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第9回本屋大賞 4位:くちびるに歌を/中田永一

くちびるに歌を (199x290)
(あらすじ)
長崎県・五島列島のとある島の中学校。合唱部顧問の松山ハルコは産休に入るため、代わって松山の中学時代の同級生、「元神童で自称ニート」の臨時教員・柏木ユリに、1年間の期限付きで合唱部の指導を依頼する。

answer.――― 70 点
00年代前半の主役の一人、ライトノベル界の三大犯罪者「この名前は捨てたんだ……」乙一による、中田永一名義の青春小説。離島を舞台に、いざ征かん!NHK全国学校音楽コンクール!!というライトノベル畑で生まれ育った著者らしい隙間を突いてくる題材だが、いざ読んでみれば「合唱コンクール」自体はあくまで添え物な青春小説らしい惚れた腫れたが中心のストーリー。あらすじや内容紹介で謳われる、新たに赴任してくる「元神童で自称ニート」の臨時教員・柏木ユリの存在感は希薄で、本作の事実上の主人公は例によって内向的な性格で、これまた例によって自閉症の兄を持つという世間にひた隠す《ハンデ》持ちの桑原サトル。彼のコミカルで、時にセンチメンタルな心持ち、塞翁が馬なアクシデントを「外」から眺めるのが本作のエンターテイメントとなっている。正味な話、世に溢れ返る作品のなかで本作をあえて薦めたくなる突き抜けた面白味は皆無だが、それでも、作中のハイライトに挙げられるだろう合唱コンクール直前の抜け出し、名誉の負傷の件は序盤&中盤の平坦な展開を盛り返しにかかるベテラン作家としての手腕。兄への《合唱》を含め読後感は悪くない。ただ、期待し過ぎれば肩透かし、新人作家の作品ならばお先が知れる平均的な作品には違いない。

第9回本屋大賞 4位:くちびるに歌を/中田永一

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 三大犯罪者 乙一 本屋大賞

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集英社文庫:ZOO/乙一


1.カザリとヨーコ
2.血液を探せ!
3.陽だまりの詩
4.SO-far そ・ふぁー
5.冷たい森の白い家
6.Closet
7.神の言葉
etc...

answer.――― 67 点

長編小説が書けない作家・乙一が贈るショートショート風味の短篇集。冒頭【カザリとヨーコ】を読んで、破れかぶれ、そんな心境で綴ったのかとまず邪推した。いじめ&虐待されている人物を主役に配してくるのはいつも通りとして、そのキャラクターが途中から陽性になり、「ぃよっしゃー!」と地の文で叫ばれたときには流石に唖然とした。……自分の殻を破ろうとしているのか!?とその意気込みを勝手に買い、ラストで続かなきゃ嘘だろ?な幕引きに(……ああ、連作短篇ね)と、次章に移れば人類( ゜Д゜)ポカーン計画。乙一先生、終了のお報せでした。奇抜な設定で誤魔化しているが、収録された短編中で時間の精査に耐えうる質を備えているは【SO-far そ・ふぁー】くらいだろうか。家族を題材にすればまだ幾らかの引き出しを持っていると思うが、乙一本人が己の創作能力に諦めがついているなら仕方がない。ファンの間で評判高い【SEVEN ROOMS】だが、これこそ(……こんなもんで良いんだろ?)と投げやりに書いたインスタント短編に思えてならない。「理不尽な殺人」「カウント」「法則」「脱出」……この辺りをキーワードにパターンを繋ぎ合わせただけで、よほどその辺にありそうな既製品に思えるが、あれか、観光地で買う割増しの土産物か。まあ、乙一のファンならずとも、暇潰しには適う短篇集、かな?画像は、単行本を採用。文庫本だと、「1」「2」とわざわざ分割して営利主義に走っております。

集英社文庫:ZOO/乙一 (2003)

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 三大犯罪者 乙一

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角川文庫:GOTH/乙一


「僕の章」
1.リストカット事件 Wristcut
2.土 Grave 
3.声 Voice
「夜の章」
1.暗黒系 Goth 
2.犬 Dog
3.記憶 Twins

