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第13回本屋大賞 10位:火花/又吉直樹

火花 (203x290)
(あらすじ)
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。

answer.――― 75 点
賛否両論の評判からどんなKAGEROUなのかと思いきや、意外や意外、何とも「まとも」な作品に仕上がっている本作『火花』は、お笑いコンビ「ピース」の先生こと又吉のデビュー作であり、純文学における大天下の芥川龍之介賞をベストセラーの勢いそのまま受賞した話題作。その概要は、売れない芸人が売れない先輩芸人と出会い、その壊れたセンスに惹かれる、というもの。友人に純文学の書き方を訊いたとき、人に読ませようと思って書かないこと、という答えが返ってきて半ば感心したことがあったが、その大前提の上で「読ませる」工夫が出来ていると、その他大勢から抜け出せるのだろう―――とは手前味噌なレヴュー、『恋人といっしょになるでしょう』稿からの引用だが、その観点からすれば、本作は「読ませる」工夫がしっかり施されている。たとえば、それは著者の実体験を想起させる「お笑い芸人」を題材にしていることだったり、芸それ自体には関係のない色恋の要素、そして、何より「結」で提示される先輩芸人の壊れた「笑い」で確認出来る。純文学は《人間》を描くジャンルであり、そこで求められるのは《面白い》というより《興味深い》ことだ。本作では、お笑い芸人という特殊な職業(とそこへ就いた者たちの感性)に焦点を当てつつ、エンターテイメントとして先輩芸人の「壊れ」具合を披露しているのが素晴らしい。飛び抜けた技巧や無二のセンスこそ無いが、本作を純文学へ該当させるだけの《仕事》は為されている。目くじらを立てることはないのではないでそうか。というか、良作じゃん?これが駄目なら今の純文学、ほとんど駄目だろ。個人的には、先輩芸人の恋人が実話っぽくて興味深かったです。

第13回本屋大賞 10位:火花/又吉直樹

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 又吉直樹 本屋大賞

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第10回本屋大賞 9位:百年法/山田宗樹

百年法 (205x290)
(あらすじ)
6発の原爆が投下され終戦を迎えた日本で、ある法律が制定された。通称「百年法」。新技術で不老を与えるかわりに、100年後に死ななければならないというが!?

answer.――― 74 点
「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」とは英国の名相ウィンストン・チャーチルの言だが、実際、先日の国民投票によるEUからの英国脱退―――Brexitはものの見事に衆愚を見せつけてくれただけに、兎角、大衆はその場の情動で奈落へ落ちていくことを再認識した次第。本作はそんな現代の問題を先読みしたか、《国民投票》をキーワードに社会の混乱を描いたSFな一作。「原爆を六発落とされた日本」「不老技術により“永遠の若さ”を手に入れた日本国民」「世代交代のための“生存制限法”による死の強制」と、その舞台、敷かれた設定はスケール大きく目を惹く。が、何と言っても不老からもたらされる経済衰退、少子化の解決を図る死の強制の是非を問う国民投票は作中世界の解かり易い分岐点で、そこを目の当たりにすれば本作が稀に見る大作であることを実感出来る。同時に、その分岐点に辿り着くまでが読み手へ強いられる試練となる。文庫本で「上」「下」巻の構成で、事実上、「上」巻まるまる一冊が登場人物を介しての社会紹介となっている。読み手をその社会の一員に浸透させたい意図は解かるが、流石に退屈だ。しかしながら、最後まで《国民投票》が活かされる仕掛けは大掛かりで楽しめるのは間違いないところ。大作、大歓迎!なプログレッシヴな方はどうぞ。

第10回本屋大賞 9位:百年法/山田宗樹

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 山田宗樹 本屋大賞

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第13回本屋大賞 1位:羊と鋼の森/宮下奈都

羊と鋼の森 (200x290)
(あらすじ)
言葉で伝えきれないなら音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

answer.――― 80 点
本作はピアノの調律に魅せられ、調律師の道へ進んだ青年の物語。《音楽》を題材にしている作品にハズレはない!とは大袈裟だが、実際、《音楽》を扱っているだけで大抵の読み手はその査定を甘くする……というのも、《音楽》が日常に寄り添うものでありながら、非日常の産物であることを知らず実感しているからなのだろう。また、《音楽》を文字で捉えようとすれば、必然と詩情帯びる。読書の障害と見做されてしまうことも間々あるソレが、しかし《音楽》を題材にした作品となると、不可欠の演出のように歓迎される。本作においても、作中のキーワードとなる詩人・原民喜の理想の文体「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」の引用を始め、物静かな場面を詩情溢れる文章が彩っていく。作中のハイライトには、嫌味な先輩の調律師・秋野の「夢」語りを挙げたい。一体、何の話だ?と主人公同様に読み手も訝って拝聴/拝読してしまうなか、「4年」と一言、示唆的に着地する様は実にスマート、洒落ている。続編があっても何ら不思議ではない主人公の調律師「初段」具合だが、裏方である調律師の世界を界隈の《常識》とともに披露し、楽しませてくれる手堅い一作。ちなみに、表題「羊と鋼の森」はピアノに関わる素材を表わしています。

第13回本屋大賞 1位:羊と鋼の森/宮下奈都

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 宮下奈都 本屋大賞

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第13回本屋大賞 2位:君の膵臓をたべたい/住野よる

君の膵臓をたべたい (195x290)
(あらすじ)
偶然、僕が病院で拾った1冊の文庫本。タイトルは「共病文庫」。それはクラスメイトである山内桜良が綴っていた、秘密の日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて……。

answer.――― 68 点
公募賞に出せども出せども拾われず、「この作品だけは誰かに読んでもらいたい」という著者の想いから小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿……人生の転機キタコレ!!というまさしく成り上がりの一作が本作『君の膵臓をたべたい』。そのストーリーラインは、奇縁からクラスメイト(♀)の余命が短いと知った少年がそこから二人、恋に落ちて迎える最期のその時まで。ストーリーラインの印象通り、内容それ自体は一昔前の「ケータイ小説」を想起させるもので、文章が大衆小説のソレにUpdateした形。そのため、「死にたくないよぉ」「助けてください!」「Your love forever……!」という世界の中心でお涙頂戴!が大好物な方には安心保証の出来。帯に旬な女優の「泣きながら一気に読みました。私もこれからこんな恋愛をしてみたいなって思いました」なんてたらい回しなコメントが載っても何ら違和感がない。もっとも、「本屋大賞」「ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR」など販促賞にランクインしているが故の期待値を上回ることはまずないので、その辺は注意が必要だ。読了後、「君の膵臓がたべたい」というフレーズがどれくらい心に残ったかで本作の価値が量れるだろう。なお、ここまで書いておいて『世界の中心で、愛をさけぶ』はケータイ小説ではないことに気づいた。同じ括りにしてしまい、申し訳ございません(。・ ω<)ゞてへぺろ

第13回本屋大賞 2位:君の膵臓をたべたい/住野よる

category: さ行の作家

tag: OPEN 60点 住野よる 本屋大賞

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第13回本屋大賞 4位:永い言い訳/西川美和

永い言い訳 (201x290)
(あらすじ)
人気作家の衣笠幸夫は、突然のバス事故により、長年連れ添った妻を失うが、妻の間にはすでに愛情と呼べるようなものは存在せず、妻を亡くして悲しみにくれる夫を演じることしかできなかった。そんなある時、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族と出会い、……。

answer.――― 70 点
2016年、自らメガホンを取っての本作の映画化が決定したように、小説家と云うより映画監督として知名度高い西川美和の久方振りの長編小説。その概要は、妻を交通事故で亡くした男が、同じ事故で母親失った一家と触れ合い、初めて妻と向き合う、というもの。もっと端的に言ってしまえば、他人事から身内の不幸と自覚するまで―――「泣く」までのストーリーライン。文章は脚本まがいのソレを想像していると、過去作で三島由紀夫賞にノミネートされたように《文学》作品と提示されても違和感のない能弁な筆に驚くものの、……上述の通り、本作は「泣く」までのドキュメント。そこに説得力を持たせるために、悲しむ妻の親友の遺族、不倫相手やらを投入し、その上でも冷めたままの主人公の心情を淡々と綴っていくわけだが、これはやはり《小説》ではなく《映画》なのだと思う。文字の上でのエンターテイメントの要素が少な過ぎる。主人公が人気作家ならば自作&他作の批評、書き方のコツ、書き出しの悩み、独自の取材方法などの「作家」面の《知識》にもなり得るものを提示して欲しいし、不倫相手が編集者ならば主人公の「作家」面をもっとアピールして欲しい。結局、本作で見たいのは「画」だ。“演じている”と自覚している主人公の表情の機微を愉しみたい。本でそれを読もうとすると、表題の通り、ひたすらに「永い」。未読の方はそのまま手に取らず、「映画」で本作を愉しみましょう。

