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第1回メフィスト賞 受賞作:すべてがFになる/森博嗣

すべてがfになる
(あらすじ)
愛知県にある妃真加島、そこに建てられた真賀田研究所に向かった犀川創平と西之園萌絵。真賀田研究所には優秀な研究者が集い、彼らなりの論理・生活形態とそれを許容する環境の下で精力的に研究を進めていた。その頂点に君臨するのが、真賀田四季博士。彼女は現存する最高の天才で、名実ともに研究所の活動の中心人物であった。しかし、滞在の最中に、異様な殺人事件が起こる。

answer.――― 88 点

読み手が求めるのは、―――結局、「天才」である。その昔、何て安易な!と憤ったものだが、認める、これは間違っていない。「天才」を如何に演出するかで、エンターテイメントの質が決まる。玉石混交、数多の問題作に賞を授け続けるメフィスト賞、その栄えある「授賞」第一作目は玉か石かで分ければ、まさしく《玉》だった。後に執筆活動を「ビジネス」と言い切る森博嗣のデビュー作でもある本作は、理系ミステリーと名高いS&Mシリーズの一作目。しかし、本来ならば五連作であった《四作目》を編集の意向に沿って《一作目》として出版するなんてさっそく「ビジネス」な判断を下された「曰く付き」の代物だ。そのストーリーラインは、少女時代から研究所で隔離された生活を送っていた天才工学博士・真賀田四季が両手足を切断され、ウェディングドレス姿で発見される―――密室で。というもの。飾りも少ないごくシンプルな文体ながら「天才」という言葉が随所で躍る。ともすると陳腐に響くはずの「天才」に説得力を与えているのは理系用語を散りばめているからだろう。日常、接しない言葉は作品に「格」を、読み手に「距離」を与える。本作の理系用語は多くの読み手に「……なにそれ」と敬遠させず、むしろ「……なるほど」と近づけさせる親近感さえ湧かせているのが素晴らしい。物語は表題の通り、《すべてがFになる》。その畳み掛けるような謎解きはまさに理系ミステリーと呼ばれるに相応しい。ただ、個人的には読み手との暗黙の了解を陰に日向に汲んでいる著者のセバスチャンな職人芸に感嘆したくなる。誰しも、「天才」になりたいものだ。多くの作品がその願いを主人公を通して叶えてくれる。しかし本作は、その「天才」になりたいという願いを、物語が閉じる間際に変則的に叶える。「天才」に近づけたのは、犀川創平「だけ」だ。本作を言及しようとすれば、どうしてもラストの場面が思い浮かんでしまう。本作の物語としての核は、《すべてがFになる》ことではなく、「天才」と出会うことなのだ。読み手が求めるのは、―――と、本稿の冒頭に辿り着く一作。ある種の時季ものなので、思春期に読むのが良いでしょう。

第1回メフィスト賞 受賞作:すべてがFになる/森博嗣

category: メフィスト賞

tag: OPEN 80点 森博嗣

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