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第13回本屋大賞 10位:火花/又吉直樹

火花 (203x290)
(あらすじ)
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。

answer.――― 75 点
賛否両論の評判からどんなKAGEROUなのかと思いきや、意外や意外、何とも「まとも」な作品に仕上がっている本作『火花』は、お笑いコンビ「ピース」の先生こと又吉のデビュー作であり、純文学における大天下の芥川龍之介賞をベストセラーの勢いそのまま受賞した話題作。その概要は、売れない芸人が売れない先輩芸人と出会い、その壊れたセンスに惹かれる、というもの。友人に純文学の書き方を訊いたとき、人に読ませようと思って書かないこと、という答えが返ってきて半ば感心したことがあったが、その大前提の上で「読ませる」工夫が出来ていると、その他大勢から抜け出せるのだろう―――とは手前味噌なレヴュー、『恋人といっしょになるでしょう』稿からの引用だが、その観点からすれば、本作は「読ませる」工夫がしっかり施されている。たとえば、それは著者の実体験を想起させる「お笑い芸人」を題材にしていることだったり、芸それ自体には関係のない色恋の要素、そして、何より「結」で提示される先輩芸人の壊れた「笑い」で確認出来る。純文学は《人間》を描くジャンルであり、そこで求められるのは《面白い》というより《興味深い》ことだ。本作では、お笑い芸人という特殊な職業(とそこへ就いた者たちの感性)に焦点を当てつつ、エンターテイメントとして先輩芸人の「壊れ」具合を披露しているのが素晴らしい。飛び抜けた技巧や無二のセンスこそ無いが、本作を純文学へ該当させるだけの《仕事》は為されている。目くじらを立てることはないのではないでそうか。というか、良作じゃん?これが駄目なら今の純文学、ほとんど駄目だろ。個人的には、先輩芸人の恋人が実話っぽくて興味深かったです。

第13回本屋大賞 10位:火花/又吉直樹

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 又吉直樹 本屋大賞

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第29回山本周五郎賞 受賞作:ユートピア/湊かなえ

ユートピア (201x290)
(あらすじ)
地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤により社宅住まいをしている妻・光稀。そして移住してきた陶芸家・すみれ。美しい海辺の町で、三人の女性が出会う。自分の居場所を求めて、それぞれの理想郷を探すが……。

answer.――― 76 点
「美しい海辺の町」という何の変哲もない地方都市を題材にした本作は、視点を切り替えて複数の真実をあぶり出し、やがて事件の全貌を明かしていく“安心”の湊かなえ印の手法で描かれた作品。デビュー作の『告白』で提示してきたように、湊かなえは《善》であることを許さない。登場人物を徹底的に悪役に仕立て、その人生を嘆かせ、後悔させる―――そこに読み手は暗い安息を得るわけだが、Hateな輩がやはり揃う本作でもっとも口角上げさせてくれたのは、アートな志を持って町へ移住してきた陶芸家すみれ。これぞ凡才!という思考&行動を立ち去るその時まで披露してくれる。湊かなえの凄味はロールモデルが豊富なことだろう。ただ才能が無いだけでは偽者なり得ない。本当の偽者は何より己を知らず、虚栄、そして、虚勢を張るのだ。この辺の機微を登場人物にしっかり施せる故に、デビューよりベストセラー作家として驀進出来たわけである。がしかし、作家としていよいよ頭打ちの印象も。これしか出来ない!これしか書けない!はその実、その通りなわけだが、だからといって派手さに欠けてはいけない。寂れた地方都市の殺人事件とその解決なんて《キャラクター》でもいないかぎり読みたいとも思わない。大衆小説、その担い手であることを忘れてしまうと、後は筆も創造性も落ちていくだけだ。暗く地味な一冊、そうまとめられてしまえば元も子もない。

第29回山本周五郎賞 受賞作:ユートピア/湊かなえ

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 湊かなえ 山本周五郎賞

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第28回小説すばる新人賞 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優

ラメルノエリキサ (201x290)
(あらすじ)
女子高生・小峰りなのモットーは、どんな些細な不愉快事でも必ず「復讐」でケリをつけること。そんな彼女がある日、夜道で何者かにナイフで切り付けられる。手がかりは、犯人が残した「ラメルノエリキサ」という謎の言葉のみ。復讐に燃えるりなは事件の真相を追うが……。

answer.――― 76 点
どんな些細な事でも必ず「復讐」でケリをつける女子高生が「ラメルノエリキサ」なる謎の言葉から自分を切りつけた通り魔を探すストーリーライン。《復讐》というおどろおどろしくも単純明快なテーマを女子高生が背負うというギャップ盛り込んだキャラクターメイクはライトノベル的で、実際、作品自体も躁なヒロインに負けず劣らずの登場人物たちが現れて混沌とした様相を楽しむものとなっている。作中のハイライトは、上述の「ラメルノエリキサ」の謎解き―――のわけなく、そのままズバリ、「復讐」に妄執するヒロインと張り合える歪んだ想いを抱える登場人物たちの遭遇&暴露。完璧なママ、たおやかな姉は、ヒロインの一人称だからこそのジェットコースター的演出を味わえる。とどのつもり、キャラクターが気に入れば好作となる受賞作。ストーリーを求めてはいけません。と書きつつ、著者の伸びしろは《物語》を用意出来るかどうかにかかっているので担当は求めたいところだろうね。

第28回小説すばる新人賞 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優

category: わ行&数字の作家

tag: OPEN 70点 渡辺優 小説すばる新人賞

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第25回小説すばる新人賞 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫

名も無き世界のエンドロール (205x290)
(あらすじ)
ドッキリを仕掛けるのが生き甲斐のマコトと、それに引っかかってばかりの俺は、小学校時代からの腐れ縁だ。30歳になり、社長になった「ドッキリスト」のマコトは「ビビリスト」の俺を巻き込んで、史上最大の「プロポーズ大作戦」を決行すると言い出した。一日あれば、世界は変わる。男たちの命がけの情熱は、彼女に届くのか?

answer.――― 74 点
過去と現在を織り交ぜつつ、「ドッキリスト」「ビビリスト」「プロポーズ大作戦」「一日あれば、世界が変わる」……と日常を《言葉》で彩り、いつの間にか非日常へと逸脱していく作風は、単刀直入に言って、伊坂幸太郎そのもの。一人の才人が道を切り拓けば、そこを通り(なぞり)、踏み固める者が現れるものだが、著者はその典型と言って差し障りない。そうなってくると、本家とのクオリティー勝負となるが、――やや劣勢、かなと。伊坂幸太郎の初期作品(ex.『重力ピエロ』)は、自分のそれまで生きていた日常(思い出&思春期に培った感性)を出し惜しみなくまぶしているが、本作ではそこまでのサービス精神を感じられないのが残念。フォロワー、という二番煎じ的扱いを無意識にしてしまうのもマイナスに働いてしまうだろう。それでも、いざ非日常パートへと突入する終盤は本家と伍する勧善懲悪のカタルシス。表題『名も無き世界のエンドロール』の言い得て妙な、哀しくも爽快感ある幕切れも何とも洒落て印象づけられる。昨今の伊坂幸太郎は持ちうる日常をすり減らし、退屈の域に達してしまったが、在りし日の伊坂幸太郎に出会いたい方にはお薦め出来る作品。ちなみに、「本当に何もかもが終わって、エンドロールが止まる時、あたしはようやく立ち上がれるようになる」なる作中の《台詞》が結末に響く構成。良くも悪くも、造りが丁寧なんだよね。

第25回小説すばる新人賞 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 行成薫 小説すばる新人賞

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第24回小説すばる新人賞 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道

