ナマクラ!Reviews

06/1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31./08

2015年7月のレヴュー更新(まとめ)

今月中に山本周五郎賞関連のレヴューを終わらせるつもりが、物の見事に終わらず、いよいよ夏本番に入ってしまうことに。そもそも、先月の更新数が異常だった気がする。ところで、「まとめて更新しよう!」というスタイルは実際、実行しているんだが、一気に5~6レヴューのつもりが、2~3レヴューという意気込みの落ち込み具合が半端なくて自分で笑っている。別に謝る必要はないわけだが、なんとなく、クリスタルで済まなさそうなので、―――申し訳ございません!とアテンションマークを付けさせて頂き、お許し願いたい。来月は、今度こそ山本周五郎賞にグッバイして、ラノベ好き書店員大賞にケリをつけようと思う。ではでは、未だこの寂れたブログに定期訪問してくださる地球生まれの優しい皆さま、熱中症にお気をつけてお過ごしくださいませませ。

●山本周五郎賞●
第22回山本周五郎賞 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文
第21回山本周五郎賞 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏
第20回山本周五郎賞 受賞作:中庭の出来事/恩田陸
第19回山本周五郎賞 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明
第18回山本周五郎賞 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介
第17回山本周五郎賞 受賞作:邂逅の森/熊谷達也
第16回山本周五郎賞 受賞作:覘き小平次/京極夏彦

ライトノベルの点数一覧は⇒こちらへ!
大衆小説の点数一覧は⇒こちらへ!
アーティストの点数一覧は⇒こちらへ!

category: 更新情報

[edit]

page top

第22回山本周五郎賞 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け
(あらすじ)
数々のスクープを物してきた敏腕編集長、カワバタ。大物政治家Nのスキャンダルを追う彼の前に現れた奇妙なグラビアの女。彼女を抱いた日から、人生は本来の軌道を外れて転がり出す。不敵なまでの強引さと唐突さで物語に差し挟まれる数々の引用。小説が真理に近づく限界を極めた、第22回山本周五郎賞受賞作。

answer.――― 30 点
癌に侵されたいい年した編集者がグラビアアイドルとセックスしたら、……悶絶の問題にモンモン!友好的異性交遊の夕べ!と語り出す作品。特に感想もないので、点数だけ配点しておきます。あ、山崎洋一郎のブログ『トリプル編集長日記』にて「ポップスでもヒーリング・ミュージックでもフォークでもパンクでもなく、優れたロック・アルバムを聴くのと同質の手応え。」と絶賛されているので、RockerやRock愛聴者には何がしかの感銘を与える作品なのかもしれません……ROCKIN'ON、JAPAaaaaaaaaaN!(Mr. Bigの「I Love You Japan」風に。

第22回山本周五郎賞 受賞作:この胸に深々と突き刺さる矢を抜け/白石一文

category: さ行の作家

tag: OPEN 30点 白石一文 山本周五郎賞

[edit]

page top

第21回山本周五郎賞 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏

果断
(あらすじ)
長男の不祥事により所轄へ左遷された竜崎伸也警視長は、着任早々、立てこもり事件に直面する。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立する。異例ながら、彼は自ら指揮を執った。そして、この事案は解決したはずだったが……。

