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第10回山本周五郎賞 受賞作:奪取/真保裕一

奪取
第1部 手塚道郎編
第2部 保坂仁史編
第3部 鶴見良輔編
エピローグ

answer.――― 77 点
冒頭の一文、冒頭の一節、序章(あるいは、一章)こそ、小説にとって本当の「顔」である。故に己の筆に矜持ある者ならば才を賭して「魅せてくる」もので、それは同時に作家としてのある種の「型(≠リズム)」を提示することになる。千差万別に思える書き出しだが、作家「自身」が(感覚的に)納得出来る書き出しは思いのほか少ないために、必然的に似通うものが出来上がる―――変えようと意図しないかぎりは。だが感覚でなく、理詰めで魅せようと意図すれば、それはそれで自ずと「型」は定まっていくもの。そんな冒頭より読み手を「魅せる」理詰めな「型」のひとつに、トリビアのような《知識》を溶け込ませた「型」がある。本作の書き出しはまさに「ソレ」。以下は、その主要部の抜粋だ。

試しに財布の中から、五千円札と千円札を取り出してみてほしい。そして、あらためてとくとご覧いただきたい。どういう好対照か、新渡戸稲造は白いネクタイで、その反対に、夏目漱石は黒いネクタイを締めている。もしかすると聖徳太子と伊藤博文から切り替わった時に、少しは話題となったのかもしれないが、そんなこと、おれは今までちっとも気づかなかった。これは、新渡戸稲造のほうが、養女の結婚披露宴の際に写した記念写真をモデルにして肖像画が描かれ、夏目漱石のほうは、明治天皇が崩御したのを悼んで黒ネクタイを締めていた時の写真を参考にしたからである。

へえ、と唸らせれば著者の「勝ち」。たとえ以降の展開がしばしイマイチ、イマニでも、読み手の採点は甘くなる。人間、《知識》を与えられた時点で相手を敬ってしまうからだ。さて、本作は借金返済のため、偽札作りに挑む主人公とその友人たちの顛末。作品としては《偽札作り》という1テーマに対して三部構成と大掛かりなもので、正味な話、途中で食傷を来たしてしまうのが難点。それでも、随所で披露される軽犯罪&「札」を中心としたトリビア、893絡むスリリングなイベントの数々はエンターテイメント性抜群で、まさに重版出来の内容。残念ながら上述の抜粋からも察せられる通り、《知識》に賞味期限切れが起こっているが、作品世界の雰囲気作りには貢献出来ているのでそこはさして気にはならないだろう。《知識》に拘った石田衣良な趣きもあり、―――これぞ現代の大衆小説!と謳える作品だ。ただ、やはり冗長なのは否めないので、場合によっては<読み飛ばす>のも最後まで楽しむための工夫かな、と思います。上下巻、合わせてのレヴューです。

第10回山本周五郎賞 受賞作:奪取/真保裕一

category: さ行の作家

tag: OPEN 70点 真保裕一 山本周五郎賞

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