ナマクラ!Reviews

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2016年3月のレヴュー更新(まとめ)

山本周五郎賞の受賞作のレヴューがComplete!!出来たので、【この受賞作を読め!】シリーズが増やせたのが個人的な収穫だった月。肝心のAll Time Best!!を勿体ぶってまだ作っていないが、近々仕上げたい。ついでに、今月はTOPに更新情報記事を予告的に置いたところ、そこそこに忙しい中で案外とレヴューを消化出来たので、4月以降も続けていきたい。日記もつけ始めたので、毎日ブログを開いてればやる気も出るもんだね。

●この受賞作を読め!●
この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第11回 ~ 第20回!】
この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第1回 ~ 第10回!】

●ラノベ好き書店員大賞●
第3回ラノベ好き書店員大賞 7位:未完少女ラヴクラフト/黒史郎
第3回ラノベ好き書店員大賞 9位:グラウスタンディア皇国物語①/内堀優一

●本屋大賞●
第11回本屋大賞 2位:昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉
第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子
第11回本屋大賞 8位:想像ラジオ/いとうせいこう

●山本周五郎賞●
第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子
第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信
第26回山本周五郎賞 受賞作:残穢/小野不由美

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▼ 3月 (2016年) ▼

3月前半

3/1 【対音楽/中村一義 (2012)】

『対音楽』はベートーヴェンの交響曲をモチーフに作曲されたアルバム。それなら②「黒男」は交響曲第2番―――のはずだが、そもそも交響曲第2番がどんなものだったかを思い出せず、車で坂を下っていった。するとシャッフルをしていたことを忘れて、⑨「歓喜のうた」が流れ始めて、さっきの曲は第8番がモチーフの曲だったか?と混乱する。その辺りで「ここにいるぞ!(魏延風。」へのツッコミが入った。

3/2 【Lucy/坂本真綾 (2001)】

個人的に⑤「紅茶」が収録されたアルバムとして記憶されている、坂本真綾の3rdアルバム。②「マメシバ」はファンに人気の曲!とのことだが、一応、その末席に座っているはずの俺的には特に琴線に触れる曲でもないので、いつも若干の違和感を覚える。そんな折、マンションの相場について知るために来週、再来週の予定を訊かれる。とりあえず、担当者の電話番号を登録しておいた。

3/3 【LAST GIGS/BOØWY (1986)】

BOØWYの二枚目のライヴアルバム。電話を待っていると、ちょうど最後の⑫「DREAMIN'」に差し掛かる。「 最後に夢を見ている奴(ら)に贈るぜ!」 というMCで有名な曲である。しかし、時間になっても掛かってこない。さてはて?と思ったところで、「サンキュー!」と氷室京介(Vo.)が曲を締めくくり、歓声の中、「We are BOØWY!」と叫ぶ。これ、何気に初めて聴いた気がして驚いた。

3/4 【Harlem Jets/BLANKEY JET CITY (2000)】

発売にあたって「最高のアルバムが出来たので俺達は解散します」というレッテルを貼ってきたBLANKEY JET CITYの8thアルバム。たまには道を変えてみるか、という気まぐれで寺の前を通っていると、⑦「SWEET DAYS」のイントロに乗って、ロイターが飛ばしたらしい「LINE 夏前に東京とNYで上場」というニュースを思い出し、(……A、ADWAYS)と心のうちで慟哭してしまう。何故、俺は売ってしまったのだろうか?

3/5 【Forever Begins/山中千尋 (2010)】

昼前、雀か何かの鳥のさえずりを聴きながら炬燵で作業中。集中力切れて、ジャズでも聴くか、とジャケットからも察せられるようにヴィジュアルの評判高い山本千尋の本作をBGMに選ぶ。Amazonレヴューの評価が高かくて購入したと記憶していたため、レヴューをさらっと見に行く。その中で⑤「w.w.w.」のアドリヴを推していたため、集中的にリピートした。

3/6 【COVER 70's/柴田淳 (2012)】

「ブログの歌姫」柴田淳の70年代に焦点を絞ったカバーアルバム。午前中、②「みずいろの雨」の原曲を誰が歌っているのか気になってWikipediaで調べる。リピートしているうちに、これが今日の日記で採用される曲なのかな?と頭に記憶しておく……が、特に印象的な瞬間でもないので他の曲にしておきたいとも思う。夕食後、友人から連絡が入り、合流を図るも出発に遅れて失敗。GLAYの「HOWEVER」を聴きながら、……これなら、「みずいろの雨」のほうが良いな。と思い、再び意識的に聴く。その後、本当に久しぶりに「誘惑」を聴いた。

3/7 【Worrisome Heart/Melody Gardot (2006)】

交通事故によって視覚過敏となり、サングラスを手放せなくなってしまった!なんてエピソードが宣伝文句となったメロディ・ガルドのデビュー作。不動産に関連しての長距離移動の車中、マカヒキ、リオンディーズ、エアスピネル、サトノダイヤモンドと皐月賞の有力馬について考察している最中、⑨「Goodnite」が流れる。もうすぐ自動速度取締機の近辺と気づき、スピードを意識し始めた。

