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第9回本屋大賞 1位:舟を編む/三浦しをん

舟を編む
(あらすじ)
玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか──。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。

answer.――― 74 点
この通り、本屋大賞の第1位に輝いたこともあり、三浦しをんの作品のなかでおそらく一、二の知名度を持つだろう本作は、揺りかごから学校、会社、棺桶に入るまでの大多数の人生で、まずおいそれと関わることのない「辞書」作りに焦点を当てた作品。著者の作風のひとつとして、箱根駅伝を扱った『風が強く吹いている』や林業を扱った『神去なあなあ日常』のように、比較的取り上げられない、マイナーな題材をセールスポイントとして押し出してくることがあるが、その観点から云えば、『図書館戦争』や『県庁おもてなし課』といった隙間を突いてくる有川浩も同系統の作家と云えると思う。が、―――三浦しをんはモノ(文章力)が違う。辞書、という「言葉」が主役となる題材においても、三浦しをんの筆は「格」負けすることなく、辞書の「ルール」、辞書編集者の「職業癖」を小難しくも堅苦しくもせず、ユーモアに調理して紹介。そうして、天然な主人公を操り、気の遠くなる辞書編集の労苦を見事に描いている!と絶賛したいところだが、残念ながら本作、構成の粗が目立つ出来となっている。序盤に主人公の童貞を早々に喪失させ、意中の女性とカップリングを成立させてしまった下策を始め、「脇役」西岡をささっと退場させる中盤、(意図は理解出来るとはいえ)時間を十数年と飛ばす終盤の演出は「下手」と見做されても仕方がないだろう。「退職間際の編集者が自分の後継者を見つける」という物語の始まり、「辞書の制作に人生を費やした学者の穏やかな最期」という物語の着地は自然に思えるので、これは主人公の造形ミスだと思う。もっと童貞として長く活躍すべきだった。三浦しをんの《代表作》として読むにはいさかか勿体無い「欠陥」作品。三浦しをんを未読の方は、本作は後回しにして良い。

第9回本屋大賞 1位:舟を編む/三浦しをん

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 三浦しをん

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第7回本屋大賞 4位: 神去なあなあ日常/三浦しをん

神去なあなあ日常
1.ヨキという名の男
2.神去の神さま
3.夏は情熱
4.燃える山
5.神去なあなあ日常

answer.――― 72 点

現状、私に手放しで「巧い!」と唸らせる数少ない<文章力>を持つ作家・三浦しをん(と云っても、まだ『私が語りはじめた彼は』『風が強く吹いている』しか読んだことないのだが)―――本作でも主人公の手記といった前置きを活かした、「ま、おいおい説明する。」「おっと、これもまた別の機会に書こう。」等の後ろへ投げる節回しを用いて、私を唸らせた。もちろんこういう書き口が他の作家の作品に無いわけではない。しかし読書家の方はよくよく思い返して頂ければ共感して貰えると思うが、一度はあっても、二度も、三度もその手の節を使うのは珍しい。読書中、私はそんな奇手を見掛ける度に(゚з゚) ヒュゥ~♪と口笛である。もっとも、肝心のストーリーに関してはやや拍子抜けの出来に落ち着いている。本作は馴染み薄い『林業』にテーマを置いた作品。高校を卒業と同時に主人公は「なあなあ」が口癖の山奥は神去村に放り込まれ、戸惑いながら山仕事に従事するストーリーライン。テーマそれ自体は奇を衒っただけあって初耳の知識ばかりだったが、一目惚れ、神隠し、山火事……といった相応のイベントこそあれ、展開にイマイチ求心力が乏しいのが残念。私見だが、主人公は派手な女遊びでもすれば良かったと思う。閉鎖的な村にもかかわらず、村人が「まとも」過ぎるのだ。その癖、ちょっとしたファンタジーも当たり前のように起こる。神隠しのイベントあたりでは作品の雰囲気に『家守綺譚』に似た印象を持ったが、その割に、作品世界へ対して憧憬を抱けなかったのがこの作品の物足りなさを象徴する。まあ、終盤の大木ボブスレーのイベントは驚きこそないが、盛り上がり所には違いない。退屈なものでもないので、林業を垣間見るつもりでどうぞ。

