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第20回メフィスト賞 受賞作:月長石の魔犬/秋月涼介

月長石の魔犬
(あらすじ)
右眼に藍玉のような淡い水色、左眼に紫水晶のような濃い紫色の瞳をもつ石細工屋店主・風桜青紫と、彼を慕う女子大生・鴇冬静流。先生に殺されたいと願う17歳の霧嶋悠璃。境界線を彷徨う人々と、頭部を切断され犬の首を縫い付けられた屍体。異常と正常。欲望と退屈。絶望と救い。

answer.――― 59 点
奈須きのこ、というと未だ世に影響力が残っているのかは定かではないが、「蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉」なる黄巾の乱の首謀者・張角よろしくビジュアルノベル『月姫』、そして、その原典『空の境界』によって頭の弱いピーターパンたちにナイフを持たせる理由を与えてしまったのは、―――もはや「神」!とばかりに祀り上げられていた00年代前半当時を振り返ってみてもやはり罪深い。ちなみに、そんなピーターパンたちはきっとバタフライナイフが流行ったときも手を出したかったに違いないが、木村拓哉と彼に影響されてソレを所持するいざ面と向かえば頭は下げるくせに心のなかでは社会のクズどもと見下しているヤンキー/チーマーたちへの拒否感から、あのナイフはデザインが……(笑)とか判で押したように言っていたので、俺はそんな光景を目にする度に(……人間、そんな種類はねえんだな)とエニアグラム性格論の証明、その一端を見ていた。さて、ナイフを買いに奔らせただけではないのが、奈須きのこが駆け上がっていった階段の高さである。奈須に続けとばかりに、フォロワーにかこつけた中二病罹患者たちが己のうちで鎖を巻いて封印していた狂気(大笑)を解き放ち、登場人物たちを多重人格に、あるいは精神疾患に、虐待、惨殺、強姦、堕胎などの暗い経歴をバーゲンセールのように付けていった。そうして、俺ハ狂ッテイル!とポエミーな文章で訴え、股の付け根をニョキニョキこじらせて……前振りが長くなったが、本作は「その手」の作品、と。いや、本当に「その手」の作品かどうかは実際に手に取ってみて自分で決めて頂きたいが、とりあえず多くの人にとって本作は食傷に当たって早々にげんなりとするだろう。ただ、何でげんなりするのか?は「……食傷!」と一言で切って捨てないで考えてみても良いと思うけどね。

第20回メフィスト賞 受賞作:月長石の魔犬/秋月涼介

category: メフィスト賞

tag: OPEN 50点 秋月涼介

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第19回メフィスト賞 受賞作:煙か土か食い物 Smoke,Soil,or Sacrifices/舞城王太郎

煙か土か食い物
(あらすじ)
腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが?ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。破格の物語世界とスピード感あふれる文体で著者が衝撃デビューを飾った第19回メフィスト賞受賞作。

