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第7回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:超人間・岩村/滝川廉治

超人間・岩村
1.プロローグ
2.第一話「火星から来た男達」
3.第二話「ヒロイン」
4.第三話「ロミオとジュリエット~炎の友情編~」
5.第三話・徹夜祭「パリスとジュリエット」
6.エピローグ「超人間、誕生」

answer.――― 75 点

安易な「諦め」を許さない〝超人間〟岩村陽春の所属するアメコミ同好会が、〝完璧超人〟森直規率いる生徒会による《弱小部の整理》に「待った!」をかけるストーリーラインの本作。アメコミらしく、―――超人間vs完璧超人!の構図で物語が組まれているのかと思えば単純にそうとも言えず、様ざまな形で「意表を突かれる」展開が何とも魅力的に映る。ただ、勿体無いのは登場人物の実質の紹介を兼ねた【第一話「火星から来た男達」】。〝弱小〟柔道部の助っ人として他校との対抗戦を通し、アメコミ部、そして、2名の柔道部員の活躍を描いているのだが、忌避感を持ってしまう表題通り、その予感通りの「暑苦しさ」が前面に出てしまっているため、それを「硬派」と解釈しなければ読み手の関心を買い切れない欠陥的オープニングとなっている。しかし、女性キャラクターが投入される【第二話「ヒロイン」】以降は、暑苦しい物語が硬派、ともすると情熱的な物語へと変貌する。アメコミ部が次なる助っ人として参加するのは、生徒会が暗に仕掛ける《弱小部の整理》にさらされる演劇部―――新入生歓迎会で催される演劇『ロミオとジュリエット』。上述の通り、(次巻以降を含んでだろう)先を見据えた「超人間vs完璧超人!」の構図が提示されるなか、本作、まさかの演劇が始まる。これがまた本格的で、古典作品のあるあると云える《……作品名だけは知っている》状態だと驚くネタが盛り沢山。ジュリエットは13歳などは悪名高い設定だが、ロザライン、パリスの脚本における扱い、蘊蓄は知らなんだ。そんな知識教養が刺激される「準備」が終わり、各登場人物たちが葛藤を抱えて迎える当日、いざ「劇」が始まれば著者によるアドリヴも当然の如く施され、物語はCLIMAXへ―――!〆めに〝超人間〟の誕生秘話が披露され、もの哀しい余韻を残して読み手は前を向く。売上不振からか本作は続刊されず、著者は次作として好評を得る『テル・ミー』を上梓するが、いやいや、立派な好作。ライトノベルと大衆小説のクロスオーバー作品としてもオススメです。

第7回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:超人間・岩村/滝川廉治

category: た行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞(佳作) OPEN 70点 滝川廉治

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第7回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:スイーツ!/しなな泰之

スイーツ
(あらすじ)
狛犬が爆発した。その中から現れた少女・麻衣と出会った高校生・章輔は、思春期の少女にありがちな超常能力『スイーツ』をめぐる事件に挑むことに。従姉妹の伊乃や先輩の千代も巻き込んだ冒険が始まる!

answer.――― 62 点
親類に駆け出しの映画監督(見習い。近況は詳しく解らないが、TVのテロップで流れるくらいには出世した模様)がいる。そこそこに風変わりな子なのは間違いないが、だからといってトんでいるというほどでもなく、世間と隔てる「凄み」のようなものは特段感じられない……のだが、個人的に(……おお、流石)と小さく唸らせられたのは《解っている》ことだった。というのも、周りの学生と自分との違いを訊いたとき、―――皆は撮りたい「場面」が頭にあって、それを中心に創っている気がする。なる趣旨の答えを返してきたからだ。そう、その場面は確かに面白いかもしれない。しかし、そこへ到るまでの他の場面は……?誰しも「面白い」には《一家言》持っているものだが、そんな《一家言》だけでは処理出来ないのが現実だ。時たま、著者が何の自信を持って展開しているのか解らない作品に出会う。おそらくと言わず、「面白い」と思うからこそ描いているのだと思うが、それがよく伝わらない。狛犬が爆発し、ボーイ・ミーツ・ガールする本作『スイーツ!』は私にとってその類の作品。とにかく女の子、女の子である。そこに「うん、そうだな。みんなそう言う。『お前のチャックは開いている、だから閉めろ』と。だが―――おかしいと思わないか? 閉める必要があるなら、なぜ開くようにできているんだ? そもそもチャックなんてものは、開けるためにあるんじゃあないのか?」というティーン薫るギャグを咬ます。主人公はヒロインたちの言動を下ネタとしてナチュラルに変換(勘違い)して動揺する……その様は、確かに読み手を楽しませてくれる。著者の狙いは伝わる、その精度も(求め過ぎなければ)上等だ。が、=面白い作品!とは当然、ならない。著者自身に問いたいのは、貴方は作品に触れる際に瞬間、瞬間を切り取って「面白い」と評価するかということだ。本作は、文字が敷き詰められている。多くは主人公の勘違い下ネタを成立させるために。「エロ」。著者にとってのセールスポイントなのだろう、その「狙い」は解る。だが、それだけで作品を「面白かった」と読み手に総括させるには、今度は筆力が不足している。そして、何より作品と接するとき、読み手がまず読もうとするのは「物語」だ。暗黙の了解、大前提過ぎる大前提だからこそ、いつの間にか作り手は忘れてしまう。時たま、著者が何の自信を持って展開しているのか解らない作品に出会う。まずは、―――「物語」で魅せる。実際の頁数より先を読ませないことには、「面白い」は始まらない。

