ナマクラ!Reviews

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第5回スーパーダッシュ小説新人賞 大賞:黄色い花の紅/アサウラ

黄色い花の紅
1.序幕
2.第一部
3.幕間
4.第二部
5.終幕

answer.――― 55 点

B級傑作『ベン・トー』シリーズで、その名をライトノベル業界に知らしめたアサウラのデビュー作であり、第5回スーパーダッシュ小説新人賞の<大賞>受賞作。パッと見て分かる頁の厚み、捲って知る350頁のボリューム。『ベン・トー』からの後追いファンからすれば、さぞ期待に胸膨らむ心持ちとなりそうだが、いざ読了してみれば、新人作らしい拙さが随所に盛られている作品と分かり、……ガックリ。といった感じ。概要としては、ヤクザの箱入り娘だった令嬢ヒロインが、とある裏切りをキッカケに、自分の生き方に疑問を持ち、……という<自我>の発芽をテーマにしたストーリーライン。自我発芽のアイテムとして「銃」に焦点を当て、また、これが作品のセールスポイント!と意気込んでマニアックに解説してくるものの、銃に興味の無い人には「……」と閉口せざるを得ない。銃の解説は物語上、必要不可欠なものではなく、いわばオマケ的要素なのだが、この辺りの区別がまだ著者には出来なかった模様。読み手としては延々と続く解説に辟易した。そんなマイナス査定が目立つ作品だったが、これからの活躍を予感させる片鱗もあった。本作、章タイトルに銘打ってあるように二部形式であり、第一部ではまさに令嬢だったヒロインが、二部では一転、恰好から何まで令嬢を脱皮していく様は試みとして面白い。ただ、令嬢からの変貌を考慮しても200頁に十分収まる内容であり、やはり、まだまだまだの習作といったところ。まず、と言わず、『ベン・トー』から著者のキャリアが始まったと解釈するべきだろう。ファンでもないかぎり、敢えて読む必要の無い作品。

第5回スーパーダッシュ小説新人賞 大賞:黄色い花の紅/アサウラ

category: あ行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞大賞 OPEN 50点 アサウラ

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第5回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:ブール・ノアゼット 世界一孤独なボクとキミ/藍上陸

Beurre・Noisette
1.神さまの在処
2.平和に至る方法論
3.焦がしバターの焦がし方
4.『彼女を好きになってはいけない』
5.サイコロは、きっと転がらない
6.機械仕掛けの神
7.ブール・ノアゼット

answer.――― 26 点

これはまた、酷い……と思いつつ、著者自身に若干の興味を持ってしまった奇抜な作品。イジメられっ子が転校してきて、ハイスクール・ライフをリセットしようとしたら「あなた、神さま、憑いてるよ?」なる奇天烈な発言をかまされて、……なんて突飛な概要を書こうと思ったが、これは書く程のものではないな。SD文庫のHPに記載されている選考委員たちの否定的なコメント群からも分かる通り、最終選考に残っているから仕方なく、嫌々、渋々ながら……のおおいに消極的な方針で受賞した本作の主題は、「神」。冒頭にも書いたが、あまりにあまりな精神年齢幼い内容。ネタバレとなってしまうが、「神」とは<著者>であり、ラストシーンで絶体絶命のピンチに陥る主人公の願いを叶え、去るという暴挙は実にアマチュア的で結構、もう結構!それで締め括りの台詞は「みだらちゃん!毎日毎日、毎朝毎昼毎晩えっちしよう!そして、三時のおやつには一緒にお菓子を食べよう!」としっかりキメてくる。そんな安物のドラッグをキメて飛んでる童貞の著者に興味を持ち、HPにサーフィンしてきたが、……なるほど、ただの馬鹿だが、感性は悪くないようだ。文章実験を語るところを見るに文章への拘りを感じるので、その方向でプロを目指して欲しい。とりあえず、お金と時間、返して下さいp(´⌒`q)オネガイ

第5回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:ブール・ノアゼット 世界一孤独なボクとキミ/藍上陸

category: ら行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞(佳作) OPEN 20点 藍上陸