3/8 【Dear Deadman/ストレイテナー (2006)】

日本のオルタナティヴ・ロックバンド(?)、ストレイテナーのメジャー3rdアルバム。4時過ぎに起床してしまい、手持無沙汰から散歩へ。曲単位でシャッフルしながら歩いていると、霧がかった世界になっていく。いよいよ川に差し掛かると、いよいよ視界は幻想的に。②「Melodic Storm -DEAR EDIT-」のドラムカウントが何かの始まりのようでテンションが上がった。早起きは三文の徳。

3/9 【GENKI ROCKETS II -No border between us-/元気ロケッツ (2011)】

ヴォーカルに架空人物Lumiを起用する音楽ユニット・元気ロケッツの2ndアルバム。退屈な午後に一瞬のスリルを求めて散財してみる気になってみれば、まさに絶妙なタイミングで成功と失敗が交錯する事態に……。⑥「Dreaming across stars」の打ち込みのリズムが願望を運んできた。結果は相殺の末、デザート付きのお昼代程度に。

3/10 【SIAM SHADE V/SIAM SHADE (1998)】

DAITA(G.)を始め、テクニカルなメンバーを揃うSIAM SHADEのメジャー4thアルバム。溜まった本&DVDを捨てるより、売ろう!ということで急遽、ブックオフへ直行。⑨「グレイシャルLOVE」が流れ、ノスタルジーを感じながら(1冊10円1枚10円換算で2000~3000円くらいになればイイネ!)と気楽に考えながらの道中。まさか、倍になるとは思わなんだ。

3/11 【S.O.S/G-FREAK FACTORY (2013)】

10-FEET、マキシマム ザ ホルモンといった著名ミクスチャーバンドと交流深い4ピースバンド・G-FREAK FACTORYの過去曲のリメイクを含めた5thアルバム。ふと、若干の虚無に包まれて⑩「sore-nari」を聴いていることに気づく。クリス・ボッティ(Tr)の「"What a Wonderful World" (featuring Mark Knopfler)」を聴いていたときを思い出し、「あ、マーク・ノップラー(Vo.&G.)じゃん」なんてつぶやいてた時は気楽なものだったと懐かしむ。

3/12 【The Apples/吉井和哉 (2011)】

吉井和哉の、YOSHII LOVINSON名義からのソロワークとして数えれば6枚目のオリジナルアルバム。貨物列車が走り出したので、仕方なく併走を始める。しかし、力足らず。とぼとぼと⑨「クランベリー」が中盤から転調して展開に忙しい曲だと知った。

3/13 【PRESENTS/MY LITTLE LOVER (1998)】

90年代の名盤にも数えられる前作『evergreen』を比すると、ヒット曲らしいヒット曲も少なく、何とも地味なMY LITTLE LOVERの2ndアルバム。ブログを更新して気分転換に外に出る。⑤「Shuffle」の途中、ブログと言えば『ポストガール』のレヴューでも書いてみようかと思いつく。構想を即興で練ってみると、そこそこに気合の入ったレヴューになったため、制作するか引き続き思案中。

3/14 【Live At The Jazz Cafe, London/D'Angelo (2014)】

ネオソウルを代表するディアンジェロの、98年にリリースしたライブアルバムに未発表音源も加えた再発盤。疲れ切って一休みのつもりが、……の一時。⑤「Me and Those Dreamin' Eyes of Mine」だったか、どの曲だったか忘れたが、(……リピートしてるのか?)とすべてが同じ曲に聴こえてしまい、思わず眠気眼で確認してしまった。

3/15 【Tree/SEKAI NO OWARI (2015)】

ムーンライト、スターリースカイ、ファイアーバード!今宵!世界の終わり改めSEKAI NO OWARとなっての3rdアルバム。企画展で合流のために駐車場で待っていると、①「the bell」が不吉に鳴る。

3/16 【Fantastic Magic/TK from 凛として時雨 (2014)】

アヴァンギャルドな3ピースのロックバンド・凛として時雨の中心人物TK(Vo.&G.)のソロワーク、第二弾。2nd。寝不足のなか、再び付き合いで遠出しての帰り道。⑩「contrast」が流れ、若干の忘れ物に気づくも後日に託すことにした。

▼ 3月 (2016年) ▼

後半3月

3/17 【Black Clouds & Silver Linings/Dream Theater (2009)】

今現在、マイク・ポートノイ(Dr.)が参加した最後の夢劇場のアルバム。倒れ込むように蒲団に寝転がると、⑥「The Count of Tuscany」がスタートして4分以上インストゥルメンタルだと初めて気づく。最後の曲だから聴き込んでなかったと判明。

3/18 【Real Illusions: Reflections/Steve Vai (2005)】

「変態」スティーヴ・ヴァイがインタヴューなどで《最高傑作》と謳った7thアルバム。Twitterで《お薦め》を思いつくままに挙げているんだが、流石に思いつきなだけあって、ふと⑧「Yai Yai」を挙げたくなった。多分、シュルレアリスム、瀧口修造についてネットサーフィンしてたからだと思われる。

3/19 【フェイクワールドワンダーランド/きのこ帝国 (2014)】

第7回CDショップ大賞でも取り上げられた2ndアルバム。きのこ帝国のプレイリストを作って、延々とリピートしていた車中。②「クロノスタシス」で一度止めて、真っ暗な図書館へと入っていく。