第7回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:スイーツ!/しなな泰之

category: さ行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞(佳作) OPEN 60点 しなな泰之

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第4回本屋大賞 1位:一瞬の風になれ 第1部:イチニツイテ/佐藤多佳子

一瞬の風に
1.序章
2.トラック&フィールド
3.サマー・トラブル
4.恋がしたい

answer.――― 70 点

サッカー一筋だった主人公・新二が尊敬する兄への複雑な想いから高校受験を機にサッカーを諦めるが、親友・連の美しい走りに導かれ、陸上―――スプリンターの道を歩む。「イチニツイテ」「ヨウイ」「ドン」とシリーズ全3巻となっている本作「一瞬の風になれ」。正直な話、「イチニツイテ」の時点でレヴューしてはいけないのだが、読了直後の何とも腑に落ちない苛立ちから神帝カエサルを刺すブルートゥス気分でレヴューさせて貰う。いきなりだが、一冊にまとめられただろうコレ?一冊が無理だったら、「上」「下」巻の二部構成には出来たハズだ。何が言いたいかと云えば、物語の都合で三部作になったのではなく、作者も絡んだ出版(=金儲け)の都合で、間違いなく<二部>でもなく、<三部>に分けられている。第一部発売後、一ヶ月毎に出版されているのが物語り過ぎな証拠だ。本作の引き合いに あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』が出されているが、この場合、誉田哲也の『武士道』シリーズのほうがより的確だろう。「16」「17」「18」と登場人物の年齢で区切る『武士道』シリーズは必ず一作品としての体裁を整えているが、本作は完全なブツ切りであり、上記の通り、物語の都合ではなく、お金の都合で三部作に分けられている。その辺のウ○コ拾って、それを歯磨き粉代わりに著者の歯に塗りたくってやりたいくらいに気に食わない。(70点+X点+X点)÷3=XX点が本作の正しい評価の出した方かもしれないが、二部以降を読む気がまったく無いのでこの点数でフィニッシュとさせて頂きます。一応、青春小説としての雰囲気は<破綻なく>よく出せているので、きっと一作品『一瞬の風になれ』は面白いと思いますよ。そんな一冊があるなら私も読みたいくらいです。