第13回本屋大賞 4位:永い言い訳/西川美和

category: な行の作家

tag: OPEN 70点 西川美和 本屋大賞

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第13回本屋大賞 7位:戦場のコックたち/深緑野分

戦場のコックたち (198x290)
(あらすじ)
誇り高き料理人だった祖母の影響で、コック兵となった19歳のティム。彼がかけがえのない仲間とともに過ごす、戦いと調理と謎解きの日々を連作形式で描く。

answer.――― 76 点
異国を舞台に“少女”関わる様ざまな謎を詰め込んだデビュー作『オーブランの少女』でミステリー界隈に留まらない支持を受けた深緑野分の「初」の長編作品。デビュー作同様、本作もノルマンディー上陸作戦に従事する合衆国軍兵士という異国、そして、異邦人を採用し、翻訳小説を思わせる重厚な―――ともすれば(ボリューム含め)読み疲れる筆致で、読み手を戦場ミステリーへ誘う。目を惹かれるのは「パラシュート」「粉末卵」といった見慣れない道具から始まるミステリー!と紹介したいところなのだが、それらが謎として絡む序盤の二編は正直、退屈に映る。戦場コックへと実質降格した、凡庸、あるいはそれ以下の能力の主人公ティムは傍観気味で成長も特に無く、提示される謎は盟友エドによって解かれるだけに過ぎない。本作の醍醐味は読み手が(……これは面白くない!)と覚悟を決めたそこから先―――銃弾、爆弾当たればサヨウナラの状況のなか、重苦しく惨禍が進み、登場人物たちの心が麻痺し、歪になっていく様だろう。ミステリー小説から戦争小説へ。本作において「嬉しい!」「楽しい!」「大好き!」といったポジティヴな感想を吐けることはない。戦場の“日常”を登場人物とともに歩み、本を閉じたとき、そこから“現実”へ還る―――そのトリップに価値見出す作品。個人的には、文字量を半分にして、主人公には主導的な立場を与えて欲しかった。もっとも、そんなエンタメなアレンジしちゃうと本作を支持する人が離れちゃうだろうけどね。

第13回本屋大賞 7位:戦場のコックたち/深緑野分

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 深緑野分 本屋大賞

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第13回本屋大賞 8位:流/東山彰良

流 (205x290)
(あらすじ)
1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。

answer.――― 74 点
歴史小説の重鎮・北方謙三が「20年に1度の傑作」と称賛した!というのが売り文句となっている本作は、蒋介石を喪った台湾を舞台に、祖父の殺人事件からその真相に辿り着くまでの物語。しかし祖父の殺人事件そのものより、表題に「流」と掲げられたように、無軌道で刹那に生きる若者を介して、当時の台湾とその歴史、文化をある種の短編形式に紹介していくのが面白い。異国を舞台にしているが故の説得力か、―――幽鬼を祀るのは、台湾では珍しいことではない。という一文を滑り込ませ、読み手にさらりとファンタジーを呑み込ませるダイナミックな仕掛けも目を瞠る。ただ、当時の《台湾》という世界に触れていく愉しみはあるものの、祖父の殺人事件を解決する、というミステリー小説としては内容に脱線が多く、その期待に応えられる造りを為していないのが難点。青春小説としても、やはり主人公の目的がその場その場のために無軌道に過ぎる。「物語」を楽しもうとしてしまうと、消化不良に陥ってしまう人もいることだろう。本作は《台湾》というミステリアスな世界を覗く心持ちでいるのが楽しむための条件となる。第153回直木三十五賞受賞作。

第13回本屋大賞 8位:流/東山彰良

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 東山彰良 本屋大賞 直木三十五賞

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本屋大賞ランクイン作品一覧


▼ 第13回 (2016年) ▼

2016 (200x290)

1位 羊と鋼の森/宮下奈都
2位 君の膵臓をたべたい/住野よる
3位 世界の果てのこどもたち/中脇初枝
4位 永い言い訳 /西川美和
5位 朝が来る/ 辻村深月
6位 王とサーカス/米澤穂信
7位 戦場のコックたち/深緑野分
8位 流/東山彰良
9位 教団X/中村文則
10位 火花/又吉直樹

▼ 第12回 (2015年) ▼

2015 (203x290)

1位 鹿の王/上橋菜穂子
2位 サラバ!/西加奈子
3位 ハケンアニメ!/辻村深月
4位 本屋さんのダイアナ/柚木麻子
5位 土漠の花/月村了衛
6位 怒り/吉田修一
7位 満願/米澤穂信
8位 キャプテンサンダーボルト/阿部和重、伊坂幸太郎
9位 アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎
10位 億男/川村元気

▼ 第11回 (2014年) ▼

2014 (205x290)

1位 村上海賊の娘/和田竜
2位 昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉
3位 島はぼくらと/辻村深月
4位 さようなら、オレンジ/岩城けい
5位 とっぴんぱらりの風太郎/万城目学
6位 教場/長岡弘樹
7位 ランチのアッコちゃん/柚木麻子
8位 想像ラジオ/いとうせいこう
9位 聖なる怠け者の冒険/森見登美彦
10位 去年の冬、きみと別れ/中村文則

▼ 第10回 (2013年) ▼

2013 (202x290)

1位 海賊とよばれた男/百田尚樹
2位 64(ロクヨン)/横山秀夫
3位 楽園のカンヴァス/原田マハ
4位 きみはいい子/中脇初枝
5位 ふくわらい/西加奈子
6位 晴天の迷いクジラ/窪美澄
7位 ソロモンの偽証/宮部みゆき
8位 世界から猫が消えたなら/川村元気
9位 百年法/山田宗樹
10位 屍者の帝国/伊藤計劃、円城塔

▼ 第9回 (2012年) ▼

2012 (204x290)

1位 舟を編む/三浦しをん
2位 ジェノサイド/高野和明
3位 ピエタ /大島真寿美
4位 くちびるに歌を/中田永一
5位 人質の朗読会/小川洋子
6位 ユリゴコロ/沼田まほかる
7位 誰かが足りない/宮下奈都
8位 ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~/三上延
9位 偉大なる、しゅららぼん/万城目学
10位 プリズム/百田尚樹

▼ 第8回 (2011年) ▼

2011.jpg

1位 謎解きはディナーのあとで/東川篤哉
2位 ふがいない僕は空を見た/窪美澄
3位 ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦
4位 錨を上げよ/百田尚樹
5位 シューマンの指/奥泉光
6位 叫びと祈り/梓崎優
7位 悪の教典/貴志祐介
8位 神様のカルテ2/夏川草介
9位 キケン/有川浩
10位 ストーリー・セラー/有川浩

▼ 第7回 (2010年) ▼

2010 (203x290)

1位 天地明察/冲方丁
2位 神様のカルテ/夏川草介
3位 横道世之介/吉田修一
4位 神去なあなあ日常/三浦しをん
5位 猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子
6位 ヘヴン/川上未映子
7位 船に乗れ!/藤谷治
8位 植物図鑑/有川浩
9位 新参者/東野圭吾
10位 1Q84/村上春樹

▼ 第6回 (2009年) ▼

2009 (204x290)

1位 告白/湊かなえ
2位 のぼうの城/和田竜
3位 ジョーカー・ゲーム/柳広司
4位 テンペスト/池上永一
5位 ボックス!/百田尚樹
6位 新世界より/貴志祐介
7位 出星前夜/飯嶋和一
8位 悼む人/天童荒太
9位 流星の絆/東野圭吾
10位 モダンタイムス/伊坂幸太郎

▼ 第5回 (2008年) ▼

2008 (202x290)

1位 ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎
2位 サクリファイス/近藤史恵
3位 有頂天家族/森見登美彦
4位 悪人/吉田修一
5位 映画篇/金城一紀
6位 八日目の蝉/角田光代
7位 赤朽葉家の伝説/桜庭一樹
8位 鹿男あをによし/万城目学
9位 私の男/桜庭一樹
10位 カシオペアの丘で/重松清

▼ 第4回 (2007年) ▼

2007 (203x290) (2)

