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第9回本屋大賞 5位:人質の朗読会/小川洋子

人質の朗読会
1.杖
2.やまびこビスケット
3.B談話室
4.冬眠中のヤマネ
5.コンソメスープの名人
6.槍投げの青年
7.死んだおばあさん
8.花束
9.ハキリアリ

answer.――― 66 点
南米の反政府ゲリラに襲撃され、人質とされてしまった日本人たちは100日間の拘束の末に仕掛けられたダイナマイトで全員死亡した……が、彼らが人質となっている間、それぞれ心に残っている出来事を物語として書き起こし、各人が朗読していた。そうして、遺族の承諾の下、ラジオで「人質の朗読会」が放送された……なる体の本作。作家としてのキャリアを重ねると、文章から(下手をすると)構成までサボるものだが、―――これぞ奇抜!な作品設定に「流石、小川洋子……!」と面食らったものの、肝心の各短編の「質」はなかなかに低く、まさしく出オチな印象。適当に書きためた短編を出すために、この「人質の朗読会」なるアイディアをひねり出したのかと勘繰りたくもなる。6章「槍投げの青年」への事実上のカウンター、7章「死んだおばあさん」の最後の一文がちょっとした見物といえば見物か。終章である9章「ハキリアリ」は、人質ではなく、政府軍兵士の視点語り。この辺は様式美といったところ。「1」アイディアを楽しむための一冊。著者のファンでもなければ、作品冒頭のみの立ち読みで十分です。

第9回本屋大賞 5位:人質の朗読会/小川洋子

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 小川洋子

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第7回本屋大賞 5位:猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子

猫を抱いて象と泳ぐ
(あらすじ)
『博士の愛した数式』で数字の不思議、数式の美しさを小説にこめた著者が、こんどはチェスというゲームの不思議、棋譜の美しさをみごとに生かし、無垢な魂をもったひとりの少年の数奇な人生をせつなくも美しく描きあげました。“伝説のチェスプレーヤー”リトル・アリョーヒンの、ひそやかな奇跡を描き尽くした、せつなく、いとおしい、宝物のような長篇小説。

answer.――― 84 点

向き、不向き……職業やスポーツなど、様ざまなジャンルで用いられる言葉だが、文章にもそんな言葉が当て嵌まるときがあるように思う。そのあらすじだけで手に取りたくなる『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞しているように、文学畑出身の小川洋子が筆を執る本作は、チェスを題材にしたファンタジー。本作で私がもっとも心惹かれたのは、元より定評のある抒情性溢れる著者の文章。作中、チェスの動きを<詩>と説くのだが、こういう自らにハードルを課して、そこをしっかり飛び越えてくる作家としての気概は胸打たれる。チェスのルール、そもそもの勝敗の駆け引きは分からなくても、主人公の心内描写、その表現で楽しませるのは漫画『ヒカルの碁』に通じるものがある。ストーリーそれ自体は、純真な心を持つ内向的な主人公がチェスと出会い、ひっそりと続けていくなかで、汚れたチェスの世界に巻き込まれ、傷つき、それでも立ち直り、ひっそりと終わりを迎える……そんな美のための美を追求する耽美主義が根付いたようなもので、著者の文章が透明感を持って美醜織り交ぜた世界観を見事に表現。個人的には主人公がからくり人形リトル・アリョーヒンとなる中盤の展開は結果的には良しとも思えるが、ファンタジーに寄り過ぎた感もあった。もっとも、その山場である人間チェスでのミイラ投入は、思わず天を仰いでしまう哀しさながらも、作品としての仕事点は高い。感涙のシーンは、「あなたに初めてチェスを教えたのがどんな人物だったか、私にはよく分かりますよ」がブーメランとなって戻ってくる老婆令嬢との再会だろう。また、ラストでの愛するミイラとのすれ違いも、この作品を最後まで貫く「喪失」に相応しくどこまでも美しい。静かに、ただ静かに心洗われる一作。この文に、この設定―――おそらく、著者の最高傑作でしょう。【推薦】させて頂きます。