answer.――― 86 点
《一筆書き》とでも評せば良いかのような、およそノンストップの書き殴り――舞城王太郎の文体は、とにかく特異である。文章に関して、これほど「天才」なる冠が相応しい作家も珍しい。出版から15年近くの月日を経ようとしている現在、本作について多く言及されているので、本稿では内容それ自体よりも舞城王太郎の「筆」の部分に焦点を当ててみようと思う。加速していく作中、―――目を留めるべきは《カタカナ》の意図的な用途である。カタカナはひらがな/漢字のなかに溶け込ませれば、実質的に「一文字」に換算され、故に読み手へスピード感を与える常道的手段(ex. 「フィオドル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー」「イマジナリーベストフレンド」等)だが、舞城王太郎はそれと合わせ、例えば「ドラえもん」と置けば、「のび太」「しずか」「スネ夫」「ジャイアン」と連想する単語を並べては読み手の目を滑らせ、着々と加速させていく。この他にも「擬音」「呼びかけ」「繰り返し」など、あの手この手を用いて《爆走》を成立させていくが、上述の目を留めるべきは《カタカナ》の意図的な用途とは「一文字」換算の《カタカナ》のような読み手への効能を狙ったものではない。舞城王太郎の筆はそういうある種、スタンダードな特異さではないのだ。確かにここまでスピード偏重するように編んだ文体も特異には違いないが、私が冒頭で《一筆書き》と評したくなったのは、他の作家ならば削除するだろう《跡》をそのまま作中で採用している点にある。その《跡》とはつまり、「チャッチャッチャッチャッ」「ガンガンガンガンガンガン!」「ゴーゴーゴーゴー!」「チャッチャッチャッ・ハイ!」etc...である。これらは単なる「擬音」ではない、……というよりも、舞城王太郎の「擬音」はすべてが読み手へ向けて使われたものではない。これらカタカナの「擬音」は自身へ向けて―――己の「筆」を奮い立たせるため、自らを「気つけ」するために鞭打った《跡》である。脈動する文章(@事実上の最高難度)を生成する方法は幾つもあると思うが、その中で誰でも出来るものの、だからこそ極限に難しいのが「止まらず書く」《一筆書き》である。どんな作家も知っている、止まらず書いた文章が一番「生きている」ことを。舞城王太郎は筆が迷い、止まろうとする瞬間に、「生きろ!」と《カタカナ》を用いて己を「気つける」のだ。巧遅拙速、文章を生かすために《カタカナ》で己へ拙速を促すのだ。本作(というより、舞城王太郎作品)に美文は無い。だが、このような己への「気つけ」の《跡》を作中で溶かし残す所業は「類い」「稀」、まさしく一読に値すると思う。本作、【推薦】させて頂きます。ところで作中、町田康への言及が一言さらっと挿されているが、本作は―――『くっすん大黒』なんか、ドライブ感凄えと思うけどなー、なるそのドライヴ感に対抗したくて編んだんじゃねえかとも思う。

第19回メフィスト賞 受賞作:煙か土か食い物 Smoke,Soil,or Sacrifices/舞城王太郎  【推薦】

category: メフィスト賞

tag: OPEN 80点 舞城王太郎 推薦

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第18回メフィスト賞 受賞作:日曜日の沈黙/石崎幸二

日曜日の沈黙
(あらすじ)
「ミステリィの館」へようこそ。もともと当ホテルは密室で死んだ作家・来木来人の館。これから行われるイベントでは、彼が遺したという「お金では買えない究極のトリック」を探っていただきます。まずは趣向をこらした連続殺人劇をどうぞ。20世紀最後の「メフィスト賞」受賞作!究極のトリックを封印したミステリィの館で推理合戦!

answer.――― 53 点
とある助教授が「殺人事件の本ばかり読んでいるんです 」と嘆けば、その嘆かれた教え子は「ミステリィです」と訂正するように、ミステリーに殺人事件は付き物だが、本作では死人は出れども……というアットホームなミステリー。いざ手に取って頁をめくれば、序盤からユリとミリアという女子高生コンビのワキャバカワキャバカした台詞の羅列に閉口すること必至のおバカなミステリー(の予)感満載で、この軽さを(これはこれで……)と楽しめる人と眉をひそめて(……売り物じゃねえ!)と早々に結論づけてそのまま投げる人に分かれると思うが、個人的には後者のほうが大勢を占める気がする。ただ、(どっちがどっちかたまに判別つかなくなる)ユリとミリアという《イマドキ》の象徴が作中の推理を壊していくので、この辺はアンチテーゼ的で存在感があった。バーコードの打たれた縦書きよりも無償の横書き(web小説)が似合う作品です。

第18回メフィスト賞 受賞作:日曜日の沈黙/石崎幸二

category: メフィスト賞

tag: OPEN 50点 石崎幸二

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第17回メフィスト賞 受賞作:火蛾/古泉迦十

火蛾
(あらすじ)
12世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂を志す作家・ファリードは、取材のためアリーと名乗る男を訪ねる。男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と四人の修行者たちだけが住まう山で起きた殺人だった。未だかつて誰も目にしたことのない鮮麗な本格世界を展開する。