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第2回本屋大賞 1位:夜のピクニック/恩田陸

夜のピクニック
(あらすじ)
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭に臨んだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために……。

answer.――― 76 点

結論として、100頁ないし、150頁ほどは省略出来ると思う。昨今のジュブナイル小説の書き手としては一番に名が上げられるだろう恩田陸。本作は彼女の母校の歩行祭を下敷きにしてあるだけあって、ファンタジーを織り交ぜる普段の作風とは違い、基本的に不可思議無しの作品。物語は腹違いのクラスメイトの邂逅が柱だが、兎にも角にも、ピクニックどころか、マラソンと改題を求めたくなるような長丁場。リアルに歩行祭を追体験出来た。おそらく狙っている部分もかなりあると思うが、だるい、退屈、まだ終わらない、これらの登場人物の感情のリピートが読者に鞭を打ってくれる。確かにツマラナイのだもの、序盤、そして、中盤も!マジ、早く終わってくれ!とは真に迫った内なる咆哮だ。ただ、物語終盤からの清々しさはまさにランナーズハイ。青春をしっかり伝えてくれる。そんなこんなで、時を置いて、もう一度読んでみたいという思いも生まれた。しかし、明らかに錯覚なんだろうな。もう歩きたくないもの。

第2回本屋大賞 1位:夜のピクニック/恩田陸

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 恩田陸 本屋大賞

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第2回本屋大賞 3位:家守綺譚/梨木香歩

家守
1.サルスベリ
2.都わすれ
3.ヒツジグサ
4.ダァリヤ
5.ドクダミ
6.カラスウリ
7.竹の花
etc…

answer.――― 86 点

明治~大正期と思われる時代を舞台に春夏秋冬、季節を移ろわせ、日本人の感性をかゆいところに手が届く感じでくすぐってくれる。冒頭の一編を立ち読めば、良作だと分かる。何せ、掛け軸から行方不明の友人が現れても、主人公があまり動揺しない通な世界。気づけば、読者も声に出して「言われてみれば、そんなものか」なんて主人公の台詞を引っ張り出したくなる。短編が連なる形で物語が進むため、どこで栞を挟んでもOKな作品。構成も巧みで、何とはなしに読んでいると物語の着地点に驚くことになる。文庫本は四百円もしないので、友人、知人にプレゼントとしてよく贈っている。俺ってセンス良いだろ?的な感じで。ナマクラ!Reviews、珍しく(?)お薦めの一冊です。

第2回本屋大賞 3位:家守綺譚/梨木香歩  【推薦】

category: な行の作家

tag: OPEN 80点 梨木香歩 推薦 本屋大賞

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第2回本屋大賞 4位:袋小路の男/絲山秋子

袋小路の男
1.袋小路の男
2.小田切孝の言い分
3.アーリオ オーリオ

answer.――― 80 点

―――純愛とは何か?ある評論家は<プラトニックなまま、死がふたりを別つもの>と説いたが、「現代の純愛物語」と評された本作はプラトニックではあるものの、<死>は関係しない。文学畑からの作家にも関わらず、大衆からフェイバリットに挙げられる女性作家のひとり・絲山秋子。女性作家には綿矢りさ、島本理生のように<若さ>を買われての支持が多いなかで、デビュー時点で四十路に差し掛かろうという著者の支持率の高さは興味深いところ。さて、表題作はうだつの上がらない男に思いを寄せ続ける女の物語。何故、好きなのか?は特に言及せず、他の男と付き合ったり、そのうちの一人の変態と痴態を投稿サイトにアップしたりと時々に<浮気>しつつ、それでも思い通りにならない袋小路の男を子どものように慕い、思いを寄せ続ける。そんな面白い<純愛>物語。このヒロインの心持ちを綺麗だと(読者自身が)思うのは何故か?というのが分かり易い論点になる。ただ、これを綺麗と受け取れないと、何故、好きなのか?というスタンダードな論点に目が行ってしまうかもしれない。そうなると、本作は欠陥品に映るだろう。個人的には、表題作と対となっている<袋小路の男>の視点交ざる「小田切孝の言い分」がオススメ。子どものように思いを寄せるヒロインにピッタリの、いつまで経ってもガキ大将だと分かる。また、レヴューサイトを巡っていると、表題作とは無関係の短篇「アーリオ オーリオ」を評価する声を目にするが、私には論点らしい論点を見つけられず、夜空を見上げて「アーリオ オーリオ」とつぶやくくらいしか感想が出てこない。まあ、嗜好の違いかね。やや視点が不安定な書き口が難点だったが、同年代の吉本ばななのような賞味期限の切れたババアの若作り的醜さを出すことなく、Modern Purenessを表現出来ているのがGood!な作品でした。

