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第12回本屋大賞 4位:本屋さんのダイアナ/柚木麻子

本屋さんのダイアナ (201x290)
(あらすじ)
私の呪いを解けるのは、私だけ。「大穴」という名前、金色に染められたパサパサの髪、行方知れずの父親。自分の全てを否定していた孤独なダイアナに、本の世界と同級生の彩子だけが光を与えてくれた。正反対の二人は一瞬で親友になった。そう、“腹心の友”に……。

answer.――― 85 点
作家の文章力を量るとするならば、解かり易いところで「とりあえず」語彙の多寡だろう。言葉を知らなければ、そもそも「文章」を綴れない。しかし語彙が豊富であっても、文章力の高低が定まるわけではないのは御存知の通り。起承転結に始まる構成、内面/外面の描写、完成された(色褪せない)ユーモア、今を楽しむ時事ネタなど、総合的な観点で《文章力》の有無は判定される。そして、人によって各項目の配点が変わるのも《文章力》なるものが曖昧となる理由だろう(個人的に、構成が出来ていると「巧い」と見做される傾向にあると思う。同時に、詩的な散文は駄文と見做される傾向にある。これは《文章力》に、エンターテイメント的な観点が設けられている証左でもある)。そんな中、あまり論点にならない、書き手のセンス問われる項目を一つ紹介したい。作中の時間経過をどうやって表すか?である。一例を引く。司馬遼太郎の代表作『竜馬がゆく』の主人公・坂本龍馬は全国を行脚したことでも知られている。当然、ただ移動しているだけの経過が幾度もあるわけだが、そこは省略するのが常道で、実際、司馬遼太郎も多くを省略している。が、敢えて書いているページがある。そこを目にしたとき、読み手は書き手の遊び心を感じざるを得ないはずだ。その描き方とは、渋谷、原宿、代々木、……といった地名をいちいち改行しての羅列である。地名を並べることで、移動時間を表現しているのである―――たっぷりの余白をユーモアと添えて。時間経過は、それが唐突で大胆であるほど、読み手を作中世界へと巻き込む―――あるいは、作中世界から突き放す。ただ時間を飛ばすだけでもセンスが要る。そこに遊び心を加えられるか否かは、まさしく作家としての《余裕》が無ければ出来ないのである。さて、本作必見のハイライトを挙げる―――Wヒロイン(大穴&彩子)の外見が変わる。それは劇的なもので、幼少期の互いへの憧憬をそのまま己へ転写。時間経過を作品のエンターテイメントの核として採用しているのが解かる。そこに絡ませてくるのが著者である柚木麻子の十八番“イタさ”で、後半の主役である彩子の迷走はまさしく《悲劇のヒロイン》。幼さ故に思考を停止する人間の弱さを堪能出来る。全ての登場人物を関係者にしてしまうご都合はいかがなものか……と眉をひそめてしまうものの、“イタさ”にしっかりと向き合うエンディングは実に清々しい。大衆を楽しませる視覚要素溢れる一作。上流から下流までの家庭の書き分けも面白かったです。

第12回本屋大賞 4位:本屋さんのダイアナ/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 柚木麻子 本屋大賞

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第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子

