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第2回本屋大賞 9位:私が語りはじめた彼は/三浦しをん

私が語りはじめた彼は
1.結晶
2.残骸
3.予言
4.水葬
5.冷血
6.家路

answer.――― 82 点

三浦しをん、巧いな……と改めて思わせてくれる連作短編。著者の「王道」をあくまで歩もうとしないその姿勢は清々しくさえ映る。ここでいう「王道」というのは扱う題材どうこうではなく、その構成。本作の概要は、女垂らしの大学教授が怪文書で脅され、離婚し、再婚し……といったところなのだが、本作における視点(語り手)は教授の助手、教授の浮気相手①の夫、教授の息子、愛人の連れ子の監視者、教授の正妻(前妻)の娘の婚約者、再び助手―――となっており、肝心の物語の中核を為す教授とW不倫の果てに正妻に納まる愛人、この二人の視点が「無い」。当事者の視点を用いないまま物語が閉じられることは間々あるが、事の発端である愛人の視点まで採用しなかったのはかなり意外だった。事実、結婚するために教授のキャリアさえ傷つける脅迫状を正妻に送る、自分の娘さえやがて「女」と見做し疎外する、教授が死して尚、参列者の女に憎悪する……なんて気狂い染みた嫉妬女の視点は、誰が書いてもまず<面白い>ものになっただろう。それを敢えて書かず、書かないことによって読者に謎の余韻として残す。読者がその余韻の正体を探ろうとすると、……あまりに見事な<醜さ>が演出される、と。描かないことでこの愛人の強烈な醜悪性を綺麗に描いた点を私は称えたい。三浦しをんは、本当に「巧い」。こうなってくると文学方面に進出するのか気になってくるが、個人的な雑感としては<書けない>気もする。その理由は本作がその文学面に踏み込んだ感があるにもかかわらず、やはりエンターテイメントに気を配ったからだ。登場人物に理不尽な行動が見当たらない。読者にとても優しい故に、「人間」を描く文学は向いていない気がするのよね。

第2回本屋大賞 9位:私が語りはじめた彼は/三浦しをん

category: ま行の作家

tag: OPEN 80点 三浦しをん 本屋大賞

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コメント

こんにちは

なるほど、楽しいレビューですね。
私もそう思います。
物語の面白さを超えるような人物描写は望めない気がして。

三浦しをんは人物書きではないのかな。
人付き合いが苦手そうです。
踏み込み切らない距離感があるから、清潔な印象を放っていて、面白いなと思っています。

ごろちゃん #- | URL | 2012/06/02 12:03 | edit

Re: ごろちゃん

コメント、有難うございます!

> 物語の面白さを超えるような人物描写は望めない気がして。

この表現の仕方、面白いですね。いつか私、パクる気がしますので、―――その時はご容赦ください!

> 踏み込み切らない距離感があるから、清潔な印象を放っていて、面白いなと思っています。

エゴイスティックなモノは文章構成とかには感じるのですが、登場人物にはあまり感じないんですよね。私はこういうコントロールフリークな作者が好きなので、相性がいいのかもしれません。

Medeski #- | URL | 2012/06/02 12:49 | edit
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