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第16回ファンタジア大賞 準入選:約束の柱、落日の女王/いわなぎ一葉

約束の柱、落日の女王
1.落日のなかで
2.士官
3.告白
4.旅路
5.取引
6.真相
7.流動
8.そして、約束の柱

answer.――― 69 点

これは面白いというよりも、興味深い受賞作。ストーリーラインは、傾国の若き女王クリムエラの前に現れた謎の男カルロが、あれよあれよと国を立て直し、……というもの。ひとつまみのファンタジーな要素は、その謎の男カルロが実は2000年後からやってきた「タイムリープ」設定。読み手は歴史的に滅ぶはずの国がどうなるのかと訝りながら頁を進めていくのが本作の本線。傾国らしく臣下は不信にまみれ、ヒロインである女王クリムエラも子飼いの侍女をワニに食わせるなど、過剰なまでにヒステリック。そこに紛れ込むカルロは野心にまみれて、ちょっとしたカオスな序盤は無視出来ない迫力がある。そこから「無敵」「モテモテ」「成り上がり」のおよそライトノベラーが望む三拍子ならぬ三要素を配し、万全の展開を図る著者は正しい。しかしながら、(……これは売れないな)と思ってしまうのは何故か?本稿冒頭に綴った「興味深い」とは、本作が売れない理由が《つまらない》からではないからだ。本作、ぶっちゃけた話、「面白い」。にもかかわらず、《つまらない》と言いたくなる。その理由を探すのが、本作で一番の醍醐味だと私は考える。面白いけど(……何か)つまらない、この矛盾した感想を回避する方法はある。例えば、本作は恋愛(登場人物の心境の移り変わり)を核に置いてしまっているが、「タイムリープ」を前面に置けば印象はずいぶん変わるはずだ。あるいは、……と本作の問題点を各々がどう把握するか。断言するが、本作は「面白い」。およそ、そう指摘出来るモノを揃え、組んでいる。だが、読み手の結論としてそこへ着地しない、実に興味深い一作。筆力も十分だが、とあるレヴューでは「サクサク読める」なんて普段なら誉め言葉なはずの感想も、本作では否定的な意味合いで使われている。さてさて、なーんでだ?

第16回ファンタジア大賞 準入選:約束の柱、落日の女王/いわなぎ一葉

category: あ行の作家

tag: ファンタジア大賞準入選(金賞) OPEN 60点 いわなぎ一葉

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第16回ファンタジア大賞 佳作:ムーンスペル!!/尼野ゆたか

ムーンスペル!!
1.氷に囚われしは白き少女
2.どこへも続かない道
3.不思議な少女
4.噂は残酷なり
5.背中合わせで
6.夜の至高者
7.月呪
8.歩みたいと願う道

answer.――― 61 点

ライトノベルにかぎらず、大衆小説、文学にも当て嵌まることだが、公募賞への投稿を考えるワナビーに向けて、とりあえず、……と一度は贈られる「受賞作を読め!」なる助言レーベルの求める作風やらの「傾向」を掴むというのが主旨だと思うが、個人的にはワナビーから脱線し、プロの道へ奔った後にこそ贈りたい。それというのも、時代の変遷を、《お約束》の変化を体感するためだ。年を重ねると、時間を体感することは非常に難しくなる。いつの間にか置いていかれ、その事実を認め切れず、故にそれと知らず意固地になって、かのコテハンなフレーズ「最近の若い奴らは、……」を吐き出すのである。時間を体感すること、それが正しい意味での感性の現状維持を成り立たせる。受賞作を読め、というのは公募賞が概して1年に1回の期間を持つからだ。複数年に跨った受賞作群をまとめて読んだとき、自分が気づかずにいた《時の流れ》があったことを体感する。さて、前置きが長くなったが、本作は遡ること2004年、第16回ファンタジア大賞《佳作》受賞作……ながら、これはまた、驚くほどに「旧い」!本作で果たされていく《お約束》は90年代の遺物そのもの。現在のライトノベルの《お約束》を漠然と把握している人は、本作を読んで、過去と現在の《お約束》の変化を実感するのも良いだろう。ストーリーラインは、おちこぼれの詠唱士が謎の美少女を拾い、……の巻き込まれる物語。驚く展開は皆無ながら、幼女を含んだ90年式の「ハーレム」がほのぼのとした日常を演出している。個人的に、おっ……と目を惹いたのが終盤に脇役の生徒の視点を挿し込んだ点。唐突ではあったが、JS(?)幼女の視点は今でも珍しいので新鮮に映った。この子を主役にすればモダンに感じるんじゃないだろうか?何にせよ、2004年というライトノベルの転換期に、本作へ《佳作》を与えた“ヤラカシ”編集部に喝!