answer.――― 86 点
私利私欲を排し、意固地なまでに合理的であろうとする警察庁のキャリア・竜崎伸也を主役に配した隠蔽捜査シリーズ第二弾。前作『隠蔽捜査』での息子の不祥事を受けて、竜崎が都内大規模署である大森署署長という「現場」へと左遷的に配属される本作は、現場ならではの「不合理」な縄張り争いから、またしても《隠蔽捜査》が―――というダーティーなコンセプトを継続させているのがまず素晴らしい。もっとも、前作同様、起こる事件それ自体は決して目新しくはない。にもかかわらず新鮮に映るのは、やはり、竜崎のキャラクター故だろう。作中、すべての登場人物たちから「変人」扱いされるように、竜崎の采配はどこまでも合理的でありながら奇怪極まりない。因習に囚われず、私情も挟まず(が、心のうちでは愚痴をこぼしまくっているのが面白い。幼馴染「伊丹」へのコンプレックスは作品に多面性を大いにもたらしている思う、伊丹本人の小人物性を含め)、行動を決定、指示していく。合理的、という論理的な《知性》を感じさせる演出も様ざまあり、PTA対するクレーム処理は早々に読み手へ提示するインテリジェンス。部下の戸惑いを含めて著者のいぶし銀な仕事を垣間見る。SITとSATの対立、責任の所在への糾弾&紛糾、息子を通してのアニメへの理解など、仕事にプライベートに頭を痛める竜崎。前作よりも著者が伊丹を「掴んだ」のか、竜崎の彼に対する嫉妬がよりコミカルになったのも嬉しいところ。山本周五郎賞受賞に相応しい充実のエンターテイメント作品。シリーズ作ながら本作から読んでも楽しめる諸所に散らした情報もあるので、未読の方は順番を気にせずどうぞ。

第21回山本周五郎賞 受賞作:果断 隠蔽捜査2/今野敏

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 今野敏 山本周五郎賞 隠蔽捜査シリーズ

[edit]

page top

第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー
1.事件の始まり
2.事件視聴者
3.事件から二十年後
4.事件
5.事件から三カ月後

answer.――― 75 点

長い地理描写、政治背景などを含めた歴史語り、または専門知識のひけらかしは、ともすると説明口調になり、読者の作品に対する興味を著しく損なうものだが、この作家は面白い!という信頼は、読者にそのまま頁をめくる我慢を許す。伊坂幸太郎の<集大成>的作品!と評される本作は、まさに読者に我慢を強いる一作。巷の評判通り、著者の作品を複数作読んだことのある人にとっては、平凡な主人公像、潜む愉快犯、カットバック形式などからも<集大成>という形容にも大いに頷けるのではないだろうか。もっとも、集大成だからと言って、本作が著者の最高傑作ではないだろう。それは上記の通り読者に我慢を強いる事実にある。一章から順に読んでいくならば、本作は<記憶力>を求められる。踏み込めば、本作のいわゆるオチは三章【事件から二十年後】にて語られる。故に読み飛ばして、その章については最後に読んでも構わない。だが、何故にそんな構成にしたかと言えば、本作は著者の作家としての挑戦―――あるいは、単なる自己満足に端を発する。マンネリの打破。多作の作家ほど自分と向き合うことは多くなり、読者以上に自作のストーリー展開を意識していくものだ。概してマンネリの打破を試み始めると、その過程で必ず本作のように今までの作品で披露してきた方法論を組み合わせる<集大成>が出来上がる。そして、一流の自負がある作家ほど読者に我慢を強いる仕上がりになると思う。それというのも、その著者は今まで読者に<我慢をさせたことがない>ためだ。本作の冒頭で、首相が暗殺される。そして、主人公は濡れ衣を着せられ、逃亡する。真犯人は誰なのか!?がオーソドックスな読者の関心事だが、本作はそこを端折る。三章【事件から二十年後】で実は明らかにされているのだが、読者は初見では読み流すだろう。なぜなら三章がオチだと思わないからだ。本作は読み終わって初めて三章の意味に気づく。物語が逃亡劇と暗殺の真相、ふたつあることに気づく。長く書いてしまったが、本作への結論はこうだ―――この構成、面白い!と思えるのは、伊坂幸太郎のファンだけであり、また、この構成を評価出来ないと、決して面白いと唸れる作品ではない。楽しく読みたいならば、読みづらくても三章の内容を記憶しておくのが良いだろう、そして、ラストに「大変よく出来ました」の判子を押して貰いましょう。ちなみに、第5回本屋大賞「1位」にランクイン。がしかし、伊坂幸太郎は書店員の固定ファンが多いみたいだから本屋大賞は殿堂入りってことで良いんじゃねえかな?「1位」の内容じゃないよ。

第21回山本周五郎賞 受賞作:ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 伊坂幸太郎 本屋大賞 山本周五郎賞

