ナマクラ!Reviews

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第29回山本周五郎賞 受賞作:ユートピア/湊かなえ

ユートピア (201x290)
(あらすじ)
地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤により社宅住まいをしている妻・光稀。そして移住してきた陶芸家・すみれ。美しい海辺の町で、三人の女性が出会う。自分の居場所を求めて、それぞれの理想郷を探すが……。

answer.――― 76 点
「美しい海辺の町」という何の変哲もない地方都市を題材にした本作は、視点を切り替えて複数の真実をあぶり出し、やがて事件の全貌を明かしていく“安心”の湊かなえ印の手法で描かれた作品。デビュー作の『告白』で提示してきたように、湊かなえは《善》であることを許さない。登場人物を徹底的に悪役に仕立て、その人生を嘆かせ、後悔させる―――そこに読み手は暗い安息を得るわけだが、Hateな輩がやはり揃う本作でもっとも口角上げさせてくれたのは、アートな志を持って町へ移住してきた陶芸家すみれ。これぞ凡才!という思考&行動を立ち去るその時まで披露してくれる。湊かなえの凄味はロールモデルが豊富なことだろう。ただ才能が無いだけでは偽者なり得ない。本当の偽者は何より己を知らず、虚栄、そして、虚勢を張るのだ。この辺の機微を登場人物にしっかり施せる故に、デビューよりベストセラー作家として驀進出来たわけである。がしかし、作家としていよいよ頭打ちの印象も。これしか出来ない!これしか書けない!はその実、その通りなわけだが、だからといって派手さに欠けてはいけない。寂れた地方都市の殺人事件とその解決なんて《キャラクター》でもいないかぎり読みたいとも思わない。大衆小説、その担い手であることを忘れてしまうと、後は筆も創造性も落ちていくだけだ。暗く地味な一冊、そうまとめられてしまえば元も子もない。

第29回山本周五郎賞 受賞作:ユートピア/湊かなえ

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 湊かなえ 山本周五郎賞

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山本周五郎賞受賞作一覧


▼ 第21回~ (2008年~) ▼

③山本周五郎賞

第29回 受賞作:ユートピア/湊かなえ
第28回 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子
第27回 受賞作:満願/米澤穂信
第26回 受賞作:残穢/小野不由美
第25回 受賞作:楽園のカンヴァス/原田マハ
第24回 受賞作:ふがいない僕は空を見た/窪美澄
第23回 受賞作:後悔と真実の色/貫井徳郎
第23回 受賞作:光媒の花/道尾秀介
第22回 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文
第21回 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏
第21回 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

▼ 第11回~第20回 (1998年~2007年) ▼

②山本周五郎賞

第20回 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦
第20回 受賞作:中庭の出来事/恩田陸
第19回 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明
第18回 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介
第18回 受賞作:明日の記憶/荻原浩
第17回 受賞作:邂逅の森/熊谷達也
第16回 受賞作:覘き小平次/京極夏彦
第15回 受賞作:泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織
第15回 受賞作:パレード/吉田修一
第14回 受賞作:白い薔薇の淵まで/中山可穂
第14回 受賞作:五年の梅/乙川優三郎
第13回 受賞作:ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子
第12回 受賞作:エイジ/重松清
第11回 受賞作:血と骨/梁石日

▼ 第1回~第10回 (1989年~1997年) ▼

①山本周五郎賞

第10回 受賞作:ゴサインタン -神の座-/篠田節子
第10回 受賞作:奪取/真保裕一
第9回 受賞作:家族狩り/天童荒太
第8回 受賞作:閉鎖病棟/帚木蓬生
第7回 受賞作:一九三四年冬―乱歩/久世光彦
第6回 受賞作:火車/宮部みゆき
第5回 受賞作:砂のクロニクル/船戸与一
第4回 受賞作:ダック・コール/稲見一良
第3回 受賞作:エトロフ発緊急電/佐々木譲
第2回 受賞作:TUGUMI/吉本ばなな
第1回 受賞作:異人たちのとの夏/山田太一

category: 山本周五郎賞

tag: OPEN 受賞作List 山本周五郎賞

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この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第11回 ~ 第20回!】


この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第1回 ~ 第10回!】から引き続いて、山本周五郎賞での「この受賞作を読め!」第2弾!ここでも第11回 から 第20回の全14作の受賞作のなかから、3作+次点を選んでランキング!どれも有名作だが、やはり《売れる》だけあって面白いのよねえ!では、始まり始まり~。

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

初の山本周五郎賞と直木賞のW受賞!という離れ業を為した、著者の代名詞となっている「マタギ三部作」の第2弾。やや及び腰になってしまう頁数がそのまま年輪となって一人のマタギを誕生させる構図は圧巻で、知名度高い販促賞、そのW受賞も誰しも納得出来るクオリティーがある。そもそも、熊が出て来ないのは意外なまでのサプライズだったが、やはり―――ラストはしっかり「山の神」と戦う。コイツは、創作物の熊史上最強の熊なんじゃねえか……!?と思わせる神々しさもあり、まさしく必見。兎に角、ドラマチックな一作。

森見文学はデビュー作より始まったとは思うが、いわゆる「森見登美彦」が森見登美彦となったのは本作からなんじゃなかろうか?京都を舞台に男と女がお洒落にすれ違う。個人的に3章「御都合主義者はかく語りき」は傑作的ご都合主義な一編。森見登美彦のフォロワーは今や五万と生まれているが、このレベルの一編はまず作れまい。大二病必読の一冊。

言語を絶するとはこの事か。在日朝鮮人・梁石日が実父をモデルに、おぞましいまでの「悪」を描いた大作。とにかく、《外道》極まっている金俊平は100冊、いや、200冊に1人の存在感を放っている。頁をめくれば、Rape & Violence!For Money!なんてドン引きせざるを得ないエンターテイメントがどこまでも続く。《吝嗇》がここまで「悪」へと繋がるのかと驚嘆させられるだろう。食傷を来たす繰り返しな展開に難があるものの、一度は出会っておくべき「悪」がここにいる。

勝ち組負け組と叫ばれ始めた時世に投下された連作短編。リストラ専門会社「日本ヒューマンリアクト」の有能社員・村上真介が、言葉巧みに「……辞職します」とリストラ対象者を追い詰めていく。旧友を追い込む第三話「旧友」は、これからの“人要らず”の淘汰の時代、嫁に読ませておきたい一編。また、いわゆる“ダメな社員”とは何なのかを冒頭早々に残酷に提示してくれるので、新社会人は予習として読んでおくと良いかもしれない。プレゼントにも使える便利な良作。

☆☆  総評  ★★

個人的に第11回から 第20回までの山本周五郎賞の受賞作……というよりも、受賞作家たちは第10回までの受賞作家たちよりも、より《売れる》ためのステップ的な意味での授賞を感じてしまうのは、吉田修一の『パレード』や森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』があるからなのかもしれないが、何にせよ、基本的にどの受賞作も「質」が高いのは読み手としては喜ばしいところ。そんな中で、恩田陸の『中庭の出来事』に関してはそもそも選考作に挙げてきたこと/残してきたこと自体が失態だと思う。未読の方は未読のままがオススメです。さて、今回も著名作を選定してしまったが、選んだ4作はどれも他の受賞作よりも実際、頭抜けて「面白い」。『邂逅の森』と『血と骨』は、ボリューム(とマチスモな題材)の点で手に取るのが億劫になってしまうかもしれないが、両作ともにエロ有り!バトル有り!のエンターテイメントとして充足の逸品である。特に後者、『血と骨』は「極悪」金俊平の類い稀な存在感があり、忘れられるには惜しい。後世に繋げるためにも、若い読書家の方は是非とも押さえて頂きたい悪漢小説だ。選定より漏れたが、アルツハイマーに罹る前に!という意味で、『明日の記憶』も目を通しておきたい一冊。現実はそんな綺麗事で済まないとは百も承知の上で、やはり「前を向ける」エンディングが実に心地良い。意固地を溶かす『小田原鰹』、男は黙って、……!な『蟹』が収められている『五年の梅』は、まさしく《いぶし銀》な短編集。時代小説をさらっと読みたくなった時、手に取ってみてもまず損は無いだろう。個人的には琴線に触れなかったが、中山可穂の『白い薔薇の淵まで』は百合ものとして知名度高い一作。こちらも押さえておいて損は無いだろう。と並べてみても、あからさまな“地雷”は上述の『中庭の出来事』くらいなので、山本周五郎賞は信頼出来る販促賞と言えると思いますね、ハイ。さあ、次は第21回~第30回のリストを飛ばして(まだ第28回までしか発表されてないからね)、All Time Best!!を選定しようと思います。乞う、ご期待!