3/20 【Live Cream/Cream (1970)】

エリック・クラプトン(G.)が在籍したことで知られる、実は“スーパー・グループ”クリームのライヴ・アルバム。Win5で久々にリーチが掛かり、大音量で①「N.S.U.」が流れているiPhoneを放り出して、ロードクエスト、ミッキーロケットに賭けたスプリングSを視聴しに向かう。結果は、検索してくれ給え。

3/21 【NIKKI/くるり (2005)】

クリストファー・マグワイア(Dr.)が脱退し、三人体制で制作された60年代のUKロックをベースとした6thアルバム。小山登りからの脱力感に苛まれ、①「Bus To Finsbury」のどこかメロウな調子にまぶたが落ちていった。が、眠りたくなかったので他の曲に変えた。

3/22 【Viva La Revolution/Dragon Ash (1999)】

ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」をパロッたジャケットが印象的な三枚目のフルアルバム。いよいよ春も近づき、金魚たちが躍動し始めた。⑬「Viva la revolution」とともに、腹ならしにとりあえず、おれは金魚の餌(小粒)をバラまいた。金魚たちは「中粒を寄越せ!」と主張するように元気良く食べていた。

3/23 【ALXD/[Alexandros] (2015)】

[Champagne]から[Alexandros]に改名してから、初のオリジナルアルバム。現地での打ち合わせも早々と終わっての帰途の車中。③「ワンテンポ遅れたMonster Ain't Dead」がどうにも五月蠅く聴こえてしまい、しばらく無音の空間を求めてしまう。ただ、歌メロとも言えないヴォーカルラインが気になって曲名だけ確かめてしまった。

3/24 【paratroop/sleepy.ab (2009)】

バンドにとって待望のメジャーデビューとなった6thアルバム。『海賊とよばれた男』のレヴューがいつまで経っても仕上がらず、とりあえず保留と決めたとき、⑤「unknown」のサビが流れた。

3/25 【Hot Fuss/The Killers (2004)】

80年代サウンドのリヴァイヴァル―――ニュー・ウェイヴ・サウンドが特徴的なザ・キラーズの1stアルバム。サッカー番組「SUPER SOCCER」で金崎夢生の特集を視聴していると、何とも懐かしい曲②「Mr. Brightside」が流れてきた。

3/26 【April Uprising/John Butler Trio (2010)】

オーストラリアのジャム・バンド、ジョン・バトラー・トリオの5thアルバム。友人の買い出しに合わせて隣町へ。その帰り道―――高架線の下を通るとき、⑤「Ragged Mile (Spirit Song)」の「I know you are, I know who you are」のリフレインが耳に吸い込まれていった。

3/27 【Standards Live/Keith Jarrett trio (1987)】

キース・ジャレット(P.)をリーダーとした通称「スタンダーズ・トリオ」によるライブ盤。お彼岸に行けなかったので、日曜に延ばしての出発のとき。④「Too Young to Go Steady」を流したが、やや場の雰囲気に合わなかったので取り消した。

3/28 【L'Arc~en~Ciel Tribute/Various Artists (2012)】

L'Arc~en~Cielの海外アーティスト10組による初のトリビュート・アルバム。嫌な雲模様のなか、傘も持たずに外出。友人とのLINEで横山光輝の三国志についての武将の不等号に感心する旨の話が出たとき、③「RAINBOW」を歌っているのは誰なのか気になった。

3/29 【ADVENTURE/monobright (2010)】

「コノオトニ、マヨイナシ。 バンドの歴史に燦然と輝くマイルストーン」というキャッチコピーの貼られたメジャー3rdアルバム。人に本を薦めながら、最近、面白い本を発掘していないことに気づき、⑥「JOYJOYエクスペリエンス」のホーンセクションが耳に飛び込んできた。

3/30 【Welcome to the North/The Music (2004)】

「全米進出」を目標に重厚かつ派手なサウンドメイクが施された2ndアルバム。やや燃え尽き症候群となった午後過ぎ、PCの前でこの『Welcome to the North』を聞き流していると、⑤「Cessation」が引っ掛かり、このアルバムをちゃんと聴いていなかったことに気づかされた。良いアルバムだね、これ。

3/31 【Chopin: Nocturnes; 4 Ballades/Vladimir Ashkenazy (2014)】

ポリーニ、アルゲリッチ等と並んで、20世紀後半を代表するピアニストであるアシュケナージのショパンの夜想曲&バラード全集。羽生結弦のSPで使用されている曲に「バラード・第1番」とあったので(……ショパンか)と当てずっぽうで予想してみると、的中してて小さく喜んだ。

category: 更新情報

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第11回本屋大賞 2位:昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

昨夜のカレー、明日のパン (198x290)
(あらすじ)
悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ----7年前、25歳で死んだ一樹。遺された嫁のテツコと一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフの何気ない日々に鏤められたコトバが心をうつ連作長篇。

answer.――― 66 点
『野ブタ。をプロデュース』などで知られる脚本家・木皿泉―――和泉務と妻鹿年季子夫妻の《小説家》としてのデビュー作。その概要は、うら若い寡婦・徹子は義父と同棲しているために世間からはゴシップの的だが、そんなことは気にもせず、二人は日々をのらりくらりと生きている、というもの。夫&息子の一樹の喪失が周囲に散りばめられ、そこを埋めていくのが作品としての着地点となるが、……正味な話、十把一絡げな凡作な印象は拭えない。脚本家というのも納得の表現技巧少ない文章で、義父を「ギフ」、幼馴染を「ムムム」と呼ぶなど、《日常》を舞台にした小説としてのオーソドックスな工夫は見られるものの、だからこそ安易に映ってしまう。物語の進展で《解決》するにせよ、そんな《大事》にする仕掛けでもないだろう。ただ、ドラマ―――映像ある前提で考えてみると面白味が増す気もするので、この物語には表情演じてくれる「俳優」が画竜点睛のピースなのかもしれない。本作を“ゆるい”と称賛する向きがあるようだが、個人的には描き切れず、起伏に乏しい言葉の連なりにしか見えなかった。こういう“ゆるい”描き方をするなら、視点は人ではなく、故人と所縁のある猫や犬、鳥のような視点のほうが良かったと思う。