[edit]

page top

第20回山本周五郎賞 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

夜は短し
1.夜は短し歩けよ乙女
2.深海魚たち
3.御都合主義者はかく語りき
4.魔風邪恋風邪

answer.――― 83 点

森見文学なる文学を自ら築いたと全国紙で本気で豪語した森見登美彦。本作でも森見節を丁々発止、開く頁、開く頁、満遍なく踊らせている。四章仕立ての作品だが、個人的なハイライトは三章「御都合主義者はかく語りき」。これは素晴らしい出来栄えだった。見事なまでに御都合主義なのだが、見事なまでに構成し尽くしている。非常に挑戦的で面白い。主人公とヒロインの視点が交互に入れ替わって物語が進むが、一章は正直読みにくいだけで面白みも無く、完全に完封負けな展開だったものの、二章の古本市で追いついて、三章で注文通りの逆転ホームランを打ってくれた。ヒロインが狙い通りの出来。途中、そのキャラクターがブレ気味だったが、緋鯉(@三章参照)に負けた。負けてやった。

第20回山本周五郎賞 受賞作:夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 森見登美彦 本屋大賞 山本周五郎賞

[edit]

page top

第20回山本周五郎賞 受賞作:中庭の出来事/恩田陸

中庭の出来事
(あらすじ)
瀟洒なホテルの中庭で、気鋭の脚本家が謎の死を遂げた。容疑は、パーティ会場で発表予定だった『告白』の主演女優候補三人に掛かる。警察は女優三人に脚本家の変死をめぐる一人芝居『告白』を演じさせようとする――という設定の戯曲『中庭の出来事』を執筆中の劇作家がいて……。

answer.――― 40 点
ジュブナイル小説の金字塔『六番目の小夜子』での鮮烈なデビュー以来、刊行を絶やすことなく業界を第一線でSURVIVEしている恩田陸。しかしながら、その『六番目の小夜子』を含めた多くの作品は、どれも(……何でこうなるかね?)と眉をひそめたくなる急転直下のファンタジーが演出されることでも知られるが、本作はそんな完成度を求めてはいけない作家、恩田陸の本領を悪い意味で発揮した実験作。概要は脚本家の「死」を提示し、そこから現実と《作中作》の虚実/内裏へ読み手を導いていく、というもの。一読しての印象は、中学生が書いたら「凄いなぁ!驚いたよ!」と笑顔で誉め、高校生が書いても「おっ、良いねえ」と微笑ましく称え、大学生が書いたら「……これで評価を受けたら君は駄目になる」と真顔で忠告し、社会人が提出してきたら「……学生気分が抜けてないな」と渋面でたしなめ、プロが提案or提出してきたら「……これ、他人の作品だったら買いますか?大御所になったつもりですか?」と指導する、結論「……ダメだこりゃ!!」な自慰倒錯本。恩田陸、という作家に求められているのは、こんなSpecial Oneを気取った作品ではない。《何でも書ける》はそれこそファンタジーだ。自費で刷れない作品を世に問うてはいけません。作家が勘違いした典型的な駄作なので書き手ならば反面教師に、読み手ならば読むのも時間の無駄なのでまず手を出さないほうが良いでしょう。

第20回山本周五郎賞 受賞作:中庭の出来事/恩田陸

category: あ行の作家

tag: OPEN 40点 恩田陸 山本周五郎賞

[edit]

