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第9回スーパーダッシュ小説新人賞 大賞:ニーナとうさぎと魔法の戦車/兎月竜之介

ニーナとうさぎと魔法の戦車
1.ニーナ、十二歳
2.初陣
3.ラビッツの日常とアンフレックの町
4.戦死者
5.午前
6.午後
7.エピローグ

answer.――― 68 点

「で、この人はいつプロ活動を始めるの?」と選考委員が上から誉め言葉を遣わすように、新人離れした出来の<大賞>作。この第9回には同じく大賞を授与された『オワ・ランデ! ヤレない貴族のオトシ方』があるが、同じ<大賞>とは思えない確かな差がある(そもそもの話、あれを大賞にする理由が……というのもあるが)。本作を手放しで称賛したくなる要因のひとつに、まずは<オリジナリティ>を挙げたい。表題にもあるように<戦車>を扱う本作は、そこに私立戦車隊という独立遊軍の<雇われ>要素、対する相手に自動で動く大戦の負の遺産<野良戦車>を配備するなかなかに斬新な設定。これだけでも十分にこちらの関心を引いてくれるが、それで物語を綴る文章まで一線級なのがまさに新人離れだ。いやいや、これは凄いねえ……と感嘆しながら頁を捲っていくと、……ふむ?と雲行きが怪しくなって、結局は「本日、晴天也!」と勢い良く本を閉じられない心の曇り具合となる。結論から言って、この設定ならもっと面白くなっただろう?と。根本的な問題として、作者の気質が関係しているように思われる。実を言うと、私、この作者のアマチュア時代の作品を読んだことがある(もちろん面と向かって会ったことがある訳ではない、あちらも私のことなんぞ知らないだろう)。その時の作品だが、―――ドSなものだった。この人、根本的に<バッドエンド>に歓びを見い出すのだと思う。登場人物を作中で虐げることに己を見い出すのだ。本作でも「これ、戦争…… (゚▽゚)ウヒッ!」と、当たり前のように悲劇を挟んでくる。バッドエンド思考故に、散見する和気あいあいの日常場面がどうにもしっくりと面白味を感じられないのだ。この設定、この筆力で70点に届かないのはそんな不自然さが作品に漂っているからだ。終盤の大敵の出現の唐突さ、頭の悪さも何とも粗く、残念な出来。<超巨大>な敵というのはフィナーレに相応しく、かなり買えるんだけどね。上述でバッドエンド云々と書いたが、本作はちゃんとハッピーエンドになっている。だからこそ、著者に言いたい。中途半端は止めろ。ハッピーで締めたいならヒロインが無駄に暗い思考を持ち過ぎだ。これからの作品は自分を取るか、読者を取るかハッキリした方が良い。箱庭的な「首なしラビッツ」の奮闘が読みたかったな、と。

第9回スーパーダッシュ小説新人賞 大賞:ニーナとうさぎと魔法の戦車/兎月竜之介

category: あ行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞大賞 OPEN 60点 兎月竜之介

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第9回スーパーダッシュ小説新人賞 大賞:オワ・ランデ! ヤレない貴族のオトシ方/神秋昌史

オワ・ランデ
1.名も知らぬ最高の誰か
2.君が彼女とヤリたいのなら
3.彼女にそれを言わせたいのなら
4.世界のことが聞きたいのなら
5.何が何でもヤリたいのなら
6.試練の時とわかったのなら
etc...

answer.――― 61 点

相対するは、電撃文庫の第17回電撃小説大賞大賞作『シロクロネクロ』!エロ、一本勝負!はじめっ!とまずは書かせて頂きたい第9回スーパーダッシュ小説新人賞<大賞>受賞作。まあ、勝敗については、双方のレーベルの投稿応募総数から察して頂きたい。物語はSEXをしたい天才的頭脳を持つ童貞が作中世界でご法度である悪魔―――サキュバスの召喚を行うところから始まる。そして、副題にあるように全然ヤレないため、色々頑張ろうとするある種の王道的展開ながら、その色々頑張ろうに新味、面白味が無いのが主人公の品性云々ではなく、読者の不興を買う根本的な問題……良いんだよ、エロくて?胸を常時揉んだり、♂を隙あらば擦りつけたり、パンツを盗んでノーパンで歩かせるくらいしてもまったく問題無いのだ。むしろ、それくらいしてくれ。文章は説明口調が多く、誉め称えることは出来ないが、読ませようという努力が垣間見れるのが好感。主人公のサキュバス召喚の陰に秘された自殺した兄へ向けた、年齢相応の正義感も良い。まともなストーリーを用意すればまともに書き上げられるだろう実力を感じる。著者には横道な作品で挑むんじゃなくて、正道を貫いた作品で投稿して欲しかったね。

