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第10回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:ヤンのいた島/沢村凛

ヤンのいた島
夜から生まれ、夜を生きる私たちは、やがて夜に死ぬだろう。けれども、今日は夜に泣いても、昼に拒絶された者、死が救いといえる人生をおくる者、生きることを禁じられた者―――彼らみんなを、すべての人に光を照らすのだ。
すべての人に光を。すべてをみんなのために。

サパティスタ民族解放軍反乱副司令官マルコス

answer.――― 72 点

第3回を『リフレイン』、第6回を『世界の果てに生まれて』、第9回を『五人家族』、そして、ついに大願成就を果たしたこの第10回の《優秀賞》受賞作『ヤンのいた島』を含めれば、栄えある最終選考に残ること、実に4回(!)という不遇のファンタジスタ・沢村凛。日本ファンタジーノベル大賞は《プロアマ問わず》のオープンな公募条件なので、残ること自体は不自然過ぎることは無いが、そもそもの上述、第3回の『リフレイン』でデビューを飾っているにもかかわらず、……の厚顔極めた挑戦劇。(この人、また残ってるけど、これって受からせろってこと?編集サイドの指示?……絶対に嫌だね!!)と誇り高き選考委員たちの批評は回を重ねる毎に甘辛くなったのは容易に想像がつく―――が、しかし。何度となく跳ね返されて、本作でようやく突破出来たのは何故なのか?それはひとえに「スケール」の成立にあるだろう。本作は、夢をキーワードにした一癖ならぬ四癖ある並行世界を採用した物語。ストーリーラインは、幻の生物「ダンボハナアルキ」を追って秘島に乗り込んだヒロインがゲリラに捕まり奇妙な夢を見始める―――というもの。空想生物の探索で物語が進むかと思いきや、まさかのゲリラ登場、島の植民地支配の実態を目の当たりする現実展開に驚くが、頁を進めていくうちにヒロインは「視点」を任せられただけで、主人公は表題通り「ヤン」であることが解り、幕が下ろされてみれば「ヤン」しかいない事実、そしてそして、表題「ヤンのいた島」の本当の意味を知ることになる。物語の内容自体は面白いと云えるものではないが、並行世界を用いて「視点≠主人公」を成立させているシステムは秀逸の一言。それぞれの世界でヤンが選んでいる「最善」の、しかし「悲劇的」な悲劇は興味深い。視点切り替えの多用など筆力不足も散見出来るが、並行世界の生成&着地にはやはり見るべきものがある。例えば、村上春樹は『1Q84』を書く前にこれを読むべきだったね。

第10回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:ヤンのいた島/沢村凛

category: さ行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞 70点 OPEN 沢村凛

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