サラの柔らかな香車 (202x290)
(あらすじ)
プロ棋士の夢が破れた男と、金髪碧眼の不思議な美少女が出会う。彼女に将棋を教えると奇跡的な才能が開花する。厳しくも豊かな勝負の世界を描く傑作。

answer.――― 79 点
二十余年生きて真面目に人生を省みれば、どんな薄っぺらい過ごし方をしていようと、何かしらの真理、当人だけが導き出せる結論があると思う。プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出したのは越えられない壁――『才能』か。ストーリーラインはプロ棋士になれず、パチンコで生計立てるくすぶった三十路男が発達障害を匂わせる金髪碧眼の美少女と出会い、女流棋士の新旧”天才”対決、その決着へ運ぶまで。作中、ひたすら「才能」について語られる。それは神聖視されたもので、日常、「才能」について考察する機会のない者にはその界隈の常識(ex.「難しい。非常に難しい質問だ。芥川名人は強い。本当に強い。どうしようもない。でもね、この世界では常に若い人が勝つんだよ」)が披露されるたびに新鮮に響き、刻まれる。本作で汲み取るべき醍醐味は著者が思春期を捧げて見出した「才能」なる不確かなものの輪郭で、登場人物たちの過去&現在はまさしくエンタメ的装飾でしかない。もっとも、上述の新旧”天才”対決は「才能」の他に、「覚悟」もスパイスとしてまぶしてあるため、+αが勝負の本当の分かれ目であることを示しているようで面白い。「才能」の連呼を一本調子に思えてしまう難こそあれ、情熱溢れる若書きが印象づけられるデビュー作。良質です。なお、将棋普及への貢献が認められ、本作は第24回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞。将棋小説として立派なお墨付きを得ている。

第24回小説すばる新人賞 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 橋本長道 小説すばる新人賞

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第23回小説すばる新人賞 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美

国道沿いのファミレス (203x290)
(あらすじ)
勤め先で左遷され、6年ぶりに故郷に戻った25歳の善幸。職場、家族、友達、恋人……様々なしがらみが彼に降りかかる。現代の若者をリアルに描いた第23回小説すばる新人賞受賞作。

answer.――― 73 点
郊外の、どこにでもあるファミリーレストランを舞台にした青春小説……と言っても、登場人物はほとんどが社会人で、主人公はあらぬ疑いで実質、左遷されてきた経緯を持つ。そのあらぬ疑いとは【アルバイトの高校生(♀)をやり捨てた】と来れば、自ずと作品の方向性も察せるというもの。本作のエンターテイメントの核は「痴情」。著者のアレンジは、ファミリーレストラン内に留めず、家族、友人と全方位にもつれを作ったところ。当然、作中にBitch!が現れるのは《お約束》。そのクオリティー次第で作品の評価が決まるわけだが、出会いから別れ、一連の過程含め十分に合格点なBitch!具合。ほぼ全ての登場人物にエピソード&エンドを設けているのもサービス精神溢れている演出。「痴情」故の《人間》模様は文学的と云えば文学的。本稿を書く前に見つけたYahoo!知恵袋での質問「怖い小説だと感じた」なる言及はその観点でのスイッチになると思うので、読了した方は表題で検索して頂きたい。個人的に興味を抱いたのは佐藤姓へのタイプ分け(相手が自分の好きなタイプだったら同じだねと言うが、嫌いなタイプだったら同じ苗字なのを懸命に忘れる)。何気ない言及だからこそ、こんなもんかもしれん、と思いました。

第23回小説すばる新人賞 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 畑野智美 小説すばる新人賞

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第23回小説すばる新人賞 受賞作:たぶらかし/安田依央

たぶらかし
(あらすじ)
マキは、市井の人々の中で誰かの「代役」を演ずる役者。花嫁や母親の代行から、果ては死体役まで。依頼人たちの身勝手さに苛立ちながらも、淡々と仕事をこなしていたマキの前に、ある日、謎の男が現れて……。

answer.――― 72 点
How-Toとは、何らかの作業をする方法や手順に関する非形式的な記述のこと―――と、Wikipediaから引用させて貰ったが、情報溢れる現代社会だからこそ《正確な情報》を集約したハウツー本は、《知識》を得られる手段として以前にも増して歓迎される。昨今では飽くなき娯楽追及からか、ハウツー本にも《ストーリー》、そして、《キャラクター》の導入を求めている印象もある。もっとも、需要があるからといって《知識》ばかり挿していると、形骸化するのはお約束。《ストーリー》や《キャラクター》用いるハウツー本もどきを制作したいならば、書き手は《知識》もさることながら、それを扱えるだけの《知性》を作品に―――有り体に言えば、登場人物に施さなければならない。セレブ母、新妻、時には死体……依頼のままに、あらゆる人物の「代役」を派遣する会社に勤めるマキ(39)を主人公にした本作『たぶらかし』。設定の目新しさこそあれ、連作短編での優等生な起伏が読み手の想像を上回らないのが残念だが、上述の死体役やら、年齢的にも枯れたマキへホの字を書く若者の出現など、トリッキーさは目を惹くし、トントン拍子な「ドラマ化」も納得出来るところ。個人的には、《知識》出すことなく、《知性》感じさせる作風は好印象。《知性》とは何か?という話になるが、それは登場人物が《キャラクター》ではなく、《人》ないし《人間》である瞬間があることだと思う。《キャラクター》求められる現在だからこそ、《人》&《人間》を(キャラクターのなかに)垣間見せる「技」は必須でしょう。

第23回小説すばる新人賞 受賞作:たぶらかし/安田依央

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 安田依央 小説すばる新人賞

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第22回小説すばる新人賞 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子

白い花と鳥たちの祈り
(あらすじ)
中学一年生のあさぎは、母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきた。新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、近所の郵便局に勤める青年、中村だった――居場所のない中学生と仕事の出来ない郵便局員。二人の前に拡がる新しい世界。

answer.――― 75 点
視点人物は二人。家庭事情と思春期を迎えて変化する周りから塞ぎ込む中学生「あさぎ」と発達障害に苦しむ郵便局員「中村」。二人の直接に交わりはせずとも遠くから眺め(支え)合ういわゆる《ハートフル》な作風で、ストーリーそれ自体は実質、「無い」と云える。「明日から、あかりたちとお弁当食べてくれる?」「ただの仕事のできない郵便局員だ」―――視点人物がともに明確な《弱者》故に序盤の陰鬱な展開、吐露は読み手を遠ざけること必至で、実際、その陰は終盤の終盤まで変わることはない。しかし、である。弱者を徹底的に貫く故に《響く》共感がここに描かれている。中盤、どちらにも起こる「アクシデント」を経過し、迎える終盤、二人の怒濤の「吐露」は迫真そのもので、ここまでの陰鬱な現実に耐えていた読み手は感動をせざるを得ない。個人的ハイライトは、たとえば「同僚」遠藤、そして、母など諸所に挿される「中村」への《同情》も捨て難いが、中村自身がセラピストへ感情を爆発させる場面を挙げたい。これは単純に(おいおい、これ、解決出来るのか!?)という、中村の吐露が正論過ぎる正論としてぶつけられるからなのだが。その着地は成る程、セラピストといった感じで十二分(が、ある意味、残念)。中盤の「アクシデント」―――「継父による性的虐待(虚偽)」「小包爆弾」は、現実に根ざした本作の設定からすると破格の演出と言え、著者の思い切りの良さに素直に驚かされた。私は「中村」の発達障害に対して共感してしまったが、「あさぎ」の環境適合のほうに共感される方もいると思う。その場合は、ラストの実父の救済の過去&継父への吐露は感涙確定だろう。《ハートフル》という意味では満額回答にもなり得る好作。が、買って読むよりも借りて読むのをお薦め致します。途中で読み止める人もきっと多いだろう。

