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第13回本屋大賞 10位:火花/又吉直樹

火花 (203x290)
(あらすじ)
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。

answer.――― 75 点
賛否両論の評判からどんなKAGEROUなのかと思いきや、意外や意外、何とも「まとも」な作品に仕上がっている本作『火花』は、お笑いコンビ「ピース」の先生こと又吉のデビュー作であり、純文学における大天下の芥川龍之介賞をベストセラーの勢いそのまま受賞した話題作。その概要は、売れない芸人が売れない先輩芸人と出会い、その壊れたセンスに惹かれる、というもの。友人に純文学の書き方を訊いたとき、人に読ませようと思って書かないこと、という答えが返ってきて半ば感心したことがあったが、その大前提の上で「読ませる」工夫が出来ていると、その他大勢から抜け出せるのだろう―――とは手前味噌なレヴュー、『恋人といっしょになるでしょう』稿からの引用だが、その観点からすれば、本作は「読ませる」工夫がしっかり施されている。たとえば、それは著者の実体験を想起させる「お笑い芸人」を題材にしていることだったり、芸それ自体には関係のない色恋の要素、そして、何より「結」で提示される先輩芸人の壊れた「笑い」で確認出来る。純文学は《人間》を描くジャンルであり、そこで求められるのは《面白い》というより《興味深い》ことだ。本作では、お笑い芸人という特殊な職業(とそこへ就いた者たちの感性)に焦点を当てつつ、エンターテイメントとして先輩芸人の「壊れ」具合を披露しているのが素晴らしい。飛び抜けた技巧や無二のセンスこそ無いが、本作を純文学へ該当させるだけの《仕事》は為されている。目くじらを立てることはないのではないでそうか。というか、良作じゃん?これが駄目なら今の純文学、ほとんど駄目だろ。個人的には、先輩芸人の恋人が実話っぽくて興味深かったです。

第13回本屋大賞 10位:火花/又吉直樹

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 又吉直樹 本屋大賞

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この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:All Time Best!!】


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ようやく新たな【All Time Best!!】が完成!感無量であります!能書きは下にたらたらと書いてございますので、挨拶はこの辺で切り上げまして。小説すばる新人賞に興味がありつつも未読のまま、……な方は参考にしてみて下さい!では、始まり始まり~!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

標題通りの「競馬」題材ながらレースの描写は少なく、あくまで人間ドラマとして描かれている本作。その人間ドラマとは、ズバリ―――《敗者》の美学。本作の主人公は己の負けを認めるために勝つ。娯楽要素を詰め込み過ぎなまでに詰め込み、それらを完全処理!結果、デビュー作ながら10万部突破という快挙を成し遂げて、著者にとって一世一代の代表作となった。終盤の大レース「天皇賞(秋)」……そのゲートが開く間際につぶやかれる「ショウサン」は、誰が読んでも鳥肌立つ名演出。小説の醍醐味を得られること間違いなし!小説すばる新人賞の受賞作で娯楽を求めるなら、まずは本作をお薦め致します。

どうせ、こんなもんだろ?という予想をしっかり超えてくる傾奇者たちの戦国Rock 'n' Roll!文字で聴かせる、という偉業をキャラクターデザインからアプローチしているのが素晴らしい。三味線速弾く藤次郎と「黒人」弥介の放つアフリカン・ビートの衝突、男臭さ霧散させる「踊り手」ちほ、実質の物語担うヘタレな「笛吹」小平太―――と、主要登場人物の役割に抜かりはない。知名度低いものの、埋もれさせるには勿体無いアイディアとクオリティー。未読の方は是非、手に取ってあげて下さい。兎も角、稀に見る「痛快」な一作。

千早茜の、凡百のナンチャッテ!作家たちとは一線を画す筆力、感性はこのデビュー作から発揮されていたことを証明するように、小説すばる新人賞のみならず泉鏡花文学賞も受賞。『物語』をある種必要としない、希少な筆は「売られる」ために育てられた美しい姉弟の堕ちていく《耽美》な様を見事に描き切った。表紙には宇野亜喜良を起用。業界からの期待の高さが伺えます。

才能、才能、ほらまた、才能!とやや一辺倒な若書きながら、……だからこそ!と推したくなるデビュー作らしいデビュー作。プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出した真実が情熱的に刻まれている。新旧”天才”対決―――心躍ります。第24回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞。将棋小説としても立派なお墨付きを得ている作品。

専門家も唸る“知識”をエンターテイメントの一要素として作品へ組み込む、インテリゲンチャご用達の作家の一人・佐藤賢一のデビュー作。夢を求めて渡ったイスパニアの地で恋に落ちるも夢を忘れられず、誘いのままに戦に出掛ける侍―――その様は実に情動的で「悲劇」と呼ぶに相応しい。作品の「質」という観点では、ここで上位に選んだ四作よりも実質、本作のほうが上だろう。しかし重厚、故に生半可な読者では忌避感出てしまうのも避けられない。「表題」は壮大な仕掛けなので、手に取ったら最後まで読み切りましょう。かの銃士隊隊長の登場も必見です。

なかなか手を伸ばしにくい「発達障害」を題材にしたハートフルな一作。例によって、お涙頂戴!な展開なのだが、視点人物を二人配し(「発達障害」役は一人)、それぞれの《弱者》っぷりを徹底したことで、終盤の「吐露」がいよいよ胸に突き刺さる。あくまで現実的な設定に根ざした上で視点人物、両者に起こる中盤のイベントは実質の最大級!この思い切りの良さは燻る作家群は是非参考にして貰いたいところ。出し惜しみなし!

☆☆  総評  ★★

【小説すばる新人賞:第1回 ~ 第10回!】の稿でも言及したが、小説すばる新人賞の受賞者には、後に天下の直木三十五賞、大天下の芥川龍之介賞を受賞した作家が多数いる。もっとも、それは第10回までの受賞者に集中していたが、最近では朝井“(ノ゚Д゚)キリシマ、ブカツヤメロッテヨ!”リョウが『何者』で直木三十五賞を受賞、作品が候補に挙がった千早茜も控え、新人作家の良質な登竜門として盛り返し、面目を保っている印象。さて、 この【小説すばる新人賞:All Time Best!!】だが、見事なまでにその直木賞&芥川賞作家たちの作品を選んでいない。かろうじて佐藤賢一の『ジャガーになった男』を第5位に取り上げてはいるが、娯楽小説としては重厚な作風なために、個人的には選びたくなかった。もっとも、読めば「質」の高さは否定出来ないところなので、妥当と言えば妥当な選出だとも思っている。小説すばる新人賞は文学賞ではない。あくまで大衆小説、娯楽を提供出来る作家の輩出を意図した公募賞なのだから、万人が「面白い!」と唸りたくなる作品こそ推薦したい。という観点から考えると、個人的に第1位と第2位に置いた作品―――『ジョッキー』と『桃山ビート・トライブ』は不動の2トップ。どこの公募賞に出しても受賞するだろうクオリティーが両作にはある。後者はセールスが評判に追いついていない印象もあるので、未読の方は是非手に取って読んで欲しい。第3位、第4位のランクイン作品は若書きが心地良いデビュー作らしいデビュー作。青田買いの楽しみが味わえる。【次点】は複数候補あったものの、《感動》出来る観点で選出。終盤に披露される発達障害者の《吐露》のカタルシスたるや尋常ではない。選ばなかった作品では、篠田節子の『絹の変容』はVividなホラーSFで、やはり著者の可能性を感じざるを得ないところ。“森見登美彦のプロトタイプ”な『草小路鷹麿の東方見聞録』、“ザ・伊坂幸太郎”な作風の『名も無き世界のエンドロール』、著者の次作を期待させる爽やかな『はるがいったら』あたりも拾い物。しかし、まあ、……未読ならばランクイン作品を順番に読んで頂きたい。実際問題、「面白い!」は人それぞれだが、それでもかぶるものはかぶるのである。受賞作を読む!というコンセプトで消化していくと「おい、何で消えた!?」な葬り去られた作品、「全盛期はここだったか!?」な再発見な作家と出会えるわけだが、この小説すばる新人賞では『ジョッキー』を拾えたのが競馬好きの私としても最大の収穫でした。大衆小説らしい大衆小説、しっかりと引き継ぎたい良質の遺産(旧作)です。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

86  ジョッキー/松樹剛史  【第1位】

85

84

83  桃山ビート・トライブ/天野純希  【第2位】
    魚神/千早茜  【第3位】

82

81

80  ジャガーになった男/佐藤賢一  【第5位】

79  サラの柔らかな香車/橋本長道  【第4位】

78  はるがいったら/飛鳥井千砂

77  

76  絹の変容/篠田節子
    ラメルノエリキサ/渡辺優

75  白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子  【次点】

☝  満足  ☟  普通


74  オロロ畑でつかまえて/荻原浩
    ウエンカムイの爪/熊谷達也
    名も無き世界のエンドロール/行成薫

73  恋人といっしょになるでしょう/上野歩
    草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉
    粗忽拳銃/竹内真
    国道沿いのファミレス/畑野智美

