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電撃文庫:キノの旅 -the Beautiful World-/時雨沢恵一

キノの旅
世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい
―The world is not beautiful. Therefore,it is.―

answer.――― 75 点

喋る自動二輪エルメスにまたがり、早10余年……連作短篇の顕著な成功例として挙げられる『キノの旅 -the Beautiful World-』。著者である時雨沢恵一は電撃文庫躍進の功労者として、今や高畑京一郎と並ぶ未来の稼ぎ頭を算定する電撃小説大賞、その御意見番(選考委員)として君臨。当たり障りのないコメントで長期政権を狙う。そんな著者の現況報告はさて置いて、本作のレヴューをば。連作短篇の基となるのは、国から国への旅。主人公であるキノ(&エルメス)は滞在するその場所がどれも偏屈な体制、思想を持つことを知り、また、そこの住人、あるいは旅の途中で出会う人々と邂逅……そうして、概してシニカルなエンディングを迎えるというもの。著者自身が申告している通り、作品のモチーフは松本零士の代表作『銀河鉄道999』。本作は過去の名作漫画を違う主人公で、読みやすい文章で再構築したというのがセールスポイントに挙げられる。現在ではライトノベルの代名詞としても通用するミリオンセラーな本作が第6回電撃小説大賞において落選したという事実は巷で語られる有名な話。これは<面白い/つまらない>という単純なYES/NO評価だけでは、受賞出来ないということを暗に示している。キーワードは「連作短篇」―――当時、このスタイルの成功例が(シリーズ本編の番外編としてこそあれ)ライトノベルに無かったことが大きい。出版社にとって授賞はあくまでビジネス。ただ面白いだけでの出版、その失敗は許されない。昨今、『小説家になろう』などの小説投稿サイトからのデビューが目立つが、これはビジネスが確立してくれば必然的な流れで、業界を変えて例を挙げれば2000年前後の邦楽における「インディーズで一度売り出して、そこからメジャー・デビュー」の図式に見て取れる。リスクを背負うことなく、一定量の「売れる」確証。本作が選考から漏れ、『電撃hp』にて全編を一度掲載されたのも同じ理由だ。文化事業において、新しいことは避けられる。ワナビー諸氏には、その辺を理解した上で、―――The world is not beautiful. Therefore,it is.と、うそぶいて頂きたい。横道に逸れたが、ライトノベル初心者には手堅い一作。もはや、ライトノベルの古典とも云える位置に置かれる作品なので、後学のためにも読んで損は無い。また、著者のあとがきへの想いは業界随一だろうことも付け加えておく。個人的には、著者近影のほうが面白いけどね。

電撃文庫:キノの旅 -the Beautiful World-/時雨沢恵一 (2000)

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 時雨沢恵一

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第12回ファンタジア大賞 準入選:武官弁護士エル・ウィン/鏡貴也

武官弁護士エル・ウィン
1.竜・森・死神・離婚?
2.恋・裁判・やり手・竜殺し
3.誘拐・痛み・心・急接近!?
4.弱さ・強さ・命・それぞれの想い
5.衝突・消滅・もう・いない……

