ナマクラ!Reviews

03/1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30./05

この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:All Time Best!!】


【第1回~第10回】は⇒こちらへ!

【第11回~第20回】は⇒こちらへ!

【第21回~第29回】は⇒こちらへ!


ようやく新たな【All Time Best!!】が完成!感無量であります!能書きは下にたらたらと書いてございますので、挨拶はこの辺で切り上げまして。小説すばる新人賞に興味がありつつも未読のまま、……な方は参考にしてみて下さい!では、始まり始まり~!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

標題通りの「競馬」題材ながらレースの描写は少なく、あくまで人間ドラマとして描かれている本作。その人間ドラマとは、ズバリ―――《敗者》の美学。本作の主人公は己の負けを認めるために勝つ。娯楽要素を詰め込み過ぎなまでに詰め込み、それらを完全処理!結果、デビュー作ながら10万部突破という快挙を成し遂げて、著者にとって一世一代の代表作となった。終盤の大レース「天皇賞(秋)」……そのゲートが開く間際につぶやかれる「ショウサン」は、誰が読んでも鳥肌立つ名演出。小説の醍醐味を得られること間違いなし!小説すばる新人賞の受賞作で娯楽を求めるなら、まずは本作をお薦め致します。

どうせ、こんなもんだろ?という予想をしっかり超えてくる傾奇者たちの戦国Rock 'n' Roll!文字で聴かせる、という偉業をキャラクターデザインからアプローチしているのが素晴らしい。三味線速弾く藤次郎と「黒人」弥介の放つアフリカン・ビートの衝突、男臭さ霧散させる「踊り手」ちほ、実質の物語担うヘタレな「笛吹」小平太―――と、主要登場人物の役割に抜かりはない。知名度低いものの、埋もれさせるには勿体無いアイディアとクオリティー。未読の方は是非、手に取ってあげて下さい。兎も角、稀に見る「痛快」な一作。

千早茜の、凡百のナンチャッテ!作家たちとは一線を画す筆力、感性はこのデビュー作から発揮されていたことを証明するように、小説すばる新人賞のみならず泉鏡花文学賞も受賞。『物語』をある種必要としない、希少な筆は「売られる」ために育てられた美しい姉弟の堕ちていく《耽美》な様を見事に描き切った。表紙には宇野亜喜良を起用。業界からの期待の高さが伺えます。

才能、才能、ほらまた、才能!とやや一辺倒な若書きながら、……だからこそ!と推したくなるデビュー作らしいデビュー作。プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出した真実が情熱的に刻まれている。新旧”天才”対決―――心躍ります。第24回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞。将棋小説としても立派なお墨付きを得ている作品。

専門家も唸る“知識”をエンターテイメントの一要素として作品へ組み込む、インテリゲンチャご用達の作家の一人・佐藤賢一のデビュー作。夢を求めて渡ったイスパニアの地で恋に落ちるも夢を忘れられず、誘いのままに戦に出掛ける侍―――その様は実に情動的で「悲劇」と呼ぶに相応しい。作品の「質」という観点では、ここで上位に選んだ四作よりも実質、本作のほうが上だろう。しかし重厚、故に生半可な読者では忌避感出てしまうのも避けられない。「表題」は壮大な仕掛けなので、手に取ったら最後まで読み切りましょう。かの銃士隊隊長の登場も必見です。

なかなか手を伸ばしにくい「発達障害」を題材にしたハートフルな一作。例によって、お涙頂戴!な展開なのだが、視点人物を二人配し(「発達障害」役は一人)、それぞれの《弱者》っぷりを徹底したことで、終盤の「吐露」がいよいよ胸に突き刺さる。あくまで現実的な設定に根ざした上で視点人物、両者に起こる中盤のイベントは実質の最大級!この思い切りの良さは燻る作家群は是非参考にして貰いたいところ。出し惜しみなし!

☆☆  総評  ★★

【小説すばる新人賞:第1回 ~ 第10回!】の稿でも言及したが、小説すばる新人賞の受賞者には、後に天下の直木三十五賞、大天下の芥川龍之介賞を受賞した作家が多数いる。もっとも、それは第10回までの受賞者に集中していたが、最近では朝井“(ノ゚Д゚)キリシマ、ブカツヤメロッテヨ!”リョウが『何者』で直木三十五賞を受賞、作品が候補に挙がった千早茜も控え、新人作家の良質な登竜門として盛り返し、面目を保っている印象。さて、 この【小説すばる新人賞:All Time Best!!】だが、見事なまでにその直木賞&芥川賞作家たちの作品を選んでいない。かろうじて佐藤賢一の『ジャガーになった男』を第5位に取り上げてはいるが、娯楽小説としては重厚な作風なために、個人的には選びたくなかった。もっとも、読めば「質」の高さは否定出来ないところなので、妥当と言えば妥当な選出だとも思っている。小説すばる新人賞は文学賞ではない。あくまで大衆小説、娯楽を提供出来る作家の輩出を意図した公募賞なのだから、万人が「面白い!」と唸りたくなる作品こそ推薦したい。という観点から考えると、個人的に第1位と第2位に置いた作品―――『ジョッキー』と『桃山ビート・トライブ』は不動の2トップ。どこの公募賞に出しても受賞するだろうクオリティーが両作にはある。後者はセールスが評判に追いついていない印象もあるので、未読の方は是非手に取って読んで欲しい。第3位、第4位のランクイン作品は若書きが心地良いデビュー作らしいデビュー作。青田買いの楽しみが味わえる。【次点】は複数候補あったものの、《感動》出来る観点で選出。終盤に披露される発達障害者の《吐露》のカタルシスたるや尋常ではない。選ばなかった作品では、篠田節子の『絹の変容』はVividなホラーSFで、やはり著者の可能性を感じざるを得ないところ。“森見登美彦のプロトタイプ”な『草小路鷹麿の東方見聞録』、“ザ・伊坂幸太郎”な作風の『名も無き世界のエンドロール』、著者の次作を期待させる爽やかな『はるがいったら』あたりも拾い物。しかし、まあ、……未読ならばランクイン作品を順番に読んで頂きたい。実際問題、「面白い!」は人それぞれだが、それでもかぶるものはかぶるのである。受賞作を読む!というコンセプトで消化していくと「おい、何で消えた!?」な葬り去られた作品、「全盛期はここだったか!?」な再発見な作家と出会えるわけだが、この小説すばる新人賞では『ジョッキー』を拾えたのが競馬好きの私としても最大の収穫でした。大衆小説らしい大衆小説、しっかりと引き継ぎたい良質の遺産(旧作)です。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

86  ジョッキー/松樹剛史  【第1位】

85

84

83  桃山ビート・トライブ/天野純希  【第2位】
    魚神/千早茜  【第3位】

82

81

80  ジャガーになった男/佐藤賢一  【第5位】

79  サラの柔らかな香車/橋本長道  【第4位】

78  はるがいったら/飛鳥井千砂

77  

76  絹の変容/篠田節子
    ラメルノエリキサ/渡辺優

75  白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子  【次点】

☝  満足  ☟  普通


74  オロロ畑でつかまえて/荻原浩
    ウエンカムイの爪/熊谷達也
    名も無き世界のエンドロール/行成薫

73  恋人といっしょになるでしょう/上野歩
    草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉
    粗忽拳銃/竹内真
    国道沿いのファミレス/畑野智美

72  たぶらかし/安田依央

71  

70  天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

69  赤と白/櫛木理宇
    涼州賦/藤水名子
    笑う招き猫/山本幸久

68

67  となり町戦争/三崎亜記

66  走るジイサン/池永陽
    プリズムの夏/関口尚

65  バーバーの肖像/早乙女朋子
    八月の青い蝶/周防柳
    英文科AトゥZ/武谷牧子

64  8年/堂場瞬一

63  でかい月だな/水森サトリ

62

61  

60  桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ
    パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ

☝  普通  ☟  不満


59  砂時計/吉富有

57  包帯をまいたイブ/冨士本由紀

56  マリアの父親/たくきよしみつ

55  川の声/山本修一

45  砂漠の青がとける夜/中村理聖

40  蛇衆/矢野隆

36  こちらノーム/長谷川潤二

☝  不満  ☟  アマチュア


35  陋巷の狗/森村南

30  ゴッド・ブレイス物語/花村萬月

現在、2017年03月03日/修正

【第1回~第10回】は⇒こちらへ!

【第11回~第20回】は⇒こちらへ!

【第21回~第29回】は⇒こちらへ!

category: この受賞作を読め!

tag: OPEN この受賞作を読め!【小説すばる新人賞】 小説すばる新人賞

[edit]

page top

この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:第21回 ~ 第29回!】


【第1回~第10回】は⇒こちらへ!

【第11回~第20回】は⇒こちらへ!

【All Time Best!!】は⇒こちらへ!