answer.――― 74 点
「Un」+「Touch」+「Able」―――《アンタッチャブル》。公募賞が続いていけば、そんな触ることの出来ない、触ってはいけない、つまりは、おいそれと批評することの出来ない作品が出てくる。ライトノベルで例を引くなら、電撃小説大賞における『ブラックロッド』、えんため大賞における『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』、文学も兼ねている(らしい)日本ファンタジーノベル大賞でいえば『世界の果ての庭 ショート・ストーリーズ』(もしかしたら、『バルタザールの遍歴』かもしれない)だ。これらの作品の共通項は「著者が凄い」―――転じて、「それが解る俺は凄い」である。また、「著者が凄い」ということは、そこに「読み手はいない」ということでもある。だから多くの場合、「売れない」。さて、本作はメフィスト賞におけるそんな《アンタッチャブル》な受賞作。その概要は、イスラム世界のスーフィーを題材にしたミステリ。姿を現さない導師と修行僧4人という極端に少ない「駒」、複数人が同じ場で出会うことのない異常な「空間」を用い、著者は沈香に火を灯すようにゆらゆら綴っていく。ただでさえ少ない登場人物たちが一人、また一人と消えていく。まさにトリップ感満載の展開なのだが、如何せん、―――「面白くはない」。物語無き物語、と言ってしまうと語弊があるが、多くの人が掴めるのが「物語」であるならば、本作の「物語」を掴める人は少ないだろう。《蝋燭を吹き消すがいい。夜はもう明けたのだ》とは、シーア宗祖アリー・イブン・アビー・ターリブの言葉とのことだが、例えば、本作はこのような言葉の宗教的解釈を描いている……が、ここで読み手が出来ることは頷くことだけだ。作品すべてが著者へ集約される―――だから、「凄い」。だが、著者が「凄い」→だから「面白い」ってのは違うと個人的に思っている。本作ならば、実際に蝋燭の火を消して「……旦那、夜が明けましたぜ!こんな気味の悪いところ、さっさと引き上げましょうよ!」なんて作品世界をブチ壊す(著者にとって不都合な)登場人物こそ誰よりも著者に寄り添ってくれる存在だったと思う。まあ、要らねえと思ったからこういう作品が出来上がったわけだが……。頁をめくることが、著者への巡礼となる奇書な一作。本作を気に入った人は、上述の『世界の果ての庭 ショート・ストーリーズ』にも挑戦して欲しいね。

第17回メフィスト賞 受賞作:火蛾/古泉迦十

category: メフィスト賞

tag: OPEN 70点 古泉迦十

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第16回メフィスト賞 受賞作:ウェディング・ドレス/黒田研二

ウェディングドレス
(あらすじ)
結婚式当日、何者かに襲われた祥子。婚約者のユウ君と手分けをしながら、祥子は真犯人を目指した。鍵となったのは、あるビデオに関わる猟奇殺人と、母が遺したウェディング・ドレス。そしてユウ君と再会したとき、不可解なジグソーパズルは完成する。全編に謎と伏線がちりばめられた第16回メフィスト賞受賞作。

answer.――― 64 点
強姦は問答無用の絶対「悪」で、それだけに創作においては演出面で大きな鍵となるエンターテイメント性を孕んでいると思うが、絶対「悪」云々の作用をそもそも狙っていない作品(=R-18作品)でもないかぎり、作中でいざ強姦なんて行為を実行に移されると読み手がドン引いてしまうことが間々あるために、実際は様ざまな配慮を施して有耶無耶に……ってヒロイン、ホンマに犯されてるぅぅぅうううう!†ヽ(゚ロ゚;)キェーッ!となる冒頭からしばし呆気にとられる本作。嘘か真か判断つかないファンタジックな書き出しなために、どう受け止めて良いのか解らないまま……一応受け入れてみたけど、エンタメとして心のなかで処理出来ないまま物語が進み、二転三転の末に「ガハハハハハ、芸術は爆発だァアァ!……ギィヤアアアアアアアア!」とオチを付ける。「仕掛け」としてのフォローがあったにせよ、ツカミを《狙い過ぎた》感は否めないところ。それでも、ヒロイン、ホンマに犯されてるぅぅぅうううう!†ヽ(゚ロ゚;)キェーッ!となる冒頭は大胆不敵な演出なのも事実は事実。ある種の貴重なサンプルとして読んで損は無いと思う。ただ、そんな強烈な冒頭以外に作品としての印象が残らないのも、……事実は事実。