☆ 受賞作:点数一覧 ★

86  邂逅の森/熊谷達也  【第1位】

85  君たちに明日はない/垣根涼介  【次点】

84  

83  夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦  【第2位】

82  血と骨/梁石日  【第3位】

81   

80

79  

78  五年の梅/乙川優三郎

77  明日の記憶/荻原浩

76  覘き小平次/京極夏彦

75  パレード/吉田修一

☝  満足  ☟  普通


74  ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子

73  

72  

71  エイジ/重松清

70  

66  白い薔薇の淵まで/中山可穂

65  

64  安徳天皇漂海記/宇月原晴明

63

62

61  

60  泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織

☝  普通  ☟  不満


40  中庭の出来事/恩田陸

現在、2016年03月13日/修正

category: この受賞作を読め!

tag: OPEN 山本周五郎賞 この受賞作を読め!【山本周五郎賞】

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この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第1回 ~ 第10回!】


新潮社が開催した日本文学大賞の後継イベントとして1988年に創設された山本周五郎賞。2016年3月現在、第28回まで開催済みだが、ここではその第1回から第10回までの全11作の受賞作のなかから、【この受賞作を読め!】と銘打って3作+次点を選んでランキングしてみました。第11回から第20回の【この受賞作を読め!】も間を置かず制作予定。乞う、ご期待!ではでは、始まり始まり~。

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

当時の社会関心であった《債務》を題材に、「最後の一行に犯人が出てくる小説」という着想から始まった宮部みゆきの代表作のひとつ。一時、インテリゲンチャたちに「昨今の文学作品よりも……」と称えられた《人間》に迫った筆は、たとえば不動産屋・倉田康二が語る離婚の理由に見い出せる。時勢を読んだ作品のためにやや黴臭くもあるが、08年発表の集大成企画「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベストでは第1位に選ばれた作品でもある。大衆小説の「古典」としても読まない理由は無い。

日本産のバナナとして世界に輸出される“吉本ばなな”。個人的に「ばななは『キッチン』さえ読んでおけばいい!」という持論があるものの、「吉本ばなな」という作家を知る上では押さえておきたい知名度高い一作。表題になっている「ヒロイン」つぐみは、出版から四半世紀過ぎた現在でもVividで、第1級のヒロイン格を保てているのは実際、素晴らしい。デビュー作『キッチン』と比すれば、洗練された天性の「筆」がここにある。

「希に見る美しい小説」と評されたことで知られる、稲見一良のレイ・ブラッドベリの『刺青の男』をモチーフにした短編集。翻訳小説を思わせる剛健な筆で読み手を選ぶ一作ではあるが、各短編で奇跡的な《数瞬》を力強く印象づけてくれる。そんな中で終章「デコイとブンタ」はやや毛色違うポップな逸品。デコイが空を飛んだ瞬間は、希に見る爽快感を与えてくれる。余談だが、本作も何気に上述の集大成企画「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベストに第6位にランクインしていたりする。

記念すべき山本周五郎賞の第1回の受賞作。自覚なく痩せ細っていく―――というホラー仕立ての物語ながら、アットホーム極まる“すき焼き小説”として名高い矛盾は、自分の目で確かめて頂きたいところ。新聞などさらりと引き合いに出される作品なので、押さえておくとお得感も。

☆☆  総評  ★★

芥川龍之介賞あれば三島由紀夫賞あり、直木三十五賞(以下、直木賞)あれば山本周五郎賞あり!という認識で実際、間違いないと思うが、大衆小説の販促賞として(直木賞と比すれば二格は落ちるものの)そこそこに浸透している山本周五郎賞。この第1回から第10回の《初期》とも云える段階でも、受賞者の顔ぶれは豪華絢爛。そうして、【この受賞作を読め!】と銘打って選んでみると、宮部みゆき、吉本ばななといったビッグネームのビッグセールスな作品をナンダカンダで選定してしまうイマサンな事態に……が、山本周五郎賞を総括する【All Time Best!!】では角度を変えて選び直していく予定。とりあえず、この稿ではベターに押さえておきたい作品を挙げておきました。何せ、1位と2位の作品は多作の両者の代表作に該当する作品だろうからね。未読ならば是非読んでおきましょう。両者のセンス欠いた近作しか読んでいない方ならば、「ああ、これは売れるわ」と認識を改められると思う。個人的なメインは第3位の『ダック・コール』、そして、次点に選んだ『異人たちとの夏』の選定。どちらも知名度は知る人ぞ知る程度だと思うが、前者は「希に見る美しい小説」という希に見る選考評を確かめるために、後者は“すき焼き小説”と謳われる所以を確認する意味でも、一読の価値があると思う。ところで次点は早々に決められたものの、実は3位はどれにしようか迷った。その迷った作品は船戸与一の『砂のクロニクル』、天童荒太の『家族狩り』。どちらも見た目(頁数)からして重厚で、実際に読んでみても膝をつきたくなるほど圧倒的な筆力で描かれているのだが、……凄過ぎて安易にお薦め出来なかったのが選外の決め手となった。また、江戸川乱歩のスランプ期を題材にした『一九三四年冬 - 乱歩』は耽美的な展開もあって女性受けしそうな印象もあり、この10回までの受賞作で3作挙げるならばダークホース的集票があっても不自然なことではないと思う。何にせよ、埋もれかけていて読めば(……拾い物!)な作品としては、個人的に『異人たちとの夏』を強く推したい。上にも書きましたが、“すき焼き小説”って人に薦めるときに言えるのが良いじゃないですか。勝手に(この人、読書家なんだ……)って勘違いしてくれますよ、きっと (๑´ڡ`๑)ブヒィ

☆ 受賞作:点数一覧 ★

85  火車/宮部みゆき  【第1位】

84  

83  砂のクロニクル/船戸与一

82

81  ダック・コール/稲見一良  【第3位】

80  家族狩り/天童荒太
    TUGUMI/吉本ばなな  【第2位】

79

78  一九三四年冬 - 乱歩/久世光彦
    異人たちの夏/山田太一  【次点】

77  奪取/真保裕一

76

75

☝  満足  ☟  普通


74  

73  閉鎖病棟/帚木蓬生

72  

71  エトロフ発緊急電/佐々木譲

70  

65  

64  

63

62

61  ゴサインタン -神の座-/篠田節子

60  

☝  普通  ☟  不満


59

現在、2016年03月13日/修正

category: この受賞作を読め!

tag: OPEN 山本周五郎賞 この受賞作を読め!【山本周五郎賞】

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第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子

ナイルバーチの女子会 (202x290)
(あらすじ)
ブログがきっかけで偶然出会った大手商社につとめる栄利子と専業主婦の翔子。互いによい友達になれそうと思ったふたりだったが、あることが原因でその関係は思いもよらぬ方向に……。

answer.――― 75 点
中二病、高二病、大二病、社二病―――昨今謳われる、いわゆる“イタい”人。目下、そんな“イタい”人を描かせたらこの作家より右に出る作家はいないのではなかろうか?第88回オール讀物新人賞を『フォーゲットミー、ノットブルー』という“羨望”と“嫉妬”、そこから女子の愛憎交錯させる歪な青春譚で見事に受賞、デビューを果たした柚木麻子。本作はそんな彼女が満を持して届けたかのようなイタさ極まる“ヴィクトリア湖の悲劇”ナイルパーチな力作。物語の幕はキャリアウーマンの栄利子と専業主婦の翔子、二人がブログをキッカケに出会うことで開く。視点は交互に入れ替わっていく形式だが、……まず(そして、終始)目撃することになるのは栄利子の狂気である。コミュ障とは何なのか?それは本作にてげんなりするほどに理解させられる。中盤、同僚に暴露まがいに追い詰められての「なんとかします!……ごめんなさい。私、一人でなんとかします。寝ますっ。このフロアの男、全員とセックスします。頑張ります。だから私を許して下さい」という栄利子の咆哮は、おいそれと拝めるものではない必見の場面。それがピークかと思いきや、その後もブレーキを踏む様子なくコミュ障具合はメンヘラへと昇華、加速していくのが恐ろしい。そして、そんな“イタい”栄利子のストーカーの被害者であるはずの翔子もヤバい。これは是非とも自分の目で、第三者の立場として確認して欲しい。「お、お前……!」と翔子の無自覚な狂気を目の当たりにした瞬間、肉食魚《ナイルパーチ》を表題に冠した意味とともに、どんなバッドエンドに辿り着くのかと《先》を見てしまう。本作が無自覚という仕掛け(構造)を用いての“イタい”人たちの一種のドキュメンタリーだと気づかされる。正直、面白くはない。読んで誰が得するのか解からない。ただ、“イタい”を突きつける力作なのは間違いないので、SNSの危険性を知らしめる意味でも推せる作品ではある。栄利子の外見の変化とか、細かいエンタメ的配慮があるのも好感。

第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 柚木麻子 山本周五郎賞

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第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