まだ第29回の『星に願いを、そして手を。』を未読なんだけど、未読なんだけど、俺は今書きたいから、そんなの関係ねえ!そんなの関係ねえ!精神で仕上げさせて頂きました。同作を後々レヴューした後、改めてこの稿も改稿する予定です。まあ、「最年少」なんてレッテルで売ろうとしているだけでしょ?きっと推したくならないっしょ!と予想中。ではでは、現時点での 【小説すばる新人賞:第21回 ~ 第29回!】、始めさせて頂きます!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

着々と直木三十五賞を受賞させるための計画が進行している感のある千早茜のデビュー作。もっとも、いざ読んでみればカオナシたちがバックアップしたくなるのも納得の、凡百のナンチャッテ!作家たちとは一線を画す筆力、感性が確認出来る。「売られる」ために育てられた美しい姉弟を主役に起用した本作でも、堕ちていく二人の《耽美》な様を描き切った。『物語』をある種必要としない、希少な筆は目撃する価値がある。小説すばる新人賞のみならず、本作は泉鏡花文学賞の受賞作。読んで損になることはまずないでしょう。

プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出したのは越えられない壁――『才能』。身を賭して掴んだその輪郭を、己の筆で女流棋士の新旧”天才”対決へ転換せしめたのが本作。才能、才能、ほらまた、才能!とやや一辺倒な若書きながら、それだけに情熱も感じられる。「将棋」題材の作品として上等の部類でしょう。

発達障害者を題材にした作品となれば、お涙頂戴!となるのは必然なわけで、本作もそこに軒を連ねる。アレンジは互いに見掛けるだけで「交わらない」視点人物を二人配し、それぞれの《弱者》っぷりを徹底したこと。「発達障害者」中村の苦悩は真摯なもので、終盤の怒濤の吐露はまさにハイライトに値する。なかなか手を伸ばしにくい題材ながら読み応えは十二分に有り。

(ノ゚Д゚)キリシマ、ブカツヤメロッテヨ!という人工的なベストセラー小説。皆が読んでるなら読んでおかないと、後々、センスを疑われる事態が生じることもあるので掛け捨ての保険扱いで押さえておきたいところ。

☆☆  総評  ★★

名実ともに小説すばる新人賞では随一の知名度を誇る『桐島、部活やめるってよ』をどう扱うかまず迷う、この第21回 から 第29回までの受賞作群。もっとも、最新作である第29回の『星に願いを、そして手を。』を未読なため、正確には―――この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:第21回 ~ 第28回!】なのだが、その辺は「最年少」「現役高校生」というレッテルで売り出しているあたりからお察しして強気に無視。「現役大学生」というレッテルで売り出された『桐島、部活やめるってよ』の話題性を上書き出来るか否かが個人的な同作の焦点。そんなわけで、大衆小説として真っ当にお薦めしたいのが上述の『魚神』、『サラの柔らかな香車』、そして、『白い花と鳥たちの祈り』の三作。特に『魚神』、『サラの柔らかな香車』の二作はデビュー作らしいデビュー作で、著者の才気が奔っている印象。新人賞、新人作家ならではの若書きが楽しめるのが良い。選から漏れたが伊坂幸太郎クローンな『名も無き世界のエンドロール』、メディアワークス文庫賞を授与したいラノベ風味な『ラメルノエリキサ』あたりも拾いどころ。正味、小粒な受賞作が揃った感もあるが、大ハズレもない(……本当かな?と自分でも懐疑的になったワw)のは大台である第30回を迎える新人賞、作家への登竜門としてしっかり認知されているからだと思う。今後も良質な作品を輩出して頂きたいですね、ハイ。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

83  魚神/千早茜  【第1位】

80  

79  サラの柔らかな香車/橋本長道  【第2位】

78  

77  

76  ラメルノエリキサ/渡辺優

75  白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子  【第3位】

☝  満足  ☟  普通


74  名も無き世界のエンドロール/行成薫

73  国道沿いのファミレス/畑野智美

72  たぶらかし/安田依央

71  

70  

69  赤と白/櫛木理宇    

68

67  

66  

65  八月の青い蝶/周防柳

60  桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ  【次点】

☝  普通  ☟  不満


59  

55  

45  砂漠の青がとける夜/中村理聖

40  蛇衆/矢野隆

36  

☝  不満  ☟  アマチュア


35  

現在、2017年03月01日/修正

【第1回~第10回】は⇒こちらへ!

【第11回~第20回】は⇒こちらへ!

【All Time Best!!】は⇒こちらへ!


category: この受賞作を読め!

tag: OPEN この受賞作を読め!【小説すばる新人賞】 小説すばる新人賞

[edit]

page top

この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:第11回 ~ 第20回!】


【第1回~第10回】は⇒こちらへ!

【第21回~第29回】は⇒こちらへ!

【All Time Best!!】は⇒こちらへ!


前回から二日で脱稿!というわけで、間隔短く 【小説すばる新人賞:第11回 ~ 第20回!】へGo!計画は成功と相成りました。まあ、この受賞作を読め!は該当作品のレヴューから引用するから書きやすいのが大きいね。ではでは、 【小説すばる新人賞:第11回 ~ 第20回!】のお薦め作品をご紹介させて頂きますYo!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

個人的に小説すばる新人賞の受賞作において、一、二を争うエンターテイメント作品。標題通りの「競馬」題材ながらレースの描写は少なく、あくまで人間ドラマとして描かれているのが特徴。その人間ドラマとは、ズバリ―――《敗者》の美学。本作の主人公は負けるために、己の負けを認めるために勝つ。娯楽要素を詰め込み過ぎなまでに詰め込み、それらを完全処理!結果、デビュー作ながら10万部突破という快挙を成し遂げて、著者にとって一世一代の代表作となった。終盤の名場面、「ショウサン」の一言を見逃すな!

「ビックリするくらい似てました(笑)」と“サムライ・ギタリスト”MIYAVI(G.)も認めた三味線操る藤次郎を中心とした戦国Rock 'n' Roll。どうせ、こんなもんだろ?という予想をしっかり超えてくる傾奇者たちの怪演は痛快そのもので、文字で聴かせる、という偉業をキャラクターデザインからアプローチしているのが何より素晴らしい。知名度低いものの、埋もれさせるには勿体無いアイディアとクオリティー。未読の方は是非、手に取ってあげて下さい。

西加奈子の初のベストセラー作品『さくら』を《陰》とするならば、そのカウンターである《陽》的作品。平凡な登場人物たちを配して、読み手を楽しませる――というのは作家の手腕試されるところだが、突拍子もない設定を出すことなく《日常》を不穏→爽快へ展開させて描き切ったのは、著者の今後の活躍を予感させてくれる。デパート勤める姉・園への嫌がらせの顛末は著者のインテリジェンスを感じました。良作です。

☆☆  総評  ★★

先に断わっておくと、以下の【受賞作:点数一覧】からも分かるように、第1位から第3位まではすんなりと点数通りにお薦め出来たのだが、【次点】は今回はあえて選ばないでおいた。というのも、三作が頭抜けているのもあるが、そもそも、2位と3位のお薦め具合の差が点数以上に離れているからだ。好みの差こそあれ、まず誰が読んでも『ジョッキー』と『桃山ビート・トライブ』は「面白い!」と唸らせられると思う。この二作は大衆小説として本当にお薦め出来る。しかしながら、点数通りに拾うと【次点】となる『粗忽拳銃』は個人的に贔屓にしたくなる玄人具合。地味に「巧い」、渋いけど「巧い」のである。(……この作家、生き残ってるだろ)と検索してみれば、やはりしぶとく生き残っていた。是非とも、遅咲きの桜を咲かせて貰いたいものである。他の受賞作で目ぼしいものといえば、『天使の卵 エンジェルス・エッグ』『笑う招き猫』か。前者は当時のベストセラー、後者は目下、巷で話題の清水富美加さんが主演して撮影済みのドラマの行く末を心配されている作品である。まあ、何にせよ、この【第11回 ~ 第20回!】の主役は『ジョッキー』、そして、『桃山ビート・トライブ』だ。あ、第3位の『はるがいったら』も面白いですよ?文学的なアプローチがスパイスになってて、ラストも「隣同士」なんてユーモアで〆めてくれるので著者の知性を感じられます。犬が好きな人なら尚良し。ただ、比べる相手が悪かっただけです。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

86  ジョッキー/松樹剛史  【第1位】

83  桃山ビート・トライブ/天野純希  【第2位】

80  

78  はるがいったら/飛鳥井千砂  【第3位】

75  

☝  満足  ☟  普通


74  

73  粗忽拳銃/竹内真

72  

71  

70  天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

69  笑う招き猫/山本幸久

68

67  となり町戦争/三崎亜記

66  走るジイサン/池永陽
    プリズムの夏/関口尚

65  

64  8年/堂場瞬一

63  でかい月だな/水森サトリ

62

61  

60  パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ

☝  普通  ☟  不満


59

現在、2017年02月24日/修正

【第1回~第10回】は⇒こちらへ!

【第21回~第29回】は⇒こちらへ!

【All Time Best!!】は⇒こちらへ!


category: この受賞作を読め!

tag: OPEN この受賞作を読め!【小説すばる新人賞】 小説すばる新人賞

[edit]

page top

この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:第1回 ~ 第10回!】


【第11回~第20回】は⇒こちらへ!