第22回小説すばる新人賞 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 河原千恵子 小説すばる新人賞

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このライトノベルがすごい!(2017年版) 5位:ゴブリンスレイヤー/蝸牛くも

ゴブリンスレイヤー (203x290)
(あらすじ)
「俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ」―――その辺境のギルドには、ゴブリン討伐だけで銀等級にまで上り詰めた稀有な存在がいるという。冒険者になって、初めて組んだパーティがピンチとなった女神官。彼女を助けた者こそ《ゴブリンスレイヤー》と呼ばれる男だった。

answer.――― 78 点
一定の売り上げが見込めるからか、Web小説として地固めされた作品の書籍化がライトノベル作家のデビューへの道、その王道にも思えてくる昨今―――やる夫スレの人気作品がついに書籍化!と新手の方角から現れた本作『ゴブリンスレイヤー』。その概要は、「俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ」と辺境のギルドでゴブリンのみを狩って銀等級にまで上り詰めた孤高の冒険者、通称ゴブリンスレイヤーが『仲間』を得て……といったもの。さて、ご存知の通り、ライトノベルは隙間を突くジャンルである。著者は主人公を勇者ではなく、《ゴブリン》というゴキブリの如きザコモンスター専門の狩人に配して隙間を突いてきたわけだが、ザコ相手に俺YOEEEE!とせず、あくまで俺TUEEEE!(でも、ゴブリンもTUEEEE!)としてきたところが著者のセンス溢れる設定演出。如何にゴブリンを強敵に描けるか。その回答に著者は、ライトノベルでは禁じ手とも言える《レイプ》で応えた。作中、ゴブリンたちは(描写こそ省かれているが)女たちを蹂躙する。犯し、妊娠さえさせる。その背徳、ファンタジーでありながらも圧倒的「現実」を読み手に突きつける。本作を読めば《子供程度の知恵、力、体格しかない》ゴブリンが《子供と同じ程度には知恵が回り、力があり、すばしこい》という認識に変わり、その悪夢のような事実に恐れ慄くこと必至だ。ゴブリンスレイヤーの幼馴染、巨乳の牛飼娘は果たして処女(無事)なのか?ゴブリンにのみ執着し、憎悪するゴブリンスレイヤーの背負う過去とは?頁をめくるたびに明かされていく醜悪な生態をスパイスに、ゴブリンは人類の強敵へと変わっていく。《レイプ》の持つおぞましいエンターテイメント性をゴブリンという矮小な器へ注ぎ込んだ異形の一作。「無名」のゴブリンスレイヤーが一筋の光となって(ボクたちの)ヒロインを救います。レイプ、ダメ、ゼッタイ!

このライトノベルがすごい!(2017年版) 5位:ゴブリンスレイヤー/蝸牛くも

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 蝸牛くも このライトノベルがすごい!

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第17回小説すばる新人賞 受賞作:となり町戦争/三崎亜記

となり町戦争 (196x290)
(あらすじ)
広報で突然知らされた、『となり町との戦争のお知らせ』。とりあえず私が心配したのは職場までの通勤手段だったが、町は今までどおり平穏な様相を呈していた。戦時中だという意識を強めたのは、広報紙に掲載された戦死者数。やはり戦争は始まっていたのか。

answer.――― 67 点
三崎亜紀のデビュー作であり、「町」シリーズの第一弾作品。その概要は、ある日、隣町との戦争状態であることが通知されるも日常は異常なまでに変わり切らず、しかし戦死者が現れ、そして、主人公はスパイへの転身が命じられ……というもの。ざっくりと云えば、シュールな作品。シュルレアリスムを日本語訳すると「超現実主義」となるらしいが、この作品をシュールとするならば、超現実の意味も分かるというもの。超現実(戦争)の中に放り込まれた主人公を通し、読み手はそこに普段は内に隠れている己のセンチメンタルを見い出す。その意味での本作の個人的ハイライトは、主人公のパートナーである香西さんへの質問、その返答を挙げたい。「弟は、誰かに殺されたわけではなくって、戦争で死んでいったのですから」とする返答は、本作が《キャラクター》要らずの作品であることを象徴する超現実な台詞だ。故に、キャラクター有りき、娯楽性を求める人にはいささか厳しい作品なのは否定し難いところ。「戦争」下とはいえ、実際には何が起こっているわけでもない。本作を愉しむにはセンスが要ります。

第17回小説すばる新人賞 受賞作:となり町戦争/三崎亜記

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 三崎亜記 小説すばる新人賞 「町」シリーズ

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第16回小説すばる新人賞 受賞作:笑う招き猫/山本幸久

笑う招き猫 (199x290)
(あらすじ)
オトコより、お金より、あなたの笑いがほしい!新人女漫才コンビ、アカコとヒトミ。彼氏もいない、お金もない、だけど夢は忘れない2人に、テレビ出演のチャンスが……。

answer.――― 69 点
(第何次なのかは不明だが)お笑いブームの最中に投下された、女漫才師コンビを主人公にした第16回小説すばる新人賞受賞作。漫才師ということで、物語の焦点は芸が鈍っても売れるTVタレントとなるか、売れなくてもライブで沸かせる漫才師にこだわるのかという二択にコンビそれぞれが思い悩み、衝突するところに置かれている。王道と云えば聞こえはいいが、ありがちと云えばありがちな焦点なだけに、女漫才師を如何に才人に描けるかがキーポイントとなる。が、可もなく不可もなく……なために及第点に到らず。もっとも、文字に起こしての「漫才」披露は著者のチャレンジ精神を買いたいところ。笑いの本質は「間」なのだろうから、それを実質封じられる文章で「つまらなくはない」と思わせる仕上がりは好印象を抱いた次第。題材を変えた著者の「次」の作品に興味を持てる。作中で個人的に興味惹かれたのは、先輩芸人の妻である元アイドルのユキユメノを巡る痴情。結局、ゴシップ(そして、それに巻き込まれること)が一番面白いのは二次元でも、三次元でも変わらない。漫才師たちの「悩み」、選んだ「答え」なんて、現在進行形でTVで汗掻きながら映っているので、そのライブ感と比すれば、本作の内容では霞んでしまう。ユキユメノというゴシップをもっとクローズアップしても良かったと思う。なお、千葉近辺の書店員・出版社営業が催した酒飲み書店員大賞の第2回の受賞作でもあります。

第16回小説すばる新人賞 受賞作:笑う招き猫/山本幸久

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 山本幸久 小説すばる新人賞 酒飲み書店員大賞

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第12回小説すばる新人賞 受賞作:粗忽拳銃/竹内真

粗忽拳銃 (204x290)
(あらすじ)
前座噺家、自主映画監督、貧乏役者、見習いライター。夢を追う4人の若者たちが、本物の拳銃を拾ったことからすべては始まった!