第4回本屋大賞 1位:一瞬の風になれ 第1部:イチニツイテ/佐藤多佳子

category: さ行の作家

tag: 70点 OPEN 佐藤多佳子

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第4回本屋大賞 3位:風が強く吹いている/三浦しをん

風が強く吹いている
1.プロローグ
2.竹青荘の住人たち
3.箱根の山は天下の険
4.練習始動
5.記録会
6.夏の雲
7.魂が叫ぶ声
8.予選会
etc…

answer.――― 89 点

いつの頃からか、そこそこに楽しめるようになってしまった箱根駅伝……しかし、その「そこそこ」の内訳は襷を繋げるか否かであり、要はリタイヤするかもしれないドラマを望んでいる多分にサディスティックなTV観戦である。本作はそんな観戦素人に<箱根駅伝>の楽しみ方を指南する快作。安普請の竹青荘の住人が満室、―――10人になったとき、箱根駅伝を目指して動き出すストーリー。ニコチャン、キング、神童、王子……といった住人のあだ名から想像出来るように登場人物は個性豊かで、10人という大所帯に関わらず、見事に書き分けられているのが素晴らしい。アパートを中心にした設定はいわゆる箱庭的宇宙があり、宴会、反発、和解など小さな二階建ての世界で起こるイベントが目の前の現実のように思える親しみやすさが魅力だ。また、駅伝にかぎらず、スポーツの練習場面は繰り返されるとつまらないものだが、本作の場合はむしろ面白い。それというのも、明らかにダメな奴がいるからである。そして、そのダメな奴に「独り」イラつく主人公がいるからだ。スポーツ作品の鍵は<対立>にあり、この身内に敵……!的展開を創れた作品にハズレは産まれない。作品のハイライトとなるのはもちろん全メンバー(!)の視点を設けた箱根駅伝本戦だが、個人的ハイライトは箱根駅伝へ出場するための「予選会」、その章を挙げたい。王子の吐瀉物撒き散らしてゴールする様は素で笑わせてもらった。襷を繋ぐ、そのための練習からドラマがあることを知れる親指立てたくなる青春譚。未読の方は是非、来年の箱根駅伝が始まる前に読んでおきましょう。あ、一般文芸作品で間違いなくトップクラスの文章力にも驚かされた。表現こそ凝っていないが、トータル的に凄い「巧い」。野球選手で喩えるなら「3割30本30盗塁、ゴールデングラブ賞受賞」するような名選手だ。本作、【推薦】させて頂きます……80点超えた作品で【推薦】するの久しぶりだなぁ。

第4回本屋大賞 3位:風が強く吹いている/三浦しをん  【推薦】

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 三浦しをん 推薦 本屋大賞

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第4回本屋大賞 4位:終末のフール/伊坂幸太郎

終末
1.終末のフール
2.太陽のシール
3.籠城のビール
4.冬眠のガール
5.鋼鉄のウール
6.天体のヨール
7.演劇のオール
8.深海のポール

answer.――― 61 点

隕石が落ちてくる、確実に……そんな報道が世間に浸透して数年、人々は達観/諦観しながら日々を過ごしていた。飛び抜けて面白い作品は創らないが、素晴らしく安心して読めるエンターテイメントを提供してくれる作家・伊坂幸太郎。が、この作品に限っては趣向が違う。1章を読み終わる頃には、彼が書く必要のなかった小説だと気づけると思う。これをアマチュアが書いたとして、だからアマチュアなんだよ、となじられるハズだ。詰まる・詰まらない以前に、自分は伊坂幸太郎だということを意識して欲しい。優等生が平均点を取ってしまった感じで後味が悪い。終末描くなら、レイプの一つでも起こしてくださいや!

第4回本屋大賞 4位:終末のフール/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 伊坂幸太郎

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第4回本屋大賞 5位:図書館戦争/有川浩

図書館戦争
図書館の自由に関する宣言

一、図書館は資料収集の自由を有する。
二、図書館は資料提供の自由を有する。
三、図書館は利用者の秘密を守る。
四、図書館はすべての検閲に反対する。

図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

answer.――― 75 点

有川浩によるライトノベルと大衆小説のクロスオーバーを成立させた代表的シリーズ作。その概要は、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律「メディア良化法」が施行された架空の現代日本を舞台に、不当な検閲から「本」を守ろうとする図書隊員たちの戦いとその日常を描いたもの。正味な話、私の琴線に触れる内容ではないのだが、本作がライトノベラーだけでなく、一般読者層にも支持を広げられたのは理解出来る。その要因は<図書館>という日常の要素と、<自衛隊>という非日常の要素を掛け合わせている点。特に、一番「効果的」だったのは後者、<自衛隊>だ。本作の比較対象にSD文庫の『ベン・トー』を挙げたい。そのあらすじは、半額弁当を奪い合う、というシュールなものだが、不当な検閲から本を守る、という本作のあらすじと実際問題、何が違うのか?その答えが<自衛隊>という訳だ。自衛隊を取り扱う作品は総じてシリアスなため、本作を読む構えも頭ではB級と分かっていてもシリアスなものとして捉えてしまう。それがライトノベルと大衆小説のクロスオーバーを成立させた最大の要因だろう。登場人物たちの台詞回しは自衛隊色を色良く反映し、銃撃戦を含めた本を守る行動もまた、シュールながらに迫力がある―――というより、しっかりと死人が出る。構成も凝っていて、襲撃/防衛ばかりかと思えばマスコミを絡めての図書館利用に関してのフォーラムがあったりの、政治を絡めた展開は実にミリタリーマニアらしい著者ならでは。本作における有川浩的恋愛は前面に押し出されておらず、無駄な忌避反応をせずに済み、頁の推進に貢献。終盤にきっちりとクライマックスな攻防戦を配するなど、バランス感覚の優れた作品に仕上がっている。個人的には本作が「OK!」の読者ならば、上記のライトノベル『ベン・トー』にも手を出して貰いたいところ。果たして「……これはライトノベル(笑)」と見下げるのか、その判断が興味深い。