満願
1.夜警
2.死人宿
3.柘榴
4.万灯
5.関守
6.満願

answer.――― 80 点
2015年度の週刊文春の『週刊文春ミステリーベスト10』、宝島社の『このミステリーがすごい!』、早川書房の『ミステリが読みたい!』にて第1位を奪取!東野圭吾の『新参者』、横山秀夫の『64』の二冠を超え、三冠を達成!目下、最も「旬」なミステリー作家・米澤穂信の短編集。個人的に米澤穂信は“古典部”シリーズを始め、局所的に名を上げた『さよなら妖精』、《売り》に来た『インシテミル』ともハマらず、世間評と乖離のある作家の一人だったが、本作はいざ頁をめくってみれば早々に良い意味で裏切られた―――《人》が前面に押し出されてくるからだ。第1話「夜警」ではベテランの刑事を軸に、己の過去の経験から新人警察官(の性格&傾向)へ言及していく。そして、それが後に起こる事件への予告となっている。どの短編も目を瞠るトリックらしいトリックは無いが、何故、《過ち》(事件)が起こったのかを「起」→「転」→「結」→「承」と提示し、《過ち》起こる「承」を強く刻んでくる構造が余韻を増して楽しませてくれる。個人的なハイライトは第二話「死人宿」を挙げたい。思い寄せる人に言葉尻から「あなたは、自分が変わったと言った。でもそれは間違いだったみたいね」と己さえ気づいていなかった深層を見透かされる男の様には、思わず我が身を省みたくなった。《キャラクター》描くライトノベル作家からスタートして、《人》、あるいは《人間》を描くまで踏み込んできた作家としての伸長は実際、唸らせられる。第三話「柘榴」は乙一を想起させる歪な人間模様で、インスタントに楽しめる《キャラクター》も未だ描けることを主張しているようで面白い。ただ、バラエティには富むものの、いわゆる《代表作》にはなり得ない印象を持ってしまうのは、(短編とはいえ)登場人物それ自体に魅力が備わっていないからだろう。その意味で、本作の後に出版され、上述の三冠を再奪取することになる『王とサーカス』は私的米澤穂信の最高傑作で、是非と推薦したくなる。とりあえず、本作に関していえば、良質でしたよ、と。

第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 米澤穂信 山本周五郎賞 本屋大賞

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第26回山本周五郎賞 受賞作:残穢/小野不由美

残穢
(あらすじ)
京都市で暮らす「私」の生業は小説家である。大人向け小説が中心だが、かつては少女向けにライトノベルやホラー小説を執筆しており、そのあとがきで読者に「怖い話」の募集を呼び掛けていた。その縁で、かつての読者から「怖い話」を実体験として相談されることがあった。

answer.――― 76 点
個人的に、小野不由美という作家を再考&再評価することになった作品がこの第26回山本周五郎賞を受賞した本作『残穢』。それというのも、大長編『屍鬼』、そして、小野不由美と言えば……!な著者の代表的シリーズ『十二国記』しか読んでいない身としては、あたかも半自伝的な書き出し―――<私>という作家を投入しての冒頭からのリーダビリティの高さには(……これは想定外!)な衝撃を受けた。小野不由美は、いわゆる「文章力」に定評がある作家だが、二作を読了してその定評には個人的に大いに疑問を持った。巧拙の判定を迫られるとすれば、迷わず「拙」のほうにベットする。小野不由美は《自分のために頁を割いている》というのが主たる理由で、この作家は「全て」を整えてから物語を動かし始める―――自分の筆がノるまで、読み手に我慢を強いる。あまりに駄文が多い。それが『屍鬼』、『十二国記』のどこまでも続く「冒頭」に色濃く刻まれていた。《小野不由美》という看板が無ければ、「面白かった」という評判が無ければ、個人としては読み止めていたと思う。がしかし、本作では冒頭より<私>という強烈なキャッチで読み手の心を掴み、あたかも実体験であり、現在進行形の実話のごとく静かに、おどろおどろしく進めていく。そうして、例によって怪奇な事象の発端へと遡っていき、「触穢」という《知識》を挿して読み手さえ巻き込み、そのホラー具合は頂点に―――!もっとも、箒から和服という謎解き、自殺の連鎖などショッキングな序盤、中盤は惹きつけられるものの、時々に挿される《知識》は仕掛けも兼ねているとしても冗長で、そこからかの呪いのテープの作品と重ねてしまえば興味も急降下してしまうのも否定出来ないところ。個人的には、ストーリーそれ自体より、どこからホラーが始まったのか?恐怖の種を植え付けられたのか?を探るのが本作の醍醐味かと思います。小野不由美を見直しました。

第26回山本周五郎賞 受賞作:残穢/小野不由美

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 小野不由美 山本周五郎賞

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第25回山本周五郎賞 受賞作:楽園のカンヴァス/原田マハ

楽園のカンヴァス
(あらすじ)
ティム・ブラウンはニューヨーク近代美術館のキュレーター。ある日、スイスの大邸宅に招かれれば、そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは……!

answer.――― 73 点
多くの人にとって敷居の高い《ART》だが、だからこそ触れてみたいと思うのが人間の性……がしかし、いざ臨もうとしたときに気後れしてしまうのはその作家&作品について《知らない》、《解からない》ことだと思う。《Classic》もそうだが、時間の精査に耐え得る作品を理解出来ない自分は受け入れ難いものだ。それを緩和するために《解からない》までも、その作家&作品への《知識》を得るのが手っ取り早い自衛の手段になるわけだが、さて、本作は《キュレーター》なんて肩書きを持つ原田マハがその肩書きを存分に活かして送る、アンリ・ルソーの最後の作品「夢」を題材に《真贋の駆け引き》を施したミステリ。本作を読めば来たるべきアンリ・ルソーとその「夢」について気後れしない鑑賞、その予習が出来る代物なわけだが、率直な感想を先に吐かさせてもらえば、連作短編にするべきだったと思う。過去に「天才」と謳われた元研究者のヒロイン、名前違いから招聘された、実力はあるものの燻っているキュレーターという主要登場人物の《設定》は魅力的ではあるが、「1」作家、事実上の「1」絵画についてのエピソードを交えた考察は冗長に映る。その観点に立てば、―――これ、ノンフィクション!とホラ貝吹いた上で相次ぐ殺人を起こした『ダヴィンチ・コード』のほうが段の違う匠(たくみ)な一作だろう。作中の唯一のゴシップ、明かされていくヒロインのプライベート(過去)は読み手を惹きつける深みは無い。何にせよ、起こるイベントの弱さは感じるものの、《知識》の享受、終盤の《真贋の駆け引き》による盛り返しもあり、読了後には一定の満足感は得られる。ちなみに、漫画『ギャラリーフェイク』を未読な方には、そちらをまずお薦めする。私の上述の連作短編を希望する意図が解かると思う。

第25回山本周五郎賞 受賞作:楽園のカンヴァス/原田マハ

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 原田マハ 本屋大賞 山本周五郎賞

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第24回山本周五郎賞 受賞作:ふがいない僕は空を見た/窪美澄

ふがいない僕は空を見た
1.ミクマリ
2.世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
3.2035年のオーガズム
4.セイタカアワダチソウの空
5.花粉・受粉

answer.――― 81 点

1章「ミクマリ」が《女による女のための》と謳うR-18文学賞の受賞作という事実からも察せられる通り、Sex,Drugs,& Violence!のエンターテイメントの金科玉条【禁忌編】の第1条を担うSEXを明け透けに施した窪美澄のデビュー作。小説の型としては書き手に優しく、読み手にも優しいwin-winな連作短編で、上述の「ミクマリ」で早々に披露される高校生と主婦によるだらしないコスプレセックスを筆頭に、捻りの利いたスキャンダラスなVivid Entertainmentが展開されている。しかしながら、Sex,Drugs,& Violence!の金科玉条は守れば守るほど、エンターテイメントの純度は増すものの、その反動でともすれば陳腐化するものだが、著者はその辺を理解していて、前提の「セックス」の上にしっかりとスキャンダラスな「転」開を仕込んでいるのが素晴らしい。各短編の登場人物たちは「セックス」によって誰もがホロ苦く傷つくのである。1章「ミクマリ」の主人公・卓巳は若気の至りから初恋と気づいてスキャンダル「性(Say!)」、2章は卓巳を落とした主婦・里美の人生がスキャンダル「性(Say!)」、3章は卓巳にほの字の同級生・七奈が自暴自棄になってスキャンダル未遂「性(Say!)」、4章はそれまでとは角度を変えて卓巳の友人・良太がFuck!My Life!と中指突き立てて、しかし結局、スキャンダル「性(Say!)」、そこから〆に5章では卓巳の母親が自ら運営する助産院でアクシデント「生(Say!)」―――と、辿り着けば本作が「性」と「生」を交錯させた物語だと解る。堅実な文章で綴られた一本「筋」の通ったエンターテイメントで、読後感は良い。ストーリーの流れと配置的に4章「セイタカアワダチソウの空」がベストに挙げられるのは当然ながら、ややくどいものの、2章「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」はちょっとしたお奨め短編。いわゆるBitch!を描いているが、この手のBitch!に視点を与えているのは物珍しく、それでセックスを気持ち良いものとして捉えていないのがまた適当に感じる(*゚∀゚*)イイネ!!