1位 一瞬の風になれ/佐藤多佳子
2位 夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦
3位 風が強く吹いている/三浦しをん
4位 終末のフール/伊坂幸太郎
5位 図書館戦争/有川浩
6位 鴨川ホルモー/万城目学
7位 ミーナの行進/小川洋子
8位 陰日向に咲く/劇団ひとり
9位 失われた町/三崎亜記
10位 名もなき毒/宮部みゆき

▼ 第3回 (2006年) ▼

2006 (202x290)

1位 東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~/リリー・フランキー
2位 サウスバウンド/奥田英朗
3位 死神の精度/伊坂幸太郎
4位 容疑者Xの献身/東野圭吾
5位 その日のまえに/重松清
6位 ナラタージュ/島本理生
7位 告白/町田康
8位 ベルカ、吠えないのか?/古川日出男
9位 県庁の星/桂望実
10位 さくら/西加奈子

▼ 第2回 (2005年) ▼

2005 (204x290)

1位 夜のピクニック/恩田陸
2位 明日の記憶/荻原浩
3位 家守綺譚/梨木香歩
4位 袋小路の男/絲山秋子
5位 チルドレン/伊坂幸太郎
6位 対岸の彼女/角田光代
7位 犯人に告ぐ/雫井脩介
8位 黄金旅風/飯嶋和一
9位 私が語りはじめた彼は/三浦しをん
10位 そのときは彼によろしく/市川拓司

▼ 第1回 (2004年) ▼

2004 (201x290)

1位 博士の愛した数式/小川洋子
2位 クライマーズ・ハイ/横山秀夫
3位 アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎
4位 永遠の出口/森絵都
5位 重力ピエロ/伊坂幸太郎
6位 4TEEN/石田衣良
7位 デッドエンドの思い出/よしもとばなな
8位 終戦のローレライ/福井晴敏
9位 陰摩羅鬼の瑕/京極夏彦
10位 ららら科學の子/矢作俊彦

category: 本屋大賞

tag: OPEN 受賞作List 本屋大賞

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第12回本屋大賞 4位:本屋さんのダイアナ/柚木麻子

本屋さんのダイアナ (201x290)
(あらすじ)
私の呪いを解けるのは、私だけ。「大穴」という名前、金色に染められたパサパサの髪、行方知れずの父親。自分の全てを否定していた孤独なダイアナに、本の世界と同級生の彩子だけが光を与えてくれた。正反対の二人は一瞬で親友になった。そう、“腹心の友”に……。

answer.――― 85 点
作家の文章力を量るとするならば、解かり易いところで「とりあえず」語彙の多寡だろう。言葉を知らなければ、そもそも「文章」を綴れない。しかし語彙が豊富であっても、文章力の高低が定まるわけではないのは御存知の通り。起承転結に始まる構成、内面/外面の描写、完成された(色褪せない)ユーモア、今を楽しむ時事ネタなど、総合的な観点で《文章力》の有無は判定される。そして、人によって各項目の配点が変わるのも《文章力》なるものが曖昧となる理由だろう(個人的に、構成が出来ていると「巧い」と見做される傾向にあると思う。同時に、詩的な散文は駄文と見做される傾向にある。これは《文章力》に、エンターテイメント的な観点が設けられている証左でもある)。そんな中、あまり論点にならない、書き手のセンス問われる項目を一つ紹介したい。作中の時間経過をどうやって表すか?である。一例を引く。司馬遼太郎の代表作『竜馬がゆく』の主人公・坂本龍馬は全国を行脚したことでも知られている。当然、ただ移動しているだけの経過が幾度もあるわけだが、そこは省略するのが常道で、実際、司馬遼太郎も多くを省略している。が、敢えて書いているページがある。そこを目にしたとき、読み手は書き手の遊び心を感じざるを得ないはずだ。その描き方とは、渋谷、原宿、代々木、……といった地名をいちいち改行しての羅列である。地名を並べることで、移動時間を表現しているのである―――たっぷりの余白をユーモアと添えて。時間経過は、それが唐突で大胆であるほど、読み手を作中世界へと巻き込む―――あるいは、作中世界から突き放す。ただ時間を飛ばすだけでもセンスが要る。そこに遊び心を加えられるか否かは、まさしく作家としての《余裕》が無ければ出来ないのである。さて、本作必見のハイライトを挙げる―――Wヒロイン(大穴&彩子)の外見が変わる。それは劇的なもので、幼少期の互いへの憧憬をそのまま己へ転写。時間経過を作品のエンターテイメントの核として採用しているのが解かる。そこに絡ませてくるのが著者である柚木麻子の十八番“イタさ”で、後半の主役である彩子の迷走はまさしく《悲劇のヒロイン》。幼さ故に思考を停止する人間の弱さを堪能出来る。全ての登場人物を関係者にしてしまうご都合はいかがなものか……と眉をひそめてしまうものの、“イタさ”にしっかりと向き合うエンディングは実に清々しい。大衆を楽しませる視覚要素溢れる一作。上流から下流までの家庭の書き分けも面白かったです。

第12回本屋大賞 4位:本屋さんのダイアナ/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 柚木麻子 本屋大賞

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第12回本屋大賞 5位:土漠の花/月村了衛

土漠の花 (198x290)
ソマリアの国境付近で、墜落ヘリの捜索救助にあたっていた陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。その野営地に、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕があがった。

answer.――― 75 点
月村了衛と言えば、巷を騒がす10年代の機動警察パトレイバーこと『機龍警察』シリーズがまず思い浮かぶと思うが、緊張感のある雰囲気作り、達者な「動き」―――戦闘描写を大衆小説への転換せしめたのが「自衛隊」派遣を題材にした本作。ソマリアを舞台に、現地の女性の助けに応じたことによって《虐殺》に巻き込まれた自衛隊員たちが専守防衛という枷を解き、精神を削りながら抗戦するストーリーライン。概要からも昨今の時代情勢を踏まえたメッセージ性ある娯楽作品と解釈出来るが、早々にゲリラに襲撃を受け、以降は混乱の中での逃亡劇。とりあえず、―――登場人物たちは鮮血を撒き散らして死んでいく。断続的に挿し込まれる戦闘場面はどれも著者の自慢の筆力を存分に注ぎ込んでいるため、血沸き肉躍るその瞬間を覗きたい読み手には満足感高い仕上がり。銃撃戦はもちろん、カーチェイス、廃墟での立て籠もりと手を替え品を替え危機を演出してくれる。ながらに、逆に言えば、それ以外は特段取り上げたくなる要素は少ない。何故、執拗に襲撃を受けるのか?助けた女性は何者なのか?という物語の核となる謎も蓋を開けずとも察せるもので、物語としての求心力は弱い、と言わざるを得ない。この点、高野和明のSFを孕んだ力作『ジェノサイド』と比較してみると、本作に「足りない」ものが輪郭を持って解かるだろう。筆力の高い凡作、といった印象だが、筆力の高さ故に緊張感は演出出来ているので「読める」。

第12回本屋大賞 5位:土漠の花/月村了衛

category: た行の作家

tag: OPEN 70点 月村了衛 本屋大賞

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第11回本屋大賞 1位:村上海賊の娘/和田竜

村上海賊の娘 (201x290)
(あらすじ)
和睦が崩れ、信長に攻め立てられる大坂本願寺。海路からの支援を乞われた毛利は村上海賊に頼ろうとした。その娘、景は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女だった―――。

answer.――― 72 点
本作は、「海賊王」村上武吉の謎の実娘・景という史実からストーリーを編んだ歴史小説。「貰い手のない醜女」というレッテルを貼った上で、男勝りの怪力&胆力を持つヒロイン・景が、結婚相手を探しつつ、信長の侵攻を受ける本願寺に加勢するストーリーライン。読書中、そして、いざ読了してみても印象はついに変わらず―――本屋大賞第1位という評価に首をひねってしまったのが正味な話。やはりと言うべきか、「貰い手のない醜女」というヒロインに相応しからぬレッテル張りにその原因を見てしまう。当然といえば当然だが、景はいわゆるブサイクではない。戦国時代に生きる人々の美的感覚からズレているだけであり、作中では醜女の景の容姿を美しいと見做す者たちも少なくない……が、要所で醜女、醜女と連呼して刷り込み、そんな醜女が活躍する物語を楽しむのは難しい。どんな理由があろうとも、「醜い」容姿を主人公格に与えてはいけない。日本の海賊、村上水軍を題材として取り上げる作品は物珍しく、挿される“知識”は新鮮だったものの、歴史小説でありながら登場人物たちのキャラクターがかったコミカルな調子、「女性ヒロインが活劇する」という観点から、ライトノベルにも似た印象もあり、個人的にはそれが軽薄にも映った。キャラクターを重視するなら、今度は“知識”が邪魔だ。作品の質としては、著者自身初の本屋大賞ランクイン作品『のぼうの城』のほうがキャラクターと知識のバランスが取れているので、同作をお薦めしたい。