72  たぶらかし/安田依央

71  

70  天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

69  赤と白/櫛木理宇
    涼州賦/藤水名子
    笑う招き猫/山本幸久

68

67  となり町戦争/三崎亜記

66  走るジイサン/池永陽
    プリズムの夏/関口尚

65  バーバーの肖像/早乙女朋子
    八月の青い蝶/周防柳
    英文科AトゥZ/武谷牧子

64  8年/堂場瞬一

63  でかい月だな/水森サトリ

62

61  

60  桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ
    パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ

☝  普通  ☟  不満


59  砂時計/吉富有

57  包帯をまいたイブ/冨士本由紀

56  マリアの父親/たくきよしみつ

55  川の声/山本修一

45  砂漠の青がとける夜/中村理聖

40  蛇衆/矢野隆

36  こちらノーム/長谷川潤二

☝  不満  ☟  アマチュア


35  陋巷の狗/森村南

30  ゴッド・ブレイス物語/花村萬月

現在、2017年03月03日/修正

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まだ第29回の『星に願いを、そして手を。』を未読なんだけど、未読なんだけど、俺は今書きたいから、そんなの関係ねえ!そんなの関係ねえ!精神で仕上げさせて頂きました。同作を後々レヴューした後、改めてこの稿も改稿する予定です。まあ、「最年少」なんてレッテルで売ろうとしているだけでしょ?きっと推したくならないっしょ!と予想中。ではでは、現時点での 【小説すばる新人賞:第21回 ~ 第29回!】、始めさせて頂きます!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

着々と直木三十五賞を受賞させるための計画が進行している感のある千早茜のデビュー作。もっとも、いざ読んでみればカオナシたちがバックアップしたくなるのも納得の、凡百のナンチャッテ!作家たちとは一線を画す筆力、感性が確認出来る。「売られる」ために育てられた美しい姉弟を主役に起用した本作でも、堕ちていく二人の《耽美》な様を描き切った。『物語』をある種必要としない、希少な筆は目撃する価値がある。小説すばる新人賞のみならず、本作は泉鏡花文学賞の受賞作。読んで損になることはまずないでしょう。

プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出したのは越えられない壁――『才能』。身を賭して掴んだその輪郭を、己の筆で女流棋士の新旧”天才”対決へ転換せしめたのが本作。才能、才能、ほらまた、才能!とやや一辺倒な若書きながら、それだけに情熱も感じられる。「将棋」題材の作品として上等の部類でしょう。

発達障害者を題材にした作品となれば、お涙頂戴!となるのは必然なわけで、本作もそこに軒を連ねる。アレンジは互いに見掛けるだけで「交わらない」視点人物を二人配し、それぞれの《弱者》っぷりを徹底したこと。「発達障害者」中村の苦悩は真摯なもので、終盤の怒濤の吐露はまさにハイライトに値する。なかなか手を伸ばしにくい題材ながら読み応えは十二分に有り。

(ノ゚Д゚)キリシマ、ブカツヤメロッテヨ!という人工的なベストセラー小説。皆が読んでるなら読んでおかないと、後々、センスを疑われる事態が生じることもあるので掛け捨ての保険扱いで押さえておきたいところ。

☆☆  総評  ★★

名実ともに小説すばる新人賞では随一の知名度を誇る『桐島、部活やめるってよ』をどう扱うかまず迷う、この第21回 から 第29回までの受賞作群。もっとも、最新作である第29回の『星に願いを、そして手を。』を未読なため、正確には―――この受賞作を読め! 【小説すばる新人賞:第21回 ~ 第28回!】なのだが、その辺は「最年少」「現役高校生」というレッテルで売り出しているあたりからお察しして強気に無視。「現役大学生」というレッテルで売り出された『桐島、部活やめるってよ』の話題性を上書き出来るか否かが個人的な同作の焦点。そんなわけで、大衆小説として真っ当にお薦めしたいのが上述の『魚神』、『サラの柔らかな香車』、そして、『白い花と鳥たちの祈り』の三作。特に『魚神』、『サラの柔らかな香車』の二作はデビュー作らしいデビュー作で、著者の才気が奔っている印象。新人賞、新人作家ならではの若書きが楽しめるのが良い。選から漏れたが伊坂幸太郎クローンな『名も無き世界のエンドロール』、メディアワークス文庫賞を授与したいラノベ風味な『ラメルノエリキサ』あたりも拾いどころ。正味、小粒な受賞作が揃った感もあるが、大ハズレもない(……本当かな?と自分でも懐疑的になったワw)のは大台である第30回を迎える新人賞、作家への登竜門としてしっかり認知されているからだと思う。今後も良質な作品を輩出して頂きたいですね、ハイ。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

83  魚神/千早茜  【第1位】

80  

79  サラの柔らかな香車/橋本長道  【第2位】

78  

77  

76  ラメルノエリキサ/渡辺優

75  白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子  【第3位】

☝  満足  ☟  普通


74  名も無き世界のエンドロール/行成薫

73  国道沿いのファミレス/畑野智美

72  たぶらかし/安田依央

71  

70  

69  赤と白/櫛木理宇    

68

67  

66  

65  八月の青い蝶/周防柳

60  桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ  【次点】

☝  普通  ☟  不満


59  

55  

45  砂漠の青がとける夜/中村理聖

40  蛇衆/矢野隆

36  

☝  不満  ☟  アマチュア


35  

現在、2017年03月01日/修正

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前回から二日で脱稿!というわけで、間隔短く 【小説すばる新人賞:第11回 ~ 第20回!】へGo!計画は成功と相成りました。まあ、この受賞作を読め!は該当作品のレヴューから引用するから書きやすいのが大きいね。ではでは、 【小説すばる新人賞:第11回 ~ 第20回!】のお薦め作品をご紹介させて頂きますYo!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

個人的に小説すばる新人賞の受賞作において、一、二を争うエンターテイメント作品。標題通りの「競馬」題材ながらレースの描写は少なく、あくまで人間ドラマとして描かれているのが特徴。その人間ドラマとは、ズバリ―――《敗者》の美学。本作の主人公は負けるために、己の負けを認めるために勝つ。娯楽要素を詰め込み過ぎなまでに詰め込み、それらを完全処理!結果、デビュー作ながら10万部突破という快挙を成し遂げて、著者にとって一世一代の代表作となった。終盤の名場面、「ショウサン」の一言を見逃すな!

「ビックリするくらい似てました(笑)」と“サムライ・ギタリスト”MIYAVI(G.)も認めた三味線操る藤次郎を中心とした戦国Rock 'n' Roll。どうせ、こんなもんだろ?という予想をしっかり超えてくる傾奇者たちの怪演は痛快そのもので、文字で聴かせる、という偉業をキャラクターデザインからアプローチしているのが何より素晴らしい。知名度低いものの、埋もれさせるには勿体無いアイディアとクオリティー。未読の方は是非、手に取ってあげて下さい。

西加奈子の初のベストセラー作品『さくら』を《陰》とするならば、そのカウンターである《陽》的作品。平凡な登場人物たちを配して、読み手を楽しませる――というのは作家の手腕試されるところだが、突拍子もない設定を出すことなく《日常》を不穏→爽快へ展開させて描き切ったのは、著者の今後の活躍を予感させてくれる。デパート勤める姉・園への嫌がらせの顛末は著者のインテリジェンスを感じました。良作です。

☆☆  総評  ★★

先に断わっておくと、以下の【受賞作:点数一覧】からも分かるように、第1位から第3位まではすんなりと点数通りにお薦め出来たのだが、【次点】は今回はあえて選ばないでおいた。というのも、三作が頭抜けているのもあるが、そもそも、2位と3位のお薦め具合の差が点数以上に離れているからだ。好みの差こそあれ、まず誰が読んでも『ジョッキー』と『桃山ビート・トライブ』は「面白い!」と唸らせられると思う。この二作は大衆小説として本当にお薦め出来る。しかしながら、点数通りに拾うと【次点】となる『粗忽拳銃』は個人的に贔屓にしたくなる玄人具合。地味に「巧い」、渋いけど「巧い」のである。(……この作家、生き残ってるだろ)と検索してみれば、やはりしぶとく生き残っていた。是非とも、遅咲きの桜を咲かせて貰いたいものである。他の受賞作で目ぼしいものといえば、『天使の卵 エンジェルス・エッグ』『笑う招き猫』か。前者は当時のベストセラー、後者は目下、巷で話題の清水富美加さんが主演して撮影済みのドラマの行く末を心配されている作品である。まあ、何にせよ、この【第11回 ~ 第20回!】の主役は『ジョッキー』、そして、『桃山ビート・トライブ』だ。あ、第3位の『はるがいったら』も面白いですよ?文学的なアプローチがスパイスになってて、ラストも「隣同士」なんてユーモアで〆めてくれるので著者の知性を感じられます。犬が好きな人なら尚良し。ただ、比べる相手が悪かっただけです。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

86  ジョッキー/松樹剛史  【第1位】

83  桃山ビート・トライブ/天野純希  【第2位】

80  

78  はるがいったら/飛鳥井千砂  【第3位】

75  

☝  満足  ☟  普通


74  

73  粗忽拳銃/竹内真

72  

71  

70  天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

69  笑う招き猫/山本幸久

68

67  となり町戦争/三崎亜記

66  走るジイサン/池永陽
    プリズムの夏/関口尚

65  

64  8年/堂場瞬一

63  でかい月だな/水森サトリ

62

61  

60  パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ

☝  普通  ☟  不満


59

現在、2017年02月24日/修正

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ようやく消化し終えた小説すばる新人賞の受賞作群―――となれば、(開設当初は)ナマクラ!Reviews恒例(にするはずだった)、『この受賞作を読め!』を始めようではあーりませんか!とりあえず、まずは【第1回 ~ 第10回!】から選んでみましたよ!総仕上げの【All Time Best!】は【第11回 ~ 第20回!】、【第21回 ~ 第29回!】の企画記事を書き上げてからまとめる所存。さてさて、前置きはこれくらいに【第1回 ~ 第10回!】のこの受賞作を読め!をお楽しみあれ~!