第7回本屋大賞 5位:猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子  【推薦】

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 推薦 小川洋子

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第4回本屋大賞 7位:ミーナの行進/小川洋子

ミーナの行進
(あらすじ)
美しくてか弱くて、本を愛したミーナ。あなたとの思い出は、損なわれることがない……懐かしい時代に育まれた、二人の少女と、家族の物語。

answer.――― 72 点

「読む」というよりも「眺める」感覚―――絵本を全て文字で起こしたらこんな風になるのだろう。頁の諸所にそれこそ大衆小説には珍しい絵本風のイラストが挟まれているように、本作は大ヒット作となった『博士の愛した数式』以降、作家人生の第2のピークに到達しているベテラン作家・小川洋子の手によるハートフルな作品。その内容は、1970年代の芦屋を舞台にした少女・朋子の居候物語。フレッシーという清涼飲料水で財を成した居候先には、病弱ながらも聡明なミーナと、カバのポチ子が待っていた。……正直な話、本作、私は淡々と頁を捲っただけだった。意外に複雑なミーナの家庭事情、朋子とミーナのそれぞれの淡い恋が主だったストーリーラインだが、クスリと笑うものでもなければ、鼓動高鳴る仕掛けも無い。ただ、綺麗な(心内を含めた)描写が続いていく。そこに難しい語彙を使用していないことで、冒頭で云う「眺める」感覚になったのだと思う。そんなこんなで、他のレヴューサイトを読んで回った雑感として、これは女性向きの作品なんじゃないかな?と。ミーナが語ってくれるマッチ箱の創作物語を例に挙げて「良い場面」とする方が多かったが、綺麗なことそれ自体をエンターテイメントと見做すのは男性にはなかなか難しいだろう。個人的に一番興味を惹いたのは、朋子と図書館のとっくりさんとのやりとり。実際は朋子の感想はミーナの感想なのだが、その感想が堂に入っている。読者に文学の読み方を指南している形なので、文学を文章の機微程度にしか思っていない方はここで間接的に矯正されても良いだろう。人によってはいつまでも心に残る可能性がある<綺麗>な作品。

第4回本屋大賞 7位:ミーナの行進/小川洋子

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 小川洋子

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第1回本屋大賞 1位:博士の愛した数式/小川洋子

博士の愛した数式
(あらすじ)
事故で記憶力を失った老数学者と、彼の世話をすることとなった母子とのふれあいを描いた物語。家政婦として働く「私」は、ある春の日、年老いた元大学教師の家に派遣される。彼は優秀な数学者であったが、17年前に交通事故に遭い、それ以来、80分しか記憶を維持することができなくなったという。数字にしか興味を示さない彼とのコミュニケーションは、困難をきわめるものだった。しかし「私」の10歳になる息子との出会いをきっかけに、そのぎこちない関係に変化が訪れる。

answer.――― 80 点

第1回の本屋大賞に輝いた本作。小川洋子というと、まさしく「職業=作家」と謳うに相応しい定期刊行を続ける作家だが、この手の作家は時事ネタを取り入れるのが常道だ。それは政治的、風俗的ネタはもちろんだが、音楽や映画などのエンターテイメントの他ジャンルからアイディアを拝借することも間々見掛ける。記憶が80分しかもたない、という記憶障害の設定が本作の肝となるわけだが、この設定には当時読んだ多くの人が、記憶が10分しかもたない男が主人公のサスペンス映画『メメント』を連想したことだろう。まあ、元ネタはアレソレだ!?と言及するつもりは毛頭ないが、各賞の選考委員も務める著者の作品のアレンジパターンを分析するのも面白いと思い、前置いた。さて、本作。その映画『メメント』で散見される悪意とは真逆の善意が満ちている。何度振り出しに戻っても注がれる、老人の子どもへ向けられる無償の愛。不用意な発言で消えてしまう記憶だとしても老人を一時でも傷つけまいと気を配る私と息子。嘘をつくことが時には優しさとなることを肯定的描かれる展開は何気に奥深い。また、作中には数学の公式が所々に出てくるのも特徴的だ……がしかし、これは賛否両論となるだろう。というのも、理系統の学卒はプライドが高いからだ。既知の情報、ないし忘れかけていた知識を教えられるように描かれると、気分を無駄に害す傾向がある。そういう意味で、数式は添え物として流せるかが重要になってくる。後半の野球観戦、誕生日会は読者の心を温めてくれるハイライト。エンディングでの子どもを「大人」と認識しない老人にはさすがに首を傾げたが、全体的に<感動モノ>としてよく仕上げられている。「職業=作家」らしい押さえるところを押さえた作品。

第1回本屋大賞 1位:博士の愛した数式/小川洋子

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 小川洋子

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