第11回本屋大賞 2位:昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

category: か行の作家

tag: OPEN 60点 木皿泉 本屋大賞

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第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子

ランチのアッコちゃん (206x290)
1.ランチのアッコちゃん
2.夜食のアッコちゃん
3.夜の大捜査先生
4.ゆとりのビアガーデン

answer.――― 79 点
いざプレイヤーの側に回れば才能の多寡なんてものはさして重要なものでもないが、自覚する意味では己の才能の多寡は「正確に」把握していなければいけないと思う。こと文章においては、作品を重ねていくと―――致し方のない妥協から、あるいは勝手に掲げた大義名分から、最悪の場合、単なる勘違いに因る油断から鍍金が剥がれていく。剥がれ始めた時期は、速筆な剥き出しの文章(力)を楽しめる風情もあるが、そこから先は転落しかない。一度、落ちた文章力はまず戻らない……多くの作家がその時々、現時点での自分の基準で「巧拙」を決めているからだ。「巧拙」は、何も知らなかった、過去の自分に量らせるのが一番正しい。なお、以上はあくまで《職業》として成り立っている作家に当てはめた話です。さて、本作は目下、日の出の勢いで駆け上がっている柚木麻子の本屋大賞「初」ランクイン作。四編の連作短編で、始まりの表題作は、冴えない派遣社員の智子がキャリアウーマンな上司・黒川敦子の「私と、ランチを取り替えっこしましょう」という提案から、彼女が界隈で「アッコちゃん」と呼ばれる顔を知り、……というギャップ解明もの。そんな智子視点の前半二編は「アッコちゃん」が主要登場人物となっているが、後半の二編では「アッコちゃん」はモブ的出演となっている。柚木麻子というと“イタい”作風のイメージがあったが、本作ではそんなスパイスも垣間見えるものの、基本的には「らしくない」ハートフルなエンディングを迎える。それらを綴る筆もどこか肩の力の抜けたリラックスしたもので、効率重視の「連載」使用なのが伺えるが、それ故に読みやすくもある。作中のハイライトは、性善説を大々的に持ち込んだ4章「ゆとりのビアガーデン」を挙げたい。筆に矜持持つ作家は、概して「効率」重視で仕上げた作品に対して後ろめたさを感じ、必ず己への「贖罪」な場面、物語を用意する。足らずのヒロイン「佐々木玲実」の逆転に次ぐ逆転な発想によるハッピーエンドは、“斜陽”な視点人物・豊田雅之の対比を含め、練り込まれた上等な一編。世の中、そんな上手く廻る世界ではないが、しかし、そうであって欲しいと信じたくなるこの短編は、“アッコちゃん”を差し置く著者の矜持を感じる。何にせよ、期待しないで読むと、お得!な良質な連作短編でした。

第11回本屋大賞 7位:ランチのアッコちゃん/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 柚木麻子 本屋大賞

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第11回本屋大賞 8位:想像ラジオ/いとうせいこう

想像ラジオ (199x290)
(あらすじ)
深夜二時四十六分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。その理由は……。

answer.――― 70 点
「自分が書いたというより、自分はこの小説の入れ物として机の前に座っていたという気がします。」なるコメントが示すように、「奇才」いとうせいこうが『去勢訓練』から16年のブランクを経て、唐突に書き上げた“3.11”にまつわる連作短編。先に断わっておけば、本作は内容それ自体を楽しむものではなく、「いとうせいこう」という才人の衝動を目撃するためのもので、ここを履き違えると、散財、時間の浪費となってしまうので注意が必要だと思う。耳を澄ませば聴こえてくる―――どこからともなく届けられるラジオから幕は開ける。アマチュアが一人でDJを気取り、筋道なく進行していく様は妙があるにしても、やはり面白いものではない。頁をめくっていけば、早々に“3.11”が関わってくることが解かる。そこから好意的にまとめれば、ハートフルな物語、となるが、そんなものを求めるなら、それこそ“3.11”のドキュメンタリー番組や写真展のほうが質高く、記憶にも残るだろう。本作は、“いとうせいこう”が書いたことに意味がある。彼は間違いなく才人であり、稀に見る衝動的な人物だ。衝動は本来「形」を残さない。しかし、ここには(才人の)衝動が刻まれているのが本作の価値を何よりも高めている。ただ、“いとうせいこう”を知らないと、その価値が解からないのが本作最大の難点。なので、本作を読むならば、まず“いとうせいこう”を知りましょう。作品単品で価値を量るなら単なる凡作となってしまいます。