第24回山本周五郎賞 受賞作:ふがいない僕は空を見た/窪美澄

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 窪美澄 本屋大賞 山本周五郎賞

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第23回山本周五郎賞 受賞作:後悔と真実の色/貫井徳郎

後悔と真実の色
(あらすじ)
“悪”を秘めた女は駆除する。若い女性を殺し、人差し指を切り取る「指蒐集家」が社会を震撼させていた。捜査一課のエース西條輝司は、捜査に没頭するあまり一線を越え、窮地に立たされる。これは罠なのか?男たちの嫉妬と裏切りが、殺人鬼を駆り立てる。挑発する犯人と刑事の執念。熾烈な攻防は驚愕の結末へ。

answer.――― 59 点
本作はデビュー以来、無冠のままキャリアを築いてきた貫井徳郎の悲願の山本周五郎賞“受賞”作。元は日本推理作家協会賞の“受賞”を「狙って」制作された背景を持っていたようだが、先に出版した『乱反射』が同賞を受賞(受賞理由:作家としての技量やミステリ界に対する貢献などが加味された。Wikipedia参照)したことで、棚ぼた式に山本周五郎賞を“受賞”出来たのは、著者にとっては嬉しい誤算だっただろう。がしかし、販促賞が作家の知名度を高めるためのツールであることを考慮してみると、本作の“受賞”は失敗だったと思う―――著者の他の本を読みたいと思わせられない故に。女性を殺し、人差し指を切り取る「指蒐集家」の捜査が混迷するなか、主人公の不倫が暴露され……というスキャンダラスなストーリーライン。“受賞”を「狙って」制作されただけあって、男の嫉妬やらの《人間》を描くことに力を注いでいる印象を受けるが、序盤より愛人とパコっているエリートらしい主人公のナルシーな間抜け具合が披露されるように、何を「面白い」、誰を「格好良い」と見定めれば良いのか判断が付けられず、読み手は迷走。そんな迷走をほぼ放置されたまま、主人公は何者かに不倫を暴かれて、同僚、世間に軽蔑され、でも俺は正義を捨てられねえ!あっやべっ、愛人死んでもうた!事件は会議室で起こっているんじゃない!俺の周りで起こっているみたいだ!と、ホームレスになってまで事件解決に勤しむ。……とネタバレ気味に書いてしまったが、要するに、―――「長い」。出来事と受賞「狙い」の《人間》模様が重なり、著者のスペックを超える処理量になっている。何を一番《後悔》しているのか、突き詰めれば、読み手は主人公を通して何を《後悔》するべきだったのか。ご大層な表題『後悔と真実の色』が読書中は勿論、読了してみても霞んだまま。「すでに」不倫しているのではなく、「途中で」不倫を始めたほうが良かったのでは?もっとも、それくらいのアレンジじゃ望むレベルでシンプルにならないが。著者にとって悲願の“受賞”作のひとつなわけですが、間違いなく著者の“代表作”ではないでしょう。

第23回山本周五郎賞 受賞作:後悔と真実の色/貫井徳郎

category: な行の作家

tag: OPEN 50点 貫井徳郎 山本周五郎賞

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第23回山本周五郎賞 受賞作:光媒の花/道尾秀介

光媒の花
1.隠れ鬼
2.虫送り
3.冬の蝶
4.春の蝶
5.風媒花
6.遠い光

answer.――― 85 点
乙一がせっせと隙間を突き、手懐けたライトノベラーなファンたちへ、大胆不敵にも「乙一さん?知り合い!知り合い!」と咲かない向日葵を携えて営業を仕掛けてきた道尾秀介。本作は、ミステリー・ランキングを荒らし、着々とセールス実績を築いて、いよいよ本丸「直木十五賞」にロック・オン!そうして、前哨戦「山本周五郎賞」を受賞した連作短編集。6つの短編の各視点人物は前編の登場人物と繋がりを持たせ、その誰にも仄暗いエピソードを付けて、ラストで光を灯して浄化していく構図。先に個人的なハイライトを挙げさせてもらえば、1章「隠れ鬼」における竹林での口淫場面を推したい。《ジュブナイル》《ミステリー》《ファンタジー》といった要素を絡めた作風に共通点を持つ乙一と道尾秀介だが、その二人の違いを端的に挙げるなら《文章力》に尽きる。ライトノベルで培った乙一のシンプルを是とする文章はリーダビリティの観点からも若年層に歓迎されたと思うが、道尾秀介は乙一のフォロワー、そして、本家「乙一」と一線を画すべく、語彙、表現に力を注いでいる。上記の口淫場面は著者のキャリアにおいてもおそらく指折りの筆力を用いた幻想的な場面で、読み手の向こう、選考委員たちへのアピールさえ透けて見える。もっとも、文章力はあくまでオプションであり、氏の人気を支えているのは《ミステリー》を基本としたダークな人間模様だろう。本作は既存のファンの期待に十二分に応える出来で、殺人起こるバッドエンド風味の前半、そこから半(≠反)転、仄かに光が射してくる後半と、陰陽のバランスを感じさせる作品構成が素晴らしい。5章「風媒花」は“らしくない”ハッピーエンドで、作品に拡がりを与えている。1章の視点人物へ「返す」物語となる〆めの6章「遠い光」が前に配される5つの短編と比するとやや「格」落ちの感は否めないが、それでも、“裏・直木三十五賞”たる山本周五郎賞受賞も納得のクオリティーの連作短編。道尾秀介の作品のなかでも、特にミステリー読者を対象とせずに制作された印象もあり、その意味で著者にとって異色な一作と云えるかもしれない。

第23回山本周五郎賞 受賞作:光媒の花/道尾秀介

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 道尾秀介 山本周五郎賞

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第22回山本周五郎賞 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け
(あらすじ)
数々のスクープを物してきた敏腕編集長、カワバタ。大物政治家Nのスキャンダルを追う彼の前に現れた奇妙なグラビアの女。彼女を抱いた日から、人生は本来の軌道を外れて転がり出す。不敵なまでの強引さと唐突さで物語に差し挟まれる数々の引用。小説が真理に近づく限界を極めた、第22回山本周五郎賞受賞作。

answer.――― 30 点
癌に侵されたいい年した編集者がグラビアアイドルとセックスしたら、……悶絶の問題にモンモン!友好的異性交遊の夕べ!と語り出す作品。特に感想もないので、点数だけ配点しておきます。あ、山崎洋一郎のブログ『トリプル編集長日記』にて「ポップスでもヒーリング・ミュージックでもフォークでもパンクでもなく、優れたロック・アルバムを聴くのと同質の手応え。」と絶賛されているので、RockerやRock愛聴者には何がしかの感銘を与える作品なのかもしれません……ROCKIN'ON、JAPAaaaaaaaaaN!(Mr. Bigの「I Love You Japan」風に。

第22回山本周五郎賞 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文

category: さ行の作家

tag: OPEN 30点 白石一文 山本周五郎賞

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第21回山本周五郎賞 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏

果断
(あらすじ)
長男の不祥事により所轄へ左遷された竜崎伸也警視長は、着任早々、立てこもり事件に直面する。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立する。異例ながら、彼は自ら指揮を執った。そして、この事案は解決したはずだったが……。

answer.――― 86 点
私利私欲を排し、意固地なまでに合理的であろうとする警察庁のキャリア・竜崎伸也を主役に配した隠蔽捜査シリーズ第二弾。前作『隠蔽捜査』での息子の不祥事を受けて、竜崎が都内大規模署である大森署署長という「現場」へと左遷的に配属される本作は、現場ならではの「不合理」な縄張り争いから、またしても《隠蔽捜査》が―――というダーティーなコンセプトを継続させているのがまず素晴らしい。もっとも、前作同様、起こる事件それ自体は決して目新しくはない。にもかかわらず新鮮に映るのは、やはり、竜崎のキャラクター故だろう。作中、すべての登場人物たちから「変人」扱いされるように、竜崎の采配はどこまでも合理的でありながら奇怪極まりない。因習に囚われず、私情も挟まず(が、心のうちでは愚痴をこぼしまくっているのが面白い。幼馴染「伊丹」へのコンプレックスは作品に多面性を大いにもたらしている思う、伊丹本人の小人物性を含め)、行動を決定、指示していく。合理的、という論理的な《知性》を感じさせる演出も様ざまあり、PTA対するクレーム処理は早々に読み手へ提示するインテリジェンス。部下の戸惑いを含めて著者のいぶし銀な仕事を垣間見る。SITとSATの対立、責任の所在への糾弾&紛糾、息子を通してのアニメへの理解など、仕事にプライベートに頭を痛める竜崎。前作よりも著者が伊丹を「掴んだ」のか、竜崎の彼に対する嫉妬がよりコミカルになったのも嬉しいところ。山本周五郎賞受賞に相応しい充実のエンターテイメント作品。シリーズ作ながら本作から読んでも楽しめる諸所に散らした情報もあるので、未読の方は順番を気にせずどうぞ。

第21回山本周五郎賞 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 今野敏 山本周五郎賞 隠蔽捜査シリーズ

