ナマクラ!Reviews

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た行の作家一覧

 た行    

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category: た行の作家

tag: OPEN 作家一覧

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第21回小説すばる新人賞 受賞作:魚神/千早茜

魚神 (203x290)
(あらすじ)
夢喰いの獏、雷魚などの伝説が残る遊郭栄える島で、本土を追われた人々は自治組織を作り、独自の文化を営んでいる。この島で捨て子の姉弟として育った白亜とスケキヨ。一方は遊女として、一方は男娼として、悲運のままに堕ちていく二人が迎える結末とは……。

answer.――― 83 点
ヤンチャな思春期を過ごした従兄がいるのだが、イジメがエスカレートしてバットで撲殺してしまった、とある少年事件を見て「素手で喧嘩したことねえんじゃねえの?」とつぶやき、その心を訊いてみると「殴ると痛いんだよ、自分の拳も」と返され、「殴り過ぎでしょ!」「だから、(次は)その前に止めるだろ」「ああ、なるほど」と頓智をかけられた気分に陥った記憶があるが、体験から得られる事実が世の中にはごまんとあるもの。本作は第21回小説すばる新人賞、第37回泉鏡花文学賞のW受賞を果たした千早茜のデビュー作。その概要は、娼館溢れる島で「売られる」ために育てられた美しい姉弟・白亜とスケキヨの、島の伝承交えたファンタジックな顛末。一読して実にセンチメンタル、感傷的な印象を受けた。女にしか書けない―――転じて、女になってみないと書けない文章があると思うが、著者の筆はまさにそれで、後に連作短編集『あとかた』で島清恋愛文学賞を受賞するところからもそれは裏付けられるだろう。「女になってみないと書けない」―――これの意味するところは不合理、不条理といった内容を含めた諦観にも似た《停滞》が現れ、文章として刻まれることだと思う。それは内省的で、《動く》こと=進展することが《面白い》と感じるエンターテイメントの本質からすると退屈と隣り合わせの厄介な代物だが、著者は《停滞》を《耽美》へと昇華し、エンターテイメントとして成立させているのが素晴らしい。作中のハイライトは、島の用心棒・蓮沼が童女ハナへ包丁突き刺し教育する場面を挙げたい。上述の《停滞》と相反する、作中でも指折りの《動く》場面ながら、酷薄な世界観を同質に表現した著者のセンスが光る。また、作中、白亜が涙を流す場面があるが、そこに神秘を見い出せるのも注目したいところ。これこそ、男には描けないだろう。『魚神』という世界を覗く一冊。『物語』をある種必要としない、希少な筆を著者は持っている。デビュー作として大変秀逸なので、【推薦】させて頂きます。

第21回小説すばる新人賞 受賞作:魚神/千早茜  【推薦】

category: た行の作家

tag: OPEN 80点 小説すばる新人賞 千早茜 推薦

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第13回小説すばる新人賞 受賞作:8年/堂場瞬一

8年 (200x290)
(あらすじ)
30歳すぎの元オリンピック出場投手が大リーグへ挑戦! 自分の夢を実現するため、チャレンジする男の生き様を描くスポーツ小説の白眉。

answer.――― 64 点
第13回小説すばる新人賞受賞した「野球」題材のスポーツ小説。五輪での活躍からプロ入りを期待されながら結局はプロ入りせず、しかし33歳となって突然海を渡ってメジャーへと挑むピッチャーを軸に物語を展開する。もっとも一から十まで野球一辺倒なのかと云えばそうではなく、球団運営――マネーボール的視点が挿し込まれているのがセールスポイント。雑感として、やはり「旧い」印象。「マネーボール」という切り口は出版当時は鮮度があったのだろうことを察せるものの、今や「マネーボール」当事者がよりVividに現状を出版して語っているために(極)薄味にしか映らない。そのため、エンターテイメント観点だと「オールドルーキー」の要素に期待をするしかないが、野球部分の面白味よりも「何故、彼は突然、……」という背景明かしに傾斜、内容もまた暗いために頁をめくりたくならない。作品としてはラスト、単なる野球好きが「不正を正す!」様を楽しめるくらいなので、ある種の《先駆け》だった事実を確認したい奇特な方のみお読みください。