第11回本屋大賞 1位:村上海賊の娘/和田竜

category: わ行&数字の作家

tag: OPEN 70点 和田竜 本屋大賞

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第10回本屋大賞 1位:海賊とよばれた男/百田尚樹

海賊と呼ばれた男 (200x290)
(あらすじ)
異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、戦争でなにもかもを失い残ったのは借金のみ。そのうえ大手石油会社から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残油浚いなどで糊口をしのぎながら、逞しく再生していく。出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたノンフィクション・ノベル。

answer.――― 83 点
日本大震災からの復興を願い、百田尚樹が出光興産創業者・出光佐三をモデルに「東洋の奇跡」と呼ばれた日本の“戦後復興”を描いた歴史経済小説。さて、バラエティ番組「ブラマヨとゆかいな仲間たち アツアツっ!」での発言だったと思うが、著者の「《義務感》を持って筆を執った」というアツアツっ!な申告通り、不撓不屈の経営者・出光佐三こと国岡鐵造が石油メジャーを始めとした既得権益を向こうに回し、会社を、“日本”を発展させていく。とりあえず、―――単純に「面白い」。実話を基に、という予告的に《約束》された「成り上がり」のストーリー展開もあり、単行本として「上」「下」と分けられたボリュームたっぷりの頁数もストレス少なく、エンターテイメントの核となる国岡鐵造の前に立ちはだかる壁は実際、凡人には(いや、これ、……絶対無理でしょ!?)と挑まずして白旗を振りたくなる乗り越え難き壁だ。それをあの手この手、「海賊」と呼ばれるまでにイレギュラーな手段で既得権益を崩していく様は痛快を越えて感嘆するしかない。これを「つまらない」と言ってしまう人は、大衆小説なんて読まず、《文学》でも読めばいい。ただ、のめり込んで読めばただただ楽しめるものの、一歩引いて冷めてしまうと、ブラック企業の、ブラック企業の社長による、ブラック企業な押しつけでしかない事実に気づかざるを得ない(笑)ので、その辺はしっかりと目を瞑って楽しみましょう。百田尚樹は、専門的な描写はしないが、初心者には必要十分な“知識”を挿してくるので(ex.石油の精製等)、そこはもっと「作家」の仕事として評価されて良いと個人的に思う。

第10回本屋大賞 1位:海賊とよばれた男/百田尚樹

category: は行の作家

tag: OPEN 80点 百田尚樹 本屋大賞

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第11回本屋大賞 2位:昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

昨夜のカレー、明日のパン (198x290)
(あらすじ)
悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ----7年前、25歳で死んだ一樹。遺された嫁のテツコと一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフの何気ない日々に鏤められたコトバが心をうつ連作長篇。

answer.――― 66 点
『野ブタ。をプロデュース』などで知られる脚本家・木皿泉―――和泉務と妻鹿年季子夫妻の《小説家》としてのデビュー作。その概要は、うら若い寡婦・徹子は義父と同棲しているために世間からはゴシップの的だが、そんなことは気にもせず、二人は日々をのらりくらりと生きている、というもの。夫&息子の一樹の喪失が周囲に散りばめられ、そこを埋めていくのが作品としての着地点となるが、……正味な話、十把一絡げな凡作な印象は拭えない。脚本家というのも納得の表現技巧少ない文章で、義父を「ギフ」、幼馴染を「ムムム」と呼ぶなど、《日常》を舞台にした小説としてのオーソドックスな工夫は見られるものの、だからこそ安易に映ってしまう。物語の進展で《解決》するにせよ、そんな《大事》にする仕掛けでもないだろう。ただ、ドラマ―――映像ある前提で考えてみると面白味が増す気もするので、この物語には表情演じてくれる「俳優」が画竜点睛のピースなのかもしれない。本作を“ゆるい”と称賛する向きがあるようだが、個人的には描き切れず、起伏に乏しい言葉の連なりにしか見えなかった。こういう“ゆるい”描き方をするなら、視点は人ではなく、故人と所縁のある猫や犬、鳥のような視点のほうが良かったと思う。

第11回本屋大賞 2位:昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

category: か行の作家

tag: OPEN 60点 木皿泉 本屋大賞

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第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子

ランチのアッコちゃん (206x290)
1.ランチのアッコちゃん
2.夜食のアッコちゃん
3.夜の大捜査先生
4.ゆとりのビアガーデン

answer.――― 79 点
いざプレイヤーの側に回れば才能の多寡なんてものはさして重要なものでもないが、自覚する意味では己の才能の多寡は「正確に」把握していなければいけないと思う。こと文章においては、作品を重ねていくと―――致し方のない妥協から、あるいは勝手に掲げた大義名分から、最悪の場合、単なる勘違いに因る油断から鍍金が剥がれていく。剥がれ始めた時期は、速筆な剥き出しの文章(力)を楽しめる風情もあるが、そこから先は転落しかない。一度、落ちた文章力はまず戻らない……多くの作家がその時々、現時点での自分の基準で「巧拙」を決めているからだ。「巧拙」は、何も知らなかった、過去の自分に量らせるのが一番正しい。なお、以上はあくまで《職業》として成り立っている作家に当てはめた話です。さて、本作は目下、日の出の勢いで駆け上がっている柚木麻子の本屋大賞「初」ランクイン作。四編の連作短編で、始まりの表題作は、冴えない派遣社員の智子がキャリアウーマンな上司・黒川敦子の「私と、ランチを取り替えっこしましょう」という提案から、彼女が界隈で「アッコちゃん」と呼ばれる顔を知り、……というギャップ解明もの。そんな智子視点の前半二編は「アッコちゃん」が主要登場人物となっているが、後半の二編では「アッコちゃん」はモブ的出演となっている。柚木麻子というと“イタい”作風のイメージがあったが、本作ではそんなスパイスも垣間見えるものの、基本的には「らしくない」ハートフルなエンディングを迎える。それらを綴る筆もどこか肩の力の抜けたリラックスしたもので、効率重視の「連載」使用なのが伺えるが、それ故に読みやすくもある。作中のハイライトは、性善説を大々的に持ち込んだ4章「ゆとりのビアガーデン」を挙げたい。筆に矜持持つ作家は、概して「効率」重視で仕上げた作品に対して後ろめたさを感じ、必ず己への「贖罪」な場面、物語を用意する。足らずのヒロイン「佐々木玲実」の逆転に次ぐ逆転な発想によるハッピーエンドは、“斜陽”な視点人物・豊田雅之の対比を含め、練り込まれた上等な一編。世の中、そんな上手く廻る世界ではないが、しかし、そうであって欲しいと信じたくなるこの短編は、“アッコちゃん”を差し置く著者の矜持を感じる。何にせよ、期待しないで読むと、お得!な良質な連作短編でした。

第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 柚木麻子 本屋大賞

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第11回本屋大賞 8位:想像ラジオ/いとうせいこう

想像ラジオ (199x290)
(あらすじ)
深夜二時四十六分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。その理由は……。

answer.――― 70 点
「自分が書いたというより、自分はこの小説の入れ物として机の前に座っていたという気がします。」なるコメントが示すように、「奇才」いとうせいこうが『去勢訓練』から16年のブランクを経て、唐突に書き上げた“3.11”にまつわる連作短編。先に断わっておけば、本作は内容それ自体を楽しむものではなく、「いとうせいこう」という才人の衝動を目撃するためのもので、ここを履き違えると、散財、時間の浪費となってしまうので注意が必要だと思う。耳を澄ませば聴こえてくる―――どこからともなく届けられるラジオから幕は開ける。アマチュアが一人でDJを気取り、筋道なく進行していく様は妙があるにしても、やはり面白いものではない。頁をめくっていけば、早々に“3.11”が関わってくることが解かる。そこから好意的にまとめれば、ハートフルな物語、となるが、そんなものを求めるなら、それこそ“3.11”のドキュメンタリー番組や写真展のほうが質高く、記憶にも残るだろう。本作は、“いとうせいこう”が書いたことに意味がある。彼は間違いなく才人であり、稀に見る衝動的な人物だ。衝動は本来「形」を残さない。しかし、ここには(才人の)衝動が刻まれているのが本作の価値を何よりも高めている。ただ、“いとうせいこう”を知らないと、その価値が解からないのが本作最大の難点。なので、本作を読むならば、まず“いとうせいこう”を知りましょう。作品単品で価値を量るなら単なる凡作となってしまいます。

