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講談社文庫:空の境界/奈須きのこ

空の境界
(上巻)
1.俯瞰風景 Fujoh Kirie
2.殺人考察(前)Ryohgi Siki
3.痛覚残留 Asagami Fujino
(中巻)
1.伽藍の洞 「 」
2.境界式
3.矛盾螺旋 Enjoh Tomoe
(下巻)
1.忘却録音 Kurogiri Satuki
2.境界式
3.殺人考察(後) Sirazumi Rie
4.空の境界

answer.――― 85 点

奈須きのこを語る場合、直喩と隠喩……比喩に比喩を重ねる独特の文体について言及しないことには始まらない。殊更、<造語>の凄味を取り上げられる著者だが、んなのは厨二病罹患者のアレルギー反応だ。即刻、近所のDr.マシリトにキャラメルマン4号に改造してもらいなさい―――(キーン!でございまぁーす!!)。さて、比喩に比喩を重ねる。これがいったい全体、どういう意味を持つのか?と云えば、ぶっちゃけ、意味を為さない。そもそも比喩とは<騙し>のテクニックの一種で、<無いものを在るように>置き換える手段のひとつだ。「君は黄金の左を持っている!」「彼女は薔薇のような女さ」など、よくよく考えてみれば、その内容はこちらが類推するしかない。それでも通じる。通じてしまうところに妙技がある。その妙技を重ねたのが、比喩の錬金術師―――奈須きのこである。一例をコメント欄にて添付しておくが、ご覧の通りだ。その言葉遣いは詩情豊かとも云える。本来、比喩を重ねると意味がぼやけるだけで文章として機能しないものだが、奈須きのこはその機能美を損なわない限界を攻めながら、読者を意味のぼやけた倒錯の世界へと誘う……そこに待つのは<死の線>、そして、<ナイフ>である。二年間の昏睡から目覚めた両儀式が記憶喪失と引き換えに手に入れた、あらゆるモノの死を見ることの出来る“直死の魔眼”―――。一章につき一人以上の怪死伴う本作は、もはや伝説となった同人小説から出発し、“新伝綺ムーヴメント”を打ち立てた歴史的傑作(作品紹介参照)。“新伝綺”云々は講談社が自作自演で謳っているだけだが、伝説の件(くだり)はあながちと言わず、本当である。事実、おそらく“売り、……殺す!”と怨念を込めて本作を改訂したと思われるヴィジュアルノベル『月姫』(18禁)は同人活動を、アンダーグラウンドをある種の<ブランド>へと押し上げた。その辺の詳細はWikipediaに任せるとして、本当の問題は本作(及び『月姫』)によって、ヲタクと呼ばれるピーターパンたちにナイフを買いに奔らせたことにある。これは十分以上に禁固刑に値する。私は奈須きのこを乙一西尾維新と合わせて<三大犯罪者>などと冗談半分に括っているが、冗談じゃない半分はすべて奈須きのこ一人が担っていると言っても過言ではない。本作は間違いなく発禁書である、それ程に<格好良い>。詰まるところ、そこへ帰結する。何故に同人小説が出版社に「是非、うちで出版を!」と頭を垂らさせるほどに人気を得たのか?ピーターパンたちがナイフを買いに奔ってしまったのか?昔の人が騎士に、侍に憧れた理由と同じなのだ。本作は家で夢見るピーターパンが求める現実的な<格好良さ>が詰め込まれた小説。冒頭に言及したように、奈須きのこの文体は非常にユニーク。その点だけを鑑みても一読する価値はあるだろう。00年代以降の作家たちにとっての実質的なマイルストーン。

講談社文庫:空の境界/奈須きのこ (2004)

category: な行の作家

tag: OPEN 80点 奈須きのこ 三大犯罪者

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コメント

一例

その日、帰り道に大通りを選んだ。
自分にしては珍しい、ほんの気紛れである。
見飽きたビル街を呆と步いていると、
ほどなくして人が落ちてきた。
あまり聞く機会のない、ぐしゃりという音。
ビルから墜ちて死んだのは明白だった。
アスファルトには朱色が流れていく。
その中で原形を留めているのは長い黒髪と。
細く、白を連想させる脆い手足。
そして貌の亡い、潰れた顔。
その一連の映像は、古びた頁に挟まれ、
書に取り込まれて平面となった押し花を幻想させた。

―――おそらくは。
首だけを胎児のように曲げたその亡骸が、
私には折れた百合に見えたからだろう。

参照:空の境界(上)

Medeski #- | URL | 2011/11/29 17:33 | edit

こんばんは!

スゴイ、この作品高評価なんですね。
実は自分、かなり以前に読んで…ダメでした…。
文体が格好良すぎてちょっとついていけなくて(>_<)
やっぱ自分はセンスが無いのだわ…。
もう一度読み返そうかな。

惺 #- | URL | 2011/11/29 23:40 | edit

有名ゆえになかなか食指が伸びなくて読むに至らなかったけれど、
Fate/Zeroで興味をそそられこのレビューを決め手に完全に買う方向に傾いた。
「現実的な<格好良さ>」に期待している。

Axshynu #QUkHCyb. | URL | 2011/11/29 23:57 | edit

Re: 惺

コメント、有難うございます!