第16回メフィスト賞 受賞作:ウェディング・ドレス/黒田研二

category: メフィスト賞

tag: OPEN 60点 黒田研二

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第15回メフィスト賞 受賞作:真っ暗な夜明け/氷川透

真っ暗な夜明け
(あらすじ)
推理小説家志望の氷川透は久々にバンド仲間と再会した。が、散会後に外で別れたはずのリーダーが地下鉄の駅構内で撲殺された。現場/人の出入りなしの閉鎖空間。容疑者/メンバー全員。新展開/仲間の自殺!?非情の論理が唸りをあげ華麗な捻り技が立て続けに炸裂する。

answer.――― 65 点
当たり前だが、このブログでレヴューしている作品だけが私の読書歴ではない。いずれレヴューする予定の作品もあるし、諸々の事情であえてレヴューしない作品もある。その前者に属する作品には私のなかで乙一の上位互換作家・道尾“乙一さん、ちぃーす!”秀介が著した『ラットマン』なるミステリ小説があるのだが、同作と本作を読んで確信したことがある―――何をどうやっても、《売れないバンド》の殺人事件は「つまらない」。瞬間、瞬間を《面白げ》にすることは出来るかもしれないが、読み終わってしまえば、いつの間にか「つまらない」というか、「どうでも良かった」印象に落ち着いてしまう。《売れないバンド》という設定は読み損に陥る類の題材なのだと思う。《売れないバンド》ではなく、《売れない作曲家》ならば、おそらく「話」が違ってくる。可能性を残せるからだ。だが、《売れないバンド》―――個人に事実上帰結出来ないこの登場人物たちには未来が、「先」が無い。殺人事件が終われば逃れ切れない凡庸な日常に沈む。それだから「つまらない」、読後、すぐさまどうでも良くなってしまう。《売れないバンド》とは、殺人と絡んでしまえば「つまらない」と直結してしまう構造的な欠陥を内包している設定題材なのだ。なんてある種の真理を確認出来る意味では個人的に興味深く楽しめたが、そんな楽しみ方はゲスの極み乙女。である。とりあえず、ボリューム過多な頁数ではあるものの、本作のそこそこに起伏に富んだ展開、何よりそこそこに歪げな人間関係に興味が湧くと思われるので、読み詰まったら大胆に飛ばせば読み損にならない程度には楽しめる。時間を食わずに読む、というのが楽しむためのキーワードになる作品。

第15回メフィスト賞 受賞作:真っ暗な夜明け/氷川透

category: メフィスト賞

tag: OPEN 60点 氷川透

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第14回メフィスト賞 受賞作:UNKNOWN/古処誠二

UNKNOWN アンノン
(あらすじ)
侵入不可能なはずの部屋の中に何故か盗聴器が仕掛けられた。密室の謎に挑むのは防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。犯人の残した微かな痕跡から、朝香は事件の全容を描き出す。完璧に張り巡らされた伏線!重厚なテーマ性!リアリティ溢れる描写力!!

answer.――― 64 点
派手さはないが、淡々とした静謐な語り口、簡潔な文体、誠実な筆致を用いて、人間ドラマに主眼を置き、戦争を真摯に描き続ける異色の作家である。―――とは、Wikipediaに載る評だが、端的に云えば、本作は真面目で地味な筆で綴られた丁寧なデビュー作。概要は、盗聴器の発見から自衛隊内の背徳者を探すというものだが、一読しての印象は、コントロールの良い最速138km/hのストレートを投げる高校球児(2年)といった感じで、今すぐ契約したいとは思わない―――転じて、金を払ってまで読むものでもない一作。ただ、次作が気になる作家というのが青田買いが好きな読書家には誰しも心のうちにいると思うが、そこに気負わずに推薦したくなる「ほぼ」完成された作家(筆)であることは魅力的で、実際、「候補」止まりながら、著者の後の作品は山本周五郎賞、直木三十五賞といった著名な販促賞に一度ならず挙げられている。そんなこんなで、本作を読むなら著者の後発の作品を読むのがベターかな、と。私も未読なので、ファンの方がいましたらオススメを教えて頂ければ之、幸い。「UNKNOWN!」って言いたかっただけなんじゃねえか?と勘繰りたくなる平坦な本作で著者の作家としての可能性の結論を出しちゃいかんわな。余談ですが、完成された作家(筆)とは、漫画家で例えるなら「あだち充」を指します。デビュー初期から変わらないでしょ?そして、別に変えなくても良いでしょ?完成されている、とはそういうことです。