第11回本屋大賞 8位:想像ラジオ/いとうせいこう

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 いとうせいこう 本屋大賞

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第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

満願
1.夜警
2.死人宿
3.柘榴
4.万灯
5.関守
6.満願

answer.――― 80 点
2015年度の週刊文春の『週刊文春ミステリーベスト10』、宝島社の『このミステリーがすごい!』、早川書房の『ミステリが読みたい!』にて第1位を奪取!東野圭吾の『新参者』、横山秀夫の『64』の二冠を超え、三冠を達成!目下、最も「旬」なミステリー作家・米澤穂信の短編集。個人的に米澤穂信は“古典部”シリーズを始め、局所的に名を上げた『さよなら妖精』、《売り》に来た『インシテミル』ともハマらず、世間評と乖離のある作家の一人だったが、本作はいざ頁をめくってみれば早々に良い意味で裏切られた―――《人》が前面に押し出されてくるからだ。第1話「夜警」ではベテランの刑事を軸に、己の過去の経験から新人警察官(の性格&傾向)へ言及していく。そして、それが後に起こる事件への予告となっている。どの短編も目を瞠るトリックらしいトリックは無いが、何故、《過ち》(事件)が起こったのかを「起」→「転」→「結」→「承」と提示し、《過ち》起こる「承」を強く刻んでくる構造が余韻を増して楽しませてくれる。個人的なハイライトは第二話「死人宿」を挙げたい。思い寄せる人に言葉尻から「あなたは、自分が変わったと言った。でもそれは間違いだったみたいね」と己さえ気づいていなかった深層を見透かされる男の様には、思わず我が身を省みたくなった。《キャラクター》描くライトノベル作家からスタートして、《人》、あるいは《人間》を描くまで踏み込んできた作家としての伸長は実際、唸らせられる。第三話「柘榴」は乙一を想起させる歪な人間模様で、インスタントに楽しめる《キャラクター》も未だ描けることを主張しているようで面白い。ただ、バラエティには富むものの、いわゆる《代表作》にはなり得ない印象を持ってしまうのは、(短編とはいえ)登場人物それ自体に魅力が備わっていないからだろう。その意味で、本作の後に出版され、上述の三冠を再奪取することになる『王とサーカス』は私的米澤穂信の最高傑作で、是非と推薦したくなる。とりあえず、本作に関していえば、良質でしたよ、と。

第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 米澤穂信 山本周五郎賞 本屋大賞

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第25回山本周五郎賞 受賞作:楽園のカンヴァス/原田マハ

楽園のカンヴァス
(あらすじ)
ティム・ブラウンはニューヨーク近代美術館のキュレーター。ある日、スイスの大邸宅に招かれれば、そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは……!

answer.――― 73 点
多くの人にとって敷居の高い《ART》だが、だからこそ触れてみたいと思うのが人間の性……がしかし、いざ臨もうとしたときに気後れしてしまうのはその作家&作品について《知らない》、《解からない》ことだと思う。《Classic》もそうだが、時間の精査に耐え得る作品を理解出来ない自分は受け入れ難いものだ。それを緩和するために《解からない》までも、その作家&作品への《知識》を得るのが手っ取り早い自衛の手段になるわけだが、さて、本作は《キュレーター》なんて肩書きを持つ原田マハがその肩書きを存分に活かして送る、アンリ・ルソーの最後の作品「夢」を題材に《真贋の駆け引き》を施したミステリ。本作を読めば来たるべきアンリ・ルソーとその「夢」について気後れしない鑑賞、その予習が出来る代物なわけだが、率直な感想を先に吐かさせてもらえば、連作短編にするべきだったと思う。過去に「天才」と謳われた元研究者のヒロイン、名前違いから招聘された、実力はあるものの燻っているキュレーターという主要登場人物の《設定》は魅力的ではあるが、「1」作家、事実上の「1」絵画についてのエピソードを交えた考察は冗長に映る。その観点に立てば、―――これ、ノンフィクション!とホラ貝吹いた上で相次ぐ殺人を起こした『ダヴィンチ・コード』のほうが段の違う匠(たくみ)な一作だろう。作中の唯一のゴシップ、明かされていくヒロインのプライベート(過去)は読み手を惹きつける深みは無い。何にせよ、起こるイベントの弱さは感じるものの、《知識》の享受、終盤の《真贋の駆け引き》による盛り返しもあり、読了後には一定の満足感は得られる。ちなみに、漫画『ギャラリーフェイク』を未読な方には、そちらをまずお薦めする。私の上述の連作短編を希望する意図が解かると思う。

第25回山本周五郎賞 受賞作:楽園のカンヴァス/原田マハ

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 原田マハ 本屋大賞 山本周五郎賞

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第24回山本周五郎賞 受賞作:ふがいない僕は空を見た/窪美澄

ふがいない僕は空を見た
1.ミクマリ
2.世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
3.2035年のオーガズム
4.セイタカアワダチソウの空
5.花粉・受粉

answer.――― 81 点

1章「ミクマリ」が《女による女のための》と謳うR-18文学賞の受賞作という事実からも察せられる通り、Sex,Drugs,& Violence!のエンターテイメントの金科玉条【禁忌編】の第1条を担うSEXを明け透けに施した窪美澄のデビュー作。小説の型としては書き手に優しく、読み手にも優しいwin-winな連作短編で、上述の「ミクマリ」で早々に披露される高校生と主婦によるだらしないコスプレセックスを筆頭に、捻りの利いたスキャンダラスなVivid Entertainmentが展開されている。しかしながら、Sex,Drugs,& Violence!の金科玉条は守れば守るほど、エンターテイメントの純度は増すものの、その反動でともすれば陳腐化するものだが、著者はその辺を理解していて、前提の「セックス」の上にしっかりとスキャンダラスな「転」開を仕込んでいるのが素晴らしい。各短編の登場人物たちは「セックス」によって誰もがホロ苦く傷つくのである。1章「ミクマリ」の主人公・卓巳は若気の至りから初恋と気づいてスキャンダル「性(Say!)」、2章は卓巳を落とした主婦・里美の人生がスキャンダル「性(Say!)」、3章は卓巳にほの字の同級生・七奈が自暴自棄になってスキャンダル未遂「性(Say!)」、4章はそれまでとは角度を変えて卓巳の友人・良太がFuck!My Life!と中指突き立てて、しかし結局、スキャンダル「性(Say!)」、そこから〆に5章では卓巳の母親が自ら運営する助産院でアクシデント「生(Say!)」―――と、辿り着けば本作が「性」と「生」を交錯させた物語だと解る。堅実な文章で綴られた一本「筋」の通ったエンターテイメントで、読後感は良い。ストーリーの流れと配置的に4章「セイタカアワダチソウの空」がベストに挙げられるのは当然ながら、ややくどいものの、2章「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」はちょっとしたお奨め短編。いわゆるBitch!を描いているが、この手のBitch!に視点を与えているのは物珍しく、それでセックスを気持ち良いものとして捉えていないのがまた適当に感じる(*゚∀゚*)イイネ!!