いやいや、本作がダメだったのは惺さんがピーターパンシンドロームに罹っていない証拠。むざむざお空を飛ぼうなんて思ってはいけません。90点と高く配点しておりますが、<パイオニア>という事実とレヴューに書いた文体、ついでに、第一章が個人的に好みだったというだけで、心からオレは楽しんだ!楽しんでやった!という作品ではありません。実際、本作、同人誌としてだしたときは数冊しか売れなかったりして、ノベルゲームにして爆発的に売れたのです。だから、リトマス試験をしたいなら、ゲーム版の『月姫』をやってみると良いかもしれませんね。ヒロインとズッコンバッコンしますけど、絵がついているので何が描かれているのか小説とは違ってよく分かります。

ただ、文章に関しては実際、真似しようと思ってもなかなか出来ない文体だと思います。ある種の素養は間違いなくあると思いますねハイ。

Medeski #- | URL | 2011/11/30 00:32 | edit

Re: Axshynu

コメント、有難うございます!

> 「現実的な<格好良さ>」に期待している。
まあ、待て。君がピーターパンだったら<現実的>な格好良さに思うかもしれないが、単なる常識人なら(○゚ε゚○)プッ!!シノセンッテ何ダヨ!?って常識的なツッコミをすること請け合いだ。上のコメントでも書かせて頂いたが、本作、第一刷時、まったく売れなかった事実がちゃんとある。自信を粉々に砕かれた奈須きのこがメチャクチャ落ち込み&怒り狂って、ヴィジュアルが合って受けやすい設定に作り変えた『月姫』になったのだ。だから、ルート的には月姫を先にやって、本作を読むのが王道だぜ?

もっとも、俺ほどの者となると、内容が面白くなくても、すぐに作家の実力に気づいてしまうからな。比喩の特殊性に興味津津、あそこビンビン(ヒソカ風)になっちゃってそれなりの評価しちゃうけどYO!

Medeski #- | URL | 2011/11/30 00:40 | edit

この本読んだ時は本当に衝撃でした。
舞城王太郎や西尾維新といった確固たる個を持つ作家との出会いはある種の気持ちよさがあります。
メフィスト賞でそういった作家を生み出している講談社はその点で凄いと思ってます。

にとり #vkNSREAg | URL | 2011/12/13 17:42 | edit

Re: にとり

コメント、有難うございます!

私は必ずしもメフィスト系の作品に対して好意的では無いのですが、本作ではレヴューにも書いたように、比喩への取り組みが素晴らしいと思います。もちろん、本人の天性とも云える素養なので、意識的に取り組んでいるものではありませんが、文学を好む我こそインテリ、漫画、大衆、皆低俗と見下す連中に是非、読んで頂きたい。そして内容しか見ず、奈須きのこの比喩の錬金術に気づかないという手落ちをして欲しい。その結果、お前も低俗、と俺に爆笑されて欲しい。

私の暗黒面を披露してしまいましたが、奈須きのこには文章面でもっと脚光を浴びて欲しいですね。おそらく、にとりさんには「分かってねえなぁ」と思われてしまうかもしれませんが、個人的には西尾、舞城には「真面目」な作品を一度創って欲しいです。キャラクターではなく、人間を描いたとき、どんな作品になるのかいつも興味を持っています。

Medeski #- | URL | 2011/12/14 07:03 | edit

読了につき

上下未来福音全てを読了したわけだが、なかなか面白かったなと。
ただ、開拓された層に居座っていた読者としては何がどう開拓されていたのかがいまいち分からないのが正直な所。
しかし、"比喩の錬金術師"という表現には凄く納得した。自分レベルの読者だと言われなければ気づけなかっただろうが確かに凄い。文章は回りくどいとも言えるが評価されるべき所であると思う。
絶賛Fate/stay nightをプレイ中でこのまま奈須信者になりそうだ。
しかし、残念なのはナイフを買い求めたい衝動に駆られなかった事だ。
こんなに上質なレヴューを読んだ後に奈須の文章に触れられた事に感謝している。

Axshynu #74WU3Slc | URL | 2012/01/04 17:47 | edit

Re: Axshynu

読了報告、苦しゅうない。しかし言っておこう、いや、繰り返しになるな―――俺は<空の境界>を確かに誉めているが、この作品で奈須きのこを三大犯罪者に数えているわけではない。すべては<月姫>だ。あのエロ「同人」ノベルゲームをやらないことには奈須の正確な評価は出来ない。もっとも、俺はレベルEの文学的教養とセンスを持つアモンの再来と呼ばれる天才の純血種故に、奈須などスパンキングの対象以外、何とも思わんがな!

> しかし、"比喩の錬金術師"という表現には凄く納得した。

どうやら、君も私、Medeskiに付き従うアモンの一門のようだね。アモンの一門になれば、たくさんの特典がついてくるよ。さあ、我が門を叩きなさい。 ← ↑ 中二病っぽくコメント返そうとしたら、方向が分からなくなってきた。

> しかし、残念なのはナイフを買い求めたい衝動に駆られなかった事だ。

君はどうやら常識人のようで安心したよ。でもね、<月姫>をプレイしてからだよね。万が一、ということもあり得るからね。

> こんなに上質なレヴューを読んだ後に奈須の文章に触れられた事に感謝している。

お前の気持ちはよく分かった、その気持ち、ちょっとニコニコ生放送で流してこい!さんきゅー!

Medeski #- | URL | 2012/01/04 21:56 | edit
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