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第3回日本ファンタジーノベル大賞 大賞:バルタザールの遍歴/佐藤亜紀

バルタザールの遍歴
1.第一部 転落
2.第二部 転落の続き

―――そしてこの場所を変えるという問題は 私が私の魂と絶えず議論を交わしている問題のひとつなのだ。

Ch・ボードレール

answer.――― 84 点

新潮文庫イチ押し!の平野啓一郎関連のゴシップを持つ佐藤亜紀による「国際舞台にも通用する完璧な小説」と審査員に瞠目させたデビュー作。このような審査員からの絶賛を受ける小説は時代考証、文化考証が為され、インテリゲンチャの己さえ忘れかけている知識を甦らせた場合に多い。果たして、物語が閉じれば作者のあとがきに代わる<解説>にて、あの場面に出てくる紋章云々と語るに落ちてくれる。そんな件はともかく、本作はさして学の無いプロレタリア(あるいは、ボヘミアン)でも読み応えのある内容。概要とすれば、ナチス台頭のとき、ウィーンのある貴族の転落劇―――といったところなのだが、話の肝はある貴族とは双子であり、そして、ひとつの身体を共有していること。時に読者を惑わせる濃厚な筆致が素晴らしい。ファンタジー作品らしく、双子の肉体の共有以外にも、「夜回り」というファンタジックな仕掛けを用意して終盤をきっちり〆てくるのも巧みだ。文字量に比例して情報量も多いため、読了するのに高い集中力を要するのが難。ただ、錯綜する登場人物の整理をスムーズに行えれば、爽快なカタルシスをプレゼントしてくれる。そういう意味で、作者vs読者の構図が隠れている罪深い作品。

第3回日本ファンタジーノベル大賞 大賞:バルタザールの遍歴/佐藤亜紀

category: さ行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞大賞 OPEN 80点 佐藤亜紀

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第3回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:なんか島開拓誌/原岳人

なんか島開拓誌
(あらすじ)
明治の終わり……一旗あげんと新大陸を目指す人々を乗せた移民船が難破した。その際、したたか頭を打ちつけた船のボーイ・吉堀喜市はひょんなことから“生き神様”となり、超人的な能力を発揮し出した。南海に浮かぶ「なんか島」に流れ着いた男女十五人と天下無敵の生き神様の巻き起こす奇跡と珍騒動の数々。

answer.――― 69 点

本作の舞台である「なんか島」の住人・喜一郎なる少年が島から出ていこうとする冒頭に、この少年が主人公なんだな、と思えば、……時間が一気に遡り、表題通りの「なんか島」の開拓誌が始まる。本作は冒頭に登場する喜一郎の両親とその仲間、そして、喜一郎の名付け親であり、なんか島の“神様”喜市の物語。漂流しての未開の地への到着は当然、世界の名著「ロビンソン漂流記」を連想させるが、同作での孤独に喜怒哀楽してサバイヴするような展開は本作に無く、蔓を巻きつけて大木を切るなど“神様”によるご都合的奇跡で「なんか島」を開拓していく。少年少女たちはそれぞれ村長、神主、巫女、大工の役職を与えられ、困ったことがあれば、ドラえもーん!のように“神様”喜市が助けるというファンタジーと云えばまさにファンタジーながら、時代性を感じる一作。しかし、島の旧来の神たちを歓待、人喰いの原住民たちと交流、同じ難破船より上陸してきたゾンビと交戦など1エピソードのスケールが大きいにも関わらず、コンパクトにまとめられているので、意外なまでに読める。もっとも、頁をめくる一番の求心力は、少年少女の自尊心、嫉妬心が描かれていることだろう。作中、“神様”喜市は一神教を信じる外来人の策略によって退場してしまう。大胆な「転」開ながら、ドラえもんがいなくなったら面白くなるのがのび太たち(映画版)だ。神無き島での混乱は王道ながらに読み応えがあった。個人的に、まったく意味を感じなかった善玉の一神教の宣教師が幕も閉じようというその時、“神様”喜市より島に居付く許可を与えた意味を明かすところに作家としての腕を感じました。一神教を肯定的に描くならこうだよね。

第3回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:なんか島開拓誌/原岳人

category: は行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞 OPEN 60点 原岳人

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