第24回山本周五郎賞 受賞作:ふがいない僕は空を見た/窪美澄

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 窪美澄 本屋大賞 山本周五郎賞

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第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー
1.事件の始まり
2.事件視聴者
3.事件から二十年後
4.事件
5.事件から三カ月後

answer.――― 75 点

長い地理描写、政治背景などを含めた歴史語り、または専門知識のひけらかしは、ともすると説明口調になり、読者の作品に対する興味を著しく損なうものだが、この作家は面白い!という信頼は、読者にそのまま頁をめくる我慢を許す。伊坂幸太郎の<集大成>的作品!と評される本作は、まさに読者に我慢を強いる一作。巷の評判通り、著者の作品を複数作読んだことのある人にとっては、平凡な主人公像、潜む愉快犯、カットバック形式などからも<集大成>という形容にも大いに頷けるのではないだろうか。もっとも、集大成だからと言って、本作が著者の最高傑作ではないだろう。それは上記の通り読者に我慢を強いる事実にある。一章から順に読んでいくならば、本作は<記憶力>を求められる。踏み込めば、本作のいわゆるオチは三章【事件から二十年後】にて語られる。故に読み飛ばして、その章については最後に読んでも構わない。だが、何故にそんな構成にしたかと言えば、本作は著者の作家としての挑戦―――あるいは、単なる自己満足に端を発する。マンネリの打破。多作の作家ほど自分と向き合うことは多くなり、読者以上に自作のストーリー展開を意識していくものだ。概してマンネリの打破を試み始めると、その過程で必ず本作のように今までの作品で披露してきた方法論を組み合わせる<集大成>が出来上がる。そして、一流の自負がある作家ほど読者に我慢を強いる仕上がりになると思う。それというのも、その著者は今まで読者に<我慢をさせたことがない>ためだ。本作の冒頭で、首相が暗殺される。そして、主人公は濡れ衣を着せられ、逃亡する。真犯人は誰なのか!?がオーソドックスな読者の関心事だが、本作はそこを端折る。三章【事件から二十年後】で実は明らかにされているのだが、読者は初見では読み流すだろう。なぜなら三章がオチだと思わないからだ。本作は読み終わって初めて三章の意味に気づく。物語が逃亡劇と暗殺の真相、ふたつあることに気づく。長く書いてしまったが、本作への結論はこうだ―――この構成、面白い!と思えるのは、伊坂幸太郎のファンだけであり、また、この構成を評価出来ないと、決して面白いと唸れる作品ではない。楽しく読みたいならば、読みづらくても三章の内容を記憶しておくのが良いだろう、そして、ラストに「大変よく出来ました」の判子を押して貰いましょう。ちなみに、第5回本屋大賞「1位」にランクイン。がしかし、伊坂幸太郎は書店員の固定ファンが多いみたいだから本屋大賞は殿堂入りってことで良いんじゃねえかな?「1位」の内容じゃないよ。

第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎 本屋大賞 山本周五郎賞

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第20回山本周五郎賞 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

夜は短し
1.夜は短し歩けよ乙女
2.深海魚たち
3.御都合主義者はかく語りき
4.魔風邪恋風邪

answer.――― 83 点

森見文学なる文学を自ら築いたと全国紙で本気で豪語した森見登美彦。本作でも森見節を丁々発止、開く頁、開く頁、満遍なく踊らせている。四章仕立ての作品だが、個人的なハイライトは三章「御都合主義者はかく語りき」。これは素晴らしい出来栄えだった。見事なまでに御都合主義なのだが、見事なまでに構成し尽くしている。非常に挑戦的で面白い。主人公とヒロインの視点が交互に入れ替わって物語が進むが、一章は正直読みにくいだけで面白みも無く、完全に完封負けな展開だったものの、二章の古本市で追いついて、三章で注文通りの逆転ホームランを打ってくれた。ヒロインが狙い通りの出来。途中、そのキャラクターがブレ気味だったが、緋鯉(@三章参照)に負けた。負けてやった。

第20回山本周五郎賞 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 森見登美彦 本屋大賞 山本周五郎賞

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第18回山本周五郎賞 受賞作:明日の記憶/荻原浩

明日の記憶
(あらすじ)
家庭も省みず仕事に生きる49歳、広告代理店のやり手営業マン、佐伯雅行。仕事においては大きなクライアントとの契約が決まり、プライベートにおいては娘の結婚が決まる、と順風満帆に見えた彼だが、めまい、幻覚といった不可解な体調不良……何より、ひどい物忘れに襲われる。妻・枝実子に促され、しぶしぶ忙しい仕事の合間を縫って病院を訪れ診察を受けた結果、医師から若年性アルツハイマー病という診断を下される。

answer.――― 77 点

アルツハイマーを題材にした小説は、人生で一度、必ず読んでおくべきだと思う。そして、追体験―――記憶を失うことの何が恐しいことなのか、記憶のある残された時間で何をすべきなのかを考え、自分にとっての最善を見い出しておく必要がある。かの渡辺‘spモード’謙の熱望により映画化も果たした本作「明日の記憶」。あらすじの通り、アルツハイマーと判明してからの主人公の恐怖、家族の戸惑いが基本のストーリーライン。生き甲斐であった職を追われ、信頼していた人に裏切られ、……の記憶とともに失っていく日常が胸を打つ。しかし、この手の話はストーリー的にはどれも大して差が無く、どう落とすのかが作家の腕の見せ所となる。その点で、本作は非常にベターな印象。必要以上に救いがあるわけでもなく、限りない絶望に陥ることもない。ラストシーンで妻に掛ける言葉はどれも絶望を内包しながらもひたすら優しい。そんなラストを迎えて分かることは、本作は「アルツハイマーとどう戦っていくのか?」ではなく、「アルツハイマーに罹ってしまったら?」と読者に問い掛ける作品だったことが分かる。おそらく、作者なりの<答え>が出ていながらぼやかしている印象を受けた。その辺、家族の心理がほぼ描かれていないあたりで判断出来ると思う。非常に読みやすく、イベントもよく起こるのでエンターテイメントの観点からもアルツハイマーを追体験する小説としてお薦め出来る。お約束だが、合い間合い間に、症状の進行を知らせるように壊れていく日記を挿し込んで来ることを付け加えておく。

第18回山本周五郎賞 受賞作:明日の記憶/荻原浩

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 荻原浩 本屋大賞 山本周五郎賞

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第12回本屋大賞 6位:怒り/吉田修一

怒り (206x290)
(あらすじ)
殺人現場には、血文字「怒」が残されていた。事件から1年後の夏、物語は始まる。逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?

answer.――― 75 点
血文字で「怒」と残された未解決の殺人事件から1年―――漁港に暮らす親娘、ゲイの会社員、米兵によるレイプ未遂の体験を持つ少女とその少女に好意を持つ少年が、それぞれ目の前に現れた前歴不詳の男を信頼しつつも疑念を抱いていく様を、読み手は「誰が犯人なのか?」と合わせて楽しむ構図の本作。読売新聞に連載された背景も重なって、『悪人』@朝日新聞連載を連想してしまうが、実際、「登場人物を増やした」だけの兄弟作と云えるだろう。音楽のコード進行ではないが、いわゆる《構成》は雑多に見えても正しく機能する「数」は限られている。そのため一度「(己の)造り」を確立出来てしまえば、たとえ白紙の上に放り出されても、感覚という記憶を頼りに辿り着けてしまう。そうして、安定したエンターテイメントが成り立つが、その代償に(己のなかで)マンネリを招くのが《お約束》だ。勿論、書き手がマンネリを感じるならば、読み手も当然、「感じる」もの。文学畑の出自を持つ著者だけに、昨今の主流である《キャラクター》でも、《人》でもなく、《人間》で魅せてこそいるが、もう一度、この「信頼してるけど……」という疑念持つ《人間》観察&犯人捜しのセットで攻めるのは厳しい気がする。その意味で、終盤、犯人への「怒り」がブスッ……!と執り行われる場面は、手に入れた己の《構成》へさよならbyebyeしている感も。『悪人』Part 2を望む人にはその期待には応えられる出来です。ちなみに本作、お金儲けのためにわざわざ上下巻に分けられておりますので御注意を。

第12回本屋大賞 6位:怒り/吉田修一

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 吉田修一 本屋大賞

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第7回本屋大賞 3位: 横道世之介/吉田修一

横道世之介
1.四月 桜
2.五月 ゴールデンウィーク
3.六月 梅雨
4.七月 海水浴
5.八月 帰省
6.九月 新学期
7.十月 十九歳
8.十一月 学祭
etc...