【第21回~第29回】は⇒こちらへ!

【All Time Best!!】は⇒こちらへ!


ようやく消化し終えた小説すばる新人賞の受賞作群―――となれば、(開設当初は)ナマクラ!Reviews恒例(にするはずだった)、『この受賞作を読め!』を始めようではあーりませんか!とりあえず、まずは【第1回 ~ 第10回!】から選んでみましたよ!総仕上げの【All Time Best!】は【第11回 ~ 第20回!】、【第21回 ~ 第29回!】の企画記事を書き上げてからまとめる所存。さてさて、前置きはこれくらいに【第1回 ~ 第10回!】のこの受賞作を読め!をお楽しみあれ~!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

己の身一つ、刀一つでどこまで成り上がれるのか―――夢を抱いて渡ったイスパニアで愛を知り、それでも、夢を忘れられなかった侍の成れの果てとは!?インテリゲンチャも唸る“知識”をさらりと施す佐藤賢一。デビュー作ながら、現在の作品と比しても見劣りしないクオリティーは圧巻の一言。新人離れとはまさに本作、著者を評すにピッタリの言葉だ。かの銃士隊隊長トレヴィルの登場には沸くこと必至。我こそは……!という読書家の方は挑戦してみましょう。

ボーダーレスに作品を産んでいく篠田節子のデビュー作は、巨大な蚕が襲ってくる!というB級臭漂うパニックSF。しかし、これがなかなかどうして―――真っ当に「恐ろしい」。野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物『蚕』という文学性持つ題材への的確なアプローチ、それをホラーに仕立て上げる手腕に唸らされた。ドラマ化作品の陰に隠れてしまっているが、著者のキャリアの中でも好作なのでは?個人的にイメージ変わりました。読めて良かった。

「無名」と断言して良いだろう草薙渉のデビュー作は、―――あの森見登美彦の《プロトタイプ》がここに!?と思わず銘打ちたくなる同質のユーモア吹き込まれた一作。生まれて26年間、広大な屋敷から一歩も外に出たことがなかった公家の末裔・草小路鷹麿というキャラクター、そして、彼によって味付け、解体される日常は絶品で、タイムレスな魅力に溢れている。森見登美彦ほどの筆力はないものの、思わぬ拾い物をした気分になれます。

小説や映画、女優……固有名詞とその“知識”を登場人物にさらりと口にさせるお洒落な作品。斜陽企業に就職した主人公のそれなりの奮闘というストーリーも、なかなかオツなもの。インテリ層に響く内容はないが、著者のセンスがとりあえず光る。個人的には、アーウィン・ショーに手を伸ばすキッカケを頂きました。読むなら暇を持て余したモラトリアムの時期にどうぞ。

☆☆  総評  ★★

記事にしている最中に気づいたが、この【第1回 ~ 第10回!】で小説すばる新人賞を受賞した作家のうち、後に天下の直木三十五賞を受賞したのが5人、大天下の芥川龍之介賞を受賞したのが1人という破格の事実。なるほど、こうなるとこの小説すばる新人賞が集英社出版四賞に数えられるのも分かる!五虎将軍かよ(笑)とか貧困な発想で小馬鹿にしてすまんかった!さて、そんなビッグネーム溢れる本賞の創世記だが、受賞作、そのクオリティーを総括してみると、エンタメ作品としては実に「渋い」印象。上に次点を含めて四作挙げさせてもらったものの、興味深さこそあれ、手放しで「面白い」と称えるのは難しい作品ばかり。その辺りは、第1位に『ジャガーになった男』を選んだところに象徴されている気がする。単純にエンタメ基準だけで言えば、後の直木賞受賞作家たちである荻原浩の『オロロ畑でつかまえて』、熊谷達也の『ウエンカムイの爪』を選びたくなるが、デビュー作だけに彼らの現在の作品ほどには完成されていないのが正直なところ。そんなわけで、この【第1回 ~ 第10回!】の受賞作のなかで個人的MVPは3位に挙げた『草小路鷹麿の東方見聞録』。著者の現代でも通じるユーモアには可能性しか感じない。若書きだからこそ……!の魅力は、出版から二十余年経った今さえ刻まれている。作家としてはもはや虫の息のようだが、是非とも逆襲の一作を上梓して欲しい。余談ながらに村山由佳も本賞から『天使の卵 エンジェルス・エッグ』でデビューしているが、同作は作品それ自体より五木寛之の選考評(レヴュー参照)が最大の読み応えを発揮しているところからお察しくだされば宜しいかと思います。何にせよ、受賞作を消化してみて、90年代はまだまだ大衆小説として発展し切れてない印象。現在の大衆小説のレベルの高さよ(流通量多いから必然駄作も多いが……)。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

80  ジャガーになった男/佐藤賢一  【第1位】

79  

78  

77  

76  絹の変容/篠田節子  【第2位】

75  

☝  満足  ☟  普通


74  オロロ畑でつかまえて/荻原浩
    ウエンカムイの爪/熊谷達也

73  恋人といっしょになるでしょう/上野歩  【次点】
    草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉  【第3位】

72  

71  

70  天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

69  涼州賦/藤水名子

66  

65  バーバーの肖像/早乙女朋子
    英文科AトゥZ/武谷牧子

64  

63

62

61  

60  

☝  普通  ☟  不満


59  砂時計/吉富有

57  包帯をまいたイブ/冨士本由紀

56  マリアの父親/たくきよしみつ

55  川の声/山本修一

40

36  こちらノーム/長谷川潤二

☝  不満  ☟  アマチュア


35  陋巷の狗/森村南

30  ゴッド・ブレイス物語/花村萬月

現在、2017年02月24日/修正

【第11回~第20回】は⇒こちらへ!

【第21回~第29回】は⇒こちらへ!

【All Time Best!!】は⇒こちらへ!


category: この受賞作を読め!

tag: OPEN この受賞作を読め!【小説すばる新人賞】 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第28回小説すばる新人賞 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優

ラメルノエリキサ (201x290)
(あらすじ)
女子高生・小峰りなのモットーは、どんな些細な不愉快事でも必ず「復讐」でケリをつけること。そんな彼女がある日、夜道で何者かにナイフで切り付けられる。手がかりは、犯人が残した「ラメルノエリキサ」という謎の言葉のみ。復讐に燃えるりなは事件の真相を追うが……。

answer.――― 76 点
どんな些細な事でも必ず「復讐」でケリをつける女子高生が「ラメルノエリキサ」なる謎の言葉から自分を切りつけた通り魔を探すストーリーライン。《復讐》というおどろおどろしくも単純明快なテーマを女子高生が背負うというギャップ盛り込んだキャラクターメイクはライトノベル的で、実際、作品自体も躁なヒロインに負けず劣らずの登場人物たちが現れて混沌とした様相を楽しむものとなっている。作中のハイライトは、上述の「ラメルノエリキサ」の謎解き―――のわけなく、そのままズバリ、「復讐」に妄執するヒロインと張り合える歪んだ想いを抱える登場人物たちの遭遇&暴露。完璧なママ、たおやかな姉は、ヒロインの一人称だからこそのジェットコースター的演出を味わえる。とどのつもり、キャラクターが気に入れば好作となる受賞作。ストーリーを求めてはいけません。と書きつつ、著者の伸びしろは《物語》を用意出来るかどうかにかかっているので担当は求めたいところだろうね。

第28回小説すばる新人賞 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優

category: わ行&数字の作家

tag: OPEN 70点 渡辺優 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第27回小説すばる新人賞 受賞作:砂漠の青がとける夜/中村理聖

砂漠の青がとける夜 (202x290)
(あらすじ)
溝端さんと会わなくなってから人肌の温度を深く味わう機会はほとんどなかった。準君の気配を感じようとすると、高校生の頃初めてできた彼氏の穏やかな声を思い出した。付き合いそうで付き合わず、何となく疎遠になった男の人たちの肌の記憶が、私の中で蘇る。けれどこの部屋には誰もいない。

answer.――― 45 点
別れを告げた不倫相手から「愛してる」と送り続けられる主人公(♀)がファンタジーなことを述べる中学生(♂)と出会い、というストーリーライン。率直に、退屈である。何が起きるわけでもなく、職を離れ、不毛な不倫から逃がれ、空虚な日々を送る主人公の心情が綴られているだけ。ただ、それだけの作品だ。仮に需要があるとすれば、主人公(の境遇その他)へ共感出来る可能性のある女性読者か。「言葉の使い方が繊細で行間が感じられる作品」と著者の筆が受賞へと繋がったようだが、無いものねだり―――自分が描けないアプローチを採られると無駄に評価してしまうもの。読み手でそれをエンターテイメント的に評価することはまず出来ないだろう。文章を積極的に評価させたい場合、《圧倒的》でなければならない。本作は当然、その域には達していない。

第27回小説すばる新人賞 受賞作:砂漠の青がとける夜/中村理聖

category: な行の作家

tag: OPEN 40点 中村理聖 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第26回小説すばる新人賞 受賞作:八月の青い蝶/周防柳

