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早川書房:マルドゥック・スクランブル [改訂新版]/冲方丁

マルドゥック・スクランブル
第1部 圧縮
第2部 燃焼
第3部 排気

answer.――― 91 点

傑作、という冠を安易に与えたくはないが、そう評価せざるを得ない冲方丁の名実を極めた代表作。ハヤカワ書房からのリリースの通り、本作のカテゴリーは出自となったライトノベルではなく、サイエンス・フィクション(以下、SF)。故に設定も禁忌を恐れずに踏み込んだものとなっており、ヒロイン「ルーン=バロット」は近親相姦、性的虐待の末に心の欠落を招いた少女娼婦であり、登場して早々に身を買われ、犯されながら焼殺の憂き目に遭う。物語の幕が開けるのは、緊急法令「マルドゥック・スクランブル09法」によりバロットが蘇生したところから。理不尽に巻き込まれた事件の解決とともに、バロットが「生きる」意志を手に入れるまでが本作のストーリーライン。SFというジャンルは人間の宇宙を描くことを目的としている面があり、本作でも生きる意味を見い出せないバロットが「単なる」兵器である鼠・ウフコックへ「私を愛して欲しい」と懇願するなど、<愛>について探究的スパイスを盛り込んで作品に奥行きを与えている。己を<虚無>と標榜する敵役を配すことで、形無きソレを浮き上がらせ、際立たせる構図だ。必ずしも描き切れているとは思わないが、描き切ることが正しいとも云い切れない。恐るべきはその文章力で、およそ技巧の限りが尽くされている。あまりの技の多さに、セルバンテス短篇集(岩波書店)収録の「ガラスの学士」以来のフリーズを起こしたのは個人的に衝撃だった。著者特有の「難」さえ無ければ、ライトノベル界の“JOKER”秋山瑞人より確実に「巧い」作家だろう。その難こそ「我、最強也」のエゴイズム。本作でも作中堂々と尋常でないエゴを晒し、私の蛾眉を顰めさせてくれた。その場面こそ稀代の名シーンと絶賛されるギャンブル・シーン。第二部「燃焼」より延々と挿し込まれるポーカー、ルーレット、ブラックジャックのカジノゲームはだだ書きのルール説明から始まり、ゲームの加速とともに、その場に居合わせるキャンブラーそれぞれが持つ業を描く小宇宙と化す。おそらく読書中、誰もルールなんてしっかり把握していないだろう。しかし、ルールを気にすること自体が野暮なのだ。ここでのシーンの肝はギャンブラーたちの宇宙を覗くことであり、ギャンブルが命を模した金のやり取り、―――命を賭けた絶命行為だと直感的に理解出来れば良い。そして、バロットがそんな代替的な命のやり取りのなか、ギャンブラーたちの生き様に触れ、生きる意志を獲得していくことを読み手は追体験出来れば良いのである。類を見ないゲームは勝つことさえ放棄させる。―――圧巻である、見事だ、冲方丁。お前は最強だ。ところで水を差す質問で申し訳ないが、この話、……本当にギャンブルは必要だったのか?西洋建築の美術館の横にピラミッドが建っている。それを自然だと思えるのは、貴方が侵されているからだ。冲方丁は尋常ならざるエゴイストだ。物語を壊してでも、描きたいものを描く。そして、そのあまりの怪物的筆致故に、それを当然の展開と読み手に思わせてしまう。冲方丁は、ただギャンブルを描きたかった。そうして、出来上がったのが本作だ。それ以上でも、それ以下でもない。まさに悪夢のような傑作。ちなみに文庫版は全3巻だが、私が読んだのは [改訂新版]とされるその内容を一冊にまとめた単行本です。

早川書房:マルドゥック・スクランブル [改訂新版]/冲方丁 (2010)