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

己の身一つ、刀一つでどこまで成り上がれるのか―――夢を抱いて渡ったイスパニアで愛を知り、それでも、夢を忘れられなかった侍の成れの果てとは!?インテリゲンチャも唸る“知識”をさらりと施す佐藤賢一。デビュー作ながら、現在の作品と比しても見劣りしないクオリティーは圧巻の一言。新人離れとはまさに本作、著者を評すにピッタリの言葉だ。かの銃士隊隊長トレヴィルの登場には沸くこと必至。我こそは……!という読書家の方は挑戦してみましょう。

ボーダーレスに作品を産んでいく篠田節子のデビュー作は、巨大な蚕が襲ってくる!というB級臭漂うパニックSF。しかし、これがなかなかどうして―――真っ当に「恐ろしい」。野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物『蚕』という文学性持つ題材への的確なアプローチ、それをホラーに仕立て上げる手腕に唸らされた。ドラマ化作品の陰に隠れてしまっているが、著者のキャリアの中でも好作なのでは?個人的にイメージ変わりました。読めて良かった。

「無名」と断言して良いだろう草薙渉のデビュー作は、―――あの森見登美彦の《プロトタイプ》がここに!?と思わず銘打ちたくなる同質のユーモア吹き込まれた一作。生まれて26年間、広大な屋敷から一歩も外に出たことがなかった公家の末裔・草小路鷹麿というキャラクター、そして、彼によって味付け、解体される日常は絶品で、タイムレスな魅力に溢れている。森見登美彦ほどの筆力はないものの、思わぬ拾い物をした気分になれます。

小説や映画、女優……固有名詞とその“知識”を登場人物にさらりと口にさせるお洒落な作品。斜陽企業に就職した主人公のそれなりの奮闘というストーリーも、なかなかオツなもの。インテリ層に響く内容はないが、著者のセンスがとりあえず光る。個人的には、アーウィン・ショーに手を伸ばすキッカケを頂きました。読むなら暇を持て余したモラトリアムの時期にどうぞ。

☆☆  総評  ★★

記事にしている最中に気づいたが、この【第1回 ~ 第10回!】で小説すばる新人賞を受賞した作家のうち、後に天下の直木三十五賞を受賞したのが5人、大天下の芥川龍之介賞を受賞したのが1人という破格の事実。なるほど、こうなるとこの小説すばる新人賞が集英社出版四賞に数えられるのも分かる!五虎将軍かよ(笑)とか貧困な発想で小馬鹿にしてすまんかった!さて、そんなビッグネーム溢れる本賞の創世記だが、受賞作、そのクオリティーを総括してみると、エンタメ作品としては実に「渋い」印象。上に次点を含めて四作挙げさせてもらったものの、興味深さこそあれ、手放しで「面白い」と称えるのは難しい作品ばかり。その辺りは、第1位に『ジャガーになった男』を選んだところに象徴されている気がする。単純にエンタメ基準だけで言えば、後の直木賞受賞作家たちである荻原浩の『オロロ畑でつかまえて』、熊谷達也の『ウエンカムイの爪』を選びたくなるが、デビュー作だけに彼らの現在の作品ほどには完成されていないのが正直なところ。そんなわけで、この【第1回 ~ 第10回!】の受賞作のなかで個人的MVPは3位に挙げた『草小路鷹麿の東方見聞録』。著者の現代でも通じるユーモアには可能性しか感じない。若書きだからこそ……!の魅力は、出版から二十余年経った今さえ刻まれている。作家としてはもはや虫の息のようだが、是非とも逆襲の一作を上梓して欲しい。余談ながらに村山由佳も本賞から『天使の卵 エンジェルス・エッグ』でデビューしているが、同作は作品それ自体より五木寛之の選考評(レヴュー参照)が最大の読み応えを発揮しているところからお察しくだされば宜しいかと思います。何にせよ、受賞作を消化してみて、90年代はまだまだ大衆小説として発展し切れてない印象。現在の大衆小説のレベルの高さよ(流通量多いから必然駄作も多いが……)。

☆ 受賞作:点数一覧 ★

80  ジャガーになった男/佐藤賢一  【第1位】

79  

78  

77  

76  絹の変容/篠田節子  【第2位】

75  

☝  満足  ☟  普通


74  オロロ畑でつかまえて/荻原浩
    ウエンカムイの爪/熊谷達也

73  恋人といっしょになるでしょう/上野歩  【次点】
    草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉  【第3位】

72  

71  

70  天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳

69  涼州賦/藤水名子

66  

65  バーバーの肖像/早乙女朋子
    英文科AトゥZ/武谷牧子

64  

63

62

61  

60  

☝  普通  ☟  不満


59  砂時計/吉富有

57  包帯をまいたイブ/冨士本由紀

56  マリアの父親/たくきよしみつ

55  川の声/山本修一

40

36  こちらノーム/長谷川潤二

☝  不満  ☟  アマチュア


35  陋巷の狗/森村南

30  ゴッド・ブレイス物語/花村萬月

現在、2017年02月24日/修正

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第29回山本周五郎賞 受賞作:ユートピア/湊かなえ

ユートピア (201x290)
(あらすじ)
地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤により社宅住まいをしている妻・光稀。そして移住してきた陶芸家・すみれ。美しい海辺の町で、三人の女性が出会う。自分の居場所を求めて、それぞれの理想郷を探すが……。

answer.――― 76 点
「美しい海辺の町」という何の変哲もない地方都市を題材にした本作は、視点を切り替えて複数の真実をあぶり出し、やがて事件の全貌を明かしていく“安心”の湊かなえ印の手法で描かれた作品。デビュー作の『告白』で提示してきたように、湊かなえは《善》であることを許さない。登場人物を徹底的に悪役に仕立て、その人生を嘆かせ、後悔させる―――そこに読み手は暗い安息を得るわけだが、Hateな輩がやはり揃う本作でもっとも口角上げさせてくれたのは、アートな志を持って町へ移住してきた陶芸家すみれ。これぞ凡才!という思考&行動を立ち去るその時まで披露してくれる。湊かなえの凄味はロールモデルが豊富なことだろう。ただ才能が無いだけでは偽者なり得ない。本当の偽者は何より己を知らず、虚栄、そして、虚勢を張るのだ。この辺の機微を登場人物にしっかり施せる故に、デビューよりベストセラー作家として驀進出来たわけである。がしかし、作家としていよいよ頭打ちの印象も。これしか出来ない!これしか書けない!はその実、その通りなわけだが、だからといって派手さに欠けてはいけない。寂れた地方都市の殺人事件とその解決なんて《キャラクター》でもいないかぎり読みたいとも思わない。大衆小説、その担い手であることを忘れてしまうと、後は筆も創造性も落ちていくだけだ。暗く地味な一冊、そうまとめられてしまえば元も子もない。

第29回山本周五郎賞 受賞作:ユートピア/湊かなえ

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 湊かなえ 山本周五郎賞

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山本周五郎賞受賞作一覧


▼ 第21回~ (2008年~) ▼

③山本周五郎賞

第29回 受賞作:ユートピア/湊かなえ
第28回 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子
第27回 受賞作:満願/米澤穂信
第26回 受賞作:残穢/小野不由美
第25回 受賞作:楽園のカンヴァス/原田マハ
第24回 受賞作:ふがいない僕は空を見た/窪美澄
第23回 受賞作:後悔と真実の色/貫井徳郎
第23回 受賞作:光媒の花/道尾秀介
第22回 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文
第21回 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏
第21回 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

▼ 第11回~第20回 (1998年~2007年) ▼

②山本周五郎賞

第20回 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦
第20回 受賞作:中庭の出来事/恩田陸
第19回 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明
第18回 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介
第18回 受賞作:明日の記憶/荻原浩
第17回 受賞作:邂逅の森/熊谷達也
第16回 受賞作:覘き小平次/京極夏彦
第15回 受賞作:泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織
第15回 受賞作:パレード/吉田修一
第14回 受賞作:白い薔薇の淵まで/中山可穂
第14回 受賞作:五年の梅/乙川優三郎
第13回 受賞作:ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子
第12回 受賞作:エイジ/重松清
第11回 受賞作:血と骨/梁石日