八月の青い蝶
(あらすじ)
急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学生のときに被爆していた。大日本帝国陸軍偵察機パイロットのひとり息子であった彼は、当時、広島市内に住んでいたのだ。妻と娘は、亮輔が大事にしている仏壇で、異様に古びた標本箱を発見する。そこには、前翅の一部が欠けた小さな青い蝶がピンでとめられていた。

answer.――― 65 点
「原爆」題材の振り返りモノ。と紹介されるだけで読む気を削がれる方もいらっしゃると思うが、かく云う私はその該当者の一人。この手の題材に触れる度に自分が読書に求めているのは結局、娯楽なのだと再確認させられるわけだが、実際、本作もWW2――リトルボーイによって引き裂かれた思春期がメインのストーリーライン。表題『八月の青い蝶』とあるように、「蝶」をキーワードにして父親の愛人へ「美貌」「儚さ」といった憧憬を重ねる演出。個人的に目を惹いたのは、愛人・希恵の昆虫学者の父の視線を《視姦》と喩えた点。《愛を分かちあってともに幸福になろうとも思わない愛。それが視姦する者のまなざし。残酷なまなざし。》なる言及は、成る程、と淡泊な感性を刺激してくれた。また、終盤も終盤に《何故、原爆を落とされて謝らねばならない!?》という日本人が忘れてはならない正論が繰り出されるのは痛快の一言。この部分は是非ともTeenagerに読んで頂きたいところ。が、やはり良くも悪くも、「原爆」題材の振り返りモノ。という範疇の作品であるのは間違いない。

第26回小説すばる新人賞 受賞作:八月の青い蝶/周防柳

category: さ行の作家

tag: OPEN 60点 周防柳 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第25回小説すばる新人賞 受賞作:赤と白/櫛木理宇

赤と白 (206x290)
(あらすじ)
冬はどこまでも白い雪が降り積もり、重い灰白色の雲に覆われる町に暮らす高校生の小柚子と弥子。同級生たちの前では明るく振舞う陰で、二人はそれぞれが周囲には打ち明けられない家庭の事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった友人の京香が現れ、日常がより一層の閉塞感を帯びていく。

answer.――― 69 点
雪国・新潟を舞台に、ボタンの掛け違えから女性特有の共同感覚的な友情が崩れ、バッドエンドへと突き進んでいく本作『赤と白』。失望、嫉妬、背徳……と、登場人物たちがそれぞれの形で抱く疑心は堂に入ったもので、そこへ過食症、ストーキングといった狂気垣間見させる設定をつけ、読み手へ何かが起こる予感(不安)をしっかりと与えてくれる。著者のデビュー作であり、シリーズにもなっている『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞しているように、上述の予感は《ホラー》のそれに近い。もっとも、本作のエンタメの核は《人間関係の歪み》といったところだが、読み手にどんな感想を抱かせたかったのかが曖昧なのが残念なところ。用意したキャラクター、イベントは相応だったと思うが、《人間》へ迫りたかったのだとしたら大味過ぎる。ついでに、大衆小説でそこを目指してしまうと、退屈へ到ってしまう。本作に足りないのは、ズバリHero(Heroine)。それを確立させるだけで「あーあ……」で終わってしまう結末にあっても、意志ある何者かがスタートを切ったことでしょう。

第25回小説すばる新人賞 受賞作:赤と白/櫛木理宇

category: か行の作家

tag: OPEN 60点 櫛木理宇 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第25回小説すばる新人賞 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫

名も無き世界のエンドロール (205x290)
(あらすじ)
ドッキリを仕掛けるのが生き甲斐のマコトと、それに引っかかってばかりの俺は、小学校時代からの腐れ縁だ。30歳になり、社長になった「ドッキリスト」のマコトは「ビビリスト」の俺を巻き込んで、史上最大の「プロポーズ大作戦」を決行すると言い出した。一日あれば、世界は変わる。男たちの命がけの情熱は、彼女に届くのか?

answer.――― 74 点
過去と現在を織り交ぜつつ、「ドッキリスト」「ビビリスト」「プロポーズ大作戦」「一日あれば、世界が変わる」……と日常を《言葉》で彩り、いつの間にか非日常へと逸脱していく作風は、単刀直入に言って、伊坂幸太郎そのもの。一人の才人が道を切り拓けば、そこを通り(なぞり)、踏み固める者が現れるものだが、著者はその典型と言って差し障りない。そうなってくると、本家とのクオリティー勝負となるが、――やや劣勢、かなと。伊坂幸太郎の初期作品(ex.『重力ピエロ』)は、自分のそれまで生きていた日常(思い出&思春期に培った感性)を出し惜しみなくまぶしているが、本作ではそこまでのサービス精神を感じられないのが残念。フォロワー、という二番煎じ的扱いを無意識にしてしまうのもマイナスに働いてしまうだろう。それでも、いざ非日常パートへと突入する終盤は本家と伍する勧善懲悪のカタルシス。表題『名も無き世界のエンドロール』の言い得て妙な、哀しくも爽快感ある幕切れも何とも洒落て印象づけられる。昨今の伊坂幸太郎は持ちうる日常をすり減らし、退屈の域に達してしまったが、在りし日の伊坂幸太郎に出会いたい方にはお薦め出来る作品。ちなみに、「本当に何もかもが終わって、エンドロールが止まる時、あたしはようやく立ち上がれるようになる」なる作中の《台詞》が結末に響く構成。良くも悪くも、造りが丁寧なんだよね。

第25回小説すばる新人賞 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 行成薫 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第24回小説すばる新人賞 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道

サラの柔らかな香車 (202x290)
(あらすじ)
プロ棋士の夢が破れた男と、金髪碧眼の不思議な美少女が出会う。彼女に将棋を教えると奇跡的な才能が開花する。厳しくも豊かな勝負の世界を描く傑作。

answer.――― 79 点
二十余年生きて真面目に人生を省みれば、どんな薄っぺらい過ごし方をしていようと、何かしらの真理、当人だけが導き出せる結論があると思う。プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出したのは越えられない壁――『才能』か。ストーリーラインはプロ棋士になれず、パチンコで生計立てるくすぶった三十路男が発達障害を匂わせる金髪碧眼の美少女と出会い、女流棋士の新旧”天才”対決、その決着へ運ぶまで。作中、ひたすら「才能」について語られる。それは神聖視されたもので、日常、「才能」について考察する機会のない者にはその界隈の常識(ex.「難しい。非常に難しい質問だ。芥川名人は強い。本当に強い。どうしようもない。でもね、この世界では常に若い人が勝つんだよ」)が披露されるたびに新鮮に響き、刻まれる。本作で汲み取るべき醍醐味は著者が思春期を捧げて見出した「才能」なる不確かなものの輪郭で、登場人物たちの過去&現在はまさしくエンタメ的装飾でしかない。もっとも、上述の新旧”天才”対決は「才能」の他に、「覚悟」もスパイスとしてまぶしてあるため、+αが勝負の本当の分かれ目であることを示しているようで面白い。「才能」の連呼を一本調子に思えてしまう難こそあれ、情熱溢れる若書きが印象づけられるデビュー作。良質です。なお、将棋普及への貢献が認められ、本作は第24回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞。将棋小説として立派なお墨付きを得ている。

第24回小説すばる新人賞 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 橋本長道 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第23回小説すばる新人賞 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美

国道沿いのファミレス (203x290)
(あらすじ)
勤め先で左遷され、6年ぶりに故郷に戻った25歳の善幸。職場、家族、友達、恋人……様々なしがらみが彼に降りかかる。現代の若者をリアルに描いた第23回小説すばる新人賞受賞作。

answer.――― 73 点
郊外の、どこにでもあるファミリーレストランを舞台にした青春小説……と言っても、登場人物はほとんどが社会人で、主人公はあらぬ疑いで実質、左遷されてきた経緯を持つ。そのあらぬ疑いとは【アルバイトの高校生(♀)をやり捨てた】と来れば、自ずと作品の方向性も察せるというもの。本作のエンターテイメントの核は「痴情」。著者のアレンジは、ファミリーレストラン内に留めず、家族、友人と全方位にもつれを作ったところ。当然、作中にBitch!が現れるのは《お約束》。そのクオリティー次第で作品の評価が決まるわけだが、出会いから別れ、一連の過程含め十分に合格点なBitch!具合。ほぼ全ての登場人物にエピソード&エンドを設けているのもサービス精神溢れている演出。「痴情」故の《人間》模様は文学的と云えば文学的。本稿を書く前に見つけたYahoo!知恵袋での質問「怖い小説だと感じた」なる言及はその観点でのスイッチになると思うので、読了した方は表題で検索して頂きたい。個人的に興味を抱いたのは佐藤姓へのタイプ分け(相手が自分の好きなタイプだったら同じだねと言うが、嫌いなタイプだったら同じ苗字なのを懸命に忘れる)。何気ない言及だからこそ、こんなもんかもしれん、と思いました。