category: あ行の作家

tag: OPEN 90点 冲方丁

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第1回スニーカー大賞 金賞:黒い季節/冲方丁

黒い季節
序章
震章 魎(こだま)
破章 魍(みたま)
萃章 魅(へんげ)
急章 魑(すだま)
離章 鬼(おにがみ)
結章

answer.――― 41 点

『天地明察』にて吉川英治文学新人賞、本屋大賞、北東文芸賞その他を受賞し、ついには中堅作家の登竜門・直木賞にもノミネートされた「我、今、ここで画竜点睛!」と勢いに乗るライトノベルから一般文芸へ転身した作家・冲方丁のデビュー作。日本語に飢えていた高校時代の作品とのことだが、なるほど、それも頷ける非常に青い作品……なんてオブラートを破らせて頂くと、ただただイタい作品。上記の受賞ラッシュに便乗し、装丁を変えて再版されたが、作者的にはどうなんだろうか?若気の至り、立派な黒歴史と云える本作の存在を果たして許せるのか気になるところだ。本作の後に発表され、著者の代表的シリーズ作に挙げられる『マルドゥック・スクランブル』等に見られるオノマトペ、造語を散りばめた独特の文体は、本作でもその片鱗を覗かせる。しかし評価するレベルのものではなく、むしろ邪魔にさえ感じるのは「北方領土なんて渡せばいいんじゃね?」「デキちゃったらガキなんて堕ろせばいんじゃね?」「何か生きてるのって虚しいわ」と嘯いてしまえる思春期発の作品では致し方ないところ。現在の著者を鑑みれば、ダサい、故にイタい本作の文章にはよくある「センスに実力が追いついていない」の逆、「実力にセンスが追いついていない」という珍しいサンプルにも映る。人生の経験不足。本作の結果においてはこれに尽きる。本作は都会を舞台にヤクザと神道を題材にした任侠作品であり、ある種の「ダサ格好良い」ことを目的に演出。しかし、格好良いに繋がらず、ダサいだけで終わってしまった<和>と<ファンタジー>のクロスオーバーが本作である。とりあえず本稿の画像下にある章タイトルを見よ!発想は面白いけど、イタくね?共感出来ない人は、貴方の身近にいるイタいと思う人を思い浮かべ、その彼(or彼女)がタイトルを付けたと仮定してみると良い。魑魅魍魎!魑魅魍魎!!これを反転、……グフフフ!とかつぶやいていそうでしょ?……グリフィス!!(表紙イラストを見ていたら、そうとしか見えなくて思わず叫ぶ('A`)y-~

第1回スニーカー大賞 金賞:黒い季節/冲方丁

category: あ行の作家

tag: スニーカー大賞優秀賞 OPEN 40点 冲方丁

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第7回本屋大賞 1位:天地明察/冲方丁

天地明察
1.一瞥即解
2.算法勝負
3.北極出地
4.授時暦
5.改暦請願
6.天地明察

answer.――― 79 点

―――からん、ころん。これが本作で用意した著者お得意のオノマトペで、元は絵馬のぶつかる音であり、改暦という一大事業を行う主人公の頭で鳴る、袋小路から抜ける開闢の合図だ。ライトノベルを出自に持つ著者が挑んだこの時代小説は、江戸時代に実在した才人・渋川春海を主人公にした物語。知名度としては決して高くないこの人物を何故に題材にしたのかと云えば、その経歴を知れば自ずと分かる。渋川春海は囲碁棋士であり、天文暦学者であり、―――そして、神道家である。デビュー作より一貫して「和」テイストを盛り込む著者が興味を持ったのは必然だろう。本作においても、神道「長」豆知識が披露される。……正直な話、私は著者が好きではない。巷では歓迎されているようだが、知識の「見せびらかし」が多過ぎる。話の流れを堰き止めてでも披露したいらしく、時には本当にそれだけで終わる場合さえある。エゴイスト、それが私の冲方丁に抱く作家像だ。しかし、本作は本屋大賞を戴冠しているように力作には違いなく、「時代」小説らしからぬ工夫が随所に見て取れる。それが冒頭のオノマトペの仕掛けであり、挿し込まれる図形であり、作中で十年を超す時間経過だ。音をここまで演出専用に扱う小説は珍しいし、図形は題材の堅苦しさを紛らわせるイラスト的意味に取れる。やはり、作家として「巧い」と評価せざるを得ない。改暦というイマイチ大事なのか分からないイベントだが、徳川光圀公を始めとした有名人たちが渋川春海に関わることで相応の迫力を得、また、終盤で展開される幾多の挫折から学んだ綿密な下交渉は痛快の一言。チャンバラがなく、そんな「動」的な派手さに欠けるものの、「静」的な読み応えは十分な一作。ただ、個人的には、日本数学史上最高の英雄・関孝和視点からの物語のほうが面白かった気がしないでもない。まあ、関孝和は神道を嗜んでないからね。神道を語りたいわけだから、しょうがないか。

第7回本屋大賞 1位:天地明察/冲方丁

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 冲方丁 本屋大賞

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