▼ 第1回~第10回 (1989年~1997年) ▼

①山本周五郎賞

第10回 受賞作:ゴサインタン -神の座-/篠田節子
第10回 受賞作:奪取/真保裕一
第9回 受賞作:家族狩り/天童荒太
第8回 受賞作:閉鎖病棟/帚木蓬生
第7回 受賞作:一九三四年冬―乱歩/久世光彦
第6回 受賞作:火車/宮部みゆき
第5回 受賞作:砂のクロニクル/船戸与一
第4回 受賞作:ダック・コール/稲見一良
第3回 受賞作:エトロフ発緊急電/佐々木譲
第2回 受賞作:TUGUMI/吉本ばなな
第1回 受賞作:異人たちのとの夏/山田太一

category: 山本周五郎賞

tag: OPEN 受賞作List 山本周五郎賞

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酒飲み書店員大賞受賞作一覧


▼ 第11回~ (2015年~) ▼



第12回 受賞作:ベンチウォーマーズ/成田名璃子
第11回 受賞作:海と真珠/梅田みか

▼ 第1回~第10回 (2005年~2014年) ▼

酒飲み書店員大賞1

第10回 受賞作:球団と喧嘩してクビになった野球選手 破天荒野球選手自伝/中野渡進
第9回 受賞作:セレモニー黒真珠/宮木あや子
第8回 受賞作:キネマの神様/原田マハ
第7回 受賞作:俺たちの宝島/渡辺球
第7回 受賞作:アフリカにょろり旅/青山潤
第6回 受賞作:月読/太田忠司
第5回 受賞作:太陽がイッパイいっぱい/三羽省吾
第4回 受賞作:ファイティング寿限無/立川談四楼
第3回 受賞作:東南アジア四次元日記/宮田珠己
第2回 受賞作:笑う招き猫/山本幸久
第1回 受賞作:ワセダ三畳青春記/高野秀行

category: 酒飲み書店員大賞

tag: OPEN 受賞作List 酒飲み書店員大賞

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第28回小説すばる新人賞 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優

ラメルノエリキサ (201x290)
(あらすじ)
女子高生・小峰りなのモットーは、どんな些細な不愉快事でも必ず「復讐」でケリをつけること。そんな彼女がある日、夜道で何者かにナイフで切り付けられる。手がかりは、犯人が残した「ラメルノエリキサ」という謎の言葉のみ。復讐に燃えるりなは事件の真相を追うが……。

answer.――― 76 点
どんな些細な事でも必ず「復讐」でケリをつける女子高生が「ラメルノエリキサ」なる謎の言葉から自分を切りつけた通り魔を探すストーリーライン。《復讐》というおどろおどろしくも単純明快なテーマを女子高生が背負うというギャップ盛り込んだキャラクターメイクはライトノベル的で、実際、作品自体も躁なヒロインに負けず劣らずの登場人物たちが現れて混沌とした様相を楽しむものとなっている。作中のハイライトは、上述の「ラメルノエリキサ」の謎解き―――のわけなく、そのままズバリ、「復讐」に妄執するヒロインと張り合える歪んだ想いを抱える登場人物たちの遭遇&暴露。完璧なママ、たおやかな姉は、ヒロインの一人称だからこそのジェットコースター的演出を味わえる。とどのつもり、キャラクターが気に入れば好作となる受賞作。ストーリーを求めてはいけません。と書きつつ、著者の伸びしろは《物語》を用意出来るかどうかにかかっているので担当は求めたいところだろうね。

第28回小説すばる新人賞 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優

category: わ行&数字の作家

tag: OPEN 70点 渡辺優 小説すばる新人賞

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第27回小説すばる新人賞 受賞作:砂漠の青がとける夜/中村理聖

砂漠の青がとける夜 (202x290)
(あらすじ)
溝端さんと会わなくなってから人肌の温度を深く味わう機会はほとんどなかった。準君の気配を感じようとすると、高校生の頃初めてできた彼氏の穏やかな声を思い出した。付き合いそうで付き合わず、何となく疎遠になった男の人たちの肌の記憶が、私の中で蘇る。けれどこの部屋には誰もいない。

answer.――― 45 点
別れを告げた不倫相手から「愛してる」と送り続けられる主人公(♀)がファンタジーなことを述べる中学生(♂)と出会い、というストーリーライン。率直に、退屈である。何が起きるわけでもなく、職を離れ、不毛な不倫から逃がれ、空虚な日々を送る主人公の心情が綴られているだけ。ただ、それだけの作品だ。仮に需要があるとすれば、主人公(の境遇その他)へ共感出来る可能性のある女性読者か。「言葉の使い方が繊細で行間が感じられる作品」と著者の筆が受賞へと繋がったようだが、無いものねだり―――自分が描けないアプローチを採られると無駄に評価してしまうもの。読み手でそれをエンターテイメント的に評価することはまず出来ないだろう。文章を積極的に評価させたい場合、《圧倒的》でなければならない。本作は当然、その域には達していない。

第27回小説すばる新人賞 受賞作:砂漠の青がとける夜/中村理聖

category: な行の作家

tag: OPEN 40点 中村理聖 小説すばる新人賞

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第26回小説すばる新人賞 受賞作:八月の青い蝶/周防柳

八月の青い蝶
(あらすじ)
急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学生のときに被爆していた。大日本帝国陸軍偵察機パイロットのひとり息子であった彼は、当時、広島市内に住んでいたのだ。妻と娘は、亮輔が大事にしている仏壇で、異様に古びた標本箱を発見する。そこには、前翅の一部が欠けた小さな青い蝶がピンでとめられていた。

answer.――― 65 点
「原爆」題材の振り返りモノ。と紹介されるだけで読む気を削がれる方もいらっしゃると思うが、かく云う私はその該当者の一人。この手の題材に触れる度に自分が読書に求めているのは結局、娯楽なのだと再確認させられるわけだが、実際、本作もWW2――リトルボーイによって引き裂かれた思春期がメインのストーリーライン。表題『八月の青い蝶』とあるように、「蝶」をキーワードにして父親の愛人へ「美貌」「儚さ」といった憧憬を重ねる演出。個人的に目を惹いたのは、愛人・希恵の昆虫学者の父の視線を《視姦》と喩えた点。《愛を分かちあってともに幸福になろうとも思わない愛。それが視姦する者のまなざし。残酷なまなざし。》なる言及は、成る程、と淡泊な感性を刺激してくれた。また、終盤も終盤に《何故、原爆を落とされて謝らねばならない!?》という日本人が忘れてはならない正論が繰り出されるのは痛快の一言。この部分は是非ともTeenagerに読んで頂きたいところ。が、やはり良くも悪くも、「原爆」題材の振り返りモノ。という範疇の作品であるのは間違いない。

第26回小説すばる新人賞 受賞作:八月の青い蝶/周防柳

category: さ行の作家

tag: OPEN 60点 周防柳 小説すばる新人賞

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第25回小説すばる新人賞 受賞作:赤と白/櫛木理宇

赤と白 (206x290)
(あらすじ)
冬はどこまでも白い雪が降り積もり、重い灰白色の雲に覆われる町に暮らす高校生の小柚子と弥子。同級生たちの前では明るく振舞う陰で、二人はそれぞれが周囲には打ち明けられない家庭の事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった友人の京香が現れ、日常がより一層の閉塞感を帯びていく。

answer.――― 69 点
雪国・新潟を舞台に、ボタンの掛け違えから女性特有の共同感覚的な友情が崩れ、バッドエンドへと突き進んでいく本作『赤と白』。失望、嫉妬、背徳……と、登場人物たちがそれぞれの形で抱く疑心は堂に入ったもので、そこへ過食症、ストーキングといった狂気垣間見させる設定をつけ、読み手へ何かが起こる予感(不安)をしっかりと与えてくれる。著者のデビュー作であり、シリーズにもなっている『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞しているように、上述の予感は《ホラー》のそれに近い。もっとも、本作のエンタメの核は《人間関係の歪み》といったところだが、読み手にどんな感想を抱かせたかったのかが曖昧なのが残念なところ。用意したキャラクター、イベントは相応だったと思うが、《人間》へ迫りたかったのだとしたら大味過ぎる。ついでに、大衆小説でそこを目指してしまうと、退屈へ到ってしまう。本作に足りないのは、ズバリHero(Heroine)。それを確立させるだけで「あーあ……」で終わってしまう結末にあっても、意志ある何者かがスタートを切ったことでしょう。

第25回小説すばる新人賞 受賞作:赤と白/櫛木理宇

category: か行の作家

tag: OPEN 60点 櫛木理宇 小説すばる新人賞

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第25回小説すばる新人賞 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫

名も無き世界のエンドロール (205x290)
(あらすじ)
ドッキリを仕掛けるのが生き甲斐のマコトと、それに引っかかってばかりの俺は、小学校時代からの腐れ縁だ。30歳になり、社長になった「ドッキリスト」のマコトは「ビビリスト」の俺を巻き込んで、史上最大の「プロポーズ大作戦」を決行すると言い出した。一日あれば、世界は変わる。男たちの命がけの情熱は、彼女に届くのか?

answer.――― 74 点
過去と現在を織り交ぜつつ、「ドッキリスト」「ビビリスト」「プロポーズ大作戦」「一日あれば、世界が変わる」……と日常を《言葉》で彩り、いつの間にか非日常へと逸脱していく作風は、単刀直入に言って、伊坂幸太郎そのもの。一人の才人が道を切り拓けば、そこを通り(なぞり)、踏み固める者が現れるものだが、著者はその典型と言って差し障りない。そうなってくると、本家とのクオリティー勝負となるが、――やや劣勢、かなと。伊坂幸太郎の初期作品(ex.『重力ピエロ』)は、自分のそれまで生きていた日常(思い出&思春期に培った感性)を出し惜しみなくまぶしているが、本作ではそこまでのサービス精神を感じられないのが残念。フォロワー、という二番煎じ的扱いを無意識にしてしまうのもマイナスに働いてしまうだろう。それでも、いざ非日常パートへと突入する終盤は本家と伍する勧善懲悪のカタルシス。表題『名も無き世界のエンドロール』の言い得て妙な、哀しくも爽快感ある幕切れも何とも洒落て印象づけられる。昨今の伊坂幸太郎は持ちうる日常をすり減らし、退屈の域に達してしまったが、在りし日の伊坂幸太郎に出会いたい方にはお薦め出来る作品。ちなみに、「本当に何もかもが終わって、エンドロールが止まる時、あたしはようやく立ち上がれるようになる」なる作中の《台詞》が結末に響く構成。良くも悪くも、造りが丁寧なんだよね。

第25回小説すばる新人賞 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 行成薫 小説すばる新人賞

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第24回小説すばる新人賞 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道

サラの柔らかな香車 (202x290)
(あらすじ)
プロ棋士の夢が破れた男と、金髪碧眼の不思議な美少女が出会う。彼女に将棋を教えると奇跡的な才能が開花する。厳しくも豊かな勝負の世界を描く傑作。

answer.――― 79 点
二十余年生きて真面目に人生を省みれば、どんな薄っぺらい過ごし方をしていようと、何かしらの真理、当人だけが導き出せる結論があると思う。プロ棋士を目指して奨励会へ入るも、ついに辿り着けなかった著者が見出したのは越えられない壁――『才能』か。ストーリーラインはプロ棋士になれず、パチンコで生計立てるくすぶった三十路男が発達障害を匂わせる金髪碧眼の美少女と出会い、女流棋士の新旧”天才”対決、その決着へ運ぶまで。作中、ひたすら「才能」について語られる。それは神聖視されたもので、日常、「才能」について考察する機会のない者にはその界隈の常識(ex.「難しい。非常に難しい質問だ。芥川名人は強い。本当に強い。どうしようもない。でもね、この世界では常に若い人が勝つんだよ」)が披露されるたびに新鮮に響き、刻まれる。本作で汲み取るべき醍醐味は著者が思春期を捧げて見出した「才能」なる不確かなものの輪郭で、登場人物たちの過去&現在はまさしくエンタメ的装飾でしかない。もっとも、上述の新旧”天才”対決は「才能」の他に、「覚悟」もスパイスとしてまぶしてあるため、+αが勝負の本当の分かれ目であることを示しているようで面白い。「才能」の連呼を一本調子に思えてしまう難こそあれ、情熱溢れる若書きが印象づけられるデビュー作。良質です。なお、将棋普及への貢献が認められ、本作は第24回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞。将棋小説として立派なお墨付きを得ている。

第24回小説すばる新人賞 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 橋本長道 小説すばる新人賞

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第23回小説すばる新人賞 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美

国道沿いのファミレス (203x290)
(あらすじ)
勤め先で左遷され、6年ぶりに故郷に戻った25歳の善幸。職場、家族、友達、恋人……様々なしがらみが彼に降りかかる。現代の若者をリアルに描いた第23回小説すばる新人賞受賞作。

answer.――― 73 点
郊外の、どこにでもあるファミリーレストランを舞台にした青春小説……と言っても、登場人物はほとんどが社会人で、主人公はあらぬ疑いで実質、左遷されてきた経緯を持つ。そのあらぬ疑いとは【アルバイトの高校生(♀)をやり捨てた】と来れば、自ずと作品の方向性も察せるというもの。本作のエンターテイメントの核は「痴情」。著者のアレンジは、ファミリーレストラン内に留めず、家族、友人と全方位にもつれを作ったところ。当然、作中にBitch!が現れるのは《お約束》。そのクオリティー次第で作品の評価が決まるわけだが、出会いから別れ、一連の過程含め十分に合格点なBitch!具合。ほぼ全ての登場人物にエピソード&エンドを設けているのもサービス精神溢れている演出。「痴情」故の《人間》模様は文学的と云えば文学的。本稿を書く前に見つけたYahoo!知恵袋での質問「怖い小説だと感じた」なる言及はその観点でのスイッチになると思うので、読了した方は表題で検索して頂きたい。個人的に興味を抱いたのは佐藤姓へのタイプ分け(相手が自分の好きなタイプだったら同じだねと言うが、嫌いなタイプだったら同じ苗字なのを懸命に忘れる)。何気ない言及だからこそ、こんなもんかもしれん、と思いました。

第23回小説すばる新人賞 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 畑野智美 小説すばる新人賞

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小説すばる新人賞受賞作一覧


▼ 第21回~ (2008年~) ▼

小説すばる新人賞3

第29回 受賞作:星に願いを、そして手を。/青羽悠
第28回 受賞作:ラメルノエリキサ/渡辺優
第27回 受賞作:砂漠の青がとける夜/中村理聖
第26回 受賞作:八月の青い蝶/周防柳
第25回 受賞作:赤と白/櫛木理宇
第25回 受賞作:名も無き世界のエンドロール/行成薫
第24回 受賞作:サラの柔らかな香車/橋本長道
第23回 受賞作:国道沿いのファミレス/畑野智美
第23回 受賞作:たぶらかし/安田依央
第22回 受賞作:桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ
第22回 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子
第21回 受賞作:蛇衆/矢野隆
第21回 受賞作:魚神/千早茜

▼ 第11回~第20回 (1998年~2007年) ▼

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第20回 受賞作:桃山ビート・トライブ/天野純希
第19回 受賞作:でかい月だな/水森サトリ
第18回 受賞作:はるがいったら/飛鳥井千砂
第17回 受賞作:となり町戦争/三崎亜記
第16回 受賞作:笑う招き猫/山本幸久
第15回 受賞作:プリズムの夏/関口尚
第14回 受賞作:ジョッキー/松樹剛史
第13回 受賞作:8年/堂場瞬一
第12回 受賞作:粗忽拳銃/竹内真
第11回 受賞作:パンの鳴る海、緋の舞う空/野中ともそ
第11回 受賞作:走るジイサン/池永陽

▼ 第1回~第10回 (1988年~1997年) ▼

小説すばる新人賞1

第10回 受賞作:ウエンカムイの爪/熊谷達也
第10回 受賞作:オロロ畑でつかまえて/荻原浩
第9回 受賞作:陋巷の狗/森村南
第8回 受賞作:英文科AトゥZ/武谷牧子
第8回 受賞作:バーバーの肖像/早乙女朋子
第7回 受賞作:包帯をまいたイブ/冨士本由紀
第7回 受賞作:恋人といっしょになるでしょう/上野歩
第6回 受賞作:ジャガーになった男/佐藤賢一
第6回 受賞作:天使の卵 エンジェルス・エッグ/村山由佳
第5回 受賞作:砂時計/吉富有
第4回 受賞作:涼州賦/藤水名子
第4回 受賞作:マリアの父親/たくきよしみつ
第3回 受賞作:絹の変容/篠田節子
第2回 受賞作:草小路鷹麿の東方見聞録/草薙渉
第2回 受賞作:ゴッド・ブレイス物語/花村萬月
第1回 受賞作:こちらノーム/長谷川潤二
第1回 受賞作:川の声/山本修一

category: 小説すばる新人賞

tag: OPEN 受賞作List 小説すばる新人賞

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た行の作家一覧

 た行    

大楽絢太
多宇部貞人
高里椎奈
貴子潤一郎
高田崇史
高遠豹介
高野和
高野和明
高橋弥七郎
高畑京一郎
鷹見一幸
滝川羊
滝川廉治
たくきよしみつ
田口仙年堂
竹内真
武谷牧子
武葉コウ
竹宮ゆゆこ
橘恭介
橘柑子
橘公司
竜ノ湖太郎
谷川流
田村登正
田名部宗司
千早茜
月村了衛
土屋つかさ
積木鏡介
筒井康隆
手島史詞
天童荒太
堂場瞬一
遠田潤子
時無ゆたか
年見悟
土橋真二郎
富谷千夏
土門弘幸