第23回小説すばる新人賞 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 畑野智美 小説すばる新人賞

[edit]

page top

小説すばる新人賞受賞作一覧


▼ 第21回~ (2008年~) ▼

小説すばる新人賞3

第29回 受賞作:星に願いを、そして手を。/青羽悠
第28回 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優
第27回 受賞作:砂漠の青がとける夜/中村理聖
第26回 受賞作:八月の青い蝶/周防柳
第25回 受賞作:赤と白/櫛木理宇
第25回 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫
第24回 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道
第23回 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美
第23回 受賞作:たぶらかし/安田依央
第22回 受賞作:桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ
第22回 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子
第21回 受賞作:蛇衆/矢野隆
第21回 受賞作:魚神/千早茜

▼ 第11回~第20回 (1998年~2007年) ▼

2_20161126140940c74.jpg

第20回 受賞作:桃山ビート・トライブ/天野純希
第19回 受賞作:でかい月だな/水森サトリ
第18回 受賞作:はるがいったら/飛鳥井千砂
第17回 受賞作:となり町戦争/三崎亜記
第16回 受賞作:笑う招き猫/山本幸久
第15回 受賞作:プリズムの夏/関口尚
第14回 受賞作:ジョッキー/松樹剛史
第13回 受賞作:8年/堂場瞬一
第12回 受賞作:粗忽拳銃/竹内真
第11回 受賞作:パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ
第11回 受賞作:走るジイサン/池永陽

▼ 第1回~第10回 (1988年~1997年) ▼

小説すばる新人賞1

第10回 受賞作:ウエンカムイの爪/熊谷達也
第10回 受賞作:オロロ畑でつかまえて/荻原浩
第9回 受賞作:陋巷の狗/森村南
第8回 受賞作:英文科AトゥZ/武谷牧子
第8回 受賞作:バーバーの肖像/早乙女朋子
第7回 受賞作:包帯をまいたイブ/冨士本由紀
第7回 受賞作:恋人といっしょになるでしょう/上野歩
第6回 受賞作:ジャガーになった男/佐藤賢一
第6回 受賞作:天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳
第5回 受賞作:砂時計/吉富有
第4回 受賞作:涼州賦/藤水名子
第4回 受賞作:マリアの父親/たくきよしみつ
第3回 受賞作:絹の変容/篠田節子
第2回 受賞作:草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉
第2回 受賞作:ゴッド・ブレイス物語/花村萬月
第1回 受賞作:こちらノーム/長谷川潤二
第1回 受賞作:川の声/山本修一

category: 小説すばる新人賞

tag: OPEN 受賞作List 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第22回小説すばる新人賞 受賞作:桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ

桐島 (216x290)
(あらすじ)
映画化大ヒット青春小説!バレー部のキャプテン・桐島の突然の退部が、5人の高校生達に波紋を起こして……。至るところでリンクする、17歳の青春群像小説。

answer.――― 60 点
朝井リョウというと遊び心くすぐられる名タイトルな本作『桐島、部活やめるってよ』が代名詞となっていると思うが、個人的にはいつだったか情報番組『王様のブランチ』での和田竜、中村文則、川上未映子、西加奈子、そして、朝井リョウという旬な作家たちを集めての座談会での放言の数々を思い出す。その放言がどんなものだったかは各自調べて頂きたいが、私が一番興味を惹かれたのは「色んな評価体系が全部自分に来たら凄く良くないですか?」という世界の中心で「朝井リョウ!」と叫ぶ自信である。一点の曇りもなく、朝井リョウは自分が《面白い》作品を作っていると思っている。事実、彼は本作で小説すばる新人賞、『何者』で直木三十五賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞と受賞し続け、ベストセラーを世に出し続けている。この《結果》を考えれば、彼は間違いなく《面白い》作品を作っている……わけだが、果たして、彼は本当に《面白い》作品を作れているのだろうか?《結果》は麻薬だ。《結果》を出してしまうと、自己否定出来なくなってしまう。徐々に下がる売上をどう受け止める?突如としてまったく売れなくなったとき、どういう結論に辿り着ける?「俺は面白い!」―――そんな 無意識下の『前提』が、いつの間にか着せられていた道化の衣装をいつまでも脱がせてくれなくなる。本作は表題通りのイベントをキッカケに揺れ動く高校生たちをそれぞれの視点で描く。肝心の桐島が本編中で視点を持っていないのが実験的と云えば実験的な仕掛け。朝井リョウが大学在学中に投稿した事実から分かるように、当時代の思春期迎えた若者(たち)の現在、そして、感性をダイレクトに触れられる(た)のが本作最大の見所。たとえば「チャットモンチー」をファッションな《記号》として扱っているのは個人的に興味深かった。何にせよ、生もの的な作品。朝井リョウは作品そのものより作家という《人間》、観察対象として追っていきたい作家の一人です。

第22回小説すばる新人賞 受賞作:桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 朝井リョウ 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第21回小説すばる新人賞 受賞作:魚神/千早茜

魚神 (203x290)
(あらすじ)
夢喰いの獏、雷魚などの伝説が残る遊郭栄える島で、本土を追われた人々は自治組織を作り、独自の文化を営んでいる。この島で捨て子の姉弟として育った白亜とスケキヨ。一方は遊女として、一方は男娼として、悲運のままに堕ちていく二人が迎える結末とは……。

answer.――― 83 点
ヤンチャな思春期を過ごした従兄がいるのだが、イジメがエスカレートしてバットで撲殺してしまった、とある少年事件を見て「素手で喧嘩したことねえんじゃねえの?」とつぶやき、その心を訊いてみると「殴ると痛いんだよ、自分の拳も」と返され、「殴り過ぎでしょ!」「だから、(次は)その前に止めるだろ」「ああ、なるほど」と頓智をかけられた気分に陥った記憶があるが、体験から得られる事実が世の中にはごまんとあるもの。本作は第21回小説すばる新人賞、第37回泉鏡花文学賞のW受賞を果たした千早茜のデビュー作。その概要は、娼館溢れる島で「売られる」ために育てられた美しい姉弟・白亜とスケキヨの、島の伝承交えたファンタジックな顛末。一読して実にセンチメンタル、感傷的な印象を受けた。女にしか書けない―――転じて、女になってみないと書けない文章があると思うが、著者の筆はまさにそれで、後に連作短編集『あとかた』で島清恋愛文学賞を受賞するところからもそれは裏付けられるだろう。「女になってみないと書けない」―――これの意味するところは不合理、不条理といった内容を含めた諦観にも似た《停滞》が現れ、文章として刻まれることだと思う。それは内省的で、《動く》こと=進展することが《面白い》と感じるエンターテイメントの本質からすると退屈と隣り合わせの厄介な代物だが、著者は《停滞》を《耽美》へと昇華し、エンターテイメントとして成立させているのが素晴らしい。作中のハイライトは、島の用心棒・蓮沼が童女ハナへ包丁突き刺し教育する場面を挙げたい。上述の《停滞》と相反する、作中でも指折りの《動く》場面ながら、酷薄な世界観を同質に表現した著者のセンスが光る。また、作中、白亜が涙を流す場面があるが、そこに神秘を見い出せるのも注目したいところ。これこそ、男には描けないだろう。『魚神』という世界を覗く一冊。『物語』をある種必要としない、希少な筆を著者は持っている。デビュー作として大変秀逸なので、【推薦】させて頂きます。

第21回小説すばる新人賞 受賞作:魚神/千早茜  【推薦】

category: た行の作家

tag: OPEN 80点 小説すばる新人賞 千早茜 推薦

[edit]

page top

第23回小説すばる新人賞 受賞作:たぶらかし/安田依央

たぶらかし
(あらすじ)
マキは、市井の人々の中で誰かの「代役」を演ずる役者。花嫁や母親の代行から、果ては死体役まで。依頼人たちの身勝手さに苛立ちながらも、淡々と仕事をこなしていたマキの前に、ある日、謎の男が現れて……。

answer.――― 72 点
How-Toとは、何らかの作業をする方法や手順に関する非形式的な記述のこと―――と、Wikipediaから引用させて貰ったが、情報溢れる現代社会だからこそ《正確な情報》を集約したハウツー本は、《知識》を得られる手段として以前にも増して歓迎される。昨今では飽くなき娯楽追及からか、ハウツー本にも《ストーリー》、そして、《キャラクター》の導入を求めている印象もある。もっとも、需要があるからといって《知識》ばかり挿していると、形骸化するのはお約束。《ストーリー》や《キャラクター》用いるハウツー本もどきを制作したいならば、書き手は《知識》もさることながら、それを扱えるだけの《知性》を作品に―――有り体に言えば、登場人物に施さなければならない。セレブ母、新妻、時には死体……依頼のままに、あらゆる人物の「代役」を派遣する会社に勤めるマキ(39)を主人公にした本作『たぶらかし』。設定の目新しさこそあれ、連作短編での優等生な起伏が読み手の想像を上回らないのが残念だが、上述の死体役やら、年齢的にも枯れたマキへホの字を書く若者の出現など、トリッキーさは目を惹くし、トントン拍子な「ドラマ化」も納得出来るところ。個人的には、《知識》出すことなく、《知性》感じさせる作風は好印象。《知性》とは何か?という話になるが、それは登場人物が《キャラクター》ではなく、《人》ないし《人間》である瞬間があることだと思う。《キャラクター》求められる現在だからこそ、《人》&《人間》を(キャラクターのなかに)垣間見せる「技」は必須でしょう。

