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第4回山本周五郎賞 受賞作:ダック・コール/稲見一良

ダックコール (202x290)
1.望遠
2.パッセンジャー
3.密猟志願
4.ホイッパーウィル
5.波の枕
6.デコイとブンタ

answer.――― 81 点
石に鳥の絵を描く男に出会った青年は、河原で微睡むうちに鳥にまつわる六つの夢を見る―――というレイ・ブラッドベリの『刺青の男』をモチーフにした短編集。「希に見る美しい小説」とは選考委員を務めた藤沢周平の評だが、その言葉も決して大袈裟に聞こえない、出逢ってしまえば感情揺さぶられる《数瞬》を、確かなインテリが手掛けた翻訳小説を思わせる剛健な筆で描いている。それらは冒頭の二編、己の職を失ってまで手に入れた奇跡「望遠」、リョコウバトの恐怖「パッセンジャー」が端的に象徴するところだと思うが、個人的には「希に見る美しい小説」というよりも、「野に遺賢あり」という藤沢周平以外の選考委員の評のほうが的を射ている、玄人(書き手)好みな作品の印象。女を排して男の匂いを立ち込める作中もっとも頁を費やした中編「ホイッパーウィル」は、著者のハードボイルドな本質が現れている一編だろう。先の「希に見る美しい小説」から文章の面からも耽美的な、《繊細》な文章をイメージしていたが、その真逆の、《題材》それ自体の美しさを真正面から彫り込む力強さには面食らった。奇をてらった表現、(似た言葉を重ねる)感覚任せな描写が少ないのは、文学の衰退とともに軽量化を是とする時流を逆行するストロングスタイルと云える。詰まる/詰まらないで語る類いの作品ではないものの、地味なことは否めず、その意味で読み手を選ぶ一作には違いない。が、短編好きを標榜するならば、〆めの第六話「デコイとブンタ」は必読の一編。「ハードボイルド・ポップ」とでも命名したくなるこの沈黙の一編は、シーズンオフ間近の遊園地の観覧車と風船の《邂逅》により、ついにデコイを空へ飛ばす。その爽快感たるや圧巻で、「デコイ、お前は最高だっ!」と膝を打つこと必至。前の五編で著者と噛み合わなくても、お薦め出来る逸品です。

第4回山本周五郎賞 受賞作:ダック・コール/稲見一良

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 稲見一良 山本周五郎賞

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