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第6回山本周五郎賞 受賞作:火車/宮部みゆき

火車
(あらすじ)
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。

answer.――― 85 点
東野圭吾と宮部みゆき……大衆小説と言えば、一時、この二人が担っていたと思うが、より(早く)「幅」広い支持を受けたのは後者、宮部みゆきだったと思う。その「幅」とはF1やM1といった年齢を区切りにした層の広さではなく、お茶の間からいわゆるインテリゲンチャ、知識層までの偏差値の垣根が取り払われた「幅」だ。クレジットカードの作成から露見した「自己破産の過去」、婚約者の謎の失踪から暴かれていくミステリー。出版当時の時勢を掴み、消費者金融のあり方を問うた本作『火車』大衆小説でありながら文学の専売特許、《人間》に迫った一作!と謳うにはいささか大げさながら、「最後の一行に犯人が出てくる小説」なんて着想からその完遂故に必然的に生じる、他者たちが語る様々な角度からの一人の人物像には、進行していく物語とともに暗い井戸の底を覗き込むように引かれていく。そうして、何者なのか?と探るうちに辿り着いた不動産屋・倉田康二が語る離婚の理由は、誰しも納得の作中の裏ハイライト。宮部みゆきがインテリゲンチャたちに「昨今の文学作品よりも……」と以降、評価されていく手腕が伺える。そんなお茶の間受けに留まらない部分もあり、賞創設20周年を記念して催された「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベストでは見事に第1位に輝き、時代を跨いだ娯楽の傑作として認定。多作の氏のなかでも代表作に挙げられる一作となっているので、未読の方は読んで損ということはないでしょう。個人的にも冗長な場面が散見される『模倣犯』よりもコンパクトで、よほど質の高さを感じられました。

第6回山本周五郎賞 受賞作:火車/宮部みゆき

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 宮部みゆき 山本周五郎賞

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第4回本屋大賞 10位:名もなき毒/宮部みゆき

名もなき毒
(あらすじ)
どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生だった。

answer.――― 75 点

効果的なプロモーションによって社会現象とも云える人気を博した『模倣犯』以降の宮部みゆきの作品は、ファンタジーという、誰も望まない路線をしばし突き走った。この迷走は、本人さえ戸惑う世間の期待―――模倣犯PARTⅡ、PARTⅢの制作要望に対する過大なまでのプレッシャー、その逃避からだと思うが、一連のファンタジー作品が名実ともにコケたことによって、日本一!と喧伝されたバブル人気も一応の落ち着きを取り戻した。本作は、宮部みゆきに誰もが望む現代を舞台にしたミステリー。著者自ら「将来的には現代ものの長編はこのシリーズだけに絞りたい」と謳うお気に入りの『誰か』シリーズ第2弾!―――と云うことも知らずに読んだ私、Medeski。まさかシリーズものだとは思わなんだ。一読して思ったのが、地味だなぁ、と。事の起こりは無差別毒物混入という派手なのか何なのか、いまいちピンと来ない世間を騒がす大事件。そこに別方面―――どこにでもいるマスオさん主人公・杉村三郎の勤める会社でリアル社会不適合女が起こす小さな騒動を交えて、展開していく。『模倣犯』が各方面から評価を受けたように、本作もまた、人間とは何か?に迫る「文学」的要素が盛り込まれている。むしろ、そちらの方に比重を置いたがために地味なのかもしれない。相変わらずのスローペースながら、あの宮部みゆきの作品だし……という信頼の我慢読みに応えてくれる中盤以降のペースアップはいつも通り。毒物が出た店、そこから犯人に疑われる面々、身に覚えのない誹謗中傷。「巻き込まれる」被害者の状況を描く、ここにエンターテイメント性をもたらすことはやはり難しい。本作は新聞連載だったようだが、書籍化にあたり終盤部を大幅に改稿/加筆したとのこと。これは足りないエンターテイメント性を補うためだろう。宮部みゆきに何を望んでいるのか。本作を読んでもどかしいと感じたならば、市井の男を主人公にしたこのシリーズは貴方の肌に合わないのでしょう。

第4回本屋大賞 10位:名もなき毒/宮部みゆき

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 宮部みゆき

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