第23回小説すばる新人賞 受賞作:たぶらかし/安田依央

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 安田依央 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第22回小説すばる新人賞 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子

白い花と鳥たちの祈り
(あらすじ)
中学一年生のあさぎは、母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきた。新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、近所の郵便局に勤める青年、中村だった――居場所のない中学生と仕事の出来ない郵便局員。二人の前に拡がる新しい世界。

answer.――― 75 点
視点人物は二人。家庭事情と思春期を迎えて変化する周りから塞ぎ込む中学生「あさぎ」と発達障害に苦しむ郵便局員「中村」。二人の直接に交わりはせずとも遠くから眺め(支え)合ういわゆる《ハートフル》な作風で、ストーリーそれ自体は実質、「無い」と云える。「明日から、あかりたちとお弁当食べてくれる?」「ただの仕事のできない郵便局員だ」―――視点人物がともに明確な《弱者》故に序盤の陰鬱な展開、吐露は読み手を遠ざけること必至で、実際、その陰は終盤の終盤まで変わることはない。しかし、である。弱者を徹底的に貫く故に《響く》共感がここに描かれている。中盤、どちらにも起こる「アクシデント」を経過し、迎える終盤、二人の怒濤の「吐露」は迫真そのもので、ここまでの陰鬱な現実に耐えていた読み手は感動をせざるを得ない。個人的ハイライトは、たとえば「同僚」遠藤、そして、母など諸所に挿される「中村」への《同情》も捨て難いが、中村自身がセラピストへ感情を爆発させる場面を挙げたい。これは単純に(おいおい、これ、解決出来るのか!?)という、中村の吐露が正論過ぎる正論としてぶつけられるからなのだが。その着地は成る程、セラピストといった感じで十二分(が、ある意味、残念)。中盤の「アクシデント」―――「継父による性的虐待(虚偽)」「小包爆弾」は、現実に根ざした本作の設定からすると破格の演出と言え、著者の思い切りの良さに素直に驚かされた。私は「中村」の発達障害に対して共感してしまったが、「あさぎ」の環境適合のほうに共感される方もいると思う。その場合は、ラストの実父の救済の過去&継父への吐露は感涙確定だろう。《ハートフル》という意味では満額回答にもなり得る好作。が、買って読むよりも借りて読むのをお薦め致します。途中で読み止める人もきっと多いだろう。

第22回小説すばる新人賞 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 河原千恵子 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第21回小説すばる新人賞 受賞作:蛇衆/矢野隆

蛇衆  (200x290)
(あらすじ)
戦国の気運高まる室町末期、自らの力だけを頼りに各地を転戦する傭兵集団がいた。その名は「蛇衆」。頭目の朽縄をはじめ、6人は宗衛門老人の手引きで雇い主を替え、銭を稼いでいた。

answer.――― 40 点
第21回小説すばる新人賞受賞作。室町時代末期を舞台に、傭兵集団「蛇衆」が運命の悪戯から反駁し合い、雇われ先の家督争いへと巻き込まれるストーリーライン。諸所で言及されているように、まず目につくのが改行多い文章スタイル。余白多い小説はリーダビリティを持つものの、ともすれば「稚拙」と捉えられ、無駄に評価を落としてしまうジレンマに陥る。本作は、まさにそれに該当してしまった形。もっとも、正味なところ、「稚拙」である。改行多い文体から《ライトノベル》と揶揄されているが、金棒使い、弓使い、槍使い、etc…と「蛇衆」、7人の解かり易いキャラクター設定は実際にライトノベル的……が、描き切れていないのが残念&無念。挿し絵でもあればともかく、読み手には登場人物たちが「見えない」のだ。これでは楽しめようもない。この文章スタイルを採るなら、描写を増やすのではなく、もっと登場人物の(過去を交えた)「吐露」がなければならないだろう。血肉を通わせないといかんってことだね。設定は楽しませようという意図を感じるものの、個人的にあまり作家(小説家)に向いていない印象を抱きました。ゲームやらアニメやらのシナリオライターのほうが向いているのでは?

第21回小説すばる新人賞 受賞作:蛇衆/矢野隆

category: や行の作家

tag: OPEN 40点 矢野隆 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第20回小説すばる新人賞 受賞作:桃山ビート・トライブ/天野純希

桃山ビート・トライブ (202x290)
(あらすじ)
時代は安土桃山。偶然三味線を手に入れた悪童の藤次郎、笛役者になるため家を飛び出した小平太、太鼓叩きを趣味とする元奴隷の弥介、天性の踊り子ちほの4人が、型破りな演奏で、権力や身分によって押さえつけられた世の人々を惹きつけていく戦国ストーリー。

answer.――― 83 点
サムライ・ギタリストと紹介されるMIYAVIをご存知だろうか?ヴィジュアル系らしい女形の容貌にパーカシッヴなギター奏法が特徴のギタリストで、『SAMURAI SESSIONS』と銘打った他アーティストとのコラボレーション・シリーズをあざとくリリースするなど、なかなかの歌舞伎者である。さて、安土桃山時代を舞台にした本作『桃山ビート・トライブ』―――三味線速弾く中心人物の藤次郎は、そのMIYAVI本人も「ビックリするくらい似てました(笑)」と認める、読み手の耳目惹く跳ね返りっぷり。作品の概要としては、戦国時代、傾奇者たちでRock 'n' Roll!石田三成がナンボのもんじゃない!といったところなのだが、兎にも角にも、藤次郎をはじめキャラクターかぶらない傾奇者を揃えてくるのが素晴らしい。個人的に膝を打ったのが、「黒人」弥介の採用。彼が太鼓を叩くわけだが、その説得力たるや理詰めに圧巻。黒人見慣れぬ時代にアフリカンビート、そこに三味線の速弾きが重なると、作中の聴衆同様、読み手もその音をまともに想像出来ず混乱来たすのは必然である。まさしく傾奇者たちの演奏を「読める」わけだ。男臭くならないように「踊り手」ちほ、本作の起伏の実は全てを担っているメンバー唯一の常識人なヘタレ「笛吹き」小平太と、配役に抜かりない。小説すばる新人賞随一と断言出来る「痛快」な一作。どうせ、こんなもんだろ?という予想をしっかり超えてくる三味線Rock 'n' Rollを体験出来ます。意外や意外、読書家さんたちのなかでも知名度低いようなので、ここは【推薦】させて頂きます。

第20回小説すばる新人賞 受賞作:桃山ビート・トライブ/天野純希  【推薦】

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 天野純希 小説すばる新人賞 推薦

[edit]

page top

第19回小説すばる新人賞 受賞作:でかい月だな/水森サトリ

でかい月だな (198x290)
(あらすじ)
満月の夜、友人に崖から蹴り落とされた「ぼく」。命は助かったが、右足に大怪我を負う。そんな「ぼく」の前に、二人の変人——科学オタク・中川と邪眼を持つオカルト少女・かごめ、そして「やつら」が現れる。

answer.――― 63 点
満月の夜、理由も分からないまま、友人に崖から蹴り落とされた「ぼく」は、日常生活はともかく、大好きなバスケットボールが出来ない身体となって―――と、欠けてしまった故に「得る」、主人公の心の成長を描いていく成長譚なのかと思いきや、まさかのSFへ駆け上がっていく本作『でかい月だな』。一読しての印象は、「雑」の一言。蹴り落とした友人を保留気味に庇いつつ、周囲の無用にも思える憐憫に苛立ちを覚えるティーンな葛藤から、IQ高い変人、邪眼使いの少女とつるんでいく展開は自然と云えば自然だが、読み手自身がその場に居たい(参加したい)と思わせる演出が乏しいのが残念。理科準備室のビーカーで紅茶を淹れるなりは良質なジュブナイルを感じるものの、その手の工夫は施し過ぎるということはない。もっと仕掛けるべきだったろう。「やさしさブーム」からのSF展開は面食らうものの、それが作品に貢献しているか問われれば疑問を呈さざるを得ない。著者の意気込みと作家としての力量が噛み合っていない作品。まあ、デビュー作らしいと云えばデビュー作らしい。

第19回小説すばる新人賞 受賞作:でかい月だな/水森サトリ

category: ま行の作家

tag: OPEN 60点 水森サトリ 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第8回小説すばる新人賞 受賞作:バーバーの肖像/早乙女朋子

バーバーの肖像
(あらすじ)
「あのころ、バーバーの手のぬくもりだけが救いだった」 別れを告げてきた少女期の夢のかけらたちのレクイエム。悲しい少女期、愛と癒しの物語。

answer.――― 65 点
足長おじさんの正体は!?的ストリーラインの本作『バーバーの肖像』。基本的に回想する形で、読み手―――そして、ヒロイン自身の複雑な家庭事情を解き明かしていく。その謎の中心人物は表題にも採用されている『バーバー』。己の思春期を支えた「謎」の人物を探るときに問われるのは、(今後の人生への教唆&示唆的エピソードを用意するのは大前提として)実際の経歴を上下、どちらに振るのかということ。多くの場合、「上」にして(……あ、あの人が!)的にするものだが、本作の場合は「下」に振る。結論として、その試みは可もなく不可もなく……と言ったところなので、派手さに欠ける分、半ば失敗だろう。文章はソツなく、ツンとうがったヒロインを描けているので、『バーバー』のクオリティ次第でもっと楽しめる作品になっていたと思う。いっそ、『バーバー』は複数人いても良かったんじゃねえかな?