category: た行の作家

tag: OPEN 作家一覧

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あ行の作家一覧

 あ行    

逢空万太
葵せきな
青葉優一
青田八葉
蒼山サグ
赤月黎
茜屋まつり
赤松中学
亜紀坂圭春
秋田禎信
秋月煌
秋月涼介
秋穂有輝
秋山鉄
秋山瑞人
日日日
浅井ラボ
朝井リョウ
アサウラ
朝倉勲
浅暮三文
朝田雅康
あさのあつこ
あざの耕平
足尾毛布
飛鳥井千砂
東佐紀
東亮太
阿智太郎
雨木シュウスケ
天酒之瓢
天埜冬景
天野純希
尼野ゆたか
雨宮諒
綾崎隼
新井円侍
有川浩
有沢まみず
淡路帆希
庵田定夏
飯嶋和一
五十嵐雄策
池上永一
池永陽
伊坂幸太郎
石崎幸二
石田衣良
和泉ひろみ
石野晶
石原宙
市川拓司
一乃勢まや
壱月龍一
一色銀河
いとうせいこう
絲山秋子
稲見一良
乾くるみ
犬村小六
井上堅二
井上悠宇
井村恭一
入江君人
入間人間
岩井志麻子
岩井恭平
岩城けい
岩佐まもる
いわなぎ一葉
岩本隆雄
うえお久光
上野歩
宇佐美游
内堀優一
宇月原晴明
兎月山羊
兎月竜之介
宇野朴人
冲方丁
浦賀和宏
虚淵玄
江國香織
榎木津無代
遠藤浅蜊
大澤誠
大島真寿美
大森藤ノ
岡崎弘明
岡崎裕信
おかゆまさき
小川博史
小河正岳
小川洋子
沖田雅
荻原規子
荻原浩
奥泉光
奥田英朗
小田雅久仁
乙一
乙川優三郎
乙野四方字
小野不由美
小山歩
恩田陸

category: あ行の作家

tag: OPEN 作家一覧

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や行の作家一覧

 や行    

安井健太郎
安田依央
柳広司
八薙玉造
柳実冬貴
柳田狐狗狸
矢野隆
矢作俊彦
山形石雄
山口泉
山口幸三郎
山門敬弘
山田宗樹
山田太一
山之口洋
山原ユキ
山本修一
山本幸久
弥生翔太
梁石日
結城充考
遊歩新夢
行田尚希
雪野静
柚木麻子
弓弦イズル
横山忠
横山秀夫
吉田修一
吉田直
吉富有
吉村夜
よしもとばなな
米澤穂信
米村圭伍

category: や行の作家

tag: 作家一覧 OPEN

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第22回小説すばる新人賞 受賞作:桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ

桐島 (216x290)
(あらすじ)
映画化大ヒット青春小説!バレー部のキャプテン・桐島の突然の退部が、5人の高校生達に波紋を起こして……。至るところでリンクする、17歳の青春群像小説。

answer.――― 60 点
朝井リョウというと遊び心くすぐられる名タイトルな本作『桐島、部活やめるってよ』が代名詞となっていると思うが、個人的にはいつだったか情報番組『王様のブランチ』での和田竜、中村文則、川上未映子、西加奈子、そして、朝井リョウという旬な作家たちを集めての座談会での放言の数々を思い出す。その放言がどんなものだったかは各自調べて頂きたいが、私が一番興味を惹かれたのは「色んな評価体系が全部自分に来たら凄く良くないですか?」という世界の中心で「朝井リョウ!」と叫ぶ自信である。一点の曇りもなく、朝井リョウは自分が《面白い》作品を作っていると思っている。事実、彼は本作で小説すばる新人賞、『何者』で直木三十五賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞と受賞し続け、ベストセラーを世に出し続けている。この《結果》を考えれば、彼は間違いなく《面白い》作品を作っている……わけだが、果たして、彼は本当に《面白い》作品を作れているのだろうか?《結果》は麻薬だ。《結果》を出してしまうと、自己否定出来なくなってしまう。徐々に下がる売上をどう受け止める?突如としてまったく売れなくなったとき、どういう結論に辿り着ける?「俺は面白い!」―――そんな 無意識下の『前提』が、いつの間にか着せられていた道化の衣装をいつまでも脱がせてくれなくなる。本作は表題通りのイベントをキッカケに揺れ動く高校生たちをそれぞれの視点で描く。肝心の桐島が本編中で視点を持っていないのが実験的と云えば実験的な仕掛け。朝井リョウが大学在学中に投稿した事実から分かるように、当時代の思春期迎えた若者(たち)の現在、そして、感性をダイレクトに触れられる(た)のが本作最大の見所。たとえば「チャットモンチー」をファッションな《記号》として扱っているのは個人的に興味深かった。何にせよ、生もの的な作品。朝井リョウは作品そのものより作家という《人間》、観察対象として追っていきたい作家の一人です。

第22回小説すばる新人賞 受賞作:桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 朝井リョウ 小説すばる新人賞

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第21回小説すばる新人賞 受賞作:魚神/千早茜

魚神 (203x290)
(あらすじ)
夢喰いの獏、雷魚などの伝説が残る遊郭栄える島で、本土を追われた人々は自治組織を作り、独自の文化を営んでいる。この島で捨て子の姉弟として育った白亜とスケキヨ。一方は遊女として、一方は男娼として、悲運のままに堕ちていく二人が迎える結末とは……。

answer.――― 83 点
ヤンチャな思春期を過ごした従兄がいるのだが、イジメがエスカレートしてバットで撲殺してしまった、とある少年事件を見て「素手で喧嘩したことねえんじゃねえの?」とつぶやき、その心を訊いてみると「殴ると痛いんだよ、自分の拳も」と返され、「殴り過ぎでしょ!」「だから、(次は)その前に止めるだろ」「ああ、なるほど」と頓智をかけられた気分に陥った記憶があるが、体験から得られる事実が世の中にはごまんとあるもの。本作は第21回小説すばる新人賞、第37回泉鏡花文学賞のW受賞を果たした千早茜のデビュー作。その概要は、娼館溢れる島で「売られる」ために育てられた美しい姉弟・白亜とスケキヨの、島の伝承交えたファンタジックな顛末。一読して実にセンチメンタル、感傷的な印象を受けた。女にしか書けない―――転じて、女になってみないと書けない文章があると思うが、著者の筆はまさにそれで、後に連作短編集『あとかた』で島清恋愛文学賞を受賞するところからもそれは裏付けられるだろう。「女になってみないと書けない」―――これの意味するところは不合理、不条理といった内容を含めた諦観にも似た《停滞》が現れ、文章として刻まれることだと思う。それは内省的で、《動く》こと=進展することが《面白い》と感じるエンターテイメントの本質からすると退屈と隣り合わせの厄介な代物だが、著者は《停滞》を《耽美》へと昇華し、エンターテイメントとして成立させているのが素晴らしい。作中のハイライトは、島の用心棒・蓮沼が童女ハナへ包丁突き刺し教育する場面を挙げたい。上述の《停滞》と相反する、作中でも指折りの《動く》場面ながら、酷薄な世界観を同質に表現した著者のセンスが光る。また、作中、白亜が涙を流す場面があるが、そこに神秘を見い出せるのも注目したいところ。これこそ、男には描けないだろう。『魚神』という世界を覗く一冊。『物語』をある種必要としない、希少な筆を著者は持っている。デビュー作として大変秀逸なので、【推薦】させて頂きます。

第21回小説すばる新人賞 受賞作:魚神/千早茜  【推薦】

category: た行の作家

tag: OPEN 80点 小説すばる新人賞 千早茜 推薦

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第23回小説すばる新人賞 受賞作:たぶらかし/安田依央

たぶらかし
(あらすじ)
マキは、市井の人々の中で誰かの「代役」を演ずる役者。花嫁や母親の代行から、果ては死体役まで。依頼人たちの身勝手さに苛立ちながらも、淡々と仕事をこなしていたマキの前に、ある日、謎の男が現れて……。

answer.――― 72 点
How-Toとは、何らかの作業をする方法や手順に関する非形式的な記述のこと―――と、Wikipediaから引用させて貰ったが、情報溢れる現代社会だからこそ《正確な情報》を集約したハウツー本は、《知識》を得られる手段として以前にも増して歓迎される。昨今では飽くなき娯楽追及からか、ハウツー本にも《ストーリー》、そして、《キャラクター》の導入を求めている印象もある。もっとも、需要があるからといって《知識》ばかり挿していると、形骸化するのはお約束。《ストーリー》や《キャラクター》用いるハウツー本もどきを制作したいならば、書き手は《知識》もさることながら、それを扱えるだけの《知性》を作品に―――有り体に言えば、登場人物に施さなければならない。セレブ母、新妻、時には死体……依頼のままに、あらゆる人物の「代役」を派遣する会社に勤めるマキ(39)を主人公にした本作『たぶらかし』。設定の目新しさこそあれ、連作短編での優等生な起伏が読み手の想像を上回らないのが残念だが、上述の死体役やら、年齢的にも枯れたマキへホの字を書く若者の出現など、トリッキーさは目を惹くし、トントン拍子な「ドラマ化」も納得出来るところ。個人的には、《知識》出すことなく、《知性》感じさせる作風は好印象。《知性》とは何か?という話になるが、それは登場人物が《キャラクター》ではなく、《人》ないし《人間》である瞬間があることだと思う。《キャラクター》求められる現在だからこそ、《人》&《人間》を(キャラクターのなかに)垣間見せる「技」は必須でしょう。