answer.――― 73 点
「荒野の賢者」とは私のフェイバリット・ライトノベル『ロードス島伝説』の登場人物ウォートだが、この「荒野の〇×」というフレーズは思春期に根づいたためか、世間を見渡しているとよく当てはめてしまう。《荒野》とはすなわち誰も寄りつかない場所である。なので、売れてない(知名度低い)と「荒野にいるねえ」と、私はひっそりと思い、そして、時たまつぶやく。さて、ここに荒野の作家が一人―――本作の概要は、芽が出ない文化系の仲良し4人組が実弾入りの拳銃を拾い、事件に巻き込まれるのか!?と怯える、というもの。荒野の作家、万人にとって本作の著者がそれに該当するかはともかく、一読して著者が《職業作家》として数年は見通しがつく印象を受けた。というのも、単純に「巧い」のである。真打ちに上がれない噺家の主人公の《日常》を描いていくなかで、拾った拳銃が違和感となるも、何か起こるわけでもなく……。起伏の無い展開と切ってしまえるが、本作を拳銃を拾った話ではなくあくまで噺家としての成長譚として見ると、拳銃によって起こる終盤の「乱戦」は見事なサービスシーンとなる。本作は詰まるところ、(読み手の期待する)先読みした展開との乖離が欠陥となっている作品。ラストの「粗忽拳銃」の一席は上等の出来なのが、また勿体無い。需要さえ見誤らなければ、好きなものを好きなように書いても読み手に届くでしょう。

第12回小説すばる新人賞 受賞作:粗忽拳銃/竹内真

category: た行の作家

tag: OPEN 70点 竹内真 小説すばる新人賞

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第10回小説すばる新人賞 受賞作:ウエンカムイの爪/熊谷達也

ウェンカムイの爪 (200x290)
(あらすじ)
北海道でヒグマに襲われた動物写真家・吉本を救ったのは、クマを自在に操る能力を持つ謎の女だった。野生のヒグマと人間の壮絶な戦いを描く、第10回小説すばる新人賞受賞作。

answer.――― 74 点
週刊少年マガジンで連載され、「キムンカムイ!キムンカムイ!」と、こうちゃん@へなちょこ大作戦Zにネタにされていた漫画『キムンカムイ』は、果たして現在でも読み継がれているのだろうか?「熊」が出てきて、人を襲ってつまらないとか有り得ません。本作は熊谷達也のデビュー作であり、熊谷達也と云えば!な《マタギ三部作》にこそ数えられないが、例によって「熊」が出現、人が食い散らかるアニマル・パニックな一作。各所で言及されているように後続の作品に比べて薄味、序盤の大学生たちの惨劇を除けば平坦な展開なのは否定出来ないところ。もっとも平坦と言っても、「主人公を不可思議に救った大学助教授」「熊対熊」のような仕掛けもあるにはあるが、それらを「ハイライト!」と挙げられないのが著者の伸び代であり、まだまだ作家として拙い部分。とりあえず、上述の大学生たちの恐慌が本作のメインディッシュなのは間違いないので、そこをまず楽しみましょう。「ウエンカムイ」「キムンカムイ」と善悪の熊の存在、アイヌのその“知識”有り。それが作品のちょっとした箔付けになっている。

第10回小説すばる新人賞 受賞作:ウエンカムイの爪/熊谷達也

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 熊谷達也 小説すばる新人賞

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第10回小説すばる新人賞 受賞作:オロロ畑でつかまえて/荻原浩

オロロ畑 (200x290)
(あらすじ)
超過疎化にあえぐ日本の秘境・牛穴村が、村おこしのため、倒産寸前の広告代理店と手を組んだ。彼らが計画した「作戦」とは!?

answer.――― 74 点
先頃、4回のノミネート&落選の末、ついに『海の見える理髪店』で直木三十五賞を受賞した荻原浩のデビュー作が本作『オロロ畑でつかまえて』。その概要は、過疎/高齢化に悩む村人が広告代理店に勤める旧友(と思っている同級生)に村興しを頼み、UMA発見というイカサマなニュースを流す、というもの。広告代理店に就職していた自身の経歴を生かした題材で、序盤のコンドームのキャッチコピーへのプレゼン―――《我々の業界には『ラ』の音と濁音の入ったフレーズはヒットするという定説があります》は眉唾ながらに検証、そして、(……マジかよ)とのめり込ませる魅惑のリードとなっている。そこからいよいよ到着する過疎村、そのらしいカッペ演出は上々ながら、社の事情で渋々嫌々ながら村興しの依頼を受け、UMA発見!?とマスコミを巻き込む展開はあらすじに起こせばダイナミックに映るものの、実際は目を剥くような細かなアイディアは施されず、大味なのが残念なところ。本作は村興しではなく、中盤より投入される人生逆転賭けるアナウンサー(♀)の心境の変化が実質のメインと云える。結論としては「良」ではあるものの、他人に推すほどには弱い「優」ならずのデビュー作。それでもラスト、オロロ畑の真相はそれこそダイナミック(食うんかいっ!)で、著者のセンスを存分に感じられます。なお本作の後も、「ユニバーサル広告社」シリーズとして続編が刊行している模様。

第10回小説すばる新人賞 受賞作:オロロ畑でつかまえて/荻原浩

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 荻原浩 小説すばる新人賞

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第7回小説すばる新人賞 受賞作:恋人といっしょになるでしょう/上野歩

恋人といっしょになるでしょう (201x290)
(あらすじ)
浅草にある玩具月報社に勤める“僕”と儚げな“彼女”。揺れる心が愛に変わる時、僕たちは同じ月を見ていた。

answer.――― 70 点
友人に純文学の書き方を訊いたとき、人に読ませようと思って書かないこと、という答えが返ってきて半ば感心したことがあったが、その大前提の上で「読ませる」工夫が出来ていると、その他大勢から抜け出せるのだろう。さて、本作は、斜陽企業に就職した行き当たりばったりの主人公(♂)が既婚者(♀)に惹かれ、仕事に精を出し、―――というストーリーライン。主人公が学生時代に消化した小説、映画等の固有名詞を地の文にまぶした《お洒落》な作風で、そこを踏まえての特段の起伏見られない展開に、人によっては《文学》の薫りを嗅ぎ取ってしまうかもしれない。が、著者は固有名詞を《記号》的に配しているように、読み手の目を多分に意識しているので、本作が大衆小説なのは間違いないところ。仮に《文学》の薫りを嗅ぎ取ってしまったならば、きっと「文学=文章の機微」程度に文学を解釈してしまっているので認識を改めたほうがいいだろう。しかし、―――お洒落だ。著者の引き出しの豊富さは「買える」。テレホンショッキングのカラクリを流用しての営業は個人的な作中のハイライト。現実の営業でも実践的に使えるのが素晴らしい。隣人マリーを正ヒロインへ配役しなかった悪手が目に余るものの、読めば知らず己のセンスを磨ける一作。

第7回小説すばる新人賞 受賞作:恋人といっしょになるでしょう/上野歩

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 上野歩 小説すばる新人賞

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第6回小説すばる新人賞 受賞作:天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

天使の卵 (203x290)

answer.――― 70 点
第6回小説すばる新人賞を受賞した村山由佳、初期の恋愛小説。その概要は、美大志望の予備校生が恋人がいるにもかかわらず、心奪われた相手は恋人の姉だった!というもの。時機を得てミリオンセラーとなった本作だが、いざ目を通してみても、特段の感想は浮かばず―――が、それは私個人だけでなく、多くの人にとっても同じなのかもしれないのは、本作への五木寛之の選考評「よくこれだけ凡庸さに徹することができると感嘆させられるほどだが、ひょっとすると、そこがこの作家の或る才能かもしれないのだ」に象徴されるところ。そう、本作はストーリー、そして、その展開を含め、著者へおよそ才能を感じることの難しい、紛うことなき凡作なのである。そのため、文庫本での選考委員たちの歯切れの悪い解説(選考評)こそがもっとも読み応えのあるものとなっている。というのも、各人が上述のように「凡庸」と舌打ちしているにもかかわらず、受賞させざるを得ないのは村山由佳の《文章力》の高さに他ならない。個性的な書き口で(面白げに)魅せる「巧さ」ではなく、村山由佳は真っ当に「巧い」のである。悪文無き、特徴の無き「巧さ」は罪だ。書き手である以上、自分より「巧い」と貶せない。とどのつまり、村山由佳は選考委員たちよりも「巧かった」のである。