第2回本屋大賞 4位:袋小路の男/絲山秋子

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 絲山秋子 本屋大賞

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第2回本屋大賞 5位:チルドレン/伊坂幸太郎

チルドレン
1.バンク
2.チルドレン
3.レトリーバー
4.チルドレンⅡ
5.イン

answer.――― 74 点

伊坂幸太郎と云えば、―――ギャング!という初期の先入観に応えた冒頭の銀行強盗劇から幕を開ける本作は、「短編集のふりをした長編小説」をコンセプトに、理屈にならない理屈で相手を困らせるのに何故か憎まれない男・陣内を全編で脇役として登場させる連作短編。作中の時間軸は、陣内が家裁調査官になる前/なった後の二つがあり、「バンク」「レトリーバー」「イン」ではなる前のストーリー、「チルドレン」「チルドレンII」ではなった後のストーリーが描かれている。表題作を時間軸に跨いでの一作品の流れを楽しむ体だ。ハイライトは表題でもある四章「チルドレンII」だろう。作品全体で訴えている性善説をバッチリと決めてくれる。もっとも、ハートフルな作品ではあると思うが、手持無沙汰を埋める程度の面白味で、読んで心動くような感動は得られない。個人的には、家裁調査官という耳慣れない職業の存在を知ったのが本作の収穫だった。法律用語では、14歳、15歳の少年を年少少年、16歳、17歳の少年を中間少年、18歳、19歳の少年を年長少年と呼ぶらしい。一番面白そうな登場人物は盲目の少年の恋人だったな。全編で盲導犬にさえ嫉妬する彼女が視点人物だったら、もっと違った印象になったかもしれない。

第2回本屋大賞 5位:チルドレン/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎

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第2回本屋大賞 6位:対岸の彼女/角田光代

対岸の彼女
(あらすじ)
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。

answer.――― 72 点

個人的に著者の角田光代というと、コンスタントに作品を出し、コンスタントに賞を受賞していくイメージがあるが、本作もまた、そのイメージに違わず、ビッグネームへのStairway to heaven―――直木三十五賞を受賞した。三十代の女性同士の友情が主題の本作。主人公は小夜子と葵の二人。作風としてカットバックの形式を採り、小夜子視点は現在を担い、葵視点は葵自身の過去を担当している。肝心の中身は正味なところ、エンターテイメントの面に関して不満が残る。女性同士の友情を主題においた著者は、その女性の友情を演出、証明するために<イジメ>を核に置いた。本作はそのことからも終始お梅雨な湿っぽい雰囲気で、ラストでこそ雲間から光が差すものの、何らカタルシスらしいカタルシスが用意されていない困った作品だ。ただ、所々で評判が良いのは何故か?というと、これは如何に共感出来るかにかかっていると思う。いわゆる女性の<群れたがる>性質を描いている本作は、女性なら自身の実体験からの追体験、男性なら知的好奇心からの追体験によって面白みを得る。実体験と好奇心、この部分が欠けていると、本作はストーリーそれ自体は派手さもない地味な話ので、退屈にさえ感じるだろう。読み方としてはある意味で、文学作品として捉えたほうが良いかもしれない。とりあえず、♂をしゃぶるとか、それくらいのスパイシーな性描写はあって欲しかったな、と。

第2回本屋大賞 6位:対岸の彼女/角田光代

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 角田光代 本屋大賞

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第2回本屋大賞 7位:犯人に告ぐ/雫井脩介

犯人に告ぐ
(あらすじ)
川崎市で起きた連続児童殺害事件。その捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をTVニュースに出演させるという荒技に踏み切る。白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった―――史上初の劇場型捜査が幕を開ける。

answer.――― 78 点

―――「犯人に告ぐ」。そんなタイトルからも期待してしまうように、マスコミを通して犯人自身に呼びかける《劇場型捜査》が大きなセールスポイントに挙げられる本作。発表当時は、伊坂‘優等生’幸太郎ら同業者も絶賛し、ベストセラー、映画化になるなど話題を振りまいた。主人公は過去の失敗から左遷された中年刑事・巻島。序盤は思いの外、静かな―――規模こそ大きいが、想定を超えない―――《劇場型捜査》に野次馬気分も冷め、様子見の観客(読者)となるが、中盤から終盤に掛けては書店や映画などの宣伝文句には見られなかった同僚の功名心、痴情など、割にナマモノ的なゴシップ伏線を回収していき、鼻についていたエリートたちの転落を楽しめたのは嬉しいサプライズだった。肝心の事件も最後、巻島が犯人に「告ぐ」、クライマックスらしいクライマックスを用意してあるので劇場捜査の終幕後、温かい拍手を送れる。勘違いしていたのは本作、《踊る大捜査線 the movie》かと思いきや、《はぐれ刑事純情派 the movie》だったこと。宣伝に踊らされたね。読了後、良くも悪くも、手堅いエンターテイメントだった印象が残るだろう。余談だが、巻島の外見の描写がどことなくブラック・ジャックを参考にしているような感じで、個人的に苦笑。上下巻を合わせたレヴューです。