第16回ファンタジア大賞 佳作:ムーンスペル!!/尼野ゆたか

category: あ行の作家

tag: ファンタジア大賞佳作 OPEN 60点 尼野ゆたか

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第16回ファンタジア大賞 佳作:ご愁傷さま二ノ宮くん/鈴木大輔

ご愁傷さま二ノ宮くん
1.一大事だよ二ノ宮くん
2.サンドバッグな二ノ宮くん
3.それはまずいよ二ノ宮くん
4.男を見せよう二ノ宮くん
5.ご愁傷さま二ノ宮くん

answer.――― 58 点

心臓がロデオ。そんなコテハン的フレーズを著者が抜くとき、美少女とのムフフな状況―――そして、主人公の本能と自制心がせめぎ合う。ある日突然、サキュバスな病を持つ男性恐怖症の美少女と同棲することになった思春期真っ盛りの主人公のご愁傷さまラブ・コメディ。あらすじを読めばそれで王道と分かる内容を持つ本作は、結論から言って、著者の力量不足が目立つ。王道に則する作品はその展開が王道であればあるほど、必ずそれに比例して、ある『力』が求められる。―――筆力。つまらないものさえ面白くする表現、会話の妙。著者には残念ながらソレが足りていない。この辺は、必然的に心内描写が多くなるヒロインとの一対一の状況に顕著だ。主要登場人物も実は地球のパワーバランスを担っていたり、世界経済を動かしたり……のトリックスター的設定を与えられているものの、終盤になってようやくデデン!ドドン!!とその大風呂敷を広げてみせられたところで、時すでに遅し……な印象。本作はラブコメと謳うには設定的にも、筆力的にも「まとも」過ぎるのだ。コメディにバランス感覚は要らない、それをまざまざと確認させてくれる作品。ただ、肯定的に取り上げたい部分もある。それがカラー挿し絵にも採用されている体育のプール場面。有象無象のクラスメイトたちを絡めた、多対一は著者の筆が明らかにノッているのが分かる。これを全編、素で出来ればね。

第16回ファンタジア大賞 佳作:ご愁傷さま二ノ宮くん/鈴木大輔

category: さ行の作家

tag: ファンタジア大賞佳作 OPEN 50点 鈴木大輔

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富士見ファンタジア文庫:BLACK BLOOD BROTHERS 1 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸-/あざの耕平

BLACK BLOOD BROTHERS1-ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸-
1.船上の吸血鬼
2.『カンパニー』の調停員
3.九龍の血統
4.満月の兄弟

answer.――― 75 点

いわゆる吸血鬼モノ。出版時期を考えれば、ちょうどゴールド・ラッシュならぬヴァンパイア・ラッシュとも云える吸血鬼ブームがいよいよ真っ盛る頃で、あざの耕平も「ここは一発……」とつるはしを担いで金脈を掘り当てに来た感があり、そして、―――見事に掘り当てた。本作に特筆すべきオリジナリティーは無い。設定には吸血鬼に付き物の『始祖』、『不死』、『血統』、『弱点』などが並ぶ。あえて目新しいと挙げるなら、ヴァンパイアの存在が世間で暗に認知されていること、香港一つを壊滅させたスケール大きな事件に関わる吸血鬼を「一」血統としていることだろうか。ただ、それで他作品と差別化出来る訳では勿論無い。では、何故に本シリーズがヴァンパイア溢れるシーンより抜き出れたのか?それは単純に台詞回しを始めとした硬軟剛柔、どちらもバランス良く演出出来る著者の筆力であり、何より著者の作家としての一番の強味と云える扱う題材への理解、勘の良さ故だ。本作終盤、それを象徴する主人公ジローの台詞を引用してみよう―――「退廃の香りがするでしょ? 吸血鬼っぽくありません?」、これである。必ずしも正解は必要では無いが、○×と云えば△!のような作家自身の『答え』が欲しいのが読者だ。吸血鬼と云えば退廃、正解不正解の是非は人に依るだろうが、自らの死を意味する台詞を笑って口にするジローの姿はまさに退廃的。芯の通った(自身の偏見)理解の為せる業である。ついでに、明らかに続巻を前提にした造りにはなっているものの、あからさまな謎で繋ぐヘタクソな演出が無いのには好感。上述の台詞で一巻を実質「〆る」逆算的なアプローチが見事でした。男性作家で第二の主人公コタロウの純真無垢さというか、あざとさを感じさせない「童」像を描けるのも何気に凄いね。

富士見ファンタジア文庫:BLACK BLOOD BROTHERS 1 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸-/あざの耕平 (2004)

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 あざの耕平

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