第11回本屋大賞 8位:想像ラジオ/いとうせいこう

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 いとうせいこう 本屋大賞

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この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第11回 ~ 第20回!】


この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第1回 ~ 第10回!】から引き続いて、山本周五郎賞での「この受賞作を読め!」第2弾!ここでも第11回 から 第20回の全14作の受賞作のなかから、3作+次点を選んでランキング!どれも有名作だが、やはり《売れる》だけあって面白いのよねえ!では、始まり始まり~。

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

初の山本周五郎賞と直木賞のW受賞!という離れ業を為した、著者の代名詞となっている「マタギ三部作」の第2弾。やや及び腰になってしまう頁数がそのまま年輪となって一人のマタギを誕生させる構図は圧巻で、知名度高い販促賞、そのW受賞も誰しも納得出来るクオリティーがある。そもそも、熊が出て来ないのは意外なまでのサプライズだったが、やはり―――ラストはしっかり「山の神」と戦う。コイツは、創作物の熊史上最強の熊なんじゃねえか……!?と思わせる神々しさもあり、まさしく必見。兎に角、ドラマチックな一作。

森見文学はデビュー作より始まったとは思うが、いわゆる「森見登美彦」が森見登美彦となったのは本作からなんじゃなかろうか?京都を舞台に男と女がお洒落にすれ違う。個人的に3章「御都合主義者はかく語りき」は傑作的ご都合主義な一編。森見登美彦のフォロワーは今や五万と生まれているが、このレベルの一編はまず作れまい。大二病必読の一冊。

言語を絶するとはこの事か。在日朝鮮人・梁石日が実父をモデルに、おぞましいまでの「悪」を描いた大作。とにかく、《外道》極まっている金俊平は100冊、いや、200冊に1人の存在感を放っている。頁をめくれば、Rape & Violence!For Money!なんてドン引きせざるを得ないエンターテイメントがどこまでも続く。《吝嗇》がここまで「悪」へと繋がるのかと驚嘆させられるだろう。食傷を来たす繰り返しな展開に難があるものの、一度は出会っておくべき「悪」がここにいる。

勝ち組負け組と叫ばれ始めた時世に投下された連作短編。リストラ専門会社「日本ヒューマンリアクト」の有能社員・村上真介が、言葉巧みに「……辞職します」とリストラ対象者を追い詰めていく。旧友を追い込む第三話「旧友」は、これからの“人要らず”の淘汰の時代、嫁に読ませておきたい一編。また、いわゆる“ダメな社員”とは何なのかを冒頭早々に残酷に提示してくれるので、新社会人は予習として読んでおくと良いかもしれない。プレゼントにも使える便利な良作。

☆☆  総評  ★★

個人的に第11回から 第20回までの山本周五郎賞の受賞作……というよりも、受賞作家たちは第10回までの受賞作家たちよりも、より《売れる》ためのステップ的な意味での授賞を感じてしまうのは、吉田修一の『パレード』や森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』があるからなのかもしれないが、何にせよ、基本的にどの受賞作も「質」が高いのは読み手としては喜ばしいところ。そんな中で、恩田陸の『中庭の出来事』に関してはそもそも選考作に挙げてきたこと/残してきたこと自体が失態だと思う。未読の方は未読のままがオススメです。さて、今回も著名作を選定してしまったが、選んだ4作はどれも他の受賞作よりも実際、頭抜けて「面白い」。『邂逅の森』と『血と骨』は、ボリューム(とマチスモな題材)の点で手に取るのが億劫になってしまうかもしれないが、両作ともにエロ有り!バトル有り!のエンターテイメントとして充足の逸品である。特に後者、『血と骨』は「極悪」金俊平の類い稀な存在感があり、忘れられるには惜しい。後世に繋げるためにも、若い読書家の方は是非とも押さえて頂きたい悪漢小説だ。選定より漏れたが、アルツハイマーに罹る前に!という意味で、『明日の記憶』も目を通しておきたい一冊。現実はそんな綺麗事で済まないとは百も承知の上で、やはり「前を向ける」エンディングが実に心地良い。意固地を溶かす『小田原鰹』、男は黙って、……!な『蟹』が収められている『五年の梅』は、まさしく《いぶし銀》な短編集。時代小説をさらっと読みたくなった時、手に取ってみてもまず損は無いだろう。個人的には琴線に触れなかったが、中山可穂の『白い薔薇の淵まで』は百合ものとして知名度高い一作。こちらも押さえておいて損は無いだろう。と並べてみても、あからさまな“地雷”は上述の『中庭の出来事』くらいなので、山本周五郎賞は信頼出来る販促賞と言えると思いますね、ハイ。さあ、次は第21回~第30回のリストを飛ばして(まだ第28回までしか発表されてないからね)、All Time Best!!を選定しようと思います。乞う、ご期待!

