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第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

満願
1.夜警
2.死人宿
3.柘榴
4.万灯
5.関守
6.満願

answer.――― 80 点
2015年度の週刊文春の『週刊文春ミステリーベスト10』、宝島社の『このミステリーがすごい!』、早川書房の『ミステリが読みたい!』にて第1位を奪取!東野圭吾の『新参者』、横山秀夫の『64』の二冠を超え、三冠を達成!目下、最も「旬」なミステリー作家・米澤穂信の短編集。個人的に米澤穂信は“古典部”シリーズを始め、局所的に名を上げた『さよなら妖精』、《売り》に来た『インシテミル』ともハマらず、世間評と乖離のある作家の一人だったが、本作はいざ頁をめくってみれば早々に良い意味で裏切られた―――《人》が前面に押し出されてくるからだ。第1話「夜警」ではベテランの刑事を軸に、己の過去の経験から新人警察官(の性格&傾向)へ言及していく。そして、それが後に起こる事件への予告となっている。どの短編も目を瞠るトリックらしいトリックは無いが、何故、《過ち》(事件)が起こったのかを「起」→「転」→「結」→「承」と提示し、《過ち》起こる「承」を強く刻んでくる構造が余韻を増して楽しませてくれる。個人的なハイライトは第二話「死人宿」を挙げたい。思い寄せる人に言葉尻から「あなたは、自分が変わったと言った。でもそれは間違いだったみたいね」と己さえ気づいていなかった深層を見透かされる男の様には、思わず我が身を省みたくなった。《キャラクター》描くライトノベル作家からスタートして、《人》、あるいは《人間》を描くまで踏み込んできた作家としての伸長は実際、唸らせられる。第三話「柘榴」は乙一を想起させる歪な人間模様で、インスタントに楽しめる《キャラクター》も未だ描けることを主張しているようで面白い。ただ、バラエティには富むものの、いわゆる《代表作》にはなり得ない印象を持ってしまうのは、(短編とはいえ)登場人物それ自体に魅力が備わっていないからだろう。その意味で、本作の後に出版され、上述の三冠を再奪取することになる『王とサーカス』は私的米澤穂信の最高傑作で、是非と推薦したくなる。とりあえず、本作に関していえば、良質でしたよ、と。

第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 米澤穂信 山本周五郎賞 本屋大賞

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文春文庫:インシテミル/米澤穂信

インシテミル
警告
この先では、不穏当かつ非論理的な出来事が発生し得ます。それでも良いという方のみ、この先にお進みください。

answer.――― 74 点

六十余年生きている母にはミステリードラマに関する「残り三十分から見れば良い」なる人生訓がある。その心は、……トリックも5分くらいでまとめてくれるし、殺した動機を教えてくれるから!という身も蓋もないものなのだが、これを耳にして当時思ったのは結局、ミステリーに求めるのは<殺した動機>=<ドラマ>であり、トリックはあくまでオマケだという事実だった。主演に藤原竜也を招いて映画化もされ、セールス的には著者の作品中随一と予想される本作「インシテミル」。時給11万2000円の触れ込みに釣られた者たちが閉鎖空間で殺し合う、いわゆるクローズドサークルを題材に取り上げ、著者自ら「自分なりにとことんミステリを追究した」とホラ吹く力作だが、母の人生訓から<殺した動機>もとい<ドラマ>を読めば、その読み応えは┓(;´_`)┏の出来。ドラマ無く人が殺され、各個人が抱えるドラマはそれぞれ一頁で消化or消化不良のまま強引に幕を引く。ラストだけでストーリーを理解してみれば、本作が拙く「面白くない」作品であることが分かる。ただ、クローズドサークルは結果ではなく、過程こそピークの構成を持つ題材だ。本作も著者の端正な文体に支えられ、その過程では不条理な設定が魅せてくれる。著者ホラ吹く「とことんミステリ」は、有名作の引用であり、そこを楽しむ体もあるようだ。本作は著者の作風である青春ミステリ、『日常』を描いてきた延長上での産物だとも思われるので、派手な<ドラマ>を求めるのは野暮なのかも。しかし個人的には、見栄えが良い設定が並んで中身が伴っていない凡作の印象。

文春文庫:インシテミル/米澤穂信 (2007)

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 米澤穂信

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創元推理文庫:さよなら妖精/米澤穂信

さよなら妖精
1.仮面と道標
2.キメラの死
3.美しく燃える街

answer.――― 71 点

米澤穂信の名を広めた出世作とされる一作。その内容は、何の変哲もない高校生たちと異邦人マーヤとの邂逅、別離、そして、もの哀しい捜索の物語。本作の出版には今でこそ知られる“古典部”シリーズの売り上げ不振により作家に成って早々、作家として崖っぷちに立たされた著者が気まぐれに垂らされたか細い蜘蛛の糸を見事に掴んで、……の1チャンスをものにした背景があるらしい。しかしながら、それで驚くのはあくまで『日常』を取り扱う点。追い込まれて尚、作風を変えないのはまさしく信念である。本作の肝は、「わたし、気になります」の“古典部”シリーズ同様、異邦人マーヤが「面白いです」と日本の文化&習慣を学んでいく過程―――そこに著者の十八番(の送りバント)「日常ミステリ」を挟むのがセールスポイントだ。日本人ながらに自国文化へのカルチャーショックも受ける瞬間もあり、題材の選定も含め、なかなか興味深い出来栄えとなっている。淡々としながら、味のある登場人物たちは上等な「何の変哲もなさ」でなるほど、「日常」を楽しませてくれる。事実上の本編となる三章「美しく燃える街」では、マーヤの故郷ユーゴスラヴィアについての垂れ流しに近い説明が入るが、縁薄い国家だけに知識欲で読めなくもない。あとは漠たる予感へ一直線。正味な話、エンターテイメント性には欠ける。ただ、表題通り、「さよなら」の余韻が本作を良作としているのは理解出来る。

創元推理文庫:さよなら妖精/米澤穂信 (2004)

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 米澤穂信

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角川文庫:氷菓/米澤穂信

氷菓
(あらすじ)
いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。

answer.――― 63 点

青春ミステリにカテゴライズされる米澤穂信のデビュー作であり、代表シリーズ作でもある通称“古典部”シリーズの第一作。一読しての感想は、地味の一言。ミステリとしての魅力は皆無に等しく、それを期待すると、だらだらと続く謎とも云えない謎に付き合わされる感覚に陥る。実際、読んでいて満足感に浸れる瞬間は無かった。ただ、これを自分が思春期に読んだと仮定してみると感想も一転、―――興味深いものに。思春期の己に本作がもたらすのはズバリ、ありそうでありそうな日常。そこに見出すは、作品世界への親近感だ。日常とはとかく退屈なもので驚きは減り、その分だけ時間の流れも早まる。しかしそれを断ち切るヒロイン・千反田えるの「わたし、気になります」は、目の前の日常がその一言で簡単に変えられることを教えてくれる。キャラクターの造詣に特化している点は、桜庭一樹の『GOSICK -ゴシック-』シリーズを思わせる……が、ミステリのクオリティこそ優劣付け難いものの、<ヴィクトリカちゃんブヒィィ>には流石に本作の時点ではまったく対抗出来ない。本作はあくまでシリーズの第一巻、長い目で見守れなければ切り捨てるレベルの作品。一応、メインディッシュとも云える表題の謎は副題「You can't escape」を含め、機知に富んでいるので、その辺は著者の現在の活躍の片鱗を覗かせているかな。

角川文庫:氷菓/米澤穂信 (2001)

category: や行の作家

tag: OPEN 60点 米澤穂信

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