page top

第19回山本周五郎賞 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明

安徳天皇漂海記
第一部 東海漂泊
第二部 南海流離

answer.――― 64 点
ブログのコンセプトの都合上、《受賞作》、《ランクイン作》のために半ば強制的に目を通すことになる作品が出てくるわけだが、その中には当然、肌に合わない作家の作品も現れる。たとえば本屋大賞では目下、有川浩伊坂幸太郎あたりは食傷の上に手抜きも目立って個人的に「……もう、マジ勘弁!」な作家たちだが、その他にも、インテリゲンチャ&歴史ヲタクさえ感嘆する《知識》に唸らせられるものの、あたかも教科書や資料を読んでいる錯覚に陥る飯嶋和一あたりも「…………」とぐうの音も出ずに閉口してしまう。そして、この宇月原晴明である。選考委員より「この作者の頭の中は妄想に満ちている!」という激賞を受けて第11回日本ファンタジーノベル大賞《大賞》受賞作『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』―――信長は両性具有で、これは遡れば!―――でデビューした逸材で、本作でも二部構成で《入水》という死に際の共通点から安徳天皇と祥興帝が海と時代を超えて「この作者の頭の中は妄想に満ちている!」顛末を描く。正直、勿体ぶった言い回しを多用する故に著者の妄想以前にそもそも何を描いているのか掴めず、……(」゚ロ゚)」カンツォーネ!と誤魔化し気味に頁をめくっていたが、第一部を引き継ぐ第二部の“ここだけの話”マルコ・ポーロの《視点》からは意図も透けて見始め、読みやすさは増す印象。だからといって、内容それ自体を《面白い》とは感じられないあたりは、著者の作風に私が「合わない」ということなのだろう。《歴史》を学んだ上でそこに著者のイッテQな妄想の入り込み具合を楽しむ、ある種、インテリゲンチャのための同人誌的作品。楽しむためには「素養」が要ります。

第19回山本周五郎賞 受賞作:安徳天皇漂海記/宇月原晴明

category: あ行の作家

tag: OPEN 60点 宇月原晴明 山本周五郎賞

[edit]

page top

第18回山本周五郎賞 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介

君たちに明日はない
1.怒り狂う女
2.オモチャの男
3.旧友
4.八方ふさがりの女
5.去り行くもの

answer.――― 85 点
新語・流行語大賞を参照にすれば、勝ち組負け組に象徴される格差社会を意識させる言葉が03年からランクインし始めたが、その真っ只中の05年にリストラを題材に上梓されたのが本作『君たちに明日はない』。形式としては読み手に優しい連作短編で、リストラ専門会社「日本ヒューマンリアクト」の有能社員・村上真介が、会社側がリストアップしたリストラ対象者を調べ上げ、あの手この手で自主的に「……辞めます」とこぼすまで追い詰めていく―――という話には違いないのだが、大衆小説としては上々のシリーズ全4巻、コミカライズ&ドラマ化と展開したように、リストラ対象者に有能無能な一癖、二癖をつけ、時には彼らの人生を好転させるキッカケを、時には読み手もどちらに転ぶのか見物な判断を迫られ、そこに色恋のプライベートも織り交ぜる、貫録のエンターテイメントが収められている。著者の作家としての手腕は早々に主人公の年増好き、そして、ヒロインを披露/確定させる第一話「怒り狂う女」で確認出来るだろう。以降の話も《パターン》と見做されないように角度を変えて魅せていく。作中のハイライトは旧友を追い込む第三話「旧友」、あるいは、犬を残すか猿を残すか互角の実力者を天秤に掛ける第五話「去り行くもの」か。どちらも甲乙つけがたい秀作で、前者は未来を臨むハッピーエンド、後者はそれまでの四話とは別ベクトルの「理」が提出され、実に爽快な気分を堪能出来る。《リストラ最有力候補になる社員にかぎって、仕事と作業との区分けが明確に出来ていない。》なんて本質をさらりと突いてくる一文もあり、社会の荒波に呑まれる前に読んでおきたい一冊。就職先が決まって一安心している大学生にプレゼントする本に良いかもね。

第18回山本周五郎賞 受賞作:君たちに明日はない/垣根涼介

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 垣根涼介 山本周五郎賞

[edit]

page top

第18回山本周五郎賞 受賞作:明日の記憶/荻原浩

明日の記憶
(あらすじ)
家庭も省みず仕事に生きる49歳、広告代理店のやり手営業マン、佐伯雅行。仕事においては大きなクライアントとの契約が決まり、プライベートにおいては娘の結婚が決まる、と順風満帆に見えた彼だが、めまい、幻覚といった不可解な体調不良……何より、ひどい物忘れに襲われる。妻・枝実子に促され、しぶしぶ忙しい仕事の合間を縫って病院を訪れ診察を受けた結果、医師から若年性アルツハイマー病という診断を下される。