第2回本屋大賞 7位:犯人に告ぐ/雫井脩介

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 雫井脩介 本屋大賞

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第2回本屋大賞 8位:黄金旅風/飯嶋和一

黄金旅風
(あらすじ)
いつの世も希望は人に宿る―――江戸寛永年間、海外貿易都市・長崎に2人の大馬鹿者が生まれた。その「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称された2人の問題児こそ、後に史上最強の朱印船貿易家と呼ばれることになる末次平左衛門(二代目末次平蔵)とその親友、内町火消組惣頭・平尾才介である。卓越した外交政治感覚と骨太の正義感で内外の脅威から長崎を守護し、人々に希望を与え続けた傑物たちの、熱き奔流のような生涯!

answer.――― 70 点

ようやく読破した本作を振り返って、改めて思うことは「司馬遼太郎はスゲエなぁ……」と。長崎の異端児、末次平左衛門と平尾才介、そして、江戸時代黎明期の混乱を描いたストーリー。歴史を題材にした作品は、登場人物の魅力を前面に押し出す作風が主流だと思うが、綿密な取材により成立させる<時代考証>それ自体をセールスポイントに置く作風もある。本作がまさにそれで、台詞も少なく、頁の多くを占める地の文はさながら資料を読むかの如き錯覚を覚える。これを面白い!と云えるのは一種の素養を持つ人たちで、彼らは作品を手に取るときに知識欲を刺激されることをひとつの目的に数えていると思う。本作で云えば事件の鍵のひとつ、銀鋳造において銀の含蓄量が「多過ぎる」ことが問題になるのは、悪弊=銀の含蓄量が少ない、という先入観ある現代では、まさに新鮮。脳内を活性化させてくれた。だが、である。しかし、である。本作を大衆皆「是」とするべし!というのは違うだろう。司馬遼太郎が司馬山脈という一大山脈を築いたのは作品数はもちろん、何より「読みやすい」からである。本作は、著者のスタイルと云えども、その辺は完璧に無視されている。読めるヤツが読めばいい、―――というのに巻き込まれると、読者は散財をすることになる。本作は歴史資料を読み物にした作品だと思って欲しい。その意識を持てば、得るモノは大きい(頁数的にも)重厚な一冊。個人的に要改善として挙げたいのは、主人公を主人公と認識するのに時間が掛かること。平尾才介は大物の雰囲気を出しておいて、早々に退場したのも構成上、難癖をつけたくなる。

第2回本屋大賞 8位:黄金旅風/飯嶋和一

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 飯嶋和一

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第2回本屋大賞 9位:私が語りはじめた彼は/三浦しをん

私が語りはじめた彼は
1.結晶
2.残骸
3.予言
4.水葬
5.冷血
6.家路

answer.――― 82 点

三浦しをん、巧いな……と改めて思わせてくれる連作短編。著者の「王道」をあくまで歩もうとしないその姿勢は清々しくさえ映る。ここでいう「王道」というのは扱う題材どうこうではなく、その構成。本作の概要は、女垂らしの大学教授が怪文書で脅され、離婚し、再婚し……といったところなのだが、本作における視点(語り手)は教授の助手、教授の浮気相手①の夫、教授の息子、愛人の連れ子の監視者、教授の正妻(前妻)の娘の婚約者、再び助手―――となっており、肝心の物語の中核を為す教授とW不倫の果てに正妻に納まる愛人、この二人の視点が「無い」。当事者の視点を用いないまま物語が閉じられることは間々あるが、事の発端である愛人の視点まで採用しなかったのはかなり意外だった。事実、結婚するために教授のキャリアさえ傷つける脅迫状を正妻に送る、自分の娘さえやがて「女」と見做し疎外する、教授が死して尚、参列者の女に憎悪する……なんて気狂い染みた嫉妬女の視点は、誰が書いてもまず<面白い>ものになっただろう。それを敢えて書かず、書かないことによって読者に謎の余韻として残す。読者がその余韻の正体を探ろうとすると、……あまりに見事な<醜さ>が演出される、と。描かないことでこの愛人の強烈な醜悪性を綺麗に描いた点を私は称えたい。三浦しをんは、本当に「巧い」。こうなってくると文学方面に進出するのか気になってくるが、個人的な雑感としては<書けない>気もする。その理由は本作がその文学面に踏み込んだ感があるにもかかわらず、やはりエンターテイメントに気を配ったからだ。登場人物に理不尽な行動が見当たらない。読者にとても優しい故に、「人間」を描く文学は向いていない気がするのよね。

第2回本屋大賞 9位:私が語りはじめた彼は/三浦しをん

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 三浦しをん 本屋大賞

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