answer.――― 68 点

鏡貴也―――彼こそ富士見ファンタジア文庫をライトノベルの王者から転落させた張本人なのだと思う。『スレイヤーズ』由来の快活なヒロインの一人称、『魔術士オーフェン』由来の能ある鷹は爪を隠すパーソナリティ+本気出したら俺、無敵!の万能感、そして、人があっさりと死んでいく(ライトノベラー的)リアリティ……読みやすい、気持ち良い、んんんんん気持ちィィイイッ!を体現する作風は、編集者からすれば、富士見ファンタジア文庫のDNAを存分に受け継いだサクセサー・オブ・レザーエッジに見えたことだろう。それだからこそ、受賞させてはいけなかった。推してはいけなかった。現状維持。それが意味するところは、常に(緩やかに)変化することにある。電撃文庫が『ブギーポップ』シリーズで拓いたライトノベルの新たな地平に、ライトノベルの親戚筋に当たるビジュアルノベルから端を発する《萌え》なる未知に、富士見ファンタジア文庫は2000年のこの自前の公募賞で気球だけでも上げるべきだった。レーベルの看板作品を物の見事に手本にした優等生な本作への授賞は当時、投稿者に「変わらない」ことを、読み手に「旧い」イメージを決定的に植え付けた。故に、電撃文庫の一人勝ちを許してしまった富士見ファンタジア文庫の現在がある。上述の通り、本作は快活なヒロインの一人称で進むファンタジー。オリジナリティは表題にあるように「弁護士」の要素を取り入れ、世界観の披露とともに、作中で裁判を展開する点。とは言っても、《要素》として取り入れているだけで堅苦しいものではなく、また、感銘を受けるほど作り込まれてもいない。メインはあくまで神をも巻き込むスケールの大きな会話、そして、世界の終焉を賭けたバトルだ。そのシンボリックな場面は、死神の登場(依頼)場面だろう。ここで読者はコメディ的ながらも作品世界の拡がりを堪能出来る。ここまでどこか批判気味に書いているが、鏡貴也の職業作家としての能力は非常に高い。速筆且つ、ツボをわきまえた《要素》を随所に織り交ぜる。この道で食っていく!という方は、彼の創作論を訊いてみるのも良いんじゃないだろうか?もっとも、ただの中二病で、小器用なだけの可能性も高いが……。富士見ファンタジア文庫を堪能出来る一作。

第12回ファンタジア大賞 準入選:武官弁護士エル・ウィン/鏡貴也

category: か行の作家

tag: ファンタジア大賞準入選(金賞) OPEN 60点 鏡貴也

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第12回ファンタジア大賞 佳作:アンジュ・ガルディアン ~復讐のパリ/年見悟

アンジュ・ガルディアン
1.天使と悪魔(1)
2.パリの白百合
3.天使と悪魔(2) 始まりの朝

answer.――― 63 点

実質の「勝負所」の2章に入り、(……あー、ブレたなぁ)とやはり「隙」有り、思わず苦笑してしまう本作は“ヤラカシ”編集部の紹介をそのまま引用するならば、幻想のゴシック・サスペンス・ファンタジー。舞台はマスケット銃が映える16世紀のパリ。そこを騒がすのはこの十年間、千人の犠牲者を出す猟奇殺人鬼……しかし、それを追い続ける少女がいた、というストーリー。文章は描写し過ぎず、だからといって軽過ぎずの本格派で、それが《幻想のゴシック・サスペンス・ファンタジー》なんてジョーク染みたラベルに「……ふむ」と一理一考の余地を与えてくれる。しかし何と言っても、……!の作中随一の衝撃は、一章終盤で披露されるヒロインの肉体造形。サスペンス色が強かったストーリー展開に途端、デカダンなファンタジーが顔を出す。良いのか悪いのか、お披露目その時点ではほとんどの読者はまず判断出来ず、まさしく「見」のまま次章を迎えることになる。そして、本稿冒頭でボヤいたようにある種の期待はやはり裏切られる訳だ。さて、おそらく本作は読まれることはないと思うので、もったいぶらずにヒロインの肉体造形を明かしておこう―――腕が三本ある。しかも、第3の腕は滅茶苦茶デカい。読み手は常に思考を停止することを望んでいる。見たこともない展開を期待している。本作はそれを叶えてくれるわけだが、如何せん、外道なサプライズだ。にもかかわらず、案外に受け入れられるのは16世紀のパリ(のサスペンス)というわざわざライトノベルで読みたくない重みから解放してくれるから。問題は、「パリの白百合」と冠せられたように、2章は腕を三本生やしたヒロインが不自然なまでに脇へ追いやられ、白百合衆なる義賊が主役を張る展開。これで勝負あり。著者自身が自作を理解出来ていなかったのが読み手に伝わってしまった。何のためにヒロインに腕三本生やしたんだよ?ああ、差別とかどうでもいいから。暗い生い立ちも興味無い。……さて、じゃあ、読み手は腕三本のヒロインに何を期待したでしょう?“ヤラカシ”が(こいつ、なにテングになってんだ?)と解説でわざわざディスっているように、著者はちょっと頭がイタいご様子。自分を見つめ直し、身の丈にあった物語を編みましょう。

第12回ファンタジア大賞 佳作:アンジュ・ガルディアン ~復讐のパリ/年見悟

category: た行の作家

tag: ファンタジア大賞佳作 OPEN 60点 年見悟

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