第9回スーパーダッシュ小説新人賞 大賞:オワ・ランデ! ヤレない貴族のオトシ方/神秋昌史

category: か行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞大賞 OPEN 60点 神秋昌史

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第9回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない/朝田雅康

二年四組 交換日記
(あらすじ)
私立伯東高校。問題児ばかりで構成されたクラス、それが二年四組だ。クラスのボスである委員長は強権を発動し「皆の心をひとつにする」ために交換日記を開始する。日記は誰が書いているのかわからないようにされ、登場するクラスメイトも属性に基づく異名や派閥で表現される。日記には予想外の事件や恋が描かれて……?

answer.――― 73 点

まさか、まさかのスーパーダッシュ小説新人賞で出会ってしまった、久々の快作。これぞライトノベルのあるべき姿!と推したくなる理由は、表紙を捲って、すぐそこ→!な折りたたまれている登場人物紹介を兼ねたカラーイラストから。ライトノベルの定義を語るとき、イラストの有無が挙げられることがあるが、私見を述べさせて頂ければ、イラスト有ってこそライトノベルだと思っている。これに異議がある方がいるならば、それはおそらくイラストを販売促進の効能程度にしか求めていないからだろう。裸や下着姿、登場人物が喜怒哀楽の感情を露わにしている場面、それらは文章から興したイラストで、出来に可否はあっても、それ以上の感想は出て来ないオーソドックスなイラストだ。確かに、これなら必ずしも必要は無いだろう……が、イラストが一枚それ自体で「作品」を表すモノであればどうだろう?踏み込めば、イラストは作中に有るモノを描くのでなく、作中に無いモノを描くべきだ。それは例えば、『君のための物語』の【第一章】を表すイラストであり、『プシュケの涙』における表紙である。読み手の願望を叶える、作品を完成させるための「不可欠な」イラスト。ライトノベルはイラストが許されるジャンルなのだから、イラストにも販促以上の作品性を求めていくべきだと思う。まあ、実際は相応のセンスが要るので、『イリヤの空 UFOの夏』の映画ポスター風の章紹介やら、最悪、『ダブルキャスト』の表紙のようなファンサービスな工夫でも構わない。そんなこんなで本作の目玉イラスト、35名の顔写真と異名はあれども、本名伏された二年四組在籍一覧表。これがあるからこそ、本作は「完成品」となった。本作は問題児まとめられたクラスの一事件、その顛末を交換日記を用いて描く異色の群像劇なのだが、これが群も群で、物の見事に35名が乱れ動く。日記中では生徒は異名で統一され、最初は誰が誰だか分からないのだが、頁が進むに連れて、名前の空欄が確かに埋まっていく労作の構成が素晴らしい。本作はズバリそのまま《パズル》であり、読者が在籍一覧表を頼りに解いていくのが本作を楽しむ本道だ。故に、ストーリーを読みたい、となると構成難を起こしてしまう実験作でもある。ながらに、イラストの有用性を証明している作品として応援したくなる佳作。【推薦】させて頂きます。異名を通して、キャラクターを書き分けているのも良い。

第9回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない/朝田雅康  【推薦】

category: あ行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞(佳作) OPEN 70点 朝田雅康 推薦

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第9回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:ライトノベルの神さま/佐々之青々

ライトノベルの神さま
1.今はまだ、序章なのだからなっ!
2.最高にライトノベルな相手だなっ。
3.ふむ、コスプレか。
4.そんな素振りはなかった。
5.わしの、すべてなのだ。
6.ハッピーエンドを決めるのは。
7.きっと、うまくゆく。