answer.――― 75 点

この世には殺す人間と殺される人間がいる……そして、自分はその前者だと自覚する「僕」と、人の残酷な面を覗きたがる少女・森野夜。「私にも、その表情のつくりかたを教えてくれる?」―――『人間失格』な二人のボーイ・ミーツ・ガール。本作にて第3回本格ミステリ大賞を受賞し、乙一がライトノベルというジャンルの枠を越える知名度を持つようになった記念碑的一作。また、本作は単行本『GOTH リストカット事件』として発売された後、文庫版を出版するにあたって「僕」に焦点を当てた「僕の章」、森野夜に焦点を当てた「夜の章」に分けて出版された。これは営業的な側面が大きいのだろうが、作品の質を向上させる意味でも成功した稀有な例となった。というのも、本作、単行本と文庫本での読後感がまったく違うからだ。本作は形式としては連作短編となっているが、「僕」と「森野夜」、主人公とヒロインがメインで活躍するのは二編しかない。基本的に物語の視点を任されるのは<殺人鬼>で、彼らの淡々鬱々とした日常(犯行)をなぞるのが本作の醍醐味になっている。それで、ラストに乙一の十八番!ドンデン返し!!を迎えるわけだが、……あまりに《パターン》なのでオチをオチとして楽しめない。単行本での章の並びでは特にそれが顕著でまさに尻すぼみ、ともすると駄作にさえ思えてしまう。その点、文庫版は文体にブレが生じているものの、それぞれがひとつの作品として綺麗にまとまっているのが良い。二冊で一冊ではあるが、どちらか一方しか読む気が無いというなら、オススメは「夜の章」。第2章【犬 Dog】が邪魔だが、森野夜が現代っ子が望む正統派GOTH系ヒロインとして機能している。乙一には珍しいキャラクターの魅力で攻める小説。ライトノベルではなく、大衆小説として出版されているが、本作こそ乙一流の《ライトノベル》作品と云える。点数は文庫版(僕の章/夜の章)へ宛てたものです。

角川文庫:GOTH/乙一 (2002)

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 三大犯罪者 乙一

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幻冬舎文庫:暗いところで待ち合わせ/乙一

暗いところで待ち合わせ
(あらすじ)
視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった。

answer.――― 77 点

紛れもない乙一の作家としての最高傑作であり、乙一の作家としての限界点を満天下に示した作品。本作のあとがきにて、前作でカットした一場面を一作品にしたのが本作、なる記述(要約)があるが、本作はまさに《一場面》の物語と呼ぶに相応しい異型の「長編」小説。本作の概要は、盲人の女性宅に殺人犯が忍び込み、一緒に生活する……ただ、それだけだ。前作「死にぞこないの青」に続く実質のドキュメントで、終盤に唐突に物語が展開され、着地する。構成で言うなれば「序盤」「中盤」「終盤」の三構成に分けられ、その中盤は物語が無いに等しい。しかし、この中盤こそが『乙一』の作家としての真骨頂だ。乙一とは何者なのか?ある人はグロテスクを描くという。ある人はセンチメンタルを描くという。前者に関して云えば、それはあくまでオプションであり、別に乙一でなくても書けることに気づいて頂きたい。しかし、後者に関して云えば、乙一はおよそ凡より秀で、秀でに優る書き手に数えて遜色ない。その評価に足り得るのも、言葉を呑み、物言わぬ内向的な登場人物たちの採用にある。本作中、一体、台詞は幾つあっただろうか?読了後、是非とも思い浮かべて欲しい。勿論、ある。しかし、貴方の記憶のどこにそれが残っている?―――「ありがとう」、思い浮かぶ台詞はこの言葉のはずである。逆に云えば、それ以外、何があっただろう?言葉を呑み、……そして、零す。センチメンタルの極意がここにあり、乙一はこれを修めている。「ありがとう」は、本作の『物語』に関係が無い。しかし、この台詞零れる『場面』こそ乙一が描きたかった場面なのだ。乙一は『場面』の作家なのである―――場面から創り、物語を付けるのだ。短編、中編では妙手と名を挙げられても、長編となると賛否が分かれる理由はここにある。一場面を一作品にした、この事実が図らずしも乙一の最高傑作を生み出した。あるいは、短編、あるいは中編で本作よりも質の高い作品を乙一はこれから創るかもしれない。しかし、物語を意識して創る常識に囚われているうちは本作を超えることは不可能だ。乙一自身、自らが長編を描けないことを自覚しており、富と押井守を手に入れてしまった現在、苦痛さえ伴うであろう「長編」小説の制作は敢えて行うことは少ないだろう。故に、本作が乙一の最高傑作な事実は揺らぐことはない。乙一という作家を知る上で外してはいけない欠陥的名作。1/3に省略出来るストーリーをその眼で確かめよ!

幻冬舎文庫:暗いところで待ち合わせ/乙一 (2002)

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 三大犯罪者 乙一

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幻冬舎文庫:死にぞこないの青/乙一

死にぞこないの青
(あらすじ)
飼育係になりたいがために嘘をついてしまったマサオは、大好きだった羽田先生から嫌われてしまう。先生は、他の誰かが宿題を忘れてきたり授業中騒いでいても、全部マサオのせいにするようになった。クラスメイトまでもがマサオいじめに興じるある日、彼の前に「死にぞこない」の男の子が現れた。