第6回小説すばる新人賞 受賞作:天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 村山由佳 小説すばる新人賞

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第3回小説すばる新人賞 受賞作:絹の変容/篠田節子

絹の変容
(あらすじ)
レーザーディスクのように虹色に輝く絹―――その妖しい光沢にとりつかれた長谷は、ハイテク技術で蚕の繁殖を試みるが……。バイオ・テクノロジーの恐怖を描く。

answer.――― 76 点
未だ現役、作家生活は25年を数える篠田節子のデビュー作は、人類によって野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物『蚕』を題材にしたパニックSF―――そして、バイオハザードを蓑にした紛うことなきホラー小説。物語は、斜陽の中小企業の若社長が虹色の光沢を持つ絹布を見つけたことから始まる。そこから「蚕」という馴染みうすい昆虫の、人間無しでは生きられない奇天烈な生態が語られ、野心抱く人間たちとともに、「捕獲」「量産」「改良」―――とバッドエンドへ向けた絞首台へ上がっていく。本作がホラーと化すキーワードは改良の末に遂げた《15cm》の体長、旺盛な食欲を満たすための《雑食》―――《肉食》への転換だろう。体長は実に具体的で、それらが何千、何万と蠢き、ついに人の手から離れる様は生理的嫌悪感を帯びて、読み手を無力な大衆へと貶めてくれる。鶏舎の惨劇は作中の緊張感をグッと高める秀逸醜悪なイベントだ。この他にも、まさしく《パニック》となる脈絡無き死を設け、上々のエンターテイメントとして仕上げている。「蚕」それ自体が興味深い生物なので、そのアレンジも含め、個人的に著者の着眼点の良さを何よりも称えたい一作。楽しめます。

第3回小説すばる新人賞 受賞作:絹の変容/篠田節子

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 篠田節子 小説すばる新人賞

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第2回小説すばる新人賞 受賞作:草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉

草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉 (196x290)
(あらすじ)
京都の公家の末裔・草小路鷹麿は「東京にいる婚約者を探しに行け」という父の遺言に従い上京するも、婚約者探しの過程で鷹麿に襲いかかるミステリアスな事件。一体、真実とは何なのか。

answer.――― 73 点
《受賞作を読む》というコンセプトの上で読書を続けていくと、知名度低い(売上悪い)ながらも興味惹かれる、いわゆる拾い物に出くわすことが間々ある。これぞ、―――《試作品》!と称えたくなる本作は、生まれて26年間、広大な屋敷から一歩も外に出たことがなかった公家の末裔・草小路鷹麿が「東京にいる婚約者を探しに行け」という父の遺言に従い、キラキラとした眼で世間を渡っていく、というもの。善性溢れる「天才」草小路鷹麿に凡夫なフリーターである主人公が嫌味なく圧倒されていく様を目にして脳裡を過ぎるのは、大二病罹患者御用達の作家・森見登美彦である。天才が凡人へ真摯にリスペクトを払い続ける、ただそれだけでどうしてこんなに愉快になるのか。出版は90年、四半世紀も過去の作品ながら、森見登美彦と同質のユーモアを堪能出来るのは何ともオツだ。惜しむらくは《文章》。森見登美彦を森見登美彦足らしめる、つまらないものさえ面白げに魅せるあの文体が当然、本作にはない。それで作品としての差が出てしまうのは致し方ないところ。それでも、草小路鷹麿というキャラクター、そして、彼によって味付け、解体される日常は、森見登美彦が用意するソレよりも上等と云えるので時代を先駆けてしまった《試作品》として目を通してみても良いと思う。個人的に大いに気に入ったので、続編と云える鷹麿の妹が主役張る『草小路弥生子の西遊記』に手を出してしまった―――が、そちらは筆を怠けていたのでイマサンの出来。残念。

第2回小説すばる新人賞 受賞作:草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 小説すばる新人賞 草薙渉

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第10回本屋大賞 9位:百年法/山田宗樹

百年法 (205x290)
(あらすじ)
6発の原爆が投下され終戦を迎えた日本で、ある法律が制定された。通称「百年法」。新技術で不老を与えるかわりに、100年後に死ななければならないというが!?

answer.――― 74 点
「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」とは英国の名相ウィンストン・チャーチルの言だが、実際、先日の国民投票によるEUからの英国脱退―――Brexitはものの見事に衆愚を見せつけてくれただけに、兎角、大衆はその場の情動で奈落へ落ちていくことを再認識した次第。本作はそんな現代の問題を先読みしたか、《国民投票》をキーワードに社会の混乱を描いたSFな一作。「原爆を六発落とされた日本」「不老技術により“永遠の若さ”を手に入れた日本国民」「世代交代のための“生存制限法”による死の強制」と、その舞台、敷かれた設定はスケール大きく目を惹く。が、何と言っても不老からもたらされる経済衰退、少子化の解決を図る死の強制の是非を問う国民投票は作中世界の解かり易い分岐点で、そこを目の当たりにすれば本作が稀に見る大作であることを実感出来る。同時に、その分岐点に辿り着くまでが読み手へ強いられる試練となる。文庫本で「上」「下」巻の構成で、事実上、「上」巻まるまる一冊が登場人物を介しての社会紹介となっている。読み手をその社会の一員に浸透させたい意図は解かるが、流石に退屈だ。しかしながら、最後まで《国民投票》が活かされる仕掛けは大掛かりで楽しめるのは間違いないところ。大作、大歓迎!なプログレッシヴな方はどうぞ。

第10回本屋大賞 9位:百年法/山田宗樹

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 山田宗樹 本屋大賞

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第21回電撃小説大賞 大賞:ひとつ海のパラスアテナ/鳩島すた

ひとつ海のパラスアテナ
(あらすじ)
世界の全てを二つの青が覆う時代「アフター」。14歳のアキは愛船パラス号で大海を渡り荷物を届ける『メッセンジャー』として暮らしていた。ある日、アキは航行中に恐るべき『白い嵐』に遭遇、船を失って浮島に取り残されてしまう。そこは、見渡す限り青い海が広がる孤立無援の島だった。

answer.――― 73 点
物語は14歳の少年(?)アキがペットのカエルとともに嵐によって遭難、無人の浮島に漂着するところから幕を上げる。そして、そんな過酷な第1章はペットを食料にして生き抜いたところで終わる。―――と、いきなりネタバレさせて頂いたが、これは本作を読了するための私の勝手な配慮である。読むも退屈で「あー、こりゃダメだ」と放り捨てたくなる第1章は名著『ロビンソン漂流記』の出来損ないでしかないが、盟友となる第二のヒロイン・タカと漂流する第2章以降は目くるめく海路を往く。どこまでも広がる海、ビフォアと呼ばれる文明の名残り、工夫凝らされた海生物、溢れる格言&造語……と、序盤こそ著者のオリジナリティへの拘りに忌避感を持ってしまうが、性格対照的なアキ&タカの陽性なやり取り、諍いを通してそれらは緩和され、イベントの解決とともに新たな設定の紹介を待ち望むようになる。巷で言及されているように百合と解る百合モノであるにもかかわらず、百合特有の過剰演出が無いのは《適性》ない読み手には有難いところ。こうなってくると、先の展開を読んで《初恋》のイベントが待ち遠しくなる。個人的ハイライトは、第二章「あるフッカーの漂流」でのゴミザメ用いた脱出劇。ここでの「そして今は十割が海。この世界はもう何度も終わっているのよ」というファンタジーは第1章での失地を回復させ、ゴミザメとともに動き出す船の姿には著者を書き手として信頼に足る人物と安心させてくれるだろう。返す返すも、第1章の遅々としたサバイバル劇は拙く勿体無いものの、読み終わってみれば爽快な海洋冒険譚。良質なライトノベルです。