answer.――― 54 点

小島慶子、壇蜜、ミッツ・マングローブをゲストに揃えたTV番組『ボクらの時代』で、壇蜜が自分を「女のパロディ」なる言及をして、そこから女子アナ、オカマもその「女のパロディ」に当て嵌めていく展開の着地点を予想していたとある日曜の朝を思い出させる本作「ライトノベルの神さま」は、その表題からも察せられる通り、「いわゆる」ライトノベルのパロディ作品。物語の概要は、一人暮らしを始めた大学生の前にライトノベルの神さまが現れて「さあ、ライトノベルな恋をさせてやろう」から始まる《お約束》をテーマにした展開劇。突然と自宅に現れる神さま(ヒロイン)、バイト先に現れる幼馴染み(ヒロイン2)、胸チラ、胸揉み、コスプレ、―――と、「いわゆる」ライトノベル、「いわゆる」テンプレが披露されていく。この「いわゆる」と云う部分がミソで、読書中、著者のインテリジェンスを推し量らせて頂いた。と云うのも、パロディを題材にする場合、試されるのは著者の【教養】だからだ。これは別に私が決めた訳ではない、インテリを標榜するインテリニスタ(青と黒)の方々がそういう高貴な読み方を為さるので従ったまでだ。そうして、著者の教養具合をまとめさせて頂くと、不合格かな、と。本作は、やや履き違えてしまった、それなんてエロゲ?なライトノベル。もしかすれば著者はヴィジュアルノベルをプレイせずに本作を上梓したのかもしれないが、それはそれで昨今のライトノベルが……まあ、いいや。パロディ部分を除いた作品のクオリティとしても、「下」と言わざるを得ないだろう。とりあえず、著者に言いたいことは、自分にとってそこそこ面白い程度は他人にとってはそこそこつまらない程度でしかない。(……れ、歴史を変える傑作を創ってしまった!!)で、ようやく他人に「まあ、面白い」と納得して貰える。……お前、自分でこの作品に金出して買うか?サボッただろ?

第9回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作:ライトノベルの神さま/佐々之青々

category: さ行の作家

tag: スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞(佳作) OPEN 50点 佐々之青々

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第6回本屋大賞 1位:告白/湊かなえ

告白
1.聖職者
2.殉教者
3.慈愛者
4.求道者
5.信奉者
6.伝道者

answer.――― 84 点

低コストに高パフォーマンス―――2010年に松たか子を主演に迎え、一人芝居からの「ドカーン!」のCMで話題呼んでは大ヒットを招いた映画『告白』。しかしながらも、その原作もまた映画化前の2009年に本屋大賞を受賞、そもそもに出版した2008年にさえ週刊文春ミステリーベスト10、このミステリーがすごい!にランクイン!!と、元より華々しい経歴を持つ作品。驚くべきはこれが著者のデビュー作という事実!なんてところは、むしろ個人的には腑に落ちた。というのも、終章「伝道者」でのそれこそ「ドカーン!」エンディングは何しろ力業だったからだ。展開自体を否定するつもりはないが、……それ、本当?と設定面での疑問が浮かんでしまったのは渋面にならざるを得ない。しかし当初、本作は一章のみの構想だったとのこと。それを<告白>というコンセプトで一つの作品に仕上げたところは、まさしく期待のニューカマーと称えるに相応しい好アレンジ。そう、本作の醍醐味は章ごとに変わる視点人物たちの抱えている<コンプレックス>、内に潜める<悪意>が視点人物となることで暴かれていくところだ。誰もが我儘で、誰もが自分にとって都合の悪いことに目を瞑っている……本作は、そんな<性悪説>を基に創られているのが分かる。視点切り替えの妙を堪能出来る一作で、ミステリーにも関わらず二度読めそうなのが嬉しい。隠れたファンインプレーな設定として、登場人物を「中学生」にしたのも良かった。幼過ぎだろ、と無意識下で冷めかける登場人物たちの行動、思考があるものの、これも中二病と思えば流せてしまえる。無理は多々見られるが、それも気にならないほど、各々の身勝手な<告白>演出を楽しめた。著者には同じ作風で、もう一度チャレンジして欲しいね。

第6回本屋大賞 1位:告白/湊かなえ

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 湊かなえ

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第6回本屋大賞 2位:のぼうの城/和田竜

のぼうの城
周囲を湖に囲まれ、浮城とも呼ばれる忍城。領主・成田氏一門の成田長親は、領民から「でくのぼう」を略して「のぼう様」と呼ばれ、親しまれる人物であった。智も仁も勇もない。しかし抜群に人気はある。まったく新しい英傑、現る!