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第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー
1.事件の始まり
2.事件視聴者
3.事件から二十年後
4.事件
5.事件から三カ月後

answer.――― 75 点

長い地理描写、政治背景などを含めた歴史語り、または専門知識のひけらかしは、ともすると説明口調になり、読者の作品に対する興味を著しく損なうものだが、この作家は面白い!という信頼は、読者にそのまま頁をめくる我慢を許す。伊坂幸太郎の<集大成>的作品!と評される本作は、まさに読者に我慢を強いる一作。巷の評判通り、著者の作品を複数作読んだことのある人にとっては、平凡な主人公像、潜む愉快犯、カットバック形式などからも<集大成>という形容にも大いに頷けるのではないだろうか。もっとも、集大成だからと言って、本作が著者の最高傑作ではないだろう。それは上記の通り読者に我慢を強いる事実にある。一章から順に読んでいくならば、本作は<記憶力>を求められる。踏み込めば、本作のいわゆるオチは三章【事件から二十年後】にて語られる。故に読み飛ばして、その章については最後に読んでも構わない。だが、何故にそんな構成にしたかと言えば、本作は著者の作家としての挑戦―――あるいは、単なる自己満足に端を発する。マンネリの打破。多作の作家ほど自分と向き合うことは多くなり、読者以上に自作のストーリー展開を意識していくものだ。概してマンネリの打破を試み始めると、その過程で必ず本作のように今までの作品で披露してきた方法論を組み合わせる<集大成>が出来上がる。そして、一流の自負がある作家ほど読者に我慢を強いる仕上がりになると思う。それというのも、その著者は今まで読者に<我慢をさせたことがない>ためだ。本作の冒頭で、首相が暗殺される。そして、主人公は濡れ衣を着せられ、逃亡する。真犯人は誰なのか!?がオーソドックスな読者の関心事だが、本作はそこを端折る。三章【事件から二十年後】で実は明らかにされているのだが、読者は初見では読み流すだろう。なぜなら三章がオチだと思わないからだ。本作は読み終わって初めて三章の意味に気づく。物語が逃亡劇と暗殺の真相、ふたつあることに気づく。長く書いてしまったが、本作への結論はこうだ―――この構成、面白い!と思えるのは、伊坂幸太郎のファンだけであり、また、この構成を評価出来ないと、決して面白いと唸れる作品ではない。楽しく読みたいならば、読みづらくても三章の内容を記憶しておくのが良いだろう、そして、ラストに「大変よく出来ました」の判子を押して貰いましょう。ちなみに、第5回本屋大賞「1位」にランクイン。がしかし、伊坂幸太郎は書店員の固定ファンが多いみたいだから本屋大賞は殿堂入りってことで良いんじゃねえかな?「1位」の内容じゃないよ。

第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎 本屋大賞 山本周五郎賞

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第20回山本周五郎賞 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

夜は短し
1.夜は短し歩けよ乙女
2.深海魚たち
3.御都合主義者はかく語りき
4.魔風邪恋風邪

answer.――― 83 点

森見文学なる文学を自ら築いたと全国紙で本気で豪語した森見登美彦。本作でも森見節を丁々発止、開く頁、開く頁、満遍なく踊らせている。四章仕立ての作品だが、個人的なハイライトは三章「御都合主義者はかく語りき」。これは素晴らしい出来栄えだった。見事なまでに御都合主義なのだが、見事なまでに構成し尽くしている。非常に挑戦的で面白い。主人公とヒロインの視点が交互に入れ替わって物語が進むが、一章は正直読みにくいだけで面白みも無く、完全に完封負けな展開だったものの、二章の古本市で追いついて、三章で注文通りの逆転ホームランを打ってくれた。ヒロインが狙い通りの出来。途中、そのキャラクターがブレ気味だったが、緋鯉(@三章参照)に負けた。負けてやった。

第20回山本周五郎賞 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 森見登美彦 本屋大賞 山本周五郎賞

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第20回山本周五郎賞 受賞作:中庭の出来事/恩田陸

中庭の出来事
(あらすじ)
瀟洒なホテルの中庭で、気鋭の脚本家が謎の死を遂げた。容疑は、パーティ会場で発表予定だった『告白』の主演女優候補三人に掛かる。警察は女優三人に脚本家の変死をめぐる一人芝居『告白』を演じさせようとする――という設定の戯曲『中庭の出来事』を執筆中の劇作家がいて……。

answer.――― 40 点
ジュブナイル小説の金字塔『六番目の小夜子』での鮮烈なデビュー以来、刊行を絶やすことなく業界を第一線でSURVIVEしている恩田陸。しかしながら、その『六番目の小夜子』を含めた多くの作品は、どれも(……何でこうなるかね?)と眉をひそめたくなる急転直下のファンタジーが演出されることでも知られるが、本作はそんな完成度を求めてはいけない作家、恩田陸の本領を悪い意味で発揮した実験作。概要は脚本家の「死」を提示し、そこから現実と《作中作》の虚実/内裏へ読み手を導いていく、というもの。一読しての印象は、中学生が書いたら「凄いなぁ!驚いたよ!」と笑顔で誉め、高校生が書いても「おっ、良いねえ」と微笑ましく称え、大学生が書いたら「……これで評価を受けたら君は駄目になる」と真顔で忠告し、社会人が提出してきたら「……学生気分が抜けてないな」と渋面でたしなめ、プロが提案or提出してきたら「……これ、他人の作品だったら買いますか?大御所になったつもりですか?」と指導する、結論「……ダメだこりゃ!!」な自慰倒錯本。恩田陸、という作家に求められているのは、こんなSpecial Oneを気取った作品ではない。《何でも書ける》はそれこそファンタジーだ。自費で刷れない作品を世に問うてはいけません。作家が勘違いした典型的な駄作なので書き手ならば反面教師に、読み手ならば読むのも時間の無駄なのでまず手を出さないほうが良いでしょう。

第20回山本周五郎賞 受賞作:中庭の出来事/恩田陸

category: あ行の作家

tag: OPEN 40点 恩田陸 山本周五郎賞

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第19回山本周五郎賞 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明

安徳天皇漂海記
第一部 東海漂泊
第二部 南海流離

answer.――― 64 点
ブログのコンセプトの都合上、《受賞作》、《ランクイン作》のために半ば強制的に目を通すことになる作品が出てくるわけだが、その中には当然、肌に合わない作家の作品も現れる。たとえば本屋大賞では目下、有川浩伊坂幸太郎あたりは食傷の上に手抜きも目立って個人的に「……もう、マジ勘弁!」な作家たちだが、その他にも、インテリゲンチャ&歴史ヲタクさえ感嘆する《知識》に唸らせられるものの、あたかも教科書や資料を読んでいる錯覚に陥る飯嶋和一あたりも「…………」とぐうの音も出ずに閉口してしまう。そして、この宇月原晴明である。選考委員より「この作者の頭の中は妄想に満ちている!」という激賞を受けて第11回日本ファンタジーノベル大賞《大賞》受賞作『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』―――信長は両性具有で、これは遡れば!―――でデビューした逸材で、本作でも二部構成で《入水》という死に際の共通点から安徳天皇と祥興帝が海と時代を超えて「この作者の頭の中は妄想に満ちている!」顛末を描く。正直、勿体ぶった言い回しを多用する故に著者の妄想以前にそもそも何を描いているのか掴めず、……(」゚ロ゚)」カンツォーネ!と誤魔化し気味に頁をめくっていたが、第一部を引き継ぐ第二部の“ここだけの話”マルコ・ポーロの《視点》からは意図も透けて見始め、読みやすさは増す印象。だからといって、内容それ自体を《面白い》とは感じられないあたりは、著者の作風に私が「合わない」ということなのだろう。《歴史》を学んだ上でそこに著者のイッテQな妄想の入り込み具合を楽しむ、ある種、インテリゲンチャのための同人誌的作品。楽しむためには「素養」が要ります。

第19回山本周五郎賞 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 宇月原晴明 山本周五郎賞

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第18回山本周五郎賞 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介

君たちに明日はない
1.怒り狂う女
2.オモチャの男
3.旧友
4.八方ふさがりの女
5.去り行くもの

answer.――― 85 点
新語・流行語大賞を参照にすれば、勝ち組負け組に象徴される格差社会を意識させる言葉が03年からランクインし始めたが、その真っ只中の05年にリストラを題材に上梓されたのが本作『君たちに明日はない』。形式としては読み手に優しい連作短編で、リストラ専門会社「日本ヒューマンリアクト」の有能社員・村上真介が、会社側がリストアップしたリストラ対象者を調べ上げ、あの手この手で自主的に「……辞めます」とこぼすまで追い詰めていく―――という話には違いないのだが、大衆小説としては上々のシリーズ全4巻、コミカライズ&ドラマ化と展開したように、リストラ対象者に有能無能な一癖、二癖をつけ、時には彼らの人生を好転させるキッカケを、時には読み手もどちらに転ぶのか見物な判断を迫られ、そこに色恋のプライベートも織り交ぜる、貫録のエンターテイメントが収められている。著者の作家としての手腕は早々に主人公の年増好き、そして、ヒロインを披露/確定させる第一話「怒り狂う女」で確認出来るだろう。以降の話も《パターン》と見做されないように角度を変えて魅せていく。作中のハイライトは旧友を追い込む第三話「旧友」、あるいは、犬を残すか猿を残すか互角の実力者を天秤に掛ける第五話「去り行くもの」か。どちらも甲乙つけがたい秀作で、前者は未来を臨むハッピーエンド、後者はそれまでの四話とは別ベクトルの「理」が提出され、実に爽快な気分を堪能出来る。《リストラ最有力候補になる社員にかぎって、仕事と作業との区分けが明確に出来ていない。》なんて本質をさらりと突いてくる一文もあり、社会の荒波に呑まれる前に読んでおきたい一冊。就職先が決まって一安心している大学生にプレゼントする本に良いかもね。