第21回電撃小説大賞 大賞:ひとつ海のパラスアテナ/鳩島すた

category: は行の作家

tag: 電撃小説大賞大賞 OPEN 70点 鳩島すた

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第20回電撃小説大賞 大賞:ゼロから始める魔法の書/虎走かける

ゼロから始める魔法の書
一章 魔女と獣堕ち
二章 【ゼロの書】
三章 ゼロの魔術師団
四章 十三番
五章 火刑
六章 禁呪
終章 魔法免許

answer.――― 72 点
時折り《何でも書ける》と謳いたがる輩がいるが、その「何でも」は多くの場合、多様な「題材」を扱うことを己の《何でも書ける》の論拠にしており、「何でも」の幅の狭さを披露してくれる(ついでに、その手の輩は「題材」自体、そもそも扱い切れていない)。己の筆を誇示したいのならば、《何でも書ける》より《〇×しか書けない》と謳うほうがよほど健全だ。踏み込めば、筆において《何でも書ける》とは超絶技巧的《調整力》であり、その意味するところは障りなく読み進められる文章、破綻ない展開の創出であり、それを貫くためならば、己さえ捨てるプロフェッショナルな判断を下す理性である。故に《何でも書ける》筆を持つ者は、物語を流れるように目通しさせるものの、結果的に「(なんとなく)つまらない」「(面白いけど)引っ掛かりの少ない」作品に仕上がってしまう因果に苛まれる。電撃小説大賞、その節目の第20回の栄えある《大賞》受賞作である本作は、そんな物珍しい《何でも書ける》筆で綴られたファンタジー。魔女狩り行われる世界を舞台に半人半獣の傭兵と魔女が出会い、物語の幕が……という冒頭を読めば何が新しいわけでもない、クラシックな作品だと解る。驚くべきは作中の設定の処理―――リーダビリティの高さで、台詞、地の文、魔女という「語る」先入観などを駆使して流麗に説いていく。既視感漂う設定にもかかわらず、「読めてしまう」のである。正直、目を瞠った―――こんなつまんなそうな設定なのにスゲエ!!と。 人間、ストレスなく「読める(読み切れる)」と一定の評価を下してしまうが、本作はその典型に挙げられると思う。本作は「つまらない」作品だ。しかし本作を「面白い」と感じたならば、その「面白い」の正体は「巧い」である。著者は《何でも書ける》。だからこそ伝えたい、貴方の筆は「面白い」人のためにある。存分に己(の筆)を使いこなしてくれるパートナーを見つけましょう。滅茶苦茶な設定を渡されても、貴方なら「巧く」処理出来る。大事なのはその設定が面白いか否かだ。

第20回電撃小説大賞 大賞:ゼロから始める魔法の書/虎走かける

category: か行の作家

tag: 電撃小説大賞大賞 OPEN 70点 虎走かける

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第20回電撃小説大賞 銀賞:王手桂香取り!/青葉優一

王手桂香取り!
(あらすじ)
三度の飯より将棋好きの中学一年・上条歩が秘かに憧れる人は同じ将棋クラブの主将・大橋桂香先輩。そんな歩のもとに「私たちは、将棋の駒だ」と突如美少女たちが現れる。そ人知を超えた将棋の強さをそなえる彼女たちの指導のもと、歩は棋力をめきめき上げていく。

answer.――― 70 点
将棋の駒の化身が現れ、少年を強き棋士へと導く!というアイディアからも漫画『ヒカルの碁』をそのまま彷彿させる《将棋》を題材にした作品。ライトノベルにかぎらずだが、売上の多寡を《キャラクター》がとりあえず握る昨今、巨乳姉御肌の「香車」、和装しとやかな「歩」、上からの西洋貴族令嬢な「桂馬」と駒の化身たちを総じて女性化したのが、先の漫画からのライトノベルらしいアレンジ。「桂馬をちゃんと有効に使わないからよ!」と内容自体もなかなかに本格的で、(二流とはいえ)プロ棋士を早々に打倒するなんて「大」イベントを前半で消化しての、《横歩》をキーワードにした終盤の一戦は、相手方のBUMP!な気概含めて素直に〇を打てる出来。丁寧な筆致で、巷の評判通り、いわゆる《良作》に数えられることに何ら異論ない。がしかし、どうにも手放しで褒められないのは、素直で受け身な主人公、そして、良くも悪くも破綻の無い展開からか。本作、結局、真っ当に将棋の話であり、駒の化身たちもそんな「設定」を取り払えばファンタジー要素0の年上の女師匠に過ぎない。ライトノベルというティーンが手に取るジャンルで出版するのだから、もっと《キャラクター》を押し出す演出―――それこそ化身たちの『日常』、各々のパーソナルな『過去』、現代に対する好奇心を描く、そんな「寄り道」があって然るべきだったと思う。著者的には巻数を重ねて《キャラクター》化していく意図があったんだろうが、……時勢を見誤ったかな?この辺、大評判の後発の将棋ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』(未読)が答えを出してくれているでしょう。個人的には主人公の想い人“ザ・優等生”な桂香部長が優等生として100点満点に描けているだけに大化けが期待出来て◎のキャラクターメイキングでした。なお、《将棋》題材というと大衆小説ですが、『盤上のアルファ』が快作でしたので未読の方はオススメです。

第20回電撃小説大賞 銀賞:王手桂香取り!/青葉優一

category: あ行の作家

tag: 電撃小説大賞銀賞 OPEN 70点 青葉優一

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第13回本屋大賞 4位:永い言い訳/西川美和

永い言い訳 (201x290)
(あらすじ)
人気作家の衣笠幸夫は、突然のバス事故により、長年連れ添った妻を失うが、妻の間にはすでに愛情と呼べるようなものは存在せず、妻を亡くして悲しみにくれる夫を演じることしかできなかった。そんなある時、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族と出会い、……。

answer.――― 70 点
2016年、自らメガホンを取っての本作の映画化が決定したように、小説家と云うより映画監督として知名度高い西川美和の久方振りの長編小説。その概要は、妻を交通事故で亡くした男が、同じ事故で母親失った一家と触れ合い、初めて妻と向き合う、というもの。もっと端的に言ってしまえば、他人事から身内の不幸と自覚するまで―――「泣く」までのストーリーライン。文章は脚本まがいのソレを想像していると、過去作で三島由紀夫賞にノミネートされたように《文学》作品と提示されても違和感のない能弁な筆に驚くものの、……上述の通り、本作は「泣く」までのドキュメント。そこに説得力を持たせるために、悲しむ妻の親友の遺族、不倫相手やらを投入し、その上でも冷めたままの主人公の心情を淡々と綴っていくわけだが、これはやはり《小説》ではなく《映画》なのだと思う。文字の上でのエンターテイメントの要素が少な過ぎる。主人公が人気作家ならば自作&他作の批評、書き方のコツ、書き出しの悩み、独自の取材方法などの「作家」面の《知識》にもなり得るものを提示して欲しいし、不倫相手が編集者ならば主人公の「作家」面をもっとアピールして欲しい。結局、本作で見たいのは「画」だ。“演じている”と自覚している主人公の表情の機微を愉しみたい。本でそれを読もうとすると、表題の通り、ひたすらに「永い」。未読の方はそのまま手に取らず、「映画」で本作を愉しみましょう。