answer.――― 83 点

概して、登場人物を魅力的に描け、というと、その登場人物「自身」に焦点を絞って煮詰めてしまうものだが、「智も仁も勇もない。しかし抜群に人気はある。まったく新しい英傑、現る!」なるキャッチコピーを与えられた「のぼう様」こと成田長親を主人公にした本作は、登場人物を魅力的に描け、という課題がもはや難題化している作家(志望含む)に一石を投じてくれるだろう一作。上記のキャッチコピーからもお察しの通り、この成田長親は「のび太」だ。勿論、ただの「のび太」ではなく、劇場版「のび太」だ。ただ、―――まったく新しい英傑、現る!とおNewであることを大層謳われているのは何故かと云えば、実際問題、小説で劇場版「のび太」を再現する困難さ故。劇場版「のび太」を演出するためにはまず日常の「のび太」を演出しなければならない。が、いざ取り掛かってみて戸惑うだろうことは、「のび太」をそのまま描くと全く魅力的に描けない事実だろう。だからといって、小説特有の十八番的アレンジ―――心内文、地の文で(……馬鹿じゃないんですよ?)とカバーすればするほど、「のび太」らしくならない。むしろ、それではもはや「のび太」ではなくなってしまう矛盾。では、どうすればいいのか?本作に、その答えがあるように思う。本作は《視点》の工夫、及び歴史という裏付けを以って劇場版「のび太」を成立させた秀作。成田長親の表情は豊かだ。成田長親の行動は幼い。しかし、そんな「のび太」な彼を語っているのはそんな先入観持つ《視点》者だ。そうして、そこに絡んでくるのは読み手は開始数頁で結末まで知っている仕掛け。淡々とした書き口なる評も目立つが、それは歴史面から「劇場版」のび太を―――おNewな主人公を成立させるための弊害なので仕方がない。与えられていく「のび太」な先入観、しかし、すでに知っているただの「のび太」であるはずがない結末との齟齬。それを埋める頁捲りこそ本作の醍醐味と云える。新しい英傑、現る!というよりも、新しく「映る」工夫が随所に施された一作。テンプレ通りの登場人物しか作れない、と云う非難が向けられたなら、それは実は読み手に《先入観》を与えられる特技だと本作を読んで気づいてみよう。

第6回本屋大賞 2位:のぼうの城/和田竜

category: わ行&数字の作家

tag: OPEN 80点 和田竜

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第6回本屋大賞 3位:ジョーカー・ゲーム/柳広司

ジョーカーゲーム
1.ジョーカー・ゲーム
2.幽霊
3.ロビンソン
4.魔都
5.XX

answer.――― 80 点

01年の『黄金の灰』でのデビュー以来、歴史上の偉人をKeyキャラクターに配する作風で定期刊行しながらも代表作らしい代表作を打ち立てられずにいた柳広司が心機一転、オリジナルキャラクターで編んだ連作短編のスパイ・フィクションが本作「ジョーカー・ゲーム」。出版年の08年に「このミステリーがすごい!」で第2位、週刊文春ミステリーベスト10で第3位にランクイン、翌年の09年には第30回吉川英治文学新人賞、第62回日本推理作家協会賞を受賞、そうして、この第6回本屋大賞でも第3位―――と、この一作を以って著者を流行作家の端くれに成り上がらせた。一読しての印象は連作短編という性質を活かした手堅いエンターテイメント作品で、降って湧いたような称賛も「さもありなん」といったところ。時代設定は我らジャポネにとって終末を連想する太平洋戦争突入前の昭和10年代。「進みて死ぬるは身の誉れ」の御時勢にその真逆「死ぬな、殺すな」を説く結城中佐をKeyキャラクターに、スパイ養成機関“D機関”、 その5つのエピソードが披露される。主人公はその都度、“D機関”の生徒で、言わずもがななエリート中のエリート、それで偽名で人生を全うすることを厭わない「超人」たち。そんな彼らがスパイ活動の最中に遭遇する謎に冷ややかに戸惑い、危機を脱する様に移入し、そこから読み手に戻ってスパイの掟を再確認するのが本作の醍醐味だ。謎を解くと云うより、天才にも拘わらず逆境に立たされる状況を提示する展開はやはり物珍しく目を惹く。主人公リセットが出来る連作短編という形を含め、構造の勝利と云える作品だろう。ただ、第1章である表題「ジョーカー・ゲーム」は“D機関”を敵視する陸軍からのスパイ・佐久間が主人公であり、彼自身も非凡ながら同僚たちを「化け物」と恐れる小物っぷりは実に愛すべきキャラクターだった。個人的には結城中佐の寵愛を受ける異色のキャラクターとして、シリーズを通した主人公にして欲しかったな、と。