第4回本屋大賞 5位:図書館戦争/有川浩

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 有川浩

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第4回本屋大賞 6位:鴨川ホルモー/万城目学

鴨川ホルモー
1.京大青竜会
2.宵山協定
3.吉田代替りの儀
4.処女ホルモー
5.京大青竜会ブルース
6.鴨川十七条ホルモー

answer.――― 77 点

京都大学出身の作家となると、セールス的には貴志祐介が当代その筆頭となるのだろうが、平野啓一郎、森見登美彦、そして、万城目学―――この3人が三大ギタリストならぬ三大“京大”作家に数えられるような気がする。というのも、三人は年代が近く、一人は文章力とともに《京大在学中》を全面にアピールされてのデビューだし、残りの二人は京都、京大生を設定に物語を編んだからだ。(謎の)第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した本作は、その京都、京大生を設定に物語を編んだ、第3の“京大生” こと万城目学のデビュー作。物語の概要は、新歓コンパで一目惚れした女性に近づきたい一心でそのまま謎のサークルに加入した主人公が、「ホルモー」と呼ばれる鬼や式神を使った競技に巻き込まれる、というもの。先に『鹿男あをによし』を読んだ身として拍子抜けたのが、冒頭からしばし続く可もなく不可でもない主人公の語り。それこそ比較対象に挙げられる森見登美彦が採用する奢り高きノミの心臓を持つ京大生なのだが、時折り片鱗を見せつつも、どうもハジけ具合が物足りない。しかし、(……こりゃダメだ)と蔑めば、途端に始まるお約束の失恋劇。5章「京大青竜会ブルース」、その第一文「惨めだった。」から始まる怒涛のヘタレ語りは、第3の“京大生”と呼ぶに相応しい著者、圧巻の語彙、たたみ掛けるグッド・チョイス!高村いわく、の五連段は筆力に自信が無ければ出来ない芸当だ。序盤は肝心の「ホルモー」に興味が持てず、設定の消化不良に終わるかと思われたが、失恋による内部ゲバルトを用いて、しっかりと関心を惹いてくれた。そんな挽回劇は見事だったにしても、処女作だけあって隙のある作品でした。

第4回本屋大賞 6位:鴨川ホルモー/万城目学

category: ま行の作家

tag: OPEN 70点 万城目学

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第4回本屋大賞 7位:ミーナの行進/小川洋子

ミーナの行進
(あらすじ)
美しくてか弱くて、本を愛したミーナ。あなたとの思い出は、損なわれることがない……懐かしい時代に育まれた、二人の少女と、家族の物語。

answer.――― 72 点

「読む」というよりも「眺める」感覚―――絵本を全て文字で起こしたらこんな風になるのだろう。頁の諸所にそれこそ大衆小説には珍しい絵本風のイラストが挟まれているように、本作は大ヒット作となった『博士の愛した数式』以降、作家人生の第2のピークに到達しているベテラン作家・小川洋子の手によるハートフルな作品。その内容は、1970年代の芦屋を舞台にした少女・朋子の居候物語。フレッシーという清涼飲料水で財を成した居候先には、病弱ながらも聡明なミーナと、カバのポチ子が待っていた。……正直な話、本作、私は淡々と頁を捲っただけだった。意外に複雑なミーナの家庭事情、朋子とミーナのそれぞれの淡い恋が主だったストーリーラインだが、クスリと笑うものでもなければ、鼓動高鳴る仕掛けも無い。ただ、綺麗な(心内を含めた)描写が続いていく。そこに難しい語彙を使用していないことで、冒頭で云う「眺める」感覚になったのだと思う。そんなこんなで、他のレヴューサイトを読んで回った雑感として、これは女性向きの作品なんじゃないかな?と。ミーナが語ってくれるマッチ箱の創作物語を例に挙げて「良い場面」とする方が多かったが、綺麗なことそれ自体をエンターテイメントと見做すのは男性にはなかなか難しいだろう。個人的に一番興味を惹いたのは、朋子と図書館のとっくりさんとのやりとり。実際は朋子の感想はミーナの感想なのだが、その感想が堂に入っている。読者に文学の読み方を指南している形なので、文学を文章の機微程度にしか思っていない方はここで間接的に矯正されても良いだろう。人によってはいつまでも心に残る可能性がある<綺麗>な作品。