第13回本屋大賞 4位:永い言い訳/西川美和

category: な行の作家

tag: OPEN 70点 西川美和 本屋大賞

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第13回本屋大賞 7位:戦場のコックたち/深緑野分

戦場のコックたち (198x290)
(あらすじ)
誇り高き料理人だった祖母の影響で、コック兵となった19歳のティム。彼がかけがえのない仲間とともに過ごす、戦いと調理と謎解きの日々を連作形式で描く。

answer.――― 76 点
異国を舞台に“少女”関わる様ざまな謎を詰め込んだデビュー作『オーブランの少女』でミステリー界隈に留まらない支持を受けた深緑野分の「初」の長編作品。デビュー作同様、本作もノルマンディー上陸作戦に従事する合衆国軍兵士という異国、そして、異邦人を採用し、翻訳小説を思わせる重厚な―――ともすれば(ボリューム含め)読み疲れる筆致で、読み手を戦場ミステリーへ誘う。目を惹かれるのは「パラシュート」「粉末卵」といった見慣れない道具から始まるミステリー!と紹介したいところなのだが、それらが謎として絡む序盤の二編は正直、退屈に映る。戦場コックへと実質降格した、凡庸、あるいはそれ以下の能力の主人公ティムは傍観気味で成長も特に無く、提示される謎は盟友エドによって解かれるだけに過ぎない。本作の醍醐味は読み手が(……これは面白くない!)と覚悟を決めたそこから先―――銃弾、爆弾当たればサヨウナラの状況のなか、重苦しく惨禍が進み、登場人物たちの心が麻痺し、歪になっていく様だろう。ミステリー小説から戦争小説へ。本作において「嬉しい!」「楽しい!」「大好き!」といったポジティヴな感想を吐けることはない。戦場の“日常”を登場人物とともに歩み、本を閉じたとき、そこから“現実”へ還る―――そのトリップに価値見出す作品。個人的には、文字量を半分にして、主人公には主導的な立場を与えて欲しかった。もっとも、そんなエンタメなアレンジしちゃうと本作を支持する人が離れちゃうだろうけどね。

第13回本屋大賞 7位:戦場のコックたち/深緑野分

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 深緑野分 本屋大賞

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第13回本屋大賞 8位:流/東山彰良

流 (205x290)
(あらすじ)
1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。

answer.――― 74 点
歴史小説の重鎮・北方謙三が「20年に1度の傑作」と称賛した!というのが売り文句となっている本作は、蒋介石を喪った台湾を舞台に、祖父の殺人事件からその真相に辿り着くまでの物語。しかし祖父の殺人事件そのものより、表題に「流」と掲げられたように、無軌道で刹那に生きる若者を介して、当時の台湾とその歴史、文化をある種の短編形式に紹介していくのが面白い。異国を舞台にしているが故の説得力か、―――幽鬼を祀るのは、台湾では珍しいことではない。という一文を滑り込ませ、読み手にさらりとファンタジーを呑み込ませるダイナミックな仕掛けも目を瞠る。ただ、当時の《台湾》という世界に触れていく愉しみはあるものの、祖父の殺人事件を解決する、というミステリー小説としては内容に脱線が多く、その期待に応えられる造りを為していないのが難点。青春小説としても、やはり主人公の目的がその場その場のために無軌道に過ぎる。「物語」を楽しもうとしてしまうと、消化不良に陥ってしまう人もいることだろう。本作は《台湾》というミステリアスな世界を覗く心持ちでいるのが楽しむための条件となる。第153回直木三十五賞受賞作。

第13回本屋大賞 8位:流/東山彰良

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 東山彰良 本屋大賞 直木三十五賞

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第3回ラノベ好き書店員大賞 5位:氷の国のアマリリス/松山剛

氷の国のアマリリス
(あらすじ)
氷河期が訪れ、全ては氷の下に閉ざされた世界。人類は『白雪姫』という冷凍睡眠施設で眠り続け、そして、それを守るロボットたちが小さな村を形成し、細々と地下での生活を続けていた。副村長の少女ロボット・アマリリスは崩落事故による『白雪姫』の損傷や、年々パーツが劣化する村人たちのケアに心を砕く日々を送っていた。全ては―再び“人間”と共に歩む未来のために。

answer.――― 74 点
氷河期が訪れ、人類すべてがコールドスリープ!その終わりを待つ世界で動くは、再びご主人様へ仕えることを願うロボットたちのみ!という、いわゆる《終末》もの。物珍しいのは、ロボットたちすら長年のマイナス環境下で劣化、そして、人類の生命維持装置のために己のパーツを提供&欠損し、「終わり」を迎えていく酷薄な状況に追い込まれていること。その上で、眠る人類たちの素性を知り、……と、本作はこのライトノベルがすごい!(2012年版)にランクインして話題を呼んだデビュー作『雨の日のアイリス』と同様、ロボットを通して性悪説を主張するような展開は実に堂に入ったもので、著者の「面白い」、その方程式にも映る。確立した構成は《遊び》を入れる余裕も生まれ、たとえば本作の序盤を任されるギャーピー&デイジーの悔恨のエピソードは、本編それ自体よりも個人的に魅せられた。頁をめくるほどに切迫していく状況も説得力あり、中弛みも少ない良質な一作だ。しかし、……どうにも推したくないのは何故なのか?と我ながら不思議に思ったが、読み返してみると、下ネタの下品さにある模様。ロボットにヴァギナが装着されているのは構わんが、これ、この作品で披露する必要ある設定か?メルヘンな世界観でヒロインにブチ込みたいと常に主張し続けるアイスバーンはギャップを狙っているのかもしれないが、AV男優じゃないんだから台詞にはもっと機微が欲しい。もしかすると著者は下ネタが得意だと思い込んでいるのかもしれないが、これは独り善がりだ。下ネタ投下するなら、しっかり「笑い」(読み手自身によるツッコミ)を起こしてください。

第3回ラノベ好き書店員大賞 5位:氷の国のアマリリス/松山剛

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 松山剛 ラノベ好き書店員大賞

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第3回ラノベ好き書店員大賞 6位:クロックワーク・プラネット/榎宮祐&暇奈椿

クロックワーク・プラネット (206x290)
(あらすじ)
落ちこぼれの高校生・見浦ナオトの家に、ある日突然黒い箱が墜落する。中にいたのは自動人形の少女リューズ。作り変えられた世界と変われない人類。理想と現実が悲鳴をあげる時、二つの出逢いが運命の歯車を回す!

answer.――― 70 点
たとえば村上春樹の作品を《文学》の軒に並べたくない人の論拠に「登場人物の台詞を日常で見掛けることがない」なる言があるように、《文学》とは《人間》を描くもの―――ある種のリアリティーを求めるジャンルだと思うが、ライトノベルではその逆、人非ざる《キャラクター》の伸長を追及している節がある。つまり、「登場人物の台詞が日常からかけ離れている」ほど喝采を浴びるのである。勿論、これは極端な解釈には違いないが、少なくともモブにビール瓶で殴られて台詞無く即死するような《人間》はライトノベルに登場してはいけないのである。さて、本作は『ノーゲーム・ノーライフ』で名を上げた榎宮祐が暇奈椿との「合作」という珍しい形式でリリースしたライトノベル。ストーリーラインは、寿命を迎えた地球を舞台に、落ちこぼれの高校生が超級の自動人形を手に入れたことで、進化の止まった人類に希望が……!というSF風味のもの。一読の印象は、画が視える、と表現したくなるキャラクターを全面に押し出してくる作風。画が視える、というのは描写が細緻で秀逸という意味ではない。むしろ、描写は他のライトノベル作品と比して少ない方だろう。が、文字量それ自体は比較的多い。このギャップの正体は、自動人形リューズの徹底したSなキャラクター台詞や“時計仕掛けの惑星”というコンセプトに合わせたポエミーな地の文にある。画が視える、それは表紙やイラストからの(イメージの)刷り込みを有効に活かした跡だ。本作にはおよそ《人間》がいない。故に、これがライトノベルだ!と押しつけられれば、腑に落ちてしまう部分がある。『ノーゲーム・ノーライフ』と実質、内容は変わらないが、共作者の分だけ作品の世界観が前に出てくるので、そこは+に。ただ、「これを読ませたいならエロゲー(ヴィジュアルノベル)にしてくれ」と要求したくなるあたり、もしかすると榎宮祐の作品を楽しむにはモダンな感性が要るのかもしれない。