第14回メフィスト賞 受賞作:UNKNOWN/古処誠二

category: メフィスト賞

tag: OPEN 60点 古処誠二

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第13回メフィスト賞 受賞作:ハサミ男/殊能将之

ハサミ男
チョキ、チョキ、チョキとハサミ男が行く
悪い子たちの遊びをやめさせるんだ
チョキ、チョキ、チョキとハサミ男が行く
きみも彼の名簿に載ってるかもしれないよ
きみも彼の名簿に載ってるかもしれないよ
―――XTC<シザー・マン>

answer.――― 82 点
『クロックタワー』なるゲームの存在を知ったのは高校一年、もしくは、高校二年の年末だったと思う。友人宅でヲタクによるヲタクなアニメ『トップをねらえ!』のフルコース鑑賞の後、ああ、お腹いっぱい!さて、帰るか!―――はい、雑煮!とばかりに、ダン・バロウズ@『クロックタワー2』がハサミを鳴らしながら追ってくる様には(……いや、今日はもう勘弁してくれ)と思春期だけにメモリーが足りず、もはや笑えばいいのか、怖がればいいのか判別付かないまま、外が白けるまでクリアを目指し画面に釘づけになったのを現在でも強烈に覚えているが、さて、そんな「ハサミ」繋がりで紹介させて頂く本作『ハサミ男』は、今は亡き覆面作家・殊能将之のデビュー作。「面白ければ何でもあり」と謳うメフィスト賞だが、本作はこれぞメフィスト賞!と同賞のマイルストーンの一作として扱いたくなるグロウルなキャラクター推理小説となっている。物語は喉にハサミを突き刺された女子高生が相次ぐ猟奇殺人事件を軸に進むが、見所はその猟奇殺人鬼「ハサミ男」の視点があるところ―――そして、「ハサミ男」が自らの事件に巻き込まれて混乱する様だろう。殺人鬼(視点)を描け、と課せられた場合、難しいのは《理知的でありながら狂っている》という相反する奇怪な思考を披露し、読み手にそれを共感させるでなく、(出来れば生理的に)嫌悪させることだと思うが、本作はそれを前半/後半で仕掛けを変えて成立させてくるのが素晴らしい。生まれついての殺人鬼も、人であるかぎり「普通」を宿している。故に殺人鬼が起こす結果は恐ろしくても、そこに到る過程―――特にその準備段階は、きっとファニーであるはずなのだ。著者は「ハサミ男」の日常をグロテスクに、それでいてどこかユーモラスに飛躍を伴なわず描けている。『クロックタワー』のダン・バロウズを目にしたとき、(……お前、そんなデッカいハサミを持ってナニを考えてる!?)と私は言葉に出来ない衝撃を受けたが、殺人鬼(の視点)を描くときにはそんな当人には疑問さえ湧かない(読み手しか気づかない)デカダンを組み込めるかでリアリティが決まると思う。やや時代を感じる作風なものの、「ハサミ男」のデザインから【推薦】させて頂きます。

第13回メフィスト賞 受賞作:ハサミ男/殊能将之  【推薦】

category: メフィスト賞

tag: OPEN 80点 殊能将之 推薦

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第12回メフィスト賞 受賞作:ドッペルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会流氷館へ/ 霧舎巧