第23回小説すばる新人賞 受賞作:たぶらかし/安田依央

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 安田依央 小説すばる新人賞

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作家一覧(ただ今、編集中)

(更新:2016/1/31)
 あ行    

逢空万太
葵せきな
青葉優一
青田八葉
蒼山サグ
赤月黎
茜屋まつり
赤松中学
亜紀坂圭春
秋田禎信
秋月煌
秋月涼介
秋穂有輝
秋山鉄
秋山瑞人
日日日
浅井ラボ
アサウラ
朝倉勲
浅暮三文
朝田雅康
あさのあつこ
あざの耕平
足尾毛布
飛鳥井千砂
東佐紀
東亮太
阿智太郎
雨木シュウスケ
天酒之瓢
天埜冬景
天野純希
尼野ゆたか
雨宮諒
綾崎隼
新井円侍
有川浩
有沢まみず
淡路帆希
庵田定夏
飯嶋和一
五十嵐雄策
池上永一
池永陽
伊坂幸太郎
石崎幸二
石田衣良
和泉ひろみ
石野晶
石原宙
市川拓司
一乃勢まや
壱月龍一
一色銀河
いとうせいこう
絲山秋子
稲見一良
乾くるみ
犬村小六
井上堅二
井上悠宇
井村恭一
入江君人
入間人間
岩井志麻子
岩井恭平
岩城けい
岩佐まもる
いわなぎ一葉
岩本隆雄
うえお久光
上野歩
宇佐美游
内堀優一
宇月原晴明
兎月山羊
兎月竜之介
宇野朴人
冲方丁
浦賀和宏
虚淵玄
江國香織
榎木津無代
遠藤浅蜊
大澤誠
大島真寿美
大森藤ノ
岡崎弘明
岡崎裕信
おかゆまさき
小川博史
小河正岳
小川洋子
沖田雅
荻原規子
荻原浩
奥泉光
奥田英朗
小田雅久仁
乙一
乙川優三郎
乙野四方字
小野不由美
小山歩
恩田陸

 か行    

海堂尊
海冬レイジ
櫂末高彰
海原零
鏡貴也
蝸牛くも
影名浅海
笠原曠野
風見周
春日部タケル
上総朋大
粕谷知世
角田光代
片山憲太郎
勝山海百合
桂望実
賀東招二
上遠野浩平
金城一紀
壁井ユカコ
鎌池和馬
神秋昌史
神坂一
神代明
カミツキレイニー
榎宮祐
垣根涼介
神高槍矢
神野淳一
川上未映子
川上稔
川口士
川崎康宏
河原千恵子
川原礫
川村元気
玩具堂
神崎リン
菊池秀行
木皿泉
貴志祐介
北川拓磨
北野勇作
樹戸英斗
城戸光子
聴猫芝居
木村心一
京極夏彦
清野かほり
霧舎巧
銀林みのる
九岡望
草薙渉
久世光彦
久保寺健彦
窪美澄
熊谷達也
栗府二郎
黒史郎
黒田研二
慶野由志
劇団ひとり
古泉迦十
小岩井蓮二
紅玉いづき
甲田学人
河野裕
小木君人
午後12時の男
九重一木
越谷オサム
午前三時五分
虎走かける
古谷田奈月
護矢真
近藤史恵
今野敏

 さ行    

雑賀礼史
西條奈加
斉藤直子
佐浦文香
冴木忍
三枝零一
冴崎伸
早乙女朋子
坂入慎一
榊一郎
酒見賢一
坂本和也
桜井美奈
桜坂洋
桜庭一樹
佐々木譲
細音啓
佐々之青々
佐藤亜紀
佐藤ケイ
佐藤賢一
佐藤茂
佐藤多佳子
佐藤哲也
里見蘭
狭山京輔
更伊俊介
沢村凛
椎田十三
椎葉周
時雨沢恵一
重松清
梓崎優
静月遠火
雫井脩介
紫野貴李
しなな泰之
篠田節子
志瑞祐
柴村仁
嶋本達嗣
島本理生
志村一矢
下村智恵理
十文字青
殊能将之
白石一文
白石かおる
白井信隆
白川敏行
白鳥士郎
白星敦士
真藤順丈
新堂冬樹
新保静波
真保裕一
杉井光
鈴木光司
鈴木鈴
鈴木大輔
涼元悠一
須藤靖貴
住野よる
清野静
清涼院流水
関口和敏
関口尚
関俊介
瀬那和章
蝉川タカマル
蘇部健一

 た行    

大楽絢太
多宇部貞人
高里椎奈
貴子潤一郎
高田崇史
高遠豹介
高野和
高野和明
高橋弥七郎
高畑京一郎
鷹見一幸
滝川羊
滝川廉治
たくきよしみつ
田口仙年堂
竹内真
武谷牧子
武葉コウ
竹宮ゆゆこ
橘恭介
橘柑子
橘公司
竜ノ湖太郎
谷川流
田村登正
田名部宗司
月村了衛
土屋つかさ
積木鏡介
筒井康隆
手島史詞
天童荒太
堂場瞬一
遠田潤子
時無ゆたか
年見悟
土橋真二郎
富谷千夏
土門弘幸

 な行    

内藤渉
長岡弘樹
長岡マキ子
中里融司
中川圭士
中島望
永島裕士
中村恵里加
中村弦
中村文則
長物守
長森浩平
永森悠哉
中山可穂
中脇初枝
梨木香歩
奈須きのこ
夏川草介
夏海公司
夏緑
七尾あきら
七飯宏隆
成田良悟
縄手秀幸
南條竹則
仁木健
仁木英之
西尾維新
西加奈子
西川美和
西崎憲
耳目口司
貫井徳郎
沼田まほかる
野崎まど
野中ともそ
野村美月

 は行    

橋本和也
橋本紡
ハセガワケイスケ
長谷川潤二
支倉凍砂
長谷敏司
長谷川昌史
畠中恵
八針来夏
葉月堅
葉月双
初美陽一
鳩島すた
花村萬月
羽根川牧人
帚木蓬生
浜崎達也
葉巡明治
原岳人
原田マハ
張間ミカ
東川篤哉
東野圭吾
東山彰良
氷川透
菱田愛日
ひびき遊
日野俊太郎
日昌晶
百田尚樹
平坂読
平山瑞穂
広沢サカキ
弘也英明
深緑野分
福井晴敏
福田政雄
藤谷治
藤田雅矢
籘真千歳
藤まる
伏見つかさ
藤水名子
藤本圭
冨士本由紀
船戸与一
古川日出男
古処誠二
古橋秀之
星野亮
窪美澄
穂邑正裕
堀川アサコ
誉田哲也
本田誠

 ま行    

舞城王太郎
前川麻子
万城目学
真代屋秀晃
松樹剛史
町田康
松下寿治
松時ノ介
松村涼哉
松山剛
まみやかつき
丸戸史明
円山夢久
三浦しをん
水鏡希人
三門鉄狼
三上延
三河ごーすと
三國青葉
三雲岳斗
三崎亜記
水口敬文
水沢夢
水野良
水森サトリ
道尾秀介
美奈川護
水瀬葉月
湊かなえ
峰守ひろかず
宮沢周
宮下奈都
宮部みゆき
三羽省吾
海羽超史郎
六塚光
村上春樹
むらさきゆきや
村山由佳
森絵都
森青花
森田季節
森田陽一
森月朝文
森橋ビンゴ
森博嗣
森見登美彦
森村南
諸星悠

 や行    

安井健太郎
安田依央
柳広司
八薙玉造
柳実冬貴
柳田狐狗狸
矢野隆
矢作俊彦
山形石雄
山口泉
山口幸三郎
山門敬弘
山田宗樹
山田太一
山之口洋
山原ユキ
山本修一
山本幸久
弥生翔太
梁石日
結城充考
遊歩新夢
行田尚希
雪野静
柚木麻子
弓弦イズル
横山忠
横山秀夫
吉田修一
吉田直
吉富有
吉村夜
よしもとばなな
米澤穂信
米村圭伍

 ら行    

来田志郎
来楽零
藍上陸
リリー・フランキー

 わ行&数字    

和ヶ原聡司
渡瀬草一郎
渡辺球
渡辺由佳里
和田竜
渡航

 海外作家 (アルファベット順)    