第18回山本周五郎賞 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 垣根涼介 山本周五郎賞

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第18回山本周五郎賞 受賞作:明日の記憶/荻原浩

明日の記憶
(あらすじ)
家庭も省みず仕事に生きる49歳、広告代理店のやり手営業マン、佐伯雅行。仕事においては大きなクライアントとの契約が決まり、プライベートにおいては娘の結婚が決まる、と順風満帆に見えた彼だが、めまい、幻覚といった不可解な体調不良……何より、ひどい物忘れに襲われる。妻・枝実子に促され、しぶしぶ忙しい仕事の合間を縫って病院を訪れ診察を受けた結果、医師から若年性アルツハイマー病という診断を下される。

answer.――― 77 点

アルツハイマーを題材にした小説は、人生で一度、必ず読んでおくべきだと思う。そして、追体験―――記憶を失うことの何が恐しいことなのか、記憶のある残された時間で何をすべきなのかを考え、自分にとっての最善を見い出しておく必要がある。かの渡辺‘spモード’謙の熱望により映画化も果たした本作「明日の記憶」。あらすじの通り、アルツハイマーと判明してからの主人公の恐怖、家族の戸惑いが基本のストーリーライン。生き甲斐であった職を追われ、信頼していた人に裏切られ、……の記憶とともに失っていく日常が胸を打つ。しかし、この手の話はストーリー的にはどれも大して差が無く、どう落とすのかが作家の腕の見せ所となる。その点で、本作は非常にベターな印象。必要以上に救いがあるわけでもなく、限りない絶望に陥ることもない。ラストシーンで妻に掛ける言葉はどれも絶望を内包しながらもひたすら優しい。そんなラストを迎えて分かることは、本作は「アルツハイマーとどう戦っていくのか?」ではなく、「アルツハイマーに罹ってしまったら?」と読者に問い掛ける作品だったことが分かる。おそらく、作者なりの<答え>が出ていながらぼやかしている印象を受けた。その辺、家族の心理がほぼ描かれていないあたりで判断出来ると思う。非常に読みやすく、イベントもよく起こるのでエンターテイメントの観点からもアルツハイマーを追体験する小説としてお薦め出来る。お約束だが、合い間合い間に、症状の進行を知らせるように壊れていく日記を挿し込んで来ることを付け加えておく。

第18回山本周五郎賞 受賞作:明日の記憶/荻原浩

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 荻原浩 本屋大賞 山本周五郎賞

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第17回山本周五郎賞 受賞作:邂逅の森/熊谷達也

邂逅の森
(あらすじ)
秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。

answer.――― 87 点
《マタギ三部作》の第二作にして、山本周五郎賞、直木三十五賞をW受賞するという快挙を成し遂げたことからも、熊谷達也の事実上の代表作と謳える本作『邂逅の森』。一読しての感想はそんな快挙も納得のマタギ男の紆余曲折の半生を描いたエンターテイメント大作で、そもそも、―――「熊」と対峙しないストーリー展開には多くの人が意表を突かれることだろう。本作は熊が大暴れするなか、マタギが静かに猛り、銃弾を放つような典型的なマタギ話ではない。若者が姦通し、炭鉱に落とされ、後輩に慕われ、いわくつきの嫁を娶り、己の過去と向き合い―――そうして、ようやく「宿敵」と対峙する。頁数がそのまま年輪となって一人のマタギを誕生させる構図は圧巻で、誰しも心のうちで営む読了Libraryにおいて、自分の趣味趣向を超えた《面白い》の、ある種のベンチマーク的作品となることは必至だ。作中のハイライトはそれこそ読み手によって違ってくるだろうが、個人的にはやはり終盤も終盤の「宿敵」との対峙、互いの命を賭した一戦を挙げたい。小説すばる新人賞を受賞した著者のデビュー作『ウエンカムイの爪』でも「熊」は投入されたわけだが、同作の「熊」とはまさしく《格》が違う。序盤、中盤とあっさりと「……Hunt!」していた過程もあり、次の頁には逝ってしまうかもしれない、出し惜しみのない死闘はスペクタル以外の何物でもない。三十作を超える山本周五郎賞の受賞作においても、まず五本の指に入るだろう「この受賞作を読め!」な傑作。「熊谷達也」の名を、直木賞作家が盗作……!というセンセーショナルな報道で知っただけで氏の作品を未読な方は是非、本作を手に取ってみましょう。「面白いやんけ!お前の作品忘れないから、もう引退してもええで!」と作家の本懐なエールを著者へためらいもなく贈れます。

第17回山本周五郎賞 受賞作:邂逅の森/熊谷達也

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 熊谷達也 山本周五郎賞 マタギ三部作

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第16回山本周五郎賞 受賞作:覘き小平次/京極夏彦

覘き小平次
(あらすじ)
一日中押入れ棚に引きこもり、わずかの隙間から世間を覗く「売れない役者」小平次。妻のお塚は、一向にその不気味な性癖がおさまらぬ亭主に悪態をつく毎日である。そんなふたりのもとへ、小平次の友人で囃子方の安達多九郎が訪ねてくる。禰宜町の玉川座が、次回の狂言怪談の幽霊役に小平次を抜擢したという。一座の立女形、玉川歌仙の依頼を受け、奥州へと向かう小平次。しかしその興行の裏には、ある仕掛けが施されていた…。

answer.――― 76 点
Yahoo!知恵袋にて「京極夏彦さんはなんでいつも手袋をしているんですか????子供のころからやっていると聞きましたが。」なるファッションセンスを存分にリスペクトされる質問があるように、ミステリー界の「PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK」を地で行く京極‘堂’夏彦。氏が手掛けるシリーズは、自ら(?)主役を務める百鬼夜行シリーズがつとに有名だが、他にも搦め手で直木賞を受賞した『後巷説百物語』の巷説百物語シリーズ、古典怪談を基にした江戸怪談シリーズなど、売れっ子らしく複数あることは知られるところ。本作はそのうちの江戸怪談シリーズの第2弾、山東京伝の「復讐奇談安積沼」を下敷きに上梓された作品。その概要は、誰とも会話もせず、一日中押し入れに引きこもり、妻を覗き見する幽霊役者・小平次に芝居の依頼が入り、そこから殺人事件に巻き込まれるものの、当人は特に何もせず終わる、というもの。この紹介ではどうしようもない話に思われるかもしれないが、主役が何もしないだけで、その他の登場人物が「動く」ので問題は無い。本作の醍醐味は何かと訊かれれば、京極夏彦の「筆」だろうか。京極夏彦と云えば、やはり「百鬼夜行シリーズ」が代表作として挙げられると思うが、本作での京極夏彦の「筆」は登場人物たちのキャラクター性を抑えている分、浅ましい《人間》を彫り出していくことに腐心している。たとえば多久郎が小平次の妻・お塚に抱く劣情を、「男」「女」と書かず、「牡」「牝」と当てて語っていく地の文に象徴されるように、登場人物から「品」を落とし、おどろおどろしく彩っていく。「人に非ず」。ここに出てくる登場人物は《人間》という化生の類なのだ、と訴える。登場人物を覗くストーリー。やや癖はあるものの、怪しげな雰囲気を堪能出来る作品です。

第16回山本周五郎賞 受賞作:覘き小平次/京極夏彦

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 京極夏彦 山本周五郎賞

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第15回山本周五郎賞 受賞作:泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織

泳ぐのに、安全でも適切でもありません
(あらすじ)
いろんな生活、いろんな人生、いろんな人々。とりどりで、不可解で。江国香織初の書き下ろし短編小説。

answer.――― 60 点
女性支持高い作家、江國香織の10編の短編集。正直、「合わない」に尽きるので、レヴューの代わりに、私の好きなAV作品について書こうと思う。私の好きなAV作品、それは一つに絞り切れないが、敢えて挙げるなら『竹内あいファン感謝祭 素人男性16人ハメまくり大乱交ツアー』だろうか。お笑い芸人・今田耕司はAVを「ファンタジー」と喩えたが、実際、その通りだと思う。AVで行われていることを現実で行おうものなら(カノジョ、奥さんに許可を取ろうものなら)、人格を疑われる。信じられないくらいに疑われる。もはやその辺は「えっ何で!?」とこっちが逆に訊きたくなるくらいの事案である。SEXにレジャー感覚は禁物。好きだの、愛してるだのの一言を適宜添えるのがマナーである。「フザけんな、AVでそんなことは言わねえんだよ!言ってるの見たことあるか!?んな台詞を男優が言ってみろ、冷めるだろーが!!」とは日頃の私の主張なのだが、好きだの愛してるだの、女優に言ってもOK!大いにOK!むしろ推奨!なのが『ファン感謝祭』シリーズである。男優も紛れ込んでいることが多々あるものの、素人がチ♂コしごきながら、AV女優を囲む画はまさしくファンタジー。実に楽しそうで「いやー混ざりたくなるわー」と友人連中に言ったら若干と言わず驚かれたので、SEXに対するスタンスが人によって違うことを俺はこの『ファン感謝祭』シリーズで学んだ。俺は楽しければいい。だから、楽しそうにAV女優(と男優)がSEXしている作品に惹かれる。『竹内あいファン感謝祭 素人男性16人ハメまくり大乱交ツアー』は、とにかく「面白い」に尽きる一作。竹内あいが嫌な顔一つとせず、隙あらば乳をまさぐり、ハメればキスをねだり、しかし結局、中折れて射精に至らない―――これぞ素人!という参加者たちに戸惑いつつももてなし、乱交状態のなかで「皆、正常位でいいの?バックでも何でもいいよ?いいの?」など作品を成立させようと健気に奮闘する様は必見である。主役はもちろん、竹内あいには違いないが、視聴済みの方ならば100人が100人言及せざるを得ない、どんな場面でもカメラインしてくる参加者リサイクル。彼の全力で感謝祭に臨む姿勢は賛否両論を招いているが、個人的には「あいちゃ~ん、あいちゃ~ん!」と強引にカメラインしてくる度にキャッキャヾ(*´∀`*)ノキャッキャと楽しんでおりました。第2弾『帰ってきた竹内あいファン感謝祭 素人男性増員21名!420分拡大版!夢の大乱交ツアー』も制作されたように好評を博した本作。オススメです!……きらきらひかる(愛液)!←元は江國香織の作品のレヴューと言うことで、物は試しに置いてみた。