第13回小説すばる新人賞 受賞作:8年/堂場瞬一

category: た行の作家

tag: OPEN 60点 堂場瞬一 小説すばる新人賞

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第12回小説すばる新人賞 受賞作:粗忽拳銃/竹内真

粗忽拳銃 (204x290)
(あらすじ)
前座噺家、自主映画監督、貧乏役者、見習いライター。夢を追う4人の若者たちが、本物の拳銃を拾ったことからすべては始まった!

answer.――― 73 点
「荒野の賢者」とは私のフェイバリット・ライトノベル『ロードス島伝説』の登場人物ウォートだが、この「荒野の〇×」というフレーズは思春期に根づいたためか、世間を見渡しているとよく当てはめてしまう。《荒野》とはすなわち誰も寄りつかない場所である。なので、売れてない(知名度低い)と「荒野にいるねえ」と、私はひっそりと思い、そして、時たまつぶやく。さて、ここに荒野の作家が一人―――本作の概要は、芽が出ない文化系の仲良し4人組が実弾入りの拳銃を拾い、事件に巻き込まれるのか!?と怯える、というもの。荒野の作家、万人にとって本作の著者がそれに該当するかはともかく、一読して著者が《職業作家》として数年は見通しがつく印象を受けた。というのも、単純に「巧い」のである。真打ちに上がれない噺家の主人公の《日常》を描いていくなかで、拾った拳銃が違和感となるも、何か起こるわけでもなく……。起伏の無い展開と切ってしまえるが、本作を拳銃を拾った話ではなくあくまで噺家としての成長譚として見ると、拳銃によって起こる終盤の「乱戦」は見事なサービスシーンとなる。本作は詰まるところ、(読み手の期待する)先読みした展開との乖離が欠陥となっている作品。ラストの「粗忽拳銃」の一席は上等の出来なのが、また勿体無い。需要さえ見誤らなければ、好きなものを好きなように書いても読み手に届くでしょう。

第12回小説すばる新人賞 受賞作:粗忽拳銃/竹内真

category: た行の作家

tag: OPEN 70点 竹内真 小説すばる新人賞

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第8回小説すばる新人賞 受賞作:英文科AトゥZ/武谷牧子

英文科AトゥZ
(あらすじ)
大学英文科を舞台に、若く美しい志村麻美と文芸評論家・蓬田健のロマンスを、教授会の戯画的世界に描く。英単語に秘められた意外なストーリーとは?

answer.――― 65 点
貴方は「論文」を読んだことがあるだろうか?そして、書いたことがあるだろうか?大学全入時代なんて揶揄されている御時世なので、多くの方がどちらも経験あるだろうが、―――先に、本作のハイライトをご紹介。作中中盤、英文科のヘミングウェイの講読場面である。ここで披露される『二つの心臓の大きな川(Big Two-Hearted River)』への考察は、その正否はともかく、「論文」なるもの(の輪郭)に触れる良質な機会を与えてくれる。何せ、「書かれていない部分」に言及するのだ。《文学》の素養のない人にとって、そのアプローチは清新で、目から鱗となるだろう。「論文」をよく理解しないまま見様見真似で筆を執っても、採点者に文字数を確認されるのがオチだ。その意味で、大学入学前に本作に目を通すのもそう悪い話ではない。が、エンターテイメント観点で判断すれば、見逃すのが賢明だろう。本作は、イギリス帰りのヒロイン講師がポスト争いから憂鬱に浸る大学教壇の内ゲバ物語。大学教壇という舞台自体は物珍しく、興味そそられるものの、イベントに飛躍無く、実質、それだけで終わってしまう。誰に読ませるのか考えていなかった印象。“知識”で攻めちゃったね。