第4回本屋大賞 7位:ミーナの行進/小川洋子

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 小川洋子

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第4回本屋大賞 8位:陰日向に咲く/劇団ひとり

陰日向に咲く
1.道草
2.拝啓、僕のアイドル様
3.ピンボケな私
4.Over run
5.鳴き砂を歩く犬

answer.――― 75 点

売れっ子お笑い芸人・劇団ひとりによる連作短編。お笑いブーム真っ盛りの時期も時期、そこに恩田陸など著名作家による絶賛もあって見事にベストセラー化、その売れ行きに直木賞候補にも挙げられた!のは今は昔の今昔物語。結局は直木賞にはノミネートされず、二作目以降は話題にもならずにコケて、芸人らしいオチをつけている。ながらに本作、読んでみれば劇団ひとりが芸人として成功出来たのも納得出来るクオリティを持っていた。感心したのは、身の丈に合った創作方法。正直な話、劇団ひとりは作家としては<拙い>部類に入る。それというのも、短編ながらに章立てとなっており、その一章は事実上のブツ切りで、それが著者が「長く」書けないことを露わにしている。しかし、その至らない部分を自身で認めているからこその<連作短編>という工夫を取って来たところが、そこいらの凡との違い。登場人物が折り重なりながら、各短編もオーソドックスながらに綺麗なオチを付ける。これは出来そうで出来ないセンスの要る作業だ。個人的に推したいのは、二章「拝啓、僕のアイドル様」。オタクの純情(常識と非常識)が描かれ、そこにまさに「年季」の入ったアイドルの追っかけとしての物語設定をプラスしているのが「綺麗」だ。本作が売れ過ぎなかったら、作家の芽も出ただろうけど……その辺が勿体無いね。安易な売り方は名誉を傷つける。お笑い芸人が書いた良作として、赤川次郎的に「買える」出来です。

第4回本屋大賞 8位:陰日向に咲く/劇団ひとり

category: か行の作家

tag: OPEN 70点 劇団ひとり

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第4回本屋大賞 9位:失われた町/三崎亜記

失われた町
1.風待ちの丘
2.澪引きの海
3.鈍の月映え
4.終の響い
5.艫取りの呼び音
6.隔絶の光跡
7.壺中の希望

answer.――― 58 点

三〇年に一度、突然一つの町の住民が跡形もなく「消滅」する世界……大切な人を失った人々の思いは?「消滅」との戦いの行方は?―――なるあらすじと著者のデビュー作を知る人ならばピン!と察せられるだろう本作は、通称「町」シリーズの第二弾。シリーズと云っても、創作上のコンセプトが共通しているだけで、作中世界を共にしているわけではない。文学作品ならば宮本輝の「川」三部作、ライトノベルならば有川浩の「自衛隊」三部作のようなものだ。作家をアーティスト=一人の芸術家として捉えるなら、創作上でひとつのコンセプトを持つことは、著者の後の作風、思想の変遷を知る上で役立つことになるので個人的に大いに推奨したい創作スタイル。出版点数ばかり増えた昨今、作家は自己プロデュースが出来なければならない時代になったが、「作品」ではなく、「作家」としての<コンセプト>を持つ発想が作家業を続ける秘訣になると思うので、これから作家になる人は心に留めておいて欲しい。さて、話は逸れたが本作は一刀両断に値する駄作の類。町が消える、そこから派生する問題で、人々が何より思い悩むのは<哀しむ>ことを禁じられていること。そんな設定面を肯定的に取り上げるレヴューが散見出来るが、この手の人はライトノベルで同じ設定があったとして果たして同じ評価をするだろうか?何でライトノベルを引き合いに出すのかといえば、本作、非常に読みにくいからだ。序章に「エピローグ、そしてプロローグ」と置かれて物語が始まるが、読み進めたい!と思うフレーズがここで出ないのが厳しい。そこから造語が頻出し、SF活劇と思って読み進めれば、登場人物の心の触れ合いに力点を置こうとしていたりと、とにかく中途半端だ。本作を「面白い!」と感じた人は、それはある種のナルシズムによる錯覚なので注意して欲しい。本作、楽しむために理解力が要るのではなく、単純に<下手>なのだ。同じ設定を思い浮かべて文章を平易にし、それでライトノベルとしてリリースされていたら絶対に貴方は酷評する。読みにくいから面白い、そんな中二病に罹ってはいけない。余談だが、単行本における装丁の工夫はお洒落で、そこは〇を贈りたい。

第4回本屋大賞 9位:失われた町/三崎亜記

category: ま行の作家

tag: OPEN 50点 三崎亜記 「町」シリーズ

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