第15回山本周五郎賞 受賞作:泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 江國香織 山本周五郎賞

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第15回山本周五郎賞 受賞作:パレード/吉田修一

パレード
(あらすじ)
都内の2LDKマンションに暮らは男女四人の若者達。「上辺だけの付き合い?私にはそれくらいが丁度いい」。それぞれが不安や焦燥感を抱えながらも、“本当の自分”を装うことで優しく怠惰に続く共同生活。そこに男娼をするサトルが加わり、徐々に小さな波紋が広がり始め……。

answer.――― 75 点
例によって吉田修一を認知したのは芥川賞受賞作『パーク・ライフ』からだったが、その前に書き下ろした本作がトントン拍子な「流れ」を呼び込んだと見るべきなのだろうから、著者にとって「最初」のブレイク・スルー的作品と云えるだろう。気になるその題材は、今や若者文化の象徴となっている「ルームシェア」。血の繋がりもない「5人」の若者の共同生活に潜む、《暗黙》の歪みを覗く形。先に部屋をシェアしていた「4人」に自称18歳の「5」人目(♂)が紛れ込んでくる序盤、そこから少年の正体を怪しみつつ、部屋に引きこもり続けるニートな美女を中心とした面々の「現在」な中盤は、丁寧に描いているだけに「……まさに」と頁をめくるのも億劫になる惰性な日常。視点切り替えの度、それぞれがそれぞれに対する言葉にしない《思い》を覗くのが醍醐味とはいえ、いささか停滞気味で、そのまま現在を伝える(残す)《純文学》の範疇の作品に終わるかと思えば、―――賛否両論となる終盤の着地は「……まさしく」エンターテイメント。吉田修一が「一」文学作家に終わらないクオリティを目撃することになる。個人的には、「ボルヴィック」という単語を日常で挿してきたところが流行的に映った。これは次作『パーク・ライフ』で「スターバックス」を取り扱った点と同じで、《若者文化》をドキュメントしている。文学作家の一つの「仕事(義務)」よね。

第15回山本周五郎賞 受賞作:パレード/吉田修一

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 吉田修一 山本周五郎賞

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第14回山本周五郎賞 受賞作:白い薔薇の淵まで/中山可穂

白い薔薇の淵まで
(あらすじ)
ジャン・ジュネの再来とまで呼ばれる新人女性作家・塁と、平凡なOLの「わたし」はある雨の夜、書店で出会い、恋に落ちた。彼女との甘美で破滅的な性愛に溺れていく「わたし」。幾度も修羅場を繰り返し、別れてはまた求め合う二人だったが……。

answer.――― 66 点
荒木飛呂彦は代表作『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ、その作中にて「スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う」と御無体な設定を放言してくれたが、何の因果か、私は大学進学以降、メンヘラとよく知り合う。ついでに、そこそこに接触を図られる。理由は定かではない―――と言いたいが、流石に何度となく出遭っていくうちに気づいたのだが、彼女たちのプライドを知らず刺激していたのだと思われる。「大丈夫!」「死にたいなら手首じゃなくて首でしょ?」「俺、リスカするヤツ嫌いなんだわ」etc......と、本人の目の前で笑いながらdisるからだと思う(また、それはそれとして、別途「能力」について称賛していることも関係していると推測される)。公然とdisるこの男を「落としたい」―――そんな胸くそ悪い思考が働いて、何だったら股を開いて挑発してくるのである。くたばれ、Bitch!さて、本作は百合界隈では御用達の作家として名を馳せる中山可穂の例によってなビアンな逸品。平凡なOLが若き天才「女性」作家・塁と百合って別れて、旧知の男と結婚するもすれ違い、やっぱ百合しかねえわ!インドネシアへGo!Go!Heaven!というストーリーライン。塁を「猫」と重ね合わせる文学な手法もあるが、百合へ禁忌も感じなければ目新しさも感じない―――百合への《適性》が無い者からすると、メンヘラがメンヘラっている恋愛劇にしか読めない。たとえば、「わたしは彼のやさしさが少々物足りなかった。キスしたければ、すればいいのに。欲しければ塁のように、がむしゃらに血を流してでも奪えばいいのに」……この手の言及、ある種の「汚されたい」欲求を描いているのがリアリティーとして支持を集めるところなんだろうか?百合好きな方に、こんこんと本作の真髄を語られたい次第。

第14回山本周五郎賞 受賞作:白い薔薇の淵まで/中山可穂

category: な行の作家

tag: OPEN 60点 中山可穂 山本周五郎賞

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第14回山本周五郎賞 受賞作:五年の梅/乙川優三郎

五年の梅 (205x290)
1.後瀬の花
2.行き道
3.小田原鰹
4.蟹
5.五年の梅

answer.――― 78 点
山本周五郎賞、「初」の時代小説の受賞作が本作『五年の梅』。表題作を含めた五つの短編で、いずれも男女の仲を描いた短編集。冒頭を飾る『後瀬の花』は仕掛けに工夫あれども何とも渋く我慢を強いられるが、続く忍び難きを忍ぶことを迷いながらも選ぶ『行き道』、《時》とどこからか届く謎の鰹が最低男の性格を変えていく『小田原鰹』からは“裏・直木十五賞” たる山本周五郎賞受賞も納得の佳作が並ぶ。時代小説ながら登場人物の決意、行動を「変えていく」文学的アプローチは物珍しく、《時》を仕掛けの軸にしているのも本格的。そんな粒揃いのなか、個人的ベストには第4話『蟹』を挙げたい。家の都合で離縁を繰り返した女が辿り着いたのは、腕は立つが貧しい武士。ようやく「幸せ」を掴んだ女だったが、昔、自棄になって情事を重ねた男たちの魔の手が迫る!裏切りたくない、でも仕方がない。女の哀しみ溢れたところに……!思わず「あと少しだ、負けんな!」と声を掛けたくなるまばゆいばかりにいぶし銀のラストが秀逸だ。勿論、その『蟹』と甲乙つけがたい表題作、一途な男が漢を見せる『五年の梅』も素晴らしい。月に叢雲、それを払う強い風!といった風流な短編集。

第14回山本周五郎賞 受賞作:五年の梅/乙川優三郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 乙川優三郎 山本周五郎賞

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第13回山本周五郎賞 受賞作:ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子

ぼっけえ、きょうてえ
1.ぼっけえ、きょうてえ
2.密告函
3.あまぞわい
4.依って件の如し

answer.――― 74 点
今や作家としてよりも、タレントとしての知名度のほうが高い「夜の外交官」岩井志麻子。本作は岡山の方言である表題作を含んだ四作の短編集で、第6回日本ホラー小説大賞、そして、この第13回山本周五郎賞を受賞し、ライトノベル作家としては鳴かず飛ばずだった著者の転機となった出世作。四つの短編の傾向として挙げられるのが、俗に言うエログロな作風……土着気質の物語と登場人物たちの倫理感が乱れているところか。雑感としては総じて物語の着地に妙があり、恐怖演出よりも登場する《人間》の疚しさ、浅ましさを描くところに魅力を感じた。オススメはコレラの流行を扱った第2話「密告函」。匿名を良いことに私怨をぶつけた投書が溢れる様、箱の管理人である主人公が不貞を働いた末、妻が出す冷えた食事に意趣を見い出す着地は「筋」通った良質な一編。サプライズ要素こそ少ないが、特段の不満を感じることもないだろう。「和」モノが好きな方は暇つぶしにどうぞ。

第13回山本周五郎賞 受賞作:ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 岩井志麻子 山本周五郎賞