☆ 受賞作:点数一覧 ★

86  邂逅の森/熊谷達也  【第1位】

85  君たちに明日はない/垣根涼介  【次点】

84  

83  夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦  【第2位】

82  血と骨/梁石日  【第3位】

81   

80

79  

78  五年の梅/乙川優三郎

77  明日の記憶/荻原浩

76  覘き小平次/京極夏彦

75  パレード/吉田修一

☝  満足  ☟  普通


74  ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子

73  

72  

71  エイジ/重松清

70  

66  白い薔薇の淵まで/中山可穂

65  

64  安徳天皇漂海記/宇月原晴明

63

62

61  

60  泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織

☝  普通  ☟  不満


40  中庭の出来事/恩田陸

現在、2016年03月13日/修正

category: この受賞作を読め!

tag: OPEN 山本周五郎賞 この受賞作を読め!【山本周五郎賞】

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この受賞作を読め! 【山本周五郎賞:第1回 ~ 第10回!】


新潮社が開催した日本文学大賞の後継イベントとして1988年に創設された山本周五郎賞。2016年3月現在、第28回まで開催済みだが、ここではその第1回から第10回までの全11作の受賞作のなかから、【この受賞作を読め!】と銘打って3作+次点を選んでランキングしてみました。第11回から第20回の【この受賞作を読め!】も間を置かず制作予定。乞う、ご期待!ではでは、始まり始まり~。

* 作品タイトルをクリックすると、その該当作品のレヴューページに飛びます。

当時の社会関心であった《債務》を題材に、「最後の一行に犯人が出てくる小説」という着想から始まった宮部みゆきの代表作のひとつ。一時、インテリゲンチャたちに「昨今の文学作品よりも……」と称えられた《人間》に迫った筆は、たとえば不動産屋・倉田康二が語る離婚の理由に見い出せる。時勢を読んだ作品のためにやや黴臭くもあるが、08年発表の集大成企画「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベストでは第1位に選ばれた作品でもある。大衆小説の「古典」としても読まない理由は無い。

日本産のバナナとして世界に輸出される“吉本ばなな”。個人的に「ばななは『キッチン』さえ読んでおけばいい!」という持論があるものの、「吉本ばなな」という作家を知る上では押さえておきたい知名度高い一作。表題になっている「ヒロイン」つぐみは、出版から四半世紀過ぎた現在でもVividで、第1級のヒロイン格を保てているのは実際、素晴らしい。デビュー作『キッチン』と比すれば、洗練された天性の「筆」がここにある。

「希に見る美しい小説」と評されたことで知られる、稲見一良のレイ・ブラッドベリの『刺青の男』をモチーフにした短編集。翻訳小説を思わせる剛健な筆で読み手を選ぶ一作ではあるが、各短編で奇跡的な《数瞬》を力強く印象づけてくれる。そんな中で終章「デコイとブンタ」はやや毛色違うポップな逸品。デコイが空を飛んだ瞬間は、希に見る爽快感を与えてくれる。余談だが、本作も何気に上述の集大成企画「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベストに第6位にランクインしていたりする。

記念すべき山本周五郎賞の第1回の受賞作。自覚なく痩せ細っていく―――というホラー仕立ての物語ながら、アットホーム極まる“すき焼き小説”として名高い矛盾は、自分の目で確かめて頂きたいところ。新聞などさらりと引き合いに出される作品なので、押さえておくとお得感も。

☆☆  総評  ★★

芥川龍之介賞あれば三島由紀夫賞あり、直木三十五賞(以下、直木賞)あれば山本周五郎賞あり!という認識で実際、間違いないと思うが、大衆小説の販促賞として(直木賞と比すれば二格は落ちるものの)そこそこに浸透している山本周五郎賞。この第1回から第10回の《初期》とも云える段階でも、受賞者の顔ぶれは豪華絢爛。そうして、【この受賞作を読め!】と銘打って選んでみると、宮部みゆき、吉本ばななといったビッグネームのビッグセールスな作品をナンダカンダで選定してしまうイマサンな事態に……が、山本周五郎賞を総括する【All Time Best!!】では角度を変えて選び直していく予定。とりあえず、この稿ではベターに押さえておきたい作品を挙げておきました。何せ、1位と2位の作品は多作の両者の代表作に該当する作品だろうからね。未読ならば是非読んでおきましょう。両者のセンス欠いた近作しか読んでいない方ならば、「ああ、これは売れるわ」と認識を改められると思う。個人的なメインは第3位の『ダック・コール』、そして、次点に選んだ『異人たちとの夏』の選定。どちらも知名度は知る人ぞ知る程度だと思うが、前者は「希に見る美しい小説」という希に見る選考評を確かめるために、後者は“すき焼き小説”と謳われる所以を確認する意味でも、一読の価値があると思う。ところで次点は早々に決められたものの、実は3位はどれにしようか迷った。その迷った作品は船戸与一の『砂のクロニクル』、天童荒太の『家族狩り』。どちらも見た目(頁数)からして重厚で、実際に読んでみても膝をつきたくなるほど圧倒的な筆力で描かれているのだが、……凄過ぎて安易にお薦め出来なかったのが選外の決め手となった。また、江戸川乱歩のスランプ期を題材にした『一九三四年冬 - 乱歩』は耽美的な展開もあって女性受けしそうな印象もあり、この10回までの受賞作で3作挙げるならばダークホース的集票があっても不自然なことではないと思う。何にせよ、埋もれかけていて読めば(……拾い物!)な作品としては、個人的に『異人たちとの夏』を強く推したい。上にも書きましたが、“すき焼き小説”って人に薦めるときに言えるのが良いじゃないですか。勝手に(この人、読書家なんだ……)って勘違いしてくれますよ、きっと (๑´ڡ`๑)ブヒィ