answer.――― 83 点

冒頭からしばし続くあまりにリアリティ溢れる上京してきた新大学生の「しょうもない」日常に、―――大学生必読の一冊!という謳い文句が脳内にこだましたが、途中、唐突に挟まれる謎の視点に「……邪魔するなよ!」と思ったのは私だけではあるまい。その謎の視点の正体は平凡極まりない主人公と関わった友人、知人たちの二十年後であり、そこで彼らの現在と、主人公への幾ばくかの当時の印象が添えられる。この辺りは文学畑出身である著者らしい構成で、同じ<人間>に対する評価の変遷―――つまりは時間軸を変えることで、登場人物自身の価値観の変遷を描きたかったのが伺える(そして価値観が変わっても、主人公は二人といない良い奴だったな、……という演出)。もっとも、文学のような<人間>への追究性は薄く、あくまで味付け程度の処理なために「それなら結局、……邪魔するなよ!」とも思ったのだが、とある登場人物の登場によってそんないつものイチャモンは彼方へと消えた。―――与謝野祥子、ここ一年読んできた二百冊近い本のヒロインのなかで彼女はBESTだ。マジで萌えた。表題をそれこそ「横道世之介」ではなく、「与謝野祥子」に改題すべきだとさえ思った。ついでに、彼女の視点で物語を編んでくれ!と未だ願って止まない。登場当初は侮蔑さえしていたのにいつの間にか惚れてしまっていた主人公のように、本作が本屋大賞にランクイン出来たのは間違いなく書店員もまた彼女にFalling In Loveしたからである。彼女の魅力については多く語るまい。読めば分かる、そして、シルヴィ・ヴァルタン宜しくIrrésistiblement(あなたのとりこ)だ。冒頭にも書いたが、主人公の時間の過ごし方は現在の大学生の生活そのまま。こうならないためにも、大学生は一度読んでおいて損は無いだろう。しかし兎にも角にも、本作の主役は―――与謝野祥子。きっと、読めば貴方も萌えられる。ちなみに、主人公の名前の由来は江戸時代の名作『好色一代男』からとのこと。己の無知をまた知りました。

第7回本屋大賞 3位: 横道世之介/吉田修一

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 吉田修一 本屋大賞

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第5回本屋大賞 4位:悪人/吉田修一

悪人
(あらすじ)
保険外交員女性・石橋佳乃が土木作業員・清水祐一に殺された。清水は別の女性・馬込光代を連れ、逃避行をする。なぜ、事件が起きたのか?事件当初、容疑者は裕福な大学生・増尾圭吾だったが、拘束された増尾の供述と新たな証言者から、容疑の焦点は清水に絞られる事になる。

answer.――― 77 点

02年に『パレード』で第15回山本周五郎賞を受賞、同年に続く『パーク・ライフ』で第127回芥川賞を受賞といった「文学」出自の作家として離れ業とも云える華々しい受賞歴を持つ吉田修一が手掛けた本作「悪人」は朝日新聞で連載された長編作品。物語は、保険外交員の絞殺事件の犯人捜し、そして、その犯人の逃避行を軸に、《人間》を描いていく群像劇。一日一節を求められる新聞連載という形式から、etc...に数えられるような人物が視点人物になったりの忙しい視点切り替えに集中力を切らす難こそあれ、そんな群像劇故に文学作品特有の「1」対「1」の小さな世界で終わらないのが本作の魅力だ。この本屋大賞に選ばれたように、被害者、そして、容疑者が日常で装っていた「嘘」を描いていく展開は、誰が殺したのか?(実は……!)なミスリードを提示されているような錯覚に陥り、思わぬエンターテイメント感覚を得られる。しかし、そういう意味では【そんな彼を殺人に走らせたものは、一体何か―――。】という本作の紹介文は頂けないミスらしいミスと云えるだろう。ながらに、ともかくの《悪人》である。―――何が悪人なのか。―――誰が悪人なのか。本作は九州の地方都市を舞台に、市井の、実は多くがそうである、ワーキングプアを真摯に描いている。そして、抜け出せない現実に目を背ける登場人物たちが作る「嘘」を剥いでいく。その中で殺人が起こり、庇い、庇われ、好かれ、蔑まされ、騙され―――殴られ、裏切られる。殺人は衝動で起こり、その事件には必ず背景があることを本作は教えてくれる。個人的には、陰の主役とも云える被害者・石橋佳乃の振る舞い、周囲の言及に興味を惹かれたが、この辺は私が男だからかね?とりあえず、「文学」にノミネートされる作品ながら、大衆に支持される吉田修一に「天晴れ」。上下巻、合わせてのレヴューです。

第5回本屋大賞 4位:悪人/吉田修一

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 吉田修一 本屋大賞

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第6回本屋大賞 10位:モダンタイムス/伊坂幸太郎

モダンタイムス (206x300)
(あらすじ)
29歳の会社員となった渡辺拓海の前で、見知らぬ男が「勇気はあるか?」と訊いてきた。「実家に」と言いかけたが、言葉を止めた。拷問を受けた翌日、拓海は失踪した五反田正臣の代わりに、「ゴッシュ」という会社から依頼されたシステム改良の仕事を引き継ぐことになる。

answer.――― 69 点
本作の見所を挙げるなら、……拷問場面だろうか。ドSな妻に浮気を疑われ、実際、本当に浮気をしているSEな主人公が巻き込まれたのは、国家的陰謀!と風呂敷はデカいものの、市井の者が出来る程度のアクションで幕を閉じられる本作。制作時期を共にしていたらしい前年の本屋大賞第1位の『ゴールデンスランバー』と同じ“小市民の反抗”な作風で、その意味でも兄弟作と云えるものだが、……いつも通り台詞こそ小気味良いものの、だらだらだらだらだらだらと続く頁に「とりあえず、長い。そして、やっぱり長い」と思わずクレームまで繰り返したくなる。こうなると1位から10位への大幅なランクダウンも、伊坂幸太郎という作家が迎えた賞味期限を象徴しているように思えてしまった。伊坂好太郎と言えば……!の十八番《日常》は、現代よりおよそ50年後の近未来にもかかわらず、さした技術革新も起こらず「変わっていない」としている設定。徴兵制が敷かれているのがミソだが、そこは押し出されず、単なるファッションと化している。要するに、著者にとっては労せず現代を演出出来る有用なアイディアだが、読み手には特に還元されないサボタージュなアイディア。まだ伊坂作品を手に取ったことのない新規の読み手へ向けた“野心”を感じられない仕上がりとなっている。それでも、懲罰な拷問を受けながらも善性に満ちた伊坂好太郎節は健在だし、『魔王』(未読)とも世界観を共有しているようなので、ファンならば満足出来るのではないでしょうか。ただ、やっぱり長過ぎるとは思う。ドS妻・佳代子がいなかったら、個人的に「……Give up!」していた“見限り”な一作でした。

第6回本屋大賞 10位:モダンタイムス/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 伊坂幸太郎 本屋大賞

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第9回本屋大賞 4位:くちびるに歌を/中田永一

くちびるに歌を (199x290)
(あらすじ)
長崎県・五島列島のとある島の中学校。合唱部顧問の松山ハルコは産休に入るため、代わって松山の中学時代の同級生、「元神童で自称ニート」の臨時教員・柏木ユリに、1年間の期限付きで合唱部の指導を依頼する。

answer.――― 70 点
00年代前半の主役の一人、ライトノベル界の三大犯罪者「この名前は捨てたんだ……」乙一による、中田永一名義の青春小説。離島を舞台に、いざ征かん!NHK全国学校音楽コンクール!!というライトノベル畑で生まれ育った著者らしい隙間を突いてくる題材だが、いざ読んでみれば「合唱コンクール」自体はあくまで添え物な青春小説らしい惚れた腫れたが中心のストーリー。あらすじや内容紹介で謳われる、新たに赴任してくる「元神童で自称ニート」の臨時教員・柏木ユリの存在感は希薄で、本作の事実上の主人公は例によって内向的な性格で、これまた例によって自閉症の兄を持つという世間にひた隠す《ハンデ》持ちの桑原サトル。彼のコミカルで、時にセンチメンタルな心持ち、塞翁が馬なアクシデントを「外」から眺めるのが本作のエンターテイメントとなっている。正味な話、世に溢れ返る作品のなかで本作をあえて薦めたくなる突き抜けた面白味は皆無だが、それでも、作中のハイライトに挙げられるだろう合唱コンクール直前の抜け出し、名誉の負傷の件は序盤&中盤の平坦な展開を盛り返しにかかるベテラン作家としての手腕。兄への《合唱》を含め読後感は悪くない。ただ、期待し過ぎれば肩透かし、新人作家の作品ならばお先が知れる平均的な作品には違いない。