第8回小説すばる新人賞 受賞作:英文科AトゥZ/武谷牧子

category: た行の作家

tag: OPEN 60点 武谷牧子 小説すばる新人賞

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第4回小説すばる新人賞 受賞作:マリアの父親/たくきよしみつ

マリアの父親_0001 (204x290)
(あらすじ)
魚の活け造りができなくて板前修業を諦めたナイーブな青年「てっちゃん」、不思議な色気を漂わせる美少女「マリア」、そしてマリアの保護者代わりの天才科学者「デンチ」。3人が繰り広げる、不思議な道中記。地球への恋愛小説。

answer.――― 56 点
原発から25kmに住む筆者だから書ける地元目線の真実!と、一時話題になった『裸のフクシマ』の著者たくきよしみつによる小説すばる新人賞の受賞作。本作の執筆の動機は『朝まで生テレビ』での原発論争とのことで、作中でも《真実》とピースフルな想いが説かれる。物語を通して社会へ「主張」する作品の是非は各自の判断にお任せしたいが、しかしそんな主張ありきで作ってしまうと陥ってしまいがちな落とし穴に著者は見事に嵌まってしまった印象。というのも、右翼と警察とヤクザ、そして、国際秘密組織にまで追われている謎の美少女マリアとその保護者デンチはなかなか興味そそる登場人物ながら、二人になし崩し的に関わる普通の人「てっちゃん」を中心にしているため、その描かれ方は《外伝》的で掘り下げが足らない。素直に「マリア」視点、「マリア」始まりで良かったはずだが、その発想を妨げたのが執筆動機―――著者の「主張」を驚きとともに拝聴する「てっちゃん(読み手)」ありき、という話。《外伝》ではなく、まず本編を描きましょう。

第4回小説すばる新人賞 受賞作:マリアの父親/たくきよしみつ

category: た行の作家

tag: OPEN 50点 たくきよしみつ 小説すばる新人賞

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第12回本屋大賞 5位:土漠の花/月村了衛

土漠の花 (198x290)
ソマリアの国境付近で、墜落ヘリの捜索救助にあたっていた陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。その野営地に、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕があがった。

answer.――― 75 点
月村了衛と言えば、巷を騒がす10年代の機動警察パトレイバーこと『機龍警察』シリーズがまず思い浮かぶと思うが、緊張感のある雰囲気作り、達者な「動き」―――戦闘描写を大衆小説への転換せしめたのが「自衛隊」派遣を題材にした本作。ソマリアを舞台に、現地の女性の助けに応じたことによって《虐殺》に巻き込まれた自衛隊員たちが専守防衛という枷を解き、精神を削りながら抗戦するストーリーライン。概要からも昨今の時代情勢を踏まえたメッセージ性ある娯楽作品と解釈出来るが、早々にゲリラに襲撃を受け、以降は混乱の中での逃亡劇。とりあえず、―――登場人物たちは鮮血を撒き散らして死んでいく。断続的に挿し込まれる戦闘場面はどれも著者の自慢の筆力を存分に注ぎ込んでいるため、血沸き肉躍るその瞬間を覗きたい読み手には満足感高い仕上がり。銃撃戦はもちろん、カーチェイス、廃墟での立て籠もりと手を替え品を替え危機を演出してくれる。ながらに、逆に言えば、それ以外は特段取り上げたくなる要素は少ない。何故、執拗に襲撃を受けるのか?助けた女性は何者なのか?という物語の核となる謎も蓋を開けずとも察せるもので、物語としての求心力は弱い、と言わざるを得ない。この点、高野和明のSFを孕んだ力作『ジェノサイド』と比較してみると、本作に「足りない」ものが輪郭を持って解かるだろう。筆力の高い凡作、といった印象だが、筆力の高さ故に緊張感は演出出来ているので「読める」。