第3回ラノベ好き書店員大賞 6位:クロックワーク・プラネット/榎宮祐&暇奈椿

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 榎宮祐 ラノベ好き書店員大賞

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第3回小学館ライトノベル大賞(ガガガ文庫部門) 大賞:あやかしがたり/渡航

あやかしがたり (202x290)
1.水待人
2.煙々羅
3.勘定間諜
4.犬追われ物
5.騒ぐ刀
6.懐疑は踊る
7.山手騒動
8.あやかしがたり

answer.――― 70 点
ゲスト審査委員を務めた田中ロミオより「達者な筆致と高い完成度を誇り、作者の年齢を鑑みると同じ物書きとして「ちょっと今のうちにどうにかしておきたいな」と暗い情念を抱かせるものがありました」とその将来を嘱望された渡航のデビュー作。その概要は、あやかしなトラウマ持つ若侍・新之助が帰郷の道中に出会った珍奇な仲間と辿り着いた郷里であやかし関わる陰謀に挑む、というもの。本作の感想は上記の講評に尽きる印象―――とどのつまり、「巧い」である。語彙が豊富なことはそれこそ一頁目から察せられるだろうし、登場人物の台詞遣いも目垢のついていない言葉に「格」負けしていない。個人的に唸ったのは、一章「水待人」における相次ぐ出会い。第一の脇役である拝み屋ふくろうは、主人公も怪しむ存在ながら逆にそれが主人公自身の紹介へと繋がり、第二の脇役である謎の娘ましろは、まさしく「謎」そのものとなって舟へと飛び込んでくる。どこにでもありそうな、何気ないオープニング……ながら、よくよくその演出の意図に気づけば、ところがどっこい!の凡とは一線画す“仕事”だと解かる。もっとも、そんな唸らせられる第一章が“先”を期待してしまうピークとも云えるのが本作の難点。文章は所詮、物語を彩り、飾るものでしかない。巧ければ面白いのかと問われれば、やはり限界があるのである。そもそも、「主人公」新之助が常に自分を見つめているのは作品の、構造的な問題となっているようにも思う。「物語」のために主人公が要る、これが本来的な大前提だ。この逆、《主人公のために「物語」が要る》というアプローチで筆を執るならば、あやかし関わる故郷の藩の権力闘争という大風呂敷ではなく、もっと小さな事件を用意したほうが良かっただろう。《小説》としての出来は高いものの、……な「物語」の弱さ目立つアンバランスな一作。

第3回小学館ライトノベル大賞(ガガガ文庫部門) 大賞:あやかしがたり/渡航

category: わ行&数字の作家

tag: 小学館ライトノベル大賞(ガガガ文庫部門)ガガガ大賞 OPEN 70点 渡航

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第12回本屋大賞 5位:土漠の花/月村了衛

土漠の花 (198x290)
ソマリアの国境付近で、墜落ヘリの捜索救助にあたっていた陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。その野営地に、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕があがった。

answer.――― 75 点
月村了衛と言えば、巷を騒がす10年代の機動警察パトレイバーこと『機龍警察』シリーズがまず思い浮かぶと思うが、緊張感のある雰囲気作り、達者な「動き」―――戦闘描写を大衆小説への転換せしめたのが「自衛隊」派遣を題材にした本作。ソマリアを舞台に、現地の女性の助けに応じたことによって《虐殺》に巻き込まれた自衛隊員たちが専守防衛という枷を解き、精神を削りながら抗戦するストーリーライン。概要からも昨今の時代情勢を踏まえたメッセージ性ある娯楽作品と解釈出来るが、早々にゲリラに襲撃を受け、以降は混乱の中での逃亡劇。とりあえず、―――登場人物たちは鮮血を撒き散らして死んでいく。断続的に挿し込まれる戦闘場面はどれも著者の自慢の筆力を存分に注ぎ込んでいるため、血沸き肉躍るその瞬間を覗きたい読み手には満足感高い仕上がり。銃撃戦はもちろん、カーチェイス、廃墟での立て籠もりと手を替え品を替え危機を演出してくれる。ながらに、逆に言えば、それ以外は特段取り上げたくなる要素は少ない。何故、執拗に襲撃を受けるのか?助けた女性は何者なのか?という物語の核となる謎も蓋を開けずとも察せるもので、物語としての求心力は弱い、と言わざるを得ない。この点、高野和明のSFを孕んだ力作『ジェノサイド』と比較してみると、本作に「足りない」ものが輪郭を持って解かるだろう。筆力の高い凡作、といった印象だが、筆力の高さ故に緊張感は演出出来ているので「読める」。

第12回本屋大賞 5位:土漠の花/月村了衛

category: た行の作家

tag: OPEN 70点 月村了衛 本屋大賞

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第11回本屋大賞 1位:村上海賊の娘/和田竜

村上海賊の娘 (201x290)
(あらすじ)
和睦が崩れ、信長に攻め立てられる大坂本願寺。海路からの支援を乞われた毛利は村上海賊に頼ろうとした。その娘、景は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女だった―――。

answer.――― 72 点
本作は、「海賊王」村上武吉の謎の実娘・景という史実からストーリーを編んだ歴史小説。「貰い手のない醜女」というレッテルを貼った上で、男勝りの怪力&胆力を持つヒロイン・景が、結婚相手を探しつつ、信長の侵攻を受ける本願寺に加勢するストーリーライン。読書中、そして、いざ読了してみても印象はついに変わらず―――本屋大賞第1位という評価に首をひねってしまったのが正味な話。やはりと言うべきか、「貰い手のない醜女」というヒロインに相応しからぬレッテル張りにその原因を見てしまう。当然といえば当然だが、景はいわゆるブサイクではない。戦国時代に生きる人々の美的感覚からズレているだけであり、作中では醜女の景の容姿を美しいと見做す者たちも少なくない……が、要所で醜女、醜女と連呼して刷り込み、そんな醜女が活躍する物語を楽しむのは難しい。どんな理由があろうとも、「醜い」容姿を主人公格に与えてはいけない。日本の海賊、村上水軍を題材として取り上げる作品は物珍しく、挿される“知識”は新鮮だったものの、歴史小説でありながら登場人物たちのキャラクターがかったコミカルな調子、「女性ヒロインが活劇する」という観点から、ライトノベルにも似た印象もあり、個人的にはそれが軽薄にも映った。キャラクターを重視するなら、今度は“知識”が邪魔だ。作品の質としては、著者自身初の本屋大賞ランクイン作品『のぼうの城』のほうがキャラクターと知識のバランスが取れているので、同作をお薦めしたい。

第11回本屋大賞 1位:村上海賊の娘/和田竜

category: わ行&数字の作家

tag: OPEN 70点 和田竜 本屋大賞

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