第9回本屋大賞 4位:くちびるに歌を/中田永一

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 三大犯罪者 乙一 本屋大賞

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第9回本屋大賞 10位:プリズム/百田尚樹

プリズム
(あらすじ)
世田谷に古い洋館を構えるある家に、家庭教師として通うことになった聡子。ある日、聡子の前に屋敷の離れに住む謎の青年が現れる。青年はときに攻撃的で荒々しい言葉を吐き、ときに女たらしのように馴れ馴れしくキスを迫り、ときに男らしく紳士的に振る舞った。激しく変化する青年の態度に困惑しながらも、聡子はいつして彼に惹かれていく。

answer.――― 75 点
作品そのものよりも著者自身の知名度が上がってしまった“ツルピカ”百田尚樹。こうなってしまうと、作品の良し悪しは著者の好き嫌いでほとんど語られてしまうものだが、さて、本作は、万華鏡のように性格が変わる青年に惹かれる女性の、解き明かされる青年の秘密への困惑と自身の想い……というストーリーライン。《多重人格》を扱う作品と云えば、否が応でもダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』を連想してしまうと思うが、もはやノンフィクションの「古典」と言ってしまっても過言ではない同作のため、「逆に」未読な可能性も十分に考えられる現在。その意味で、新味らしい新味はせいぜい恋愛を溶かし込んでいる程度ながら《多重人格》についての初歩な知識を披露してくれているので、「物語」を読みながら……の有用性は確保されている。百田尚樹は、そのジャンルにおける《初心者》向けの作家だ。それを目くじらを立てて「題材を掘り下げていない」なる理由で非難するのは違うと思う。メディアでは「偏った」言動が目につく著者だが、少なくとも本作では之といったものは見当たらない。《多重人格》を題材にしたごくごく普通の恋愛小説。私は誰を好きになったのか?なんて疑問をもっとクローズアップしても良かったかも分からんが、そうすると、《文学》に寄ってエンターテイメント性が減退するだろうしね。

第9回本屋大賞 10位:プリズム/百田尚樹

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 百田尚樹 本屋大賞

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第1回本屋大賞 5位:重力ピエロ/伊坂幸太郎

重力ピエロ
(あらすじ)
半分しか血のつながりがない「私」と、弟の「春」。春は、私の母親がレイプされたときに身ごもった子である。ある日、出生前診断などの遺伝子技術を扱う私の勤め先が、何者かに放火される。町のあちこちに描かれた落書き消しを専門に請け負っている春は、現場近くに、スプレーによるグラフィティーアートが残されていることに気づく。連続放火事件と謎の落書き、レイプという憎むべき犯罪を肯定しなければ、自分が存在しない、という矛盾を抱えた春の危うさは、やがて交錯し……。

answer.――― 83 点
熱心な読者とは言えないが、伊坂幸太郎のピークはいつなのか?と訊かれれば、おそらくこの『重力ピエロ』ないし次作の『アヒルと鴨のコインロッカー』までだと答えると思う。日常にモノホンな「事件」を起こし起こさせる「優等生」伊坂幸太郎。本作は当時の彼の持ちうる《日常》を余すことなく出し尽くしただろう一冊。「日常」―――伊坂幸太郎にかぎらずだが、実のところ、すべての作家がすぐに尽きる「(世界)観」が《日常》である。それというのも、人生は「自分」一度しか体験出来ていないからだ。そして、《日常》とはその説明を省いてしまえば実質的にモラトリアム、思春期に培った感性(&記憶)の吐露に他ならない。社会人以降の《日常》は、多くは業界(社会)の説明、専門分野の知識の披露でしかなく、思春期の産物ではない、社会人の《日常》らしい《日常》を演出するためには「結婚」「転職」「介護」などの《責任》関わるイベントを用いなければならない。また、日常は本来的に面白いものではないために……云々、と。こう《日常》と連呼してもやはり抽象的になってしまうので切り上げるが、何にせよ、《日常》を武器とする故に伊坂幸太郎は作品を上梓する毎に摩耗&劣化し、ついにはストック尽きて、「この10年間で小説に対するモチベーションがかなり変わった。最初は読者の反応を気にして、執念をもって小説を執筆していたが、最近は小説を書くこと自体が楽しくてしょうがない」なる発言を残して10年代に到る。最近の作品が気抜けのサイダーのような出来なのは実際、気抜けで書いているからなのである。本作より後発の世界を終わらせてまで《日常》をひねり描いた『終末のフール』を読んでみればお察し出来るように、《日常》のストック気にせず存分に披露出来た初期作品こそ伊坂幸太郎の筆が躍動した跡だ。本作はそのとびきりの「跡」、マイケル・ジョーダンからDNAまで著者の世代が薫るネタを台詞に、地の文に仕込みに仕込んだ、レイプ有り!殺人有り!正義は……!と性悪説&性善説入り混じる快作。暇を持て余している大学生にピッタリの良質な大衆小説です。

第1回本屋大賞 5位:重力ピエロ/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 伊坂幸太郎 本屋大賞

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第8回本屋大賞 1位:謎解きはディナーのあとで/東川篤哉

謎解きはディナーのあとで
1.殺人現場では靴をお脱ぎください
2.殺しのワインはいかがでしょう
3.綺麗な薔薇には殺意がございます
4.花嫁は密室の中でございます
5.二股にはお気をつけください
6.死者からの伝言をどうぞ

answer.――― 66 点
たとえば「映画」「漫画」「小説」という創作のジャンルにおいて、エンターテイメントを表現する上で「あえて」不等号をつけるなら、映画≧漫画≧小説―――私のなかではこんな風に定まる。この手の話になると、「不等号を付ける意味が解らない!」と得意気に声を上げる輩がいるが、そんなことは一度知ってしまえば誰だって「言える」。本当の意味で《ジャンル》を保護/発展させたいなら、この「あえて」を建設的に汲み取れるか否かが一つの分かれ目になる。「不等号を付ける意味が解らない!」なる当たり前(……そして、俺こそ正しい!)な主張に安易に追随してはならない。むしろ、(……何でその順番なんだ?じゃあ、この場合は?)と自分なりに相手を肯定し切ろうとする思考こそスマートな見識に繋がる。―――なんて適当な前振りを置いて、読んだ人ならご存知、売れに売れた本作は「いや~中村佑介先生には勝てませんわ~」と白旗を振りたくなる表紙先行のミステリ。気位の高いお嬢様が刑事、気障な執事が安楽椅子探偵の役目を担う、可もなく不可もない短編が続く典型的な凡作で、累計ン百万部突破!と景気の良い話を耳すると(……何でこれが売れたんだ?)と首をひねりたくなるだろうが、何のことはない、中村佑介の手掛けた表紙を見れば納得である。表紙で売れる?馬鹿な(笑)と思うなかれ。とあるライトノベラーは言った、……この絵、嫌いなんですよねえ。当時は何を言っているのか解らなかったが、時を経て痛感するのは、小説なんて読もうと思わなければ文字の羅列なのである。だからこそ、小説には工夫が要るのだ。結論的に、カバーデザインが中村佑介だから推すの、いい加減、止めようや……!と。6章「死者からの伝言をどうぞ」は動機を喋らせなかったのは本来ならマイナスな演出だと思うが、作品のスタイル(暇つぶしに読んで下さいネ!)を象徴しているようで気に入りました。

第8回本屋大賞 1位:謎解きはディナーのあとで/東川篤哉

category: は行の作家

tag: OPEN 60点 東川篤哉 本屋大賞

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第10回本屋大賞 8位:世界から猫が消えたなら/川村元気

世界から猫が消えたなら (198x290)
(あらすじ)
僕の葬式。僕の枕元に集まる人はどんな人たちだろうか。かつての友達、かつての恋人、親戚、教師、同僚たち。そのなかで僕の死を心から悲しんでくれる人は、何人いるのだろうか。僕と猫と陽気な悪魔の7日間の物語。

answer.――― 35 点

『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』を企画/プロデュースして大ヒットを呼び込んだ新進気鋭の映画プロデューサー川村元気が「おら、小説も書けるんだぞ!」と舌なめずりしながら筆を執り、LINE連載小説という世界初の形態で発表!―――70万部突破!!した第2の齋藤智裕、第2の『KAGEROU』的作品。まさか、あれ程の才能の持ち主に再びお目に掛かることになるとは……!と、読んだところでこの《第2の齋藤智裕、第2の『KAGEROU』》というキャッチ以外には特に感想らしい感想が思い浮かばないのだが、上述の『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』の他、『モテキ』など彼が企画/プロデュースしている作品の一覧を眺めれば、ある種の目敏さを察せられるように、本作においてその目敏さから「猫」を題材に選んでいるあたりは流石かな、と。ただ、もっと目敏ければ「名義」を貸して書いてもらうことも思いついただろうに……どうして、自分で書いてしまったのだろう?ペラッペラな文章に思わず閉口、本屋大賞の裏側を知れるオフパコな一冊。次作『億男』も第12回本屋大賞にランクインしているようなので《結果》が楽しみです。

第10回本屋大賞 8位:世界から猫が消えたなら/川村元気

category: か行の作家

tag: OPEN 30点 川村元気 本屋大賞

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