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第12回山本周五郎賞 受賞作:エイジ/重松清

エイジ
(あらすじ)
ぼくはいつも思う。「キレる」っていう言葉、オトナが考えている意味は違うんじゃないか。通り魔事件が相次ぐ東京郊外のニュータウン。犯人はぼくの同級生。でもぼくの日常は事件にかまけているほど暇じゃなくて……。家族、友情、初恋に揺れる14歳、少年エイジの物語。

answer.――― 71 点
くそまみれの公衆便所、鼻をつんざくアンモニア。ジッパーおろし、たれ流しゃ真っ赤な血のしょんべん……「自分は中学生の時にこの本を読んで衝撃を受けました。まるで中学時代の自分が感じていることをそのまま本に書いたみたいで」と、長渕剛の名曲「英二」に乗せてamazonのとあるレヴューより抜粋させて頂いたが、本作の価値はこの抜粋が端的に表しているように思う。すなわち、思春期に読んで中二病を予防、あるいは早期に完治させるための服薬的作品である。物語は、連続通り魔の犯人が“目立たない”同級生と判明した衝撃と、そこから知らず膨らんでいく主人公の日常への抑えようのない苛立ち―――出版当時の合い言葉「キレる」をキーワードに展開していく。正味な話、「キレる少年」という時事的な社会問題へ切り込んだところに価値があった作品だと思うので、今読んだところで(……俺も普通じゃないのかもしれない!)という主人公が「鏡」となって、中二病へブレーキを掛ける効能しかないように思うのだが、それでも、そこは人情作家・重松清。「最近、父はよくぼくに昔の話をするようになった」など、父の過去を認めない、父を「父」としてしか認めない、子ども特有の視点をさらりと諸所に挿入。成熟した書き手の印象を与えてくる。地味ではあるが、良質で「平凡」な青春譚として紹介出来る一作。重松清作品を未読なら、本作をリトマス試験紙的に読んでみるのも良いかもしれない。

第12回山本周五郎賞 受賞作:エイジ/重松清

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 重松清 山本周五郎賞

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第11回山本周五郎賞 受賞作:血と骨/梁石日

血と骨
(あらすじ)
1930年代の大阪を舞台に、その体躯と凶暴性で極道からも畏れられた金俊平。彼の蒲鉾製造業や高利貸しによる事業の成功と、その裏での実の家族に対する暴力、そして、その後の愛人との結婚による転落、遂には「故郷」である北朝鮮での孤独な死までを描いた作品。

answer.――― 82 点
舞台は、戦前―――そして、戦後の大阪。在日朝鮮人・梁石日が実父をモデルに、おぞましいまでの「悪」を描いた大作が本作『血と骨』。頁をめくれば、「傲慢」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「強欲」「暴食」「色欲」……誇張があるにせよ、いわゆる「七つの大罪」、そのすべてを大いに犯す「極悪」金俊平(183cm、100kg!!何よこのサイズ!?)に戦慄を覚えることは必至で、嫌韓感情が渦巻くこのご時世に、「……ざ、在日朝鮮人死ぬべし!殺すべし!!」とそれこそ火病してしまう。とにかく、《外道》極まっている。金俊平にとって自分以外の存在は搾取の対象であり、女はただ犯す対象である。作中、その圧倒的な暴力で人は性別問わず嬲られ続け、それがRape & Violence!For Money!という後ずさりたくなるエンターテイメントとして成立。最大の被害者と云える「妻」英姫が金俊平に見初められてからの目を覆いたくなる転落劇は、男尊女卑のもはや結晶である。いや、それさえ上回るのは「愛人」清子への仕打ちか。嗚呼、外道!ここに極まれり!!しかし、そんな「誰も止められない」金俊平が因果応報の理に巻き込まれる終盤も終盤は何とも胸がすくm9(^Д^)プギャー展開。最期までダーティーに魅せてくれる。金俊平がチ♂コ挿入すれば女はメロメロになるというトンデモな設定があるものの、そこにさえ目をつむれば、稀に見る性悪説の体現者を覗き見続けられる逸品。表題となっている「血と骨」など随所に朝鮮人の価値観/文化が挿され、教養的な面も施されているので、その点も「買える」ところ。個人的には、《吝嗇》がここまで「悪」へと繋がる事実に感銘にも似た驚きを受けました。Web上で韓国と言えば、……!な「トンスル」への言及も有り。と、ふと気づいたが、著者の趣味なのか、それとも朝鮮人を扱うと必然なのか、糞便演出が多かった気がする。何にせよ、「極悪」金俊平の存在感は圧巻。ピカレスク小説を描きたい人は参考にさえ出来るだろう。日本人にはこの手の「悪」は描けないんじゃないだろうか?

第11回山本周五郎賞 受賞作:血と骨/梁石日

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 梁石日 山本周五郎賞

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第10回山本周五郎賞 受賞作:ゴサインタン -神の座-/篠田節子

ゴサインタン (197x290)
(あらすじ)
豪農の跡取り、結木輝和はネパール人のカルバナと結婚したが、両親が相次いで死に、妻の奇異な行動で全財産を失う。怒り、悲しみ、恐れ、絶望…揺れ動き、さまよいながら、失踪した妻を探して辿り着いた場所は神の山ゴサインタンの麓だった。

answer.――― 61 点
本作は、真保裕一の『奪取』と同時受賞となった第10回山本周五郎賞受賞作。そのストーリーラインは、四十路過ぎた豪農の跡取りがネパール人の娘と結婚したが、まもなく両親の相次ぐ他界、妻の新興宗教の教祖化、そこから全財産の放逐、妻の失踪―――転がり落ちた男が辿り着いたのは、神の山ゴサインタンの麓だった!!というもの。単刀直入に、非常に退屈である。四十路過ぎの独身というバッドエンド臭まとわせた男を主人公に採用している上、あからさまに財産目当てのお見合いをセッティングして、現在の農家への社会問題を提議する序盤からして(……何を読ませようとしてんだ?)と頁をめくる手が重くなる。そこからあれよあれよと不幸が降り注ぎ、途端にファンタジーの色合いが濃くなってくるものの、それがあまりに脈絡無さ過ぎて本作がそもそも人を楽しませる<大衆小説ではない>ことを悟れる。本作は(ゴサインタン、シシャパンマ……神の住むところ、家畜が絶滅し麦も枯れるところ……)と著者がインチキ降霊術を執り行って書き上げたかの如きオカルト小説。なまじ文章量も多いだけに、読了を目指せば主人公以上に苦行/苦悩を体験出来る一冊だ。唯一、豪農の歴史に関しては《知識》として「読める」のでそこを拾う分には楽しめるかもしれない。まったくお薦め出来ない作品です。

第10回山本周五郎賞 受賞作:ゴサインタン -神の座-/篠田節子

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 篠田節子 山本周五郎賞

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第10回山本周五郎賞 受賞作:奪取/真保裕一

奪取
第1部 手塚道郎編
第2部 保坂仁史編
第3部 鶴見良輔編
エピローグ

answer.――― 77 点
冒頭の一文、冒頭の一節、序章(あるいは、一章)こそ、小説にとって本当の「顔」である。故に己の筆に矜持ある者ならば才を賭して「魅せてくる」もので、それは同時に作家としてのある種の「型(≠リズム)」を提示することになる。千差万別に思える書き出しだが、作家「自身」が(感覚的に)納得出来る書き出しは思いのほか少ないために、必然的に似通うものが出来上がる―――変えようと意図しないかぎりは。だが感覚でなく、理詰めで魅せようと意図すれば、それはそれで自ずと「型」は定まっていくもの。そんな冒頭より読み手を「魅せる」理詰めな「型」のひとつに、トリビアのような《知識》を溶け込ませた「型」がある。本作の書き出しはまさに「ソレ」。以下は、その主要部の抜粋だ。

試しに財布の中から、五千円札と千円札を取り出してみてほしい。そして、あらためてとくとご覧いただきたい。どういう好対照か、新渡戸稲造は白いネクタイで、その反対に、夏目漱石は黒いネクタイを締めている。もしかすると聖徳太子と伊藤博文から切り替わった時に、少しは話題となったのかもしれないが、そんなこと、おれは今までちっとも気づかなかった。これは、新渡戸稲造のほうが、養女の結婚披露宴の際に写した記念写真をモデルにして肖像画が描かれ、夏目漱石のほうは、明治天皇が崩御したのを悼んで黒ネクタイを締めていた時の写真を参考にしたからである。

へえ、と唸らせれば著者の「勝ち」。たとえ以降の展開がしばしイマイチ、イマニでも、読み手の採点は甘くなる。人間、《知識》を与えられた時点で相手を敬ってしまうからだ。さて、本作は借金返済のため、偽札作りに挑む主人公とその友人たちの顛末。作品としては《偽札作り》という1テーマに対して三部構成と大掛かりなもので、正味な話、途中で食傷を来たしてしまうのが難点。それでも、随所で披露される軽犯罪&「札」を中心としたトリビア、893絡むスリリングなイベントの数々はエンターテイメント性抜群で、まさに重版出来の内容。残念ながら上述の抜粋からも察せられる通り、《知識》に賞味期限切れが起こっているが、作品世界の雰囲気作りには貢献出来ているのでそこはさして気にはならないだろう。《知識》に拘った石田衣良な趣きもあり、―――これぞ現代の大衆小説!と謳える作品だ。ただ、やはり冗長なのは否めないので、場合によっては<読み飛ばす>のも最後まで楽しむための工夫かな、と思います。上下巻、合わせてのレヴューです。

第10回山本周五郎賞 受賞作:奪取/真保裕一

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 真保裕一 山本周五郎賞

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