第8回小説すばる新人賞 受賞作:バーバーの肖像/早乙女朋子

category: さ行の作家

tag: OPEN 60点 早乙女朋子 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第7回小説すばる新人賞 受賞作:包帯をまいたイブ/冨士本由紀

包帯をまいたイブ_0001 (202x290)
(あらすじ)
バーに勤める男役レズビアンのケイ。でも本当に惚れているのは、店長でやはり男役の麻生で……。セクシュアリティを超えた「純愛」を描く、第7回小説すばる新人賞受賞作。

answer.――― 57 点
第7回小説すばる新人賞受賞作。内容としてはセクシャル・マイノリティ―――レズを題材にしたもので、属性として「タチ(性行為でいう能動的な側)」を主人公に担わせ、タチ同士の、ある種の変則的な純愛を描いていく。仕掛けとしての面白味は、表題でも採用されている《包帯》。ミスリードの形で、読み手は想定外の《イブ》を知ることになる。が、それ以外には特に言及したくなるような感想は浮かばず。ただ、金魚をマ♀コに突っ込んだプレイはなかなか衝撃的。実際にそういうプレイがあるのかしらん?

第7回小説すばる新人賞 受賞作:包帯をまいたイブ/冨士本由紀

category: は行の作家

tag: OPEN 50点 冨士本由紀 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第18回小説すばる新人賞 受賞作:はるがいったら/飛鳥井千砂

はるがいったら
(あらすじ)
両親の離婚で別々に暮らす園と行の姉弟。妥協知らずで完璧主義者の姉・園は、婚約者のいる幼なじみと不毛な恋愛関係を続けていた。一方、虚弱体質で冷めた性格の弟・行は、幼い頃に園と拾った愛犬・ハルの介護をしながら、進路に悩んでいた。

answer.――― 78 点
西加奈子の初のベストセラー作品『さくら』を《陰》とするならば、そのカウンターである《陽》的作品として個人的に挙げたくなるのが本作『はるがいったら』。両作の共通項は一家の一員としての「犬」が老いて弱り、その派生として飼い主周りが動き出す点。しかし犬はあくまでマスコット!的役割であり、物語は飼い主たちの現状に焦点を当てている形。もっとも、その飼い主たちは(家庭事情複雑ながらも)ごくごく普通の一般人で、どこにでもありそうな日常のなかであっても読み手の琴線触れる《機微》を施せるかが著者の手腕試されるところ。結論から言ってしまうと、―――これは、良作!と素直に称えられるクオリティーが本作にはある。病弱な弟、才色兼備な姉。二人が視点人物なわけだが、それぞれが読み手にそれとなく先入観を与え、覆していくカタルシスはデビュー作らしくない洗練されたもので、チョイ役の小川君に「じゃあ今日はみんなお隣さんですね」とまとめさせるトリッキーな演出も含め、著者の次作へ誘う魅力を備えている。作中のハイライトは、デパート勤める姉・園への嫌がらせの顛末。上述の通り、植え付けられた先入観を覆し、明かされ、解かれる感情はエンタメ的に仕上げられているが、《文学》的演出。サプライズ的に楽しめます。

第18回小説すばる新人賞 受賞作:はるがいったら/飛鳥井千砂

category: あ行の作家

tag: OPEN 78点 飛鳥井千砂 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第17回小説すばる新人賞 受賞作:となり町戦争/三崎亜記

となり町戦争 (196x290)
(あらすじ)
広報で突然知らされた、『となり町との戦争のお知らせ』。とりあえず私が心配したのは職場までの通勤手段だったが、町は今までどおり平穏な様相を呈していた。戦時中だという意識を強めたのは、広報紙に掲載された戦死者数。やはり戦争は始まっていたのか。

answer.――― 67 点
三崎亜紀のデビュー作であり、「町」シリーズの第一弾作品。その概要は、ある日、隣町との戦争状態であることが通知されるも日常は異常なまでに変わり切らず、しかし戦死者が現れ、そして、主人公はスパイへの転身が命じられ……というもの。ざっくりと云えば、シュールな作品。シュルレアリスムを日本語訳すると「超現実主義」となるらしいが、この作品をシュールとするならば、超現実の意味も分かるというもの。超現実(戦争)の中に放り込まれた主人公を通し、読み手はそこに普段は内に隠れている己のセンチメンタルを見い出す。その意味での本作の個人的ハイライトは、主人公のパートナーである香西さんへの質問、その返答を挙げたい。「弟は、誰かに殺されたわけではなくって、戦争で死んでいったのですから」とする返答は、本作が《キャラクター》要らずの作品であることを象徴する超現実な台詞だ。故に、キャラクター有りき、娯楽性を求める人にはいささか厳しい作品なのは否定し難いところ。「戦争」下とはいえ、実際には何が起こっているわけでもない。本作を愉しむにはセンスが要ります。

第17回小説すばる新人賞 受賞作:となり町戦争/三崎亜記

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 三崎亜記 小説すばる新人賞 「町」シリーズ

[edit]

page top

第16回小説すばる新人賞 受賞作:笑う招き猫/山本幸久

笑う招き猫 (199x290)
(あらすじ)
オトコより、お金より、あなたの笑いがほしい!新人女漫才コンビ、アカコとヒトミ。彼氏もいない、お金もない、だけど夢は忘れない2人に、テレビ出演のチャンスが……。

answer.――― 69 点
(第何次なのかは不明だが)お笑いブームの最中に投下された、女漫才師コンビを主人公にした第16回小説すばる新人賞受賞作。漫才師ということで、物語の焦点は芸が鈍っても売れるTVタレントとなるか、売れなくてもライブで沸かせる漫才師にこだわるのかという二択にコンビそれぞれが思い悩み、衝突するところに置かれている。王道と云えば聞こえはいいが、ありがちと云えばありがちな焦点なだけに、女漫才師を如何に才人に描けるかがキーポイントとなる。が、可もなく不可もなく……なために及第点に到らず。もっとも、文字に起こしての「漫才」披露は著者のチャレンジ精神を買いたいところ。笑いの本質は「間」なのだろうから、それを実質封じられる文章で「つまらなくはない」と思わせる仕上がりは好印象を抱いた次第。題材を変えた著者の「次」の作品に興味を持てる。作中で個人的に興味惹かれたのは、先輩芸人の妻である元アイドルのユキユメノを巡る痴情。結局、ゴシップ(そして、それに巻き込まれること)が一番面白いのは二次元でも、三次元でも変わらない。漫才師たちの「悩み」、選んだ「答え」なんて、現在進行形でTVで汗掻きながら映っているので、そのライブ感と比すれば、本作の内容では霞んでしまう。ユキユメノというゴシップをもっとクローズアップしても良かったと思う。なお、千葉近辺の書店員・出版社営業が催した酒飲み書店員大賞の第2回の受賞作でもあります。

第16回小説すばる新人賞 受賞作:笑う招き猫/山本幸久

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 山本幸久 小説すばる新人賞 酒飲み書店員大賞

[edit]

page top

第15回小説すばる新人賞 受賞作:プリズムの夏/関口尚

プリズムの夏 (204x290)
(あらすじ)
海辺の町。高校生のぼく・植野と親友の話題は、寂れた映画館の美しく無愛想な受付嬢・松下菜那のことだった。憧れと現実、情熱と挫折、そして……。

answer.――― 66 点
高校生二人が恋した映画館の受付嬢は、《メンヘラ》だった!という雑な紹介ではコメディになってしまうが、概要としてはまったく間違っていない本作『プリズムの夏』。コメディでなければ何なのかといえば、このままでは自殺しかねない初恋の人を二人で一生懸命「助け」に向かう、真っ当にシリアスな青春譚。しかし今現在に目を通してしまうと、やはりコメディとして扱いたくなるのは、出版から十余年を経て、《メンヘラ》なるネットスラングが定着してしまったからだろう。そう、受付嬢は鬱屈とした日々、投げやりな日々をウェブで綴っているのである。それを偶然閲覧&観察し、二人は仲違いしつつも駆け出すのだ。私生活を公開することが当たり前になり始めた頃―――それを捉えた、ある種の先駆け的な作品としての価値が第15回小説すばる新人賞受賞という評価に繋がったのだと思う。そんなドキュメント性に《文学》を見い出してみても良いのではないでしょうか?なお、鬱な女子をお望みならば、王道で古井由吉の『杳子・妻隠』収録の「杳子」を未読の方は押さえておきましょう。杳子を鬱な女子の基準にすると、質の高低の精度が高くなると思います。