answer.――― 72 点

乙一を一部ではホラー小説家と見る向きがあるが、それは本作での第二の主人公と云える異形の姿を持つ「アオ」のような、実のところ脈絡は無いのだけれど強烈なインパクトのあるキャラクターをストーリーに挟んでくるからなのだろう。そう、本作は要約すれば、「いじめ」の物語であり、逆に云えば、「いじめ」のドキュメントでしかない。そこに主人公にしか見えない「アオ」が登場することで、ごく普通の話をそのインパクトで誤魔化している造りだ。物語としては非常に魅力の薄い本作だが、「読めてしまう」のは主人公の鬱屈とした心内描写にある。乙一は、内向的な主人公を描くのが群を抜いて上手い。主張出来ずに、言葉を呑む、そんな能弁な描写を成立させる。これはあとがき等で言及しているように、自身の実体験が関係しているのだろう。いじめの始まり、疎外されていく過程にはしっかりと段階が設けられており、芸が細かい。本作のいじめの中核には担任教師が配されている。しかし、その設定には無理がなく、本作の価値を高める興味深いものとしている。それだけに、「アオ」の登場意図が安易に映る。「アオ」は実際、いなくても良い。しかし、グロテスクな「アオ」の登場は読み手に歓迎される。そこに乙一のストーリーメイカーとしての弱さを、本作のストーリーの根本的な弱さを私は見てしまう。

幻冬舎文庫:死にぞこないの青/乙一 (2001)

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 三大犯罪者 乙一

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集英社文庫:暗黒童話/乙一

暗黒童話
(あらすじ)
突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった…。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに……。乙一の長編ホラー小説がついに文庫化。

answer.――― 50 点

集英社文庫、そして、角川スニーカー文庫で一癖ある中編、短編を執筆し、着実にキャリアを築いていた乙一が満を持して送りだした初の「長編」小説。当時の乙一は意図的に作風を文庫によって変えていて、集英社文庫ではグロテスクなものを、角川スニーカー文庫ではセンチメンタルなものにし、ファンの間でそれを「黒」乙一、「白」乙一と仕分けられていたが、本作は集英社文庫から出版されたことからも分かる通り、グロテスクな「黒」乙一な作風。初の「長編」ということで気合が入ったのだろう、―――見事に失敗している。おそらく乙一の作品の中で一番「拙い」作品が本作だろう。失敗の原因は、冒頭から挟まれる暗黒童話「アイのメモリー」の存在。この話の質自体は悪いものではないが、本編に実質必要性が無く、その癖、本編に関わっているように描かれるため、挟まれる度に読み手の注意力が(……何が言いたいんだ?)と散漫となってしまう。これならば、省いてしまったほう余程良かった。本作で興味を引かれたのは、眼の移植による影響で成績その他が低下し、ヒロインが親、クラスメイトから現在の自分を完全に否定されること。なかなかの文学的アプローチで、初の長編ならではの挑戦かと思ったが……完全に私の気のせいだった。序盤以外、見事に描かれることなく消えていった。眼の記憶に導かれて遭遇する事件でのグロテスクな描写はニーズを満たせると思うが、展開の拙さは目に余る。これぞ駄作な印象の作品。また、私が乙一に対し、作家としての才能に疑問を抱いたのが本作だったことも付け加えておく。作家には短編、中編は描けても、「長編」を描けない作家がいる。文学の歴史を紐解けば、例えば芥川龍之介がそうであり、乙一もそこに分類されてしかるべき一人だと思っている。

集英社文庫:暗黒童話/乙一 (2001)

category: あ行の作家

tag: OPEN 50点 三大犯罪者 乙一

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集英社文庫:夏と花火と私の死体/乙一

夏と花火と私の死体
1.夏と花火と私の死体
2.優子

answer.――― 69 点

ナマクラ!Reviews認定のライトノベル界の三大犯罪者の一人、乙一のデビュー作。執筆当時、16歳!という事実と、死体の視点で語られる!という工夫が話題を読んだ。前者に関していえば、実際、衝撃の類に挙げられるだろう。これは「瑞々しい」と評すに相応しい年齢離れ、そして、性別離れした文章だ。生理その他の影響で自我の目覚めが早い女「性」が書いたのなら納得も出来るが、女子と比して、どうしても精神の成長が遅れる男「子」が小説を書けたことに驚嘆を禁じえない。突き詰めれば、執筆作業とは自分と向き合う作業だ。他人がどう考え、どう動くのかを想像しながら描く。そこには自分を律する客観性が必要で、16歳というマスターベーションに忙しい時期は他人の視線なんて構っている余裕がないのが実情だ。なのに、である。倫理観の芽生えていない(←これこそ本作最大の工夫だ!)まだ幼い兄妹を主人公に配し、死体運びを冷静に、且つ、動揺を交えて描き切った。折しも中二病なる言葉さえ存在しなかった時代。「死体」「連続殺人」なる単語が躍る題材は時代のニーズに合致し、無名文庫ながらも歓迎された。もうひとつの話題の源泉である後者「死体の視点で語られる!」は肩透かし気味で、(……いや、語れてねえじゃん)と色々と無茶があったが、大事なのは兄妹の無垢で残酷な作業である。瑞々しい文章とは何か?それに答えをくれる一冊。表題以外に、乙一お得意のどんでん返し短編「優子」収録。こちらも佳作の出来。

集英社文庫:夏と花火と私の死体/乙一 (1996)

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 三大犯罪者 乙一

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