☆ 受賞作:点数一覧 ★

85  火車/宮部みゆき  【第1位】

84  

83  砂のクロニクル/船戸与一

82

81  ダック・コール/稲見一良  【第3位】

80  家族狩り/天童荒太
    TUGUMI/吉本ばなな  【第2位】

79

78  一九三四年冬 - 乱歩/久世光彦
    異人たちの夏/山田太一  【次点】

77  奪取/真保裕一

76

75

☝  満足  ☟  普通


74  

73  閉鎖病棟/帚木蓬生

72  

71  エトロフ発緊急電/佐々木譲

70  

65  

64  

63

62

61  ゴサインタン -神の座-/篠田節子

60  

☝  普通  ☟  不満


59

現在、2016年03月13日/修正

category: この受賞作を読め!

tag: OPEN 山本周五郎賞 この受賞作を読め!【山本周五郎賞】

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第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子

ナイルバーチの女子会 (202x290)
(あらすじ)
ブログがきっかけで偶然出会った大手商社につとめる栄利子と専業主婦の翔子。互いによい友達になれそうと思ったふたりだったが、あることが原因でその関係は思いもよらぬ方向に……。

answer.――― 75 点
中二病、高二病、大二病、社二病―――昨今謳われる、いわゆる“イタい”人。目下、そんな“イタい”人を描かせたらこの作家より右に出る作家はいないのではなかろうか?第88回オール讀物新人賞を『フォーゲットミー、ノットブルー』という“羨望”と“嫉妬”、そこから女子の愛憎交錯させる歪な青春譚で見事に受賞、デビューを果たした柚木麻子。本作はそんな彼女が満を持して届けたかのようなイタさ極まる“ヴィクトリア湖の悲劇”ナイルパーチな力作。物語の幕はキャリアウーマンの栄利子と専業主婦の翔子、二人がブログをキッカケに出会うことで開く。視点は交互に入れ替わっていく形式だが、……まず(そして、終始)目撃することになるのは栄利子の狂気である。コミュ障とは何なのか?それは本作にてげんなりするほどに理解させられる。中盤、同僚に暴露まがいに追い詰められての「なんとかします!……ごめんなさい。私、一人でなんとかします。寝ますっ。このフロアの男、全員とセックスします。頑張ります。だから私を許して下さい」という栄利子の咆哮は、おいそれと拝めるものではない必見の場面。それがピークかと思いきや、その後もブレーキを踏む様子なくコミュ障具合はメンヘラへと昇華、加速していくのが恐ろしい。そして、そんな“イタい”栄利子のストーカーの被害者であるはずの翔子もヤバい。これは是非とも自分の目で、第三者の立場として確認して欲しい。「お、お前……!」と翔子の無自覚な狂気を目の当たりにした瞬間、肉食魚《ナイルパーチ》を表題に冠した意味とともに、どんなバッドエンドに辿り着くのかと《先》を見てしまう。本作が無自覚という仕掛け(構造)を用いての“イタい”人たちの一種のドキュメンタリーだと気づかされる。正直、面白くはない。読んで誰が得するのか解からない。ただ、“イタい”を突きつける力作なのは間違いないので、SNSの危険性を知らしめる意味でも推せる作品ではある。栄利子の外見の変化とか、細かいエンタメ的配慮があるのも好感。

第28回山本周五郎賞 受賞作:ナイルパーチの女子会/柚木麻子

category: や行の作家

tag: OPEN 70点 柚木麻子 山本周五郎賞

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第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

満願
1.夜警
2.死人宿
3.柘榴
4.万灯
5.関守
6.満願

answer.――― 80 点
2015年度の週刊文春の『週刊文春ミステリーベスト10』、宝島社の『このミステリーがすごい!』、早川書房の『ミステリが読みたい!』にて第1位を奪取!東野圭吾の『新参者』、横山秀夫の『64』の二冠を超え、三冠を達成!目下、最も「旬」なミステリー作家・米澤穂信の短編集。個人的に米澤穂信は“古典部”シリーズを始め、局所的に名を上げた『さよなら妖精』、《売り》に来た『インシテミル』ともハマらず、世間評と乖離のある作家の一人だったが、本作はいざ頁をめくってみれば早々に良い意味で裏切られた―――《人》が前面に押し出されてくるからだ。第1話「夜警」ではベテランの刑事を軸に、己の過去の経験から新人警察官(の性格&傾向)へ言及していく。そして、それが後に起こる事件への予告となっている。どの短編も目を瞠るトリックらしいトリックは無いが、何故、《過ち》(事件)が起こったのかを「起」→「転」→「結」→「承」と提示し、《過ち》起こる「承」を強く刻んでくる構造が余韻を増して楽しませてくれる。個人的なハイライトは第二話「死人宿」を挙げたい。思い寄せる人に言葉尻から「あなたは、自分が変わったと言った。でもそれは間違いだったみたいね」と己さえ気づいていなかった深層を見透かされる男の様には、思わず我が身を省みたくなった。《キャラクター》描くライトノベル作家からスタートして、《人》、あるいは《人間》を描くまで踏み込んできた作家としての伸長は実際、唸らせられる。第三話「柘榴」は乙一を想起させる歪な人間模様で、インスタントに楽しめる《キャラクター》も未だ描けることを主張しているようで面白い。ただ、バラエティには富むものの、いわゆる《代表作》にはなり得ない印象を持ってしまうのは、(短編とはいえ)登場人物それ自体に魅力が備わっていないからだろう。その意味で、本作の後に出版され、上述の三冠を再奪取することになる『王とサーカス』は私的米澤穂信の最高傑作で、是非と推薦したくなる。とりあえず、本作に関していえば、良質でしたよ、と。