第15回小説すばる新人賞 受賞作:プリズムの夏/関口尚

category: さ行の作家

tag: OPEN 60点 関口尚 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第14回小説すばる新人賞 受賞作:ジョッキー/松樹剛史

ジョッキー (199x290)
(あらすじ)
栄光に向かって疾走する、若き騎手の青春。女子アナとの淡い恋、横暴な馬主との確執、馬への愛情――様々な思いを抱え、心優しき騎手は天皇賞の大舞台に挑む。魅力的な登場人馬を描く。

answer.――― 86 点
何かと忌避されがちな「競馬」題材の本作について回るのは、《10万部突破》という眩しいまでの金看板な文句。最終的に辿り着いた部数なのか、経過途中での部数なのかは定かではないが、出版不況と叫ばれて幾星霜……皆様も《10万部》突破が示す意味を十二分にご承知のことでしょう。結論から言ってしまえば、本作には「全て」がある。腕はあれども騎乗依頼の少ない中堅のジョッキーを主人公に、成功と挫折、諦観と矜持を交錯させ、ほろ苦い失恋、時にハーレムまで用意する周到なエンターテイメントを展開。注目すべきは主人公に「負け」を徹底して負わせ、且つ、それを貫かせていることだろう。この主人公は《勝っても、負ける》のである。突き詰めれば、負けて前を向く―――己の負けを認めるために物語は進む。「競馬」題材であるにもかかわらず、肝心のレース描写を必要最低限に済ます《プロフェッショナル》な判断、代わりに単巻作品としては異例と云えるヒロイン格の女性を三人投じ、挙げ句に一部屋に集める離れ業には絶句する他ない。作中のハイライトは本作を読了した全ての人が挙げるだろう、終盤の大レース「天皇賞(秋)」―――そのゲートが開く間際につぶやかれる一言「ショウサン」は鳥肌立つ名演出。読み手の時を止めてくれること請け合いだ。節目の第30回も近い小説すばる新人賞、その受賞作において、一、二を争うエンターテイメント作品。【推薦】させて頂きます。余談になるが、上述で、本作には「全て」がある、と言及させてもらったが、これは内容&要素の他に、著者にとっての「全て」という意味も含んでいる。というのも、貴方の読書遍歴でこんな経験はないだろうか?作品は非常に面白かったのに、著者の他の作品に何故か手が伸びない、なんてことが。それはきっと本能で感じ取ったのだ、著者の全身全霊、作家としてのピークを目の当たりにしたことを。明らかに要素詰め込み過ぎなのに、その処理が神懸かり的なんだよね、この作品。

第14回小説すばる新人賞 受賞作:ジョッキー/松樹剛史  【推薦】

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 松樹剛史 小説すばる新人賞 推薦

[edit]

page top

第13回小説すばる新人賞 受賞作:8年/堂場瞬一

8年 (200x290)
(あらすじ)
30歳すぎの元オリンピック出場投手が大リーグへ挑戦! 自分の夢を実現するため、チャレンジする男の生き様を描くスポーツ小説の白眉。

answer.――― 64 点
第13回小説すばる新人賞受賞した「野球」題材のスポーツ小説。五輪での活躍からプロ入りを期待されながら結局はプロ入りせず、しかし33歳となって突然海を渡ってメジャーへと挑むピッチャーを軸に物語を展開する。もっとも一から十まで野球一辺倒なのかと云えばそうではなく、球団運営――マネーボール的視点が挿し込まれているのがセールスポイント。雑感として、やはり「旧い」印象。「マネーボール」という切り口は出版当時は鮮度があったのだろうことを察せるものの、今や「マネーボール」当事者がよりVividに現状を出版して語っているために(極)薄味にしか映らない。そのため、エンターテイメント観点だと「オールドルーキー」の要素に期待をするしかないが、野球部分の面白味よりも「何故、彼は突然、……」という背景明かしに傾斜、内容もまた暗いために頁をめくりたくならない。作品としてはラスト、単なる野球好きが「不正を正す!」様を楽しめるくらいなので、ある種の《先駆け》だった事実を確認したい奇特な方のみお読みください。

第13回小説すばる新人賞 受賞作:8年/堂場瞬一

category: た行の作家

tag: OPEN 60点 堂場瞬一 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第12回小説すばる新人賞 受賞作:粗忽拳銃/竹内真

粗忽拳銃 (204x290)
(あらすじ)
前座噺家、自主映画監督、貧乏役者、見習いライター。夢を追う4人の若者たちが、本物の拳銃を拾ったことからすべては始まった!

answer.――― 73 点
「荒野の賢者」とは私のフェイバリット・ライトノベル『ロードス島伝説』の登場人物ウォートだが、この「荒野の〇×」というフレーズは思春期に根づいたためか、世間を見渡しているとよく当てはめてしまう。《荒野》とはすなわち誰も寄りつかない場所である。なので、売れてない(知名度低い)と「荒野にいるねえ」と、私はひっそりと思い、そして、時たまつぶやく。さて、ここに荒野の作家が一人―――本作の概要は、芽が出ない文化系の仲良し4人組が実弾入りの拳銃を拾い、事件に巻き込まれるのか!?と怯える、というもの。荒野の作家、万人にとって本作の著者がそれに該当するかはともかく、一読して著者が《職業作家》として数年は見通しがつく印象を受けた。というのも、単純に「巧い」のである。真打ちに上がれない噺家の主人公の《日常》を描いていくなかで、拾った拳銃が違和感となるも、何か起こるわけでもなく……。起伏の無い展開と切ってしまえるが、本作を拳銃を拾った話ではなくあくまで噺家としての成長譚として見ると、拳銃によって起こる終盤の「乱戦」は見事なサービスシーンとなる。本作は詰まるところ、(読み手の期待する)先読みした展開との乖離が欠陥となっている作品。ラストの「粗忽拳銃」の一席は上等の出来なのが、また勿体無い。需要さえ見誤らなければ、好きなものを好きなように書いても読み手に届くでしょう。

第12回小説すばる新人賞 受賞作:粗忽拳銃/竹内真

category: た行の作家

tag: OPEN 70点 竹内真 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第11回小説すばる新人賞 受賞作:パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ

パンの鳴る海、緋の舞う空
(あらすじ)
心に傷を抱えた男女の、切なく激情的な恋。恋人に失踪されたマヤは、愛することができなくなっていた。だが、友達募集の新聞広告でグレゴリーと出会って……熱情に揺れる南国の恋物語。

answer.――― 60 点
ブログ、そのプロフィールを開けば「作家」「イラストレーター」「翻訳家」と自らを紹介するように、多方面で活躍中の野中ともその《小説家》としてのデビュー作。その概要は、ニューヨークを舞台に、トリニダード・トバゴで再会を誓った男女の恋の行く末。一読してストーリーに必要な描写が少なく、本作が登場人物を含めた作品世界の《お洒落さ》に重点を置いているのが分かる。その点で先日の『恋人といっしょになるでしょう』とセールスポイントが近似と云えるが、同作が主人公「自身(趣味)」に《お洒落》を施していくのとは対照的に、本作は登場人物「自身」ではなく、その「周囲(環境)」に《お洒落》の焦点を当てていくのが特徴。舞台はニューヨーク、約束の地はトリニダード・トバゴ、黒人、日本人、クラブ、パーティー、スティール・パン―――そんな具合である。正味、(……都会の孤独は哀しいぜ、ベイベー)といった陶酔的な《お洒落さ》を求める心境でないと読み物としては退屈で、読み手を確実に選ぶ作品。個人的に、著者にはイラストレーターとしての才覚のほうが世間的な需要がある気がするが、その方面の方からすれば、著者は作家業のほうが向いているように見えるのか気になるところです。

第11回小説すばる新人賞 受賞作:パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ

category: な行の作家

tag: OPEN 60点 野中ともそ 小説すばる新人賞

[edit]

page top

第11回小説すばる新人賞 受賞作:走るジイサン/池永陽

走るジイサン_0001 (194x290)
(あらすじ)
単調な毎日を送っていた作治。だが、同居する嫁に疼くような愛しさを覚えた頃から、頭上に猿があらわれて……。老いの哀しみと滑稽さを描く、第11回小説すばる新人賞受賞作。

answer.――― 66 点
ある日、突然、頭に猿が乗っていた―――というシュールな設定で描かれる枯れた人生、その周りの若人たちの悩み。詰まる/詰まらないという評価軸で判断してしまうと、決して詰まるほうの内容ではないのは、あらすじからも察せるところ。本作の読みどころは、本作出版時点で五十路に差し掛かろうとしていた著者の視点。それは息子の嫁に仄かな劣情を抱いたり、己の職業経験から相手の隠れた心情を察するなど、エンタメとして描かれること少ない「枯れた」視点である。鋳物職人であった主人公の、明ちゃんの絵に用いられた「赤」の変化を静かに見抜く場面は、「老人」設定を生かした象徴的な演出。この手の場面をもっと増やせれば、「枯れた」視点も捨てたものでもないのが解る……が、如何せん、その手の演出は少ないので、積極的に推せません。

第11回小説すばる新人賞 受賞作:走るジイサン/池永陽

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 池永陽 小説すばる新人賞

[edit]

page top