ナマクラ!Reviews

10/1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30./01

電撃文庫:さよならピアノソナタ/杉井光

さよならピアノソナタ
(あらすじ)
音楽評論家を父に持つ男子高校生桧川直巳と、音楽界から突然失踪した若き天才少女ピアニスト蛯沢真冬との出逢いから始まる、青春恋愛小説である。主人公たちがロックバンドを組んで活動する物語であり、また蛯沢真冬以外にも登場人物にクラシック音楽の関係者が多いこともあり、全編にわたって実在するロックとクラシックの様々な音楽が作品に関わってくる。

answer.――― 72 点

私のなかで作風の括りのひとつとして、<記号小説>という括りがある。それがどんなものなのかと云えば、既存の固有名詞で作品世界を演出する小説であり、クラシックからロックまでの実在する曲、アーティストとそのエピソード、楽器と機材、演奏法を含めた『音楽』が紹介される本作は、まさにそこに該当する。<記号小説>はストーリー内容そのものよりも、その<記号>のチョイスが成功の鍵を握る。さて、その結果は著者の代表作に挙げられる『神さまのメモ帳』と比して、その陰に隠れながらも譲らない人気を集めている事実が示してくれるように、成功といってまず間違いはないだろう。個人的に感心したのは、ロック分野で「攻めた」チョイスを避けたところ。その一例には、Iron Maidenを作中に取り上げたとして、その音楽には触れず、B級臭漂うジャケットについて言及した点を挙げよう。クラシックと違い、ロックは<It's mine!!>的意識が強いイタタタタタ……な人が世に蔓延っている。著者はそれをよく理解し、ほぼ音楽に触れず(触れる際は「具体的な」演奏技術を交える)、そこにまつわるエピソードの紹介に終始する。また、そこでも反発が生まれないよう細大配慮して保険さえかけている。上記のIron Maidenならば、ブルース・ディッキンソン(Vo.)加入後の主流のカタログではなく、1stと2ndという「敢えて」の外しっぷりだ。ロック好きならば著者の爆弾解体作業のような慎重な<記号>処理を堪能出来るだろう。クラシックに関してはそういう配慮が足らず、エピソードもパガニーニなど王道中の王道な逸話でやや拍子抜けだったのが残念……ながら、そこは逆に音楽に疎い読者ならばこそ楽しめる<記号>に溢れている証拠でもあるので、プラス査定にさえなるだろう。主人公はある日、天才ピアニスト美少女と出会うが、学校でのカノジョは何故かギターを……というストーリーラインは「所詮」ライトノベルで期待してはいけないが、『音楽』の紹介を主題にした<記号小説>として合格点な一作。楽しめるでしょう。

電撃文庫:さよならピアノソナタ/杉井光 (2007)

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 杉井光

[edit]

page top