第6回本屋大賞 3位:ジョーカー・ゲーム/柳広司

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 柳広司

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第6回本屋大賞 4位:テンペスト/池上永一

テンペスト
(あらすじ)
舞台は19世紀末の琉球王朝。誰よりも聡明な少女・真鶴は、女であるというだけで学問を修められないことを不公平に思っていたが、跡継ぎと目されていた兄の失踪を機に宦官・孫寧温と名乗り、性を偽って男として生きていくことを誓う。科試に合格した寧温は、王府の役人として、降りかかる難題を次々と解決し、最速の出世を遂げていく。

answer.――― 82 点

ウチナータイムで描かれる『パガージマヌパナス』でデビューして以来、郷土愛溢れる作家として名を馳せる池上永一が己のライフワークの集大成とばかりに上梓してきたのが本作『テンペスト』。琉球王朝の末期を題材にした単行本で全2巻、文庫本で全4巻の大作で、浅田次郎の「私はこの作品を書くために作家になった」という言質さえ取った氏の傑作『蒼穹の昴』に迫る、年に一作生まれるか否かの、ファンタジックにアレンジされた「傑作」琉球ヒストリア!―――と謳いたいところなのだが、大作だけに諸所で息切れするのが何とも残念な一作。それでも、序盤の己の運命に逆らい、「性」さえ捨てて、己が英才を発揮して成り上がっていく真鶴こと孫寧温(♂)の姿は痛快極まりない。王宮へ上がってみれば破綻している財政、その裏で執り行われる後宮の、官僚たちの利権争いに巻き込まれ、同時進行で外から問われる衰退著しい清朝、そして、新興する日本との苦渋の外交舵取りを任され、……なんて末期の王朝らしい押し寄せる《内憂外患》は出し惜しみが無く、思慕交錯するライバル、いつまでも芽の出ない仲間、優しい義兄とともにそれを解決していくカタルシスは圧巻の一言。しかしながら、上述の通り、著者の集大成の思いが強過ぎたのか、「後宮」「官僚」「宗教」「外交」「変態(敵)」「結婚」「etc...」と盛り過ぎて処理し切れず、序盤こそ(……どうなんだ、これ!?)と未知へと有用に働いていたファンタジーの要素は、途中で興醒めさえ起こしてしまった。俺なら書ける!と思って書き始めたのか、平目板!と見切りで書き始めてしまったのかは定かではないが、やはりプロットの段階での精査は必要だっただろう。が、無視出来ないエンターテイメントは十二分に認められるのは間違いない作品。個人的に唸らされたのは、真牛(聞得大君)&真鶴の祝詞場面。あそこで語られていることは、「礎」になる。著者は資料から採ってきたのかしらん?単行本の上巻/下巻、合わせてのレヴューです。

第6回本屋大賞 4位:テンペスト/池上永一

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 池上永一

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第6回本屋大賞 5位:ボックス!/百田尚樹

ボックス!
(あらすじ)
高校教師の高津耀子は通勤中に電車内で暴れていた不良達を注意したせいでその不良達に絡まれてしまう。すると突然ある少年があっという間に不良達を滅多打ちにしてしまい耀子は助けられる。名前も名乗らず風のように去って行ったその少年を探す耀子はその少年が自分の勤めている高校のボクシング部の生徒「鏑矢義平」であることを知る。

