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第10回日本ファンタジーノベル大賞 大賞:オルガニスト/山之口洋

オルガニスト
親愛なるラインベルガー先生

ごぶさたしております。ヴァイオリン科のテオドール・ヴェルナーでございます。
以前ヨーゼフ・エルンストと一緒に公私ともにお世話になったものです。

answer.――― 83 点

音楽を題材にした作品は、エンターテイメント面での成功の鍵―――あるいは隠し味として、楽器についての言及があれば大事を為せる場合が多いように思う。 前半がミステリー、後半がSFという大胆な作風を採る本作は、南米はブエノスアイレスの教会に彗星の如く出現した謎の天才オルガニストを巡るストーリー。昨今の『のだめカンタービレ』の大ヒットにより、クラシックに「解釈」なる要素が存在し、指揮者のその存在意義を認知させたのは記憶に新しいが、本作もまたひとつ、一般人がまず通ることのないクラシックの道―――<オルガニストの入口>へと導いてくれる。オルガンの構造を嫌味なく専門的に挟んでくるなど、読み手の知的好奇心を巧みに刺激してくれる秀逸な前半に対して、後半は一転、謎のオルガニスト視点からのドラマを頼みとしたフォルティッシモなパワープレイで読者の関心を繋ぐ。ミステリーからSFへの橋渡しはこの視点切り替えの妙で、イメージするほどに気にならない。描写も無駄なく巧みで、しっかりと読者の目の前には欧羅巴が広がっている。SFの味付けに必要以上に難をつけなければ、安心して唯一無二のオルガニストの誕生を楽しめるだろう。また、本作は各登場人物たちの<言質を取る>仕掛けがあるので、それぞれの夢、信念の台詞を予言として心に留めておきましょう。音楽とは感情だ、とさらりと説かれる点も見逃せない。音楽小説にハズレ無し!を証明する一冊。

第10回日本ファンタジーノベル大賞 大賞:オルガニスト/山之口洋

category: や行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞大賞 80点 OPEN 山之口洋

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第10回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:ヤンのいた島/沢村凛

ヤンのいた島
夜から生まれ、夜を生きる私たちは、やがて夜に死ぬだろう。けれども、今日は夜に泣いても、昼に拒絶された者、死が救いといえる人生をおくる者、生きることを禁じられた者―――彼らみんなを、すべての人に光を照らすのだ。
すべての人に光を。すべてをみんなのために。

サパティスタ民族解放軍反乱副司令官マルコス

answer.――― 72 点

第3回を『リフレイン』、第6回を『世界の果てに生まれて』、第9回を『五人家族』、そして、ついに大願成就を果たしたこの第10回の《優秀賞》受賞作『ヤンのいた島』を含めれば、栄えある最終選考に残ること、実に4回(!)という不遇のファンタジスタ・沢村凛。日本ファンタジーノベル大賞は《プロアマ問わず》のオープンな公募条件なので、残ること自体は不自然過ぎることは無いが、そもそもの上述、第3回の『リフレイン』でデビューを飾っているにもかかわらず、……の厚顔極めた挑戦劇。(この人、また残ってるけど、これって受からせろってこと?編集サイドの指示?……絶対に嫌だね!!)と誇り高き選考委員たちの批評は回を重ねる毎に甘辛くなったのは容易に想像がつく―――が、しかし。何度となく跳ね返されて、本作でようやく突破出来たのは何故なのか?それはひとえに「スケール」の成立にあるだろう。本作は、夢をキーワードにした一癖ならぬ四癖ある並行世界を採用した物語。ストーリーラインは、幻の生物「ダンボハナアルキ」を追って秘島に乗り込んだヒロインがゲリラに捕まり奇妙な夢を見始める―――というもの。空想生物の探索で物語が進むかと思いきや、まさかのゲリラ登場、島の植民地支配の実態を目の当たりする現実展開に驚くが、頁を進めていくうちにヒロインは「視点」を任せられただけで、主人公は表題通り「ヤン」であることが解り、幕が下ろされてみれば「ヤン」しかいない事実、そしてそして、表題「ヤンのいた島」の本当の意味を知ることになる。物語の内容自体は面白いと云えるものではないが、並行世界を用いて「視点≠主人公」を成立させているシステムは秀逸の一言。それぞれの世界でヤンが選んでいる「最善」の、しかし「悲劇的」な悲劇は興味深い。視点切り替えの多用など筆力不足も散見出来るが、並行世界の生成&着地にはやはり見るべきものがある。例えば、村上春樹は『1Q84』を書く前にこれを読むべきだったね。

第10回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:ヤンのいた島/沢村凛

category: さ行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞 70点 OPEN 沢村凛

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第10回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:青猫の街/涼元悠一

青猫の街
(あらすじ)
友人が旧式のパソコン1台を残して消えた。神野はパソコン通信、地下BBSを駆使して友人を探索。そして辿り着いたのは、謎の地下組織「青猫」だった……インターネットという悪意の暗闇を描くサイバーノベル。

answer.――― 54 点

涼元悠一、と耳にして、ピクッ!と鋭く反応してしまうそこの貴方、……ヲタクの方ですね?ヴィジュアルノベルの奇跡『Kanon』に衝撃を受け、ビジュアルアーツに入社。そこから『AIR』、『CLANNAD』のシナリオに関わり、アンダーグラウンドでも一定以上の認知度を誇っている著者の名前が、この日本ファンタジーノベル大賞の受賞者欄に連なっている違和感は時が経っても変わることはない。むしろ、ましましに異様である。―――その頃はちょうど、WINDOWS95搭載のパソコンが飛ぶように売れていた時期だった。という作中よりの抜粋文から察せられる通り、本作は一般家庭へパソコンが爆発的に普及し始めていた時期に出版された、インターネットを題材にしたミステリー。公募賞での受賞テクニックのひとつとして【時事ネタを取り入れる】という手段があるが、ほぼ日刊イトイ新聞にて本作の選考過程での「パソコンを触ったこともないから、この作品を十全に理解した自信がない」なる及び腰の裏話が披露されているように、本作の内容は存分にマニアックである。一家に一台以上パソコンが常備されつつある現況、故にパソコン用語に多少なりとも反応出来るだろう私たちでさえ、かすりもしない単語が飛び交うのだから、当時、本作を読んだ選考委員たちはインテリの冠を放り投げて「却下、却下!」と落としたかったのはその場で見ずとも手に取るように分かる。本作の概要は、友人が失踪し、ネットを駆使して探すというもの。インターネットにおける匿名性の問題(悪意)を扱っているのはまさに先見の明ある切り口で、それだけで受賞の価値を見い出すのに十分ながら、肝心の物語……失踪した友人に迫るのが終わりも終わりというのが最大の問題点。故に、面白い瞬間は残り20頁程度なので、万が一、読む場合にはそこから読みましょう。本作は、あくまで当時の人たちのための作品。現在の人が読む価値は皆無に等しい。

第10回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:青猫の街/涼元悠一

category: さ行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞 OPEN 50点 涼元悠一

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