているように、著者は相応の魅せ方が出来る作家だ。それは作中、グールドについて偏屈エピソードを交えた評論が展開された件で私自身も確認した。つまり、それが出来るなら、―――サボってんじゃねえ!と。読みにくい高説ならその辺の指揮者や演者でも出来る。作家ならば作家らしい、読みやすい高説を披露すべきで、本作における前半はその観点において完全に赤点、追試、再提出の出来である。まあ、音を無駄に喩える修飾を頭のなかでDeleteすれば、作曲に根づく(精神論的)解説は個人的には面白く読めた。しかし、書店員に評価されたのはまさかこの評論部分ではあるまい。後半よりようやく始まるミステリーこそ本作のメインディッシュ。プールで起こった突然の殺人事件から、冒頭より匂わされた天才ピアニストの指切断がいよいよ、ひたひたと近づいてくる。事件未解決のまま、時が過ぎ……ある演奏会の後に催されたセレブリティなパーティーでの音大浪人生を誰も彼もが嘲る場面はまさに力作。読んでいるこちらを著者自身が馬鹿にしてきているような錯覚さえ覚えて、「奥泉、こいつら、お前だろ!?」と指摘したくなる珠玉の性悪が演出されている。そんな不穏に満たされた各イベントを経て、少々性急に殺人事件の種明かしへ。力業ながらも二転する展開、才人が犯した事件だけにそこそこの満足感を得るが、―――ラストの四頁で賛否両論、まさかの三転目である。是か非か、おそらく「非」の判断が大半だろう。あまり意味を感じないからだ。シューマンの音楽がどれも<二転三転>するのならこの無駄な展開も分からないでもないが……まあ、波風立たない優等生な作品よりは十分楽しめた。余談だが、表紙の血痕は分かっていてもインパクトがあったね。

第8回本屋大賞 5位:シューマンの指/奥泉光

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 奥泉光

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