answer.――― 77 点

アルツハイマーを題材にした小説は、人生で一度、必ず読んでおくべきだと思う。そして、追体験―――記憶を失うことの何が恐しいことなのか、記憶のある残された時間で何をすべきなのかを考え、自分にとっての最善を見い出しておく必要がある。かの渡辺‘spモード’謙の熱望により映画化も果たした本作「明日の記憶」。あらすじの通り、アルツハイマーと判明してからの主人公の恐怖、家族の戸惑いが基本のストーリーライン。生き甲斐であった職を追われ、信頼していた人に裏切られ、……の記憶とともに失っていく日常が胸を打つ。しかし、この手の話はストーリー的にはどれも大して差が無く、どう落とすのかが作家の腕の見せ所となる。その点で、本作は非常にベターな印象。必要以上に救いがあるわけでもなく、限りない絶望に陥ることもない。ラストシーンで妻に掛ける言葉はどれも絶望を内包しながらもひたすら優しい。そんなラストを迎えて分かることは、本作は「アルツハイマーとどう戦っていくのか?」ではなく、「アルツハイマーに罹ってしまったら?」と読者に問い掛ける作品だったことが分かる。おそらく、作者なりの<答え>が出ていながらぼやかしている印象を受けた。その辺、家族の心理がほぼ描かれていないあたりで判断出来ると思う。非常に読みやすく、イベントもよく起こるのでエンターテイメントの観点からもアルツハイマーを追体験する小説としてお薦め出来る。お約束だが、合い間合い間に、症状の進行を知らせるように壊れていく日記を挿し込んで来ることを付け加えておく。

第18回山本周五郎賞 受賞作:明日の記憶/荻原浩

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 荻原浩 本屋大賞 山本周五郎賞

[edit]

page top

第17回山本周五郎賞 受賞作:邂逅の森/熊谷達也

邂逅の森
(あらすじ)
秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。

answer.――― 87 点
《マタギ三部作》の第二作にして、山本周五郎賞、直木三十五賞をW受賞するという快挙を成し遂げたことからも、熊谷達也の事実上の代表作と謳える本作『邂逅の森』。一読しての感想はそんな快挙も納得のマタギ男の紆余曲折の半生を描いたエンターテイメント大作で、そもそも、―――「熊」と対峙しないストーリー展開には多くの人が意表を突かれることだろう。本作は熊が大暴れするなか、マタギが静かに猛り、銃弾を放つような典型的なマタギ話ではない。若者が姦通し、炭鉱に落とされ、後輩に慕われ、いわくつきの嫁を娶り、己の過去と向き合い―――そうして、ようやく「宿敵」と対峙する。頁数がそのまま年輪となって一人のマタギを誕生させる構図は圧巻で、誰しも心のうちで営む読了Libraryにおいて、自分の趣味趣向を超えた《面白い》の、ある種のベンチマーク的作品となることは必至だ。作中のハイライトはそれこそ読み手によって違ってくるだろうが、個人的にはやはり終盤も終盤の「宿敵」との対峙、互いの命を賭した一戦を挙げたい。小説すばる新人賞を受賞した著者のデビュー作『ウエンカムイの爪』でも「熊」は投入されたわけだが、同作の「熊」とはまさしく《格》が違う。序盤、中盤とあっさりと「……Hunt!」していた過程もあり、次の頁には逝ってしまうかもしれない、出し惜しみのない死闘はスペクタル以外の何物でもない。三十作を超える山本周五郎賞の受賞作においても、まず五本の指に入るだろう「この受賞作を読め!」な傑作。「熊谷達也」の名を、直木賞作家が盗作……!というセンセーショナルな報道で知っただけで氏の作品を未読な方は是非、本作を手に取ってみましょう。「面白いやんけ!お前の作品忘れないから、もう引退してもええで!」と作家の本懐なエールを著者へためらいもなく贈れます。

第17回山本周五郎賞 受賞作:邂逅の森/熊谷達也

category: か行の作家

tag: OPEN 80点 熊谷達也 山本周五郎賞 マタギ三部作

[edit]

page top