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第22回日本ファンタジーノベル大賞 大賞:前夜の航海/紫野貴李

前夜の航海
1.左腕の霊示
2.霊猫
3.冬薔薇
4.海の女天
5.哭く戦艦

answer.――― 74 点

巷で大繁盛しているオンラインゲーム「艦隊これくしょん~艦これ~」を先取りしたものの、少しばかりオーバーランが勿体無い、昭和初期の大日本帝国海軍で発生した史実の事件、事故を題材にした怪異譚。小説の形としては短編連作を採用し、各短編、視点人物は違えど、軸人物は共通しているという点、その軸人物が芸術家肌の木彫家で手掛けた作品に霊験が顕れるという点で、作品としては第20回の《大賞》受賞作『天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語』と似た印象を受けるが、同作と決定的に違うのは、軸人物「笠置亮佑」が謎の人物とはさして演出されず、意見を喋り、述べること。もっとも、それ自体は作品に特段の貢献をしている訳ではない。各短編の主役は、あくまで彼が手掛けた「義手」「猫」「薔薇」といった作品たち。上述の通り、作品たちには霊験が顕れ、各章の視点人物たちを海難事件&事故から救ってくれる。遠隔操作が出来る、分身させることが出来る等、さらりと(……言われてみれば)な幽霊への先入観を破ってくるのは本作の隠し味的アレンジ。ハイライトを挙げるならば、2章「霊猫」は愛猫家を萌え狂わせるだろう忠臣ならぬ忠猫な一作。司馬遼太郎の『坂の上の雲』に感銘を受けたことをキッカケに旧海軍への関心を深めた。なる著者の紹介エピソードから想像出来るように、ヲタク気質のやや凝り固まった筆で描かれる本作において、暗闇より恩人を導く救出劇は他章と比して愛玩の分だけ情感に溢れた出来となっている。地味さは否めないが、史実を下敷きにした分、堅実に読めるファンタジー作品。

第22回日本ファンタジーノベル大賞 大賞:前夜の航海/紫野貴李

category: さ行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞大賞 OPEN 70点 紫野貴李

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第22回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:月のさなぎ/石野晶

月のさなぎ
1.兆し
2.雪の音
3.証し
4.祝祭前日
5.降誕祭
6.森の中
7.再び森の中
8.清めの官女
9.奇跡の在処

answer.――― 72 点

月童子の性別が決定するのは、大抵十八歳の誕生日を迎える前後だ。「石野文香」名義で第8回小学館文庫小説賞を受賞した著者が、勇んでデビューしてはみたものの、出版社のプロデュースに不満でも持ったのか、本名で投稿しての「日本ファンタジーノベル大賞優秀賞」受賞、事実上の再デビューを飾った本作「月のさなぎ」。その概要は、年に一度の降誕祭迫る中、いよいよ性別定まりつつある月童子たちが抱く想い、そして、隔離された施設に忍び込んできた少年がもたらす、……というもの。まず否が応でも目につくのは、性別の定まらない月童子たちの世界を彩る耽美な文章。向き不向きがあるにせよ、耽美な文章は「音」と「色」、この二点を意識していれば擬似的に出来るものだが、著者はそこを押さえた上で「水」を織り交ぜてくる辺りが《向き》の証明。著者自身も己の「筆」をセールスポイントと意気込み、冒頭からしばしストーリーを放り出すリスクを冒してまで「筆」をフルスウィング!している。このような書き口は読み手の性差で評価がよく分かれる印象が個人的にあるのだが、選評を読むかぎりはやはり女性が支持する模様。登場人物の出し方が雑で、「誰の」ストーリーなのか定まり切らなかったのは大きなマイナスだが、要所で「動」的イベントを起こし、耽美作品特有の筆にかまけ過ぎての中弛みを回避しようとした努力は好感。「転」となる事件の、作中世界観を絡めた謎解きは十人前ながら、突きつけた「私の愛は、私だけのものだ」は耽美主義者の(――― ゚+。:.゚(*゚Д゚*)キタコレ゚.:。+゚)誘うフレーズで、この台詞のために本作はあると言って過言ではないだろう。とりあえず、まずは「筆」が気に入るか否か、な一作。

第22回日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞:月のさなぎ/石野晶

category: あ行の作家

tag: 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞 OPEN 70点 石野晶

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第12回えんため大賞 優秀賞:犬とハサミは使いよう/更伊俊介

犬とハサミは使いよう
(あらすじ)
「読まずに死ねるか!!」ある日突然、強盗に殺された俺。だが本バカゆえの執念で奇跡の生還を果たした―ダックスフンドの姿で。って何で犬!?本読めないじゃん。悶える俺の前に現れたのは、ハサミが凶器のサド女、夏野霧姫。どう見ても危険人物です。でも犬の言葉が分かる、しかもその正体は俺も大ファンの作家、秋山忍本人だった!?どうなる俺、あと俺を殺した強盗はどこ行った……!?

answer.――― 70 点
パッと思いついたところで、村上春樹の『風の歌を聴け』、東野圭吾の『悪意』、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』が、思春期の私に《ストーリー》以外の部分で感銘を与えた小説に挙げられる。具体的に云えば、『風の歌を聴け』では作中「絵」を挿したことで小説=……な固定観念を確認出来たこと、『悪意』では先入観は台詞ではなく行動で植えつけられること、『なんとなく、クリスタル』では注釈が注釈以上の意味を持つことも有り得ることをだが、そんな三作のなかで一番使い勝手が良さそうなクリスタルなアイディアを施しているのが本作『犬とハサミは使いよう』。そのストーリーラインは、読書一筋の男が偶発的な殺人に巻き込まれるも犬畜生に執念で転生し、覆面作家(♀)に拾われてハサミで度々殺されかけながらも、己を殺した犯人を……というもの。本好き、というライトノベラーが隠れアイデンティティにしているだろう要素を主人公に配した上で(何を恥じることがあろうか?スタンスの)童貞のまま、犬で、作家(♀)と同棲で、となかなかにあざとい慧眼な設定もさることながら、やはり、……ライトノベルは表現のフロンティアだ!と言わんばかりの各章末の《注釈》は遊び心が溢れている印象。勿体無いのは実質、作品の個性にもなっている《注釈》が著者の戯れで終わってしまい、『なんとなく、クリスタル』のような時代を閉じ込めるドキュメント性が無いところか。せっかくのアイディアなのだからもっと意味を持たせても良かったと思う。それでも、ごくごく有り触れた主人公ながらにクスリとさせる造語を散りばめた一人称、それを解説的にアシストする《注釈》は好感度の高い著者の戯れには違いない。本作は、第1回ラノベ好き書店員大賞でも第10位にランクインしているように広く受け入れられ、2014年現在も刊行中のロングラン作品となっている。ただ、個人的にラストの戦闘場面は需要にそぐわない演出ミスに思うのだが、その辺はファンの方はどう捉えているのか気になるところ。登場人物の善性が魅力のライトノベル。

********注釈********
『風の歌を聴け』のイラストは~!『悪意』のトリックは~!『なんとなく、クリスタル』の注釈は~!とか、元ネタの話はしなくて( ゚Д゚)bイイカラネ!
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第12回えんため大賞 優秀賞:犬とハサミは使いよう/更伊俊介

category: さ行の作家

tag: えんため大賞優秀賞 OPEN 70点 更伊俊介 ラノベ好き書店員大賞

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