第12回本屋大賞 5位:土漠の花/月村了衛

category: た行の作家

tag: OPEN 70点 月村了衛 本屋大賞

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第9回小説新潮長編小説新人賞 受賞作:マイ・スウィート・ホーム/富谷千夏

マイスウィートホーム
(あらすじ)
どうして私はこの人と暮らしているのだろう? 冷めきったカップルをリアルに描き、恋愛の魔力と夫婦の危うさを鮮やかに抉り出す、全男女震撼の結婚小説、ついに誕生!

answer.――― 66 点
誰しもそうだと思うが、《自分》が大好きだ。自傷癖のある方には、特にそれを強く感じる。《自分》が大好きなことは自然の摂理のようなものなのでそれ自体はまったく構わないが、他人に血を、傷を見せてまでアピールすることではないので、「―――大人になれよ、三井」と。そんなわけで「格好良く」描くこと、「格好悪く」描くこと、どちらが難しいのかといえば、甲乙つけがたいものの、あえて選ぶなら個人的には後者―――「格好悪く」描くことだと思う。中でもクズをクズとして描くことは、とりわけ難しい。仮にそれを成立させてしまえば、然るべき《報い》を与えるだけで読み手にカタルシスが生まれるからだ。冷めきった夫婦の顛末を描いた本作。夫が、稀に見るクズである。弱者に対してしか強気に出れず、口から出る言葉は誇大妄想気味な自己主張、己の非をあくまで認めない自己弁護。女にだらしなく、金も浪費する。自分の子どもさえ省みない。著者のファインプレーは、夫を遊び人らしい遊び人ではなく、塾講師という一見「まとも」そうな職からイメージ付けたことだろう。そんな夫に不満を感じつつも、生活の不安から離婚に踏み切れない妻もまた、苛つかせてくれる。このように頁をめくれば読み手に何がしかの感情の波を起こすことに成功しているので、そこは「買える」ところではあるが、それ以上のものは残念ながらないので、読了して数日で十把一絡げの作品として忘れ去られてしまうでしょう。時間を置いて書いたのか、時折り、たどたどしい筆もマイナスな印象。

第9回小説新潮長編小説新人賞 受賞作:マイ・スウィート・ホーム/富谷千夏

category: た行の作家

tag: OPEN 60点 富谷千夏 小説新潮長編小説新人賞

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第9回山本周五郎賞 受賞作:家族狩り/天童荒太

家族狩り
(あらすじ)
脂肪にぎらつくナイフが、肉を骨を家族を生きながら裂いてゆく地獄絵。「崩壊した家族に再生はあるのか」血の海に沈んだ家族がひとつ、またひとつ。一家心中か、連続大量殺人事件か。きっかけは、心理相談のラインに掛かってきた、一本の電話だった。

answer.――― 80 点
同性との初対面時、貴方はまず何を量るだろうか?私の場合、相手が自分より(喧嘩が)強いか否かを量る。これは意図せずのもので、言ってしまえば、反射的な―――本能的な反応だ。ところで、私の先輩に趣味でボディビルに励んでいらっしゃる方がいる。本人は「喧嘩なんかしたことないよぉ」とか弱く仰るが、あの尋常ではない肉体を目にしたとき、たとえ敵意を向けられていなくても、私には《脅威》と評価せざるを得なかった、己の身の危険を感じざるを得なかった。「崩壊した家族に再生はあるのか」。もはや血走っている表題は元より、単行本の厚み、文庫本ならばその冊数からも十二分に察せられるだろう著者のキ×ガイ染みた狂気。そうして、頁をめくってみれば想像通りの、いや、想像以上の(……コイツ、本物のキ×ガイだ!)という確信を抱かせる情念ならぬ情「怨」塗りたくった文章。「……勘弁してくれ、もう勘弁してくれ!」心のうちで何度そう叫んだことだろう。それでも、頁はまだまだ続いていた。読了したときの感覚をよく覚えている、……「無」である。私の心は著者によって蹂躙され尽くされていた。本作を一言でまとめると、家庭に問題を抱えた登場人物たちが遭遇する地獄絵図であり、やっぱり地獄絵図である。生きたまま鋸で斬られ、釘で打ちつけられる恐怖。本作は「詰まる/詰まらない」では語れない。世の中には《評価せざるを得ない》なんて己の嗜好を飛び越えたモノがあると思うが、私にとって本作はその類の怪作だ。……何を言っているか解からない?そりゃそうだ、「魂の殺人」……私は本作にレイプされたのだから。「……勘弁してくれ、もう勘弁してくれ!」しかまともに覚えてないわ。これに関して著者自身、憎悪という憎悪を込めた入魂の作品だったらしく、04年時の文庫化の際にはほとんど全面改稿に近い「文庫版の新作」として発表した。……なんてエピソードも付け加えさせて頂く。時を経て、著者自ら(……やり過ぎだ!)とマイルドに改変せしめた問題作。だからこそ、手を出すなら是非とも「オリジナル(ver.単行本)」で。