ドッペルゲンガー宮《あかずの扉》研究会 流氷館へ
(あらすじ)
ゴシック様式の尖塔が天空を貫き屹立する「流氷館」。いわくつきのこの館を学生サークル『あかずの扉』研究会のメンバー6人が訪れたとき、満天驚異の現象と共に悲劇は発動した!20世紀最後の新本格派・霧舎巧が島田荘司氏の推薦を受けて放つミステリフェロモン100%のデビュー作。

answer.――― 65 点
何事にも「適性」と云うものがあると思う。それはジャンルという大枠から一場面の一演出、登場人物の「でも、〇×△□……」といった台詞の語尾につく三点リーダーのような(意図せずの偶然も含む)著者が施した微細に及ぶ。「適性」がそこに描かれているものを、そこに描かれている以上のものを「読み取らせる」。本作は霧舎巧のデビュー作であり、《あかずの扉》研究会シリーズの第一弾。≪20世紀最後の新本格派≫なんて大仰なキャッチの通り、あくまで本作は推理がメインの、そして、いわゆる《館モノ》に軒を連ねる作品。物語は、『あかずの扉』研究会が流水館に訪れれば、そこで相次ぐ殺人事件……なのだが、ミステリというと俗な私が求めるのは暴かれる痴情、事件の【動機】だが、この辺がどうにも希薄で目が滑ったまま、淡々と館の形が出来上がっていく。それだから【館】のダイナミックなデザインに感嘆すべきところで、残念ながら、ほう、の一つも出ず。私自身に元よりミステリへの「適性」がない分を差し引いても、頁数、文字数、ご覧の通り!の詰め込み過ぎな印象を拭えない。いきなりの一目ツン惚れ、内側と外側に配される二人の探偵など、キャラクター小説風の工夫も見られるが、実際にそう捉えるには弱いし、何より人が死んでも、そこに恐怖が無いのが厳しい。―――いやいや、どんな作品もこんなもの!と抗する方もいらっしゃると思うが、その「どんな作品」もこんな頁数を費やして書きはしない。本作は【館】を中心に描かれ、【館】を主役に描いている。それだから、「適性」がない人にとって、種明かしのその時まで何を楽しめばいいのか解らないのが作品構造上の問題だと思う。なんて私はこの通りダメでしたが、ミステリ愛好家には好評な模様。……何事にも「適性」というモノがあるのです。

第12回メフィスト賞 受賞作:ドッペルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会流氷館へ/ 霧舎巧

category: メフィスト賞

tag: OPEN 60点 霧舎巧

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第11回メフィスト賞 受賞作:銀の檻を溶かして/高里椎奈

銀の檻を溶かして
第一部 察-scrutiny-
第二部 明-insight-

answer.――― 62 点
持ち込まれる怪異を解決する寂れた薬屋「深山木薬店」を舞台にした本作は、今や「薬屋探偵妖綺談」として知られるシリーズの事実上の第一作目であり、著者である高里椎奈のデビュー作。誰しも一読して印象に残るのは現在まで続く《メフィスト賞》受賞作としては異彩と云える、非常に《ライトノベル》的な造りだろう。こんな風に書けば、……《ライトノベル》的な造り?と面倒臭く訊かれそうだが、それに関しては「イラストが付いたほうが面白そうなもの」なんてその場かぎりの無責任な答えで返させてもらう。主要登場人物は美少年、好青年、幼さ残る少年の妖怪&妖精の3人で、ストーリー的には探偵、推理の体は取るものの、この各登場人物にポッとし、惹かれ、愛でるのが作品の醍醐味。端的に言ってストーリーよりもキャラクターで魅せる作品で、少年が事件に頭を突っ込み、じたばたと巻き込まれている状況/場面が一番のエンターテイメントとなるため、事件の本質に迫るほどに盛り下がるジレンマがある。この手の少年モノなら、ギャップにちょいとアダルトな魅せ場を設けるとより序盤、中盤が映えると思うが、その辺の工夫が弱いのが残念。冒頭の通り、可もなく不可もなく、……のライトノベルといった印象で、それだけに《ライトノベル》専門のレーベルからリリースしての反響を個人的に見てみたかった。果たして、ここまでシリーズ化出来たのかな、と。

第11回メフィスト賞 受賞作:銀の檻を溶かして/高里椎奈

category: メフィスト賞

tag: OPEN 60点 高里椎奈

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