Dan Brown
Paul Auster

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 ま行    

舞城王太郎
前川麻子
万城目学
真代屋秀晃
松樹剛史
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丸戸史明
円山夢久
三浦しをん
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三門鉄狼
三上延
三河ごーすと
三國青葉
三雲岳斗
三崎亜記
水口敬文
水沢夢
水野良
水森サトリ
道尾秀介
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水瀬葉月
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宮部みゆき
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海羽超史郎
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藤田雅矢
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藤まる
伏見つかさ
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船戸与一
古川日出男
古処誠二
古橋秀之
星野亮
窪美澄
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西條奈加
斉藤直子
佐浦文香
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三枝零一
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酒見賢一
坂本和也
桜井美奈
桜坂洋
桜庭一樹
佐々木譲
細音啓
佐々之青々
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佐藤ケイ
佐藤賢一
佐藤茂
佐藤多佳子
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嶋本達嗣
島本理生
志村一矢
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十文字青
殊能将之
白石一文
白石かおる
白井信隆
白川敏行
白鳥士郎
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真藤順丈
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新保静波
真保裕一
杉井光
鈴木光司
鈴木鈴
鈴木大輔
涼元悠一
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清野静
清涼院流水
関口和敏
関口尚
関俊介
瀬那和章
蝉川タカマル
蘇部健一

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銀林みのる
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草薙渉
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久保寺健彦
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古泉迦十
小岩井蓮二
紅玉いづき
甲田学人
河野裕
小木君人
午後12時の男
九重一木
越谷オサム
午前三時五分
虎走かける
古谷田奈月
護矢真
近藤史恵
今野敏

category: か行の作家

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第22回小説すばる新人賞 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子

白い花と鳥たちの祈り
(あらすじ)
中学一年生のあさぎは、母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきた。新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、近所の郵便局に勤める青年、中村だった――居場所のない中学生と仕事の出来ない郵便局員。二人の前に拡がる新しい世界。

answer.――― 75 点
視点人物は二人。家庭事情と思春期を迎えて変化する周りから塞ぎ込む中学生「あさぎ」と発達障害に苦しむ郵便局員「中村」。二人の直接に交わりはせずとも遠くから眺め(支え)合ういわゆる《ハートフル》な作風で、ストーリーそれ自体は実質、「無い」と云える。「明日から、あかりたちとお弁当食べてくれる?」「ただの仕事のできない郵便局員だ」―――視点人物がともに明確な《弱者》故に序盤の陰鬱な展開、吐露は読み手を遠ざけること必至で、実際、その陰は終盤の終盤まで変わることはない。しかし、である。弱者を徹底的に貫く故に《響く》共感がここに描かれている。中盤、どちらにも起こる「アクシデント」を経過し、迎える終盤、二人の怒濤の「吐露」は迫真そのもので、ここまでの陰鬱な現実に耐えていた読み手は感動をせざるを得ない。個人的ハイライトは、たとえば「同僚」遠藤、そして、母など諸所に挿される「中村」への《同情》も捨て難いが、中村自身がセラピストへ感情を爆発させる場面を挙げたい。これは単純に(おいおい、これ、解決出来るのか!?)という、中村の吐露が正論過ぎる正論としてぶつけられるからなのだが。その着地は成る程、セラピストといった感じで十二分(が、ある意味、残念)。中盤の「アクシデント」―――「継父による性的虐待(虚偽)」「小包爆弾」は、現実に根ざした本作の設定からすると破格の演出と言え、著者の思い切りの良さに素直に驚かされた。私は「中村」の発達障害に対して共感してしまったが、「あさぎ」の環境適合のほうに共感される方もいると思う。その場合は、ラストの実父の救済の過去&継父への吐露は感涙確定だろう。《ハートフル》という意味では満額回答にもなり得る好作。が、買って読むよりも借りて読むのをお薦め致します。途中で読み止める人もきっと多いだろう。

第22回小説すばる新人賞 受賞作:白い花と鳥たちの祈り/河原千恵子

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 河原千恵子 小説すばる新人賞

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このライトノベルがすごい!(2017年版) 5位:ゴブリンスレイヤー/蝸牛くも

ゴブリンスレイヤー (203x290)
(あらすじ)
「俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ」―――その辺境のギルドには、ゴブリン討伐だけで銀等級にまで上り詰めた稀有な存在がいるという。冒険者になって、初めて組んだパーティがピンチとなった女神官。彼女を助けた者こそ《ゴブリンスレイヤー》と呼ばれる男だった。

answer.――― 78 点
一定の売り上げが見込めるからか、Web小説として地固めされた作品の書籍化がライトノベル作家のデビューへの道、その王道にも思えてくる昨今―――やる夫スレの人気作品がついに書籍化!と新手の方角から現れた本作『ゴブリンスレイヤー』。その概要は、「俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ」と辺境のギルドでゴブリンのみを狩って銀等級にまで上り詰めた孤高の冒険者、通称ゴブリンスレイヤーが『仲間』を得て……といったもの。さて、ご存知の通り、ライトノベルは隙間を突くジャンルである。著者は主人公を勇者ではなく、《ゴブリン》というゴキブリの如きザコモンスター専門の狩人に配して隙間を突いてきたわけだが、ザコ相手に俺YOEEEE!とせず、あくまで俺TUEEEE!(でも、ゴブリンもTUEEEE!)としてきたところが著者のセンス溢れる設定演出。如何にゴブリンを強敵に描けるか。その回答に著者は、ライトノベルでは禁じ手とも言える《レイプ》で応えた。作中、ゴブリンたちは(描写こそ省かれているが)女たちを蹂躙する。犯し、妊娠さえさせる。その背徳、ファンタジーでありながらも圧倒的「現実」を読み手に突きつける。本作を読めば《子供程度の知恵、力、体格しかない》ゴブリンが《子供と同じ程度には知恵が回り、力があり、すばしこい》という認識に変わり、その悪夢のような事実に恐れ慄くこと必至だ。ゴブリンスレイヤーの幼馴染、巨乳の牛飼娘は果たして処女(無事)なのか?ゴブリンにのみ執着し、憎悪するゴブリンスレイヤーの背負う過去とは?頁をめくるたびに明かされていく醜悪な生態をスパイスに、ゴブリンは人類の強敵へと変わっていく。《レイプ》の持つおぞましいエンターテイメント性をゴブリンという矮小な器へ注ぎ込んだ異形の一作。「無名」のゴブリンスレイヤーが一筋の光となって(ボクたちの)ヒロインを救います。レイプ、ダメ、ゼッタイ!

このライトノベルがすごい!(2017年版) 5位:ゴブリンスレイヤー/蝸牛くも

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 蝸牛くも このライトノベルがすごい!

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このライトノベルがすごい!(2016年版) 9位:冴えない彼女の育てかた/丸戸史明

冴えない彼女の育てかた (207x290)
アニメのBD購入費用を得るためにアルバイト中の高校生・安芸倫也は、桜の舞う坂道で出会った少女に興味を抱き、彼女をメインヒロインにした同人ゲームの作成を思いつく。筋金入りのオタクだがイラストもシナリオも書けない倫也は、果たしてゲームを作り上げることが出来るのか!?

answer.――― 67 点
私の思春期ど真ん中の最中に投下されたのはゲーム「RPGツクール」によるコンテスト、『アスキーエンタテインメントソフトウェアコンテスト』。1000万円を狙え!というキャッチそのままの、まさに子供騙し!もはや投資詐欺!な販促商法によって、私の周りのオタク予備軍はこぞって購入、例によって作り上げられず、そんな話は無かった!ことになったのは思い出の断片だが、賞金にこそ興味無かったが、何かを創る、ということに珍しく好奇心をくすぐられた私も同ゲームを購入、競馬の血統に基づいてキャラクターを街に配置する、という我ながら何が面白いのか詳細不明のゲームを制作したのは歴然とした黒歴史である。前置きはこれくらいに、イラストもシナリオも描けない主人公が仲間たちと美少女ゲームを制作する、というストーリーラインの本作。一読して、著者の本業がゲームシナリオライターというのも納得の、独特の「間」が目立つ印象。これは個人の趣向なので無視して頂きたいが、シナリオライターは「(文字を)読ませる」技巧よりも「展開(構成)」的技巧に重きを置いているため―――そして、知らず絵(画)がある前提で筆を執っているため、「間」に違和感を覚えてしまう。そのため、作品と呼吸が合わず、読み止めてしまうことが私には間々ある。本作もその類だった。故に一応は読了したものの、感想らしい感想は浮かばず。ただ、上述通り、《イラストもシナリオも描けない》というハンデを持つ主人公が女の子たちと情熱的にゲーム制作するのだから、心の隅でクリエイターに焦がれる読み手はいつぞやの私のように好奇心をきっとくすぐられるだろう。作り手にまだ回っていない人のほうが楽しめるのではないでしょうか。あ、(メインヒロインに)キャラクターがない、と指摘(&改善を要求)するアプローチは実験的に思えて好感を抱きました。ちょっと《文学》的だね。

このライトノベルがすごい!(2016年版) 9位:冴えない彼女の育てかた/丸戸史明

category: ま行の作家

tag: OPEN 60点 丸戸史明 このライトノベルがすごい!

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