第9回山本周五郎賞 受賞作:家族狩り/天童荒太

category: た行の作家

tag: OPEN 80点 天童荒太 山本周五郎賞

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第9回本屋大賞 2位:ジェノサイド/高野和明

ジェノサイド (201x290)
1.ハインズマン・レポート
2.ネメシス
3.出アフリカ

answer.――― 84 点
第9回本屋大賞を総括すると、三浦しをんの大衆からの認知のQ.E.D.、『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』のランクインによるライトノベルの浸透(というより、現代の消費者によるイラストに対する歓迎の表明)だと思うが、個人的には、週刊文春ミステリーベスト10(2011年度)1位、このミステリーがすごい!(2012年度)1位、第145回直木賞候補!第33回吉川英治文学新人賞候補!など、おそらく今後も含めた高野和明という作家にとってのCareer-Highとなった本作『ジェノサイド』のランクインが一番印象深い。物語の概要は、破格の報酬に釣られてアフリカでの謎の作戦に従事することになった元グリーンベレー、事故死した父から謎の指示が届いた日本人青年を主人公に、一見、地理上でも交わるはずのない点が線となり、アメリカ合衆国の大統領の首を絞める!という気宇壮大なサイエンス・フィクション。冒頭より称えたくなるのは、「謎」の提示が巧みなこと。『新世界より』のレヴューで、面白いとは《矛盾していること》と説いたが、ストーリーの面からではなく、その外側―――演出の面から答えを出すのならば、面白いとは《先を読ませること》である。そして、その上で《先を読ませないこと》だ。それを成立させるために必要なのが「謎」である。「謎」は勿体ぶって「謎」のままにしてはならない、しかし「謎」のままでなくてはならない―――この《矛盾》をお手本のように施していったのが本作。一例を挙げる。元グリーンベレーに持ち込まれたのは「謎」の作戦である。その作戦は「高額の報酬」にも関わらず、「身の危険は無く」「特定の国の利害に関わらない」「人類全体に奉仕する仕事」―――そこから、主人公は「暗殺」と推察する。「謎」は「謎」のまま、しかし、その輪郭を読み手に《予告》的に「掴ませている」のが素晴らしい。もっとも、そんな「謎」を掴ませた直後、視点切り替わり、舞台も10000km以上、雰囲気も180度変えて(……これ、本当に繋がるの?)と思考を停止させてくるところは、「初手」天元な布石。これがただの奇手に終わらないのが圧巻である。諸所で言及されているように、嗚呼、こりゃKOREA!JAPANESE、死すべし!とアイタタタタ……な著者の史観が頁をめくる手を邪魔をしてくれるが、思わず検索してしまう「ハインズマン・レポート」など、作り込んだ設定が人類の絶滅を確かにカウントダウンさせてくれる快作。未読の方はハリウッド映画にも負けない《圧倒的なスケール》を是非、御体験ください。

第9回本屋大賞 2位:ジェノサイド/高野和明

category: た行の作家

tag: OPEN 80点 高野和明

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