answer.――― 77 点

百田尚樹の一時の伊坂幸太郎を思わせる本屋大賞の席巻、打ち立て続けるベストセラーには、ピカピカと光る自身を積極的に晒け出す、TVを始めとしたメディア出演に由来する部分も多々あるだろうが、個人的には題材を単純明快―――初心者にその道の視点を紹介しながら押し出していく作風が何よりもウケているのだと思う。物語を読みながら知識が増える一石二鳥の快感は、=面白い(=興味深い)!に繋がって有難がられるものだ。冒頭、不良に絡まれる女教師を救う「喧嘩上等」鏑矢義平、そんな彼とは対照的な「ごめんなさい」木樽優紀の2人を主人公に配した本作「ボックス!」は、《ボクシング》を題材にした青春譚。ボクシングはボクシングでも、本作で扱うのはプロボクシングではなく、アマチュアボクシングで、同じようで違う競技の説明を交えつつ、W主人公の王道、「天才肌」の経験者と「努力」重ねる初心者の立場の逆転劇を描く―――とまとめても良いのだが、流石は出版不況どこ吹く風の突き抜けたベストセラー作家だけあって、双方にしっかりと華を持たせる。率直に《相反する気質ながら、二人は親友!》をこうもストレートに描いてきたのには驚かされた。立場が逆転した後の2人の距離感は秀逸の一言に尽きる。百田尚樹は読み手の既視感をしっかりと把握しているのだろう。(王道故の)意外性を理解し、そこを踏んで読み手にオリジナリティの錯覚的演出を仕掛けてきている。同じ相手を前にしたW主人公のそれぞれの挫折の表現も味わい深い。そういう意味では、本稿冒頭で言及した外面的作風よりも、注目に値する著者の隠れた「作風」だと思う。勿論、ジャブから始まる講義、大阪という地域性を取り入れ、ボクシングの強豪校として名高い朝鮮学校の例を引いて、ボクシングに不可欠のハングリー精神に言及する等、対初心者アピールも抜かりない。拳闘場面を惜しみなく投入し、友情、努力、敗北、勝利が散りばめられた大衆小説としてまず良質な一作と云えるだろう。しかしながら、時が経って本作を振り返ったとき、―――何が残っているか。対初心者向けの作風に共通する「読書中」がピークという欠点もまた、本作は有していることを付け加えておく。「読書中」と「読後」、ピークをどちらに定めるかで同じイベントでも描写は劇的に変わるものだ。上下巻、合わせてのレヴューです。

第6回本屋大賞 5位:ボックス!/百田尚樹

category: は行の作家

tag: OPEN 70点 百田尚樹

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第6回本屋大賞 6位:新世界より/貴志祐介

新世界より
1.若葉の季節
2.夏闇
3.深秋
4.冬の遠雷
5.劫火
6.闇に燃えし篝火は

answer.――― 94 点

読書中、そして、読了後……私の中でついて回った本作の感想は「何が面白いのか解らない」だった。面白い、―――とは何か?端的に、それは《矛盾》していることだと思う。マクロ視点で如何に「美しい」矛盾を成立させるかでストーリーの出来は決まり、ミクロ視点では世界に、そして、登場人物に「許されざる」矛盾を抱えさせることでドラマ(場面)を生み、それらをストーリーへ帰結させる……というのが私の中でのインスタントな「面白い」の解答式なのだが、京大三銃士を統べる“Führer” 貴志祐介の最高傑作とさえ謳われる本作「新世界より」は、そんな私の表現式の極大値を叩き出したスペクタル巨編。ただの日常、平和の一コマを描写しているだけにもかかわらず、それがあたかも恐怖場面と確信させるホラー・コーティングは一体全体、どうやって創ったのか?「設定」からもたらされたものなのか?「文章」から滲み出されたものなのか?その「両方」を伴って成立するものなのか?あるいは、それらと全く関係の無い「何か」が軸となっているのか?私程度ではもはや判別がつけられない。多くの創作物は突出した「何か」がある。欠けてはいけないピースがある。しかし、本作はキャラクターを含め、突出したソレが無い。これが本稿冒頭の「何が面白いのか解らない」に繋がる。本作、一つ一つの設定は何てことはないのだ。にもかかわらず、組み上がってみるとおどろおどろしい、極彩色の世界が、―――《矛盾》が成立している。本作はそうそうお目に掛かれない、複合的な「面白い」で綴られた逸品。出来上がったものを読んで「面白い」っていうのは簡単だと思う。でも、これ、「〇×だから面白い」って単純な確信を持って書ける類のものじゃないからその辺を俺 、マジ“Führer”Respect。まあ、人によってはあまりに多過ぎる頁数が玉に瑕かもしれない。ちなみに、本作の1章「若葉の季節」での長い作中歌は読まなくて良いだろう。著者自身も読み手が「飛ばす」前提で、「歌」終わりにその概要を親切にまとめてくれている。エンタメ作家の鑑ネ。単行本で上下巻、合わせてのレヴューです。

第6回本屋大賞 6位:新世界より/貴志祐介

category: か行の作家

tag: OPEN 90点 貴志祐介

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