ランチのアッコちゃん (206x290)
1.ランチのアッコちゃん
2.夜食のアッコちゃん
3.夜の大捜査先生
4.ゆとりのビアガーデン

answer.――― 79 点
いざプレイヤーの側に回れば才能の多寡なんてものはさして重要なものでもないが、自覚する意味では己の才能の多寡は「正確に」把握していなければいけないと思う。こと文章においては、作品を重ねていくと―――致し方のない妥協から、あるいは勝手に掲げた大義名分から、最悪の場合、単なる勘違いに因る油断から鍍金が剥がれていく。剥がれ始めた時期は、速筆な剥き出しの文章(力)を楽しめる風情もあるが、そこから先は転落しかない。一度、落ちた文章力はまず戻らない……多くの作家がその時々、現時点での自分の基準で「巧拙」を決めているからだ。「巧拙」は、何も知らなかった、過去の自分に量らせるのが一番正しい。なお、以上はあくまで《職業》として成り立っている作家に当てはめた話です。さて、本作は目下、日の出の勢いで駆け上がっている柚木麻子の本屋大賞「初」ランクイン作。四編の連作短編で、始まりの表題作は、冴えない派遣社員の智子がキャリアウーマンな上司・黒川敦子の「私と、ランチを取り替えっこしましょう」という提案から、彼女が界隈で「アッコちゃん」と呼ばれる顔を知り、……というギャップ解明もの。そんな智子視点の前半二編は「アッコちゃん」が主要登場人物となっているが、後半の二編では「アッコちゃん」はモブ的出演となっている。柚木麻子というと“イタい”作風のイメージがあったが、本作ではそんなスパイスも垣間見えるものの、基本的には「らしくない」ハートフルなエンディングを迎える。それらを綴る筆もどこか肩の力の抜けたリラックスしたもので、効率重視の「連載」使用なのが伺えるが、それ故に読みやすくもある。作中のハイライトは、性善説を大々的に持ち込んだ4章「ゆとりのビアガーデン」を挙げたい。筆に矜持持つ作家は、概して「効率」重視で仕上げた作品に対して後ろめたさを感じ、必ず己への「贖罪」な場面、物語を用意する。足らずのヒロイン「佐々木玲実」の逆転に次ぐ逆転な発想によるハッピーエンドは、“斜陽”な視点人物・豊田雅之の対比を含め、練り込まれた上等な一編。世の中、そんな上手く廻る世界ではないが、しかし、そうであって欲しいと信じたくなるこの短編は、“アッコちゃん”を差し置く著者の矜持を感じる。何にせよ、期待しないで読むと、お得!な良質な連作短編でした。

第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 柚木麻子 本屋大賞

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第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子

ナイルバーチの女子会 (202x290)
(あらすじ)
ブログがきっかけで偶然出会った大手商社につとめる栄利子と専業主婦の翔子。互いによい友達になれそうと思ったふたりだったが、あることが原因でその関係は思いもよらぬ方向に……。

answer.――― 75 点
中二病、高二病、大二病、社二病―――昨今謳われる、いわゆる“イタい”人。目下、そんな“イタい”人を描かせたらこの作家より右に出る作家はいないのではなかろうか?第88回オール讀物新人賞を『フォーゲットミー、ノットブルー』という“羨望”と“嫉妬”、そこから女子の愛憎交錯させる歪な青春譚で見事に受賞、デビューを果たした柚木麻子。本作はそんな彼女が満を持して届けたかのようなイタさ極まる“ヴィクトリア湖の悲劇”ナイルパーチな力作。物語の幕はキャリアウーマンの栄利子と専業主婦の翔子、二人がブログをキッカケに出会うことで開く。視点は交互に入れ替わっていく形式だが、……まず(そして、終始)目撃することになるのは栄利子の狂気である。コミュ障とは何なのか?それは本作にてげんなりするほどに理解させられる。中盤、同僚に暴露まがいに追い詰められての「なんとかします!……ごめんなさい。私、一人でなんとかします。寝ますっ。このフロアの男、全員とセックスします。頑張ります。だから私を許して下さい」という栄利子の咆哮は、おいそれと拝めるものではない必見の場面。それがピークかと思いきや、その後もブレーキを踏む様子なくコミュ障具合はメンヘラへと昇華、加速していくのが恐ろしい。そして、そんな“イタい”栄利子のストーカーの被害者であるはずの翔子もヤバい。これは是非とも自分の目で、第三者の立場として確認して欲しい。「お、お前……!」と翔子の無自覚な狂気を目の当たりにした瞬間、肉食魚《ナイルパーチ》を表題に冠した意味とともに、どんなバッドエンドに辿り着くのかと《先》を見てしまう。本作が無自覚という仕掛け(構造)を用いての“イタい”人たちの一種のドキュメンタリーだと気づかされる。正直、面白くはない。読んで誰が得するのか解からない。ただ、“イタい”を突きつける力作なのは間違いないので、SNSの危険性を知らしめる意味でも推せる作品ではある。栄利子の外見の変化とか、細かいエンタメ的配慮があるのも好感。

第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 柚木麻子 山本周五郎賞

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