第27回山本周五郎賞 受賞作:満願/米澤穂信

category: や行の作家

tag: OPEN 80点 米澤穂信 山本周五郎賞 本屋大賞

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第26回山本周五郎賞 受賞作:残穢/小野不由美

残穢
(あらすじ)
京都市で暮らす「私」の生業は小説家である。大人向け小説が中心だが、かつては少女向けにライトノベルやホラー小説を執筆しており、そのあとがきで読者に「怖い話」の募集を呼び掛けていた。その縁で、かつての読者から「怖い話」を実体験として相談されることがあった。

answer.――― 76 点
個人的に、小野不由美という作家を再考&再評価することになった作品がこの第26回山本周五郎賞を受賞した本作『残穢』。それというのも、大長編『屍鬼』、そして、小野不由美と言えば……!な著者の代表的シリーズ『十二国記』しか読んでいない身としては、あたかも半自伝的な書き出し―――<私>という作家を投入しての冒頭からのリーダビリティの高さには(……これは想定外!)な衝撃を受けた。小野不由美は、いわゆる「文章力」に定評がある作家だが、二作を読了してその定評には個人的に大いに疑問を持った。巧拙の判定を迫られるとすれば、迷わず「拙」のほうにベットする。小野不由美は《自分のために頁を割いている》というのが主たる理由で、この作家は「全て」を整えてから物語を動かし始める―――自分の筆がノるまで、読み手に我慢を強いる。あまりに駄文が多い。それが『屍鬼』、『十二国記』のどこまでも続く「冒頭」に色濃く刻まれていた。《小野不由美》という看板が無ければ、「面白かった」という評判が無ければ、個人としては読み止めていたと思う。がしかし、本作では冒頭より<私>という強烈なキャッチで読み手の心を掴み、あたかも実体験であり、現在進行形の実話のごとく静かに、おどろおどろしく進めていく。そうして、例によって怪奇な事象の発端へと遡っていき、「触穢」という《知識》を挿して読み手さえ巻き込み、そのホラー具合は頂点に―――!もっとも、箒から和服という謎解き、自殺の連鎖などショッキングな序盤、中盤は惹きつけられるものの、時々に挿される《知識》は仕掛けも兼ねているとしても冗長で、そこからかの呪いのテープの作品と重ねてしまえば興味も急降下してしまうのも否定出来ないところ。個人的には、ストーリーそれ自体より、どこからホラーが始まったのか?恐怖の種を植え付けられたのか?を探るのが本作の醍醐味かと思います。小野不由美を見直しました。

第26回山本周五郎賞 受賞作:残穢/小野不由美

category: あ行の作家

tag: OPEN 70点 小野不由美 山本周五郎賞

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第3回ラノベ好き書店員大賞 7位:未完少女ラヴクラフト/黒史郎

未完少女ラヴクラフト (202x290)
(あらすじ)
身心惰弱な少年カンナは、片思い中の女性の顔面に突如として開いた穴に吸い込まれ、異世界スウシャイへと迷い込む。そこで出会ったラヴと名乗る少女に救われたカンナは、少女が呪いによって「愛」に関する言葉を奪われていることを知る。クトゥルフ神話の祖・怪奇小説作家ラヴクラフトを美少女化!名状しがたき暗黒冒険ファンタジー。

answer.――― 69 点
《クトゥルフ神話》の創作者として著名なH・P・ラヴクラフトを美少女にして登場させ、氏の作品に関するキャラクター、町、etc...を自前のストーリーにコラージュしていく実験的な作品。この手のコラージュ作品で気になるのは、元ネタとなる作品(ここではラヴクラフトの作品群)の「読了」前提なのか否かだと思うが、余白が足りない!とばかりに挿される豆知識な脚注のお陰で、もはや一つの宇宙と化し、手を伸ばす気も失せている《クトゥルフ神話》未読者にとっては格好の予習ライトノベルとなっているのが嬉しい。当然、既読者は既読者で見解の相違を含め楽しめるだろう。難点は、一目見て解る当社比1.5倍の頁数。気弱な主人公が美少女ラヴクラフトと、化け物飛び交うコラージュな世界で「愛」を求めて驚いていく―――のは結構なのだが、やはり途中より情報過多となって集中力を削がれ、ストーリーを楽しめなくなる。この間延びな展開(場面)もコラージュの一環なのか?などと邪推してしまったのは、私だけではあるまい。クトゥルフ信者(著者)としては不満であってもコラージュを減らし、あくまで《ストーリー》がメインであって欲しかったのが正味な話。ただ、本作を読めば《クトゥルフ神話》への興味が高まるのは間違いないので、その用途でも手を伸ばす価値がある「物は試しに……」な作品。表紙のモノクロ具合は個性的でGood!黒史郎(くろしろう)と関係あるの、これ?

第3回ラノベ好き書店員大賞 7位:未完少女ラヴクラフト/黒史郎

category: か行の作家

tag: OPEN 60点 黒史郎 ラノベ好き書店員大賞

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