第7回本屋大賞 4位:神去なあなあ日常/三浦しをん

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 三浦しをん

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第4回本屋大賞 3位:風が強く吹いている/三浦しをん

風が強く吹いている
1.プロローグ
2.竹青荘の住人たち
3.箱根の山は天下の険
4.練習始動
5.記録会
6.夏の雲
7.魂が叫ぶ声
8.予選会
etc…

answer.――― 89 点

いつの頃からか、そこそこに楽しめるようになってしまった箱根駅伝……しかし、その「そこそこ」の内訳は襷を繋げるか否かであり、要はリタイヤするかもしれないドラマを望んでいる多分にサディスティックなTV観戦である。本作はそんな観戦素人に<箱根駅伝>の楽しみ方を指南する快作。安普請の竹青荘の住人が満室、―――10人になったとき、箱根駅伝を目指して動き出すストーリー。ニコチャン、キング、神童、王子……といった住人のあだ名から想像出来るように登場人物は個性豊かで、10人という大所帯に関わらず、見事に書き分けられているのが素晴らしい。アパートを中心にした設定はいわゆる箱庭的宇宙があり、宴会、反発、和解など小さな二階建ての世界で起こるイベントが目の前の現実のように思える親しみやすさが魅力だ。また、駅伝にかぎらず、スポーツの練習場面は繰り返されるとつまらないものだが、本作の場合はむしろ面白い。それというのも、明らかにダメな奴がいるからである。そして、そのダメな奴に「独り」イラつく主人公がいるからだ。スポーツ作品の鍵は<対立>にあり、この身内に敵……!的展開を創れた作品にハズレは産まれない。作品のハイライトとなるのはもちろん全メンバー(!)の視点を設けた箱根駅伝本戦だが、個人的ハイライトは箱根駅伝へ出場するための「予選会」、その章を挙げたい。王子の吐瀉物撒き散らしてゴールする様は素で笑わせてもらった。襷を繋ぐ、そのための練習からドラマがあることを知れる親指立てたくなる青春譚。未読の方は是非、来年の箱根駅伝が始まる前に読んでおきましょう。あ、一般文芸作品で間違いなくトップクラスの文章力にも驚かされた。表現こそ凝っていないが、トータル的に凄い「巧い」。野球選手で喩えるなら「3割30本30盗塁、ゴールデングラブ賞受賞」するような名選手だ。本作、【推薦】させて頂きます……80点超えた作品で【推薦】するの久しぶりだなぁ。

第4回本屋大賞 3位:風が強く吹いている/三浦しをん  【推薦】

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 三浦しをん 推薦

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第2回本屋大賞 9位:私が語りはじめた彼は/三浦しをん

私が語りはじめた彼は
1.結晶
2.残骸
3.予言
4.水葬
5.冷血
6.家路

answer.――― 82 点

三浦しをん、巧いな……と改めて思わせてくれる連作短編。著者の「王道」をあくまで歩もうとしないその姿勢は清々しくさえ映る。ここでいう「王道」というのは扱う題材どうこうではなく、その構成。本作の概要は、女垂らしの大学教授が怪文書で脅され、離婚し、再婚し……といったところなのだが、本作における視点(語り手)は教授の助手、教授の浮気相手①の夫、教授の息子、愛人の連れ子の監視者、教授の正妻(前妻)の娘の婚約者、再び助手―――となっており、肝心の物語の中核を為す教授とW不倫の果てに正妻に納まる愛人、この二人の視点が「無い」。当事者の視点を用いないまま物語が閉じられることは間々あるが、事の発端である愛人の視点まで採用しなかったのはかなり意外だった。事実、結婚するために教授のキャリアさえ傷つける脅迫状を正妻に送る、自分の娘さえやがて「女」と見做し疎外する、教授が死して尚、参列者の女に憎悪する……なんて気狂い染みた嫉妬女の視点は、誰が書いてもまず<面白い>ものになっただろう。それを敢えて書かず、書かないことによって読者に謎の余韻として残す。読者がその余韻の正体を探ろうとすると、……あまりに見事な<醜さ>が演出される、と。描かないことでこの愛人の強烈な醜悪性を綺麗に描いた点を私は称えたい。三浦しをんは、本当に「巧い」。こうなってくると文学方面に進出するのか気になってくるが、個人的な雑感としては<書けない>気もする。その理由は本作がその文学面に踏み込んだ感があるにもかかわらず、やはりエンターテイメントに気を配ったからだ。登場人物に理不尽な行動が見当たらない。読者にとても優しい故に、「人間」を描く文学は向いていない気がするのよね。

第2回本屋大賞 9位:私が語りはじめた彼は/三浦しをん

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 三浦しをん 本屋大賞

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