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第7回本屋大賞 5位:猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子

猫を抱いて象と泳ぐ
(あらすじ)
『博士の愛した数式』で数字の不思議、数式の美しさを小説にこめた著者が、こんどはチェスというゲームの不思議、棋譜の美しさをみごとに生かし、無垢な魂をもったひとりの少年の数奇な人生をせつなくも美しく描きあげました。“伝説のチェスプレーヤー”リトル・アリョーヒンの、ひそやかな奇跡を描き尽くした、せつなく、いとおしい、宝物のような長篇小説。

answer.――― 84 点

向き、不向き……職業やスポーツなど、様ざまなジャンルで用いられる言葉だが、文章にもそんな言葉が当て嵌まるときがあるように思う。そのあらすじだけで手に取りたくなる『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞しているように、文学畑出身の小川洋子が筆を執る本作は、チェスを題材にしたファンタジー。本作で私がもっとも心惹かれたのは、元より定評のある抒情性溢れる著者の文章。作中、チェスの動きを<詩>と説くのだが、こういう自らにハードルを課して、そこをしっかり飛び越えてくる作家としての気概は胸打たれる。チェスのルール、そもそもの勝敗の駆け引きは分からなくても、主人公の心内描写、その表現で楽しませるのは漫画『ヒカルの碁』に通じるものがある。ストーリーそれ自体は、純真な心を持つ内向的な主人公がチェスと出会い、ひっそりと続けていくなかで、汚れたチェスの世界に巻き込まれ、傷つき、それでも立ち直り、ひっそりと終わりを迎える……そんな美のための美を追求する耽美主義が根付いたようなもので、著者の文章が透明感を持って美醜織り交ぜた世界観を見事に表現。個人的には主人公がからくり人形リトル・アリョーヒンとなる中盤の展開は結果的には良しとも思えるが、ファンタジーに寄り過ぎた感もあった。もっとも、その山場である人間チェスでのミイラ投入は、思わず天を仰いでしまう哀しさながらも、作品としての仕事点は高い。感涙のシーンは、「あなたに初めてチェスを教えたのがどんな人物だったか、私にはよく分かりますよ」がブーメランとなって戻ってくる老婆令嬢との再会だろう。また、ラストでの愛するミイラとのすれ違いも、この作品を最後まで貫く「喪失」に相応しくどこまでも美しい。静かに、ただ静かに心洗われる一作。この文に、この設定―――おそらく、著者の最高傑作でしょう。【推薦】させて頂きます。

第7回本屋大賞 5位:猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子  【推薦】

category: あ行の作家

tag: OPEN 80点 推薦 小川洋子

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コメント

こんにちは。

小川洋子の中でも、一つ上に悠然としている作品ですね。
私も別格で好きです。

話が偏りますが。
ドリカムの吉田美和は無類の読書家で、子どもの頃から本の虫だそう。
残念ながら日本の作家で好きになる人がいないという理由で、自然と海外物を手にしてしまうようです。(言語でも読めるだろうしね…)

そんな彼女が友人に勧められて読んだ「猫を抱いて…」は、久しぶりの当たりだったとか。
日本で唯一違うものを感じる作家さんとして紹介されていたのを、興味深く読みました。

人形の中の空洞が、美しくて哀しくて。
この先もずっと残る作品になるでしょうね。

ごろちゃん #- | URL | 2012/06/11 13:18 | edit

Re:ごろちゃん

コメント、有難うございます!

> 小川洋子の中でも、一つ上に悠然としている作品ですね。
> 私も別格で好きです。

私はレヴューしている作品を含め四冊しか読んでいないのですが、その中での雑感で、この要素とこの要素とこの要素があれば、この作家の最高傑作が出来るんだろうな―――と思ったら、揃えてきたのが本作でした。他にももしかしたら揃えてきた作品はあるのかもしれませんが、この人、基本的に耽美主義に傾倒しているような気がするので、チェスを題材にしてきたこの作品はまさに画竜点睛を見た気分でしたね。

> 話が偏りますが。
> ドリカムの吉田美和は無類の読書家で、子どもの頃から本の虫だそう。> 残念ながら日本の作家で好きになる人がいないという理由で、自然と海外物を手にしてしまうようです。

多分、エンデとかが好きなんでしょう。日本人にはあの手の作品は作るのが難しいと思います。吉田美和の歌詞は個人的にバブリーなものを感じてしまって好きではないのですが、芸術家を気取った歌詞を書いてくれるなら是非、読んでみたいですね。いや皮肉じゃなくて、多分、彼女、シュールな歌詞が実は「巧い」ハズなのです。もちろん、そんな歌詞は見たこと無いのですが、私の直感がそう言っております。

溶けてる時計のネジを巻いて 時間よ戻れと願っているの オレンジ色の夕焼けがそばまで近づいて 私が恋してるってバレたかな

とか、これはもっと昇華する感じで。吉田美和は恋だの、愛だので個人的にいつもブレーキしているように感じて、残念なんですよね。横道にそれてしまいましたけど、無類の読書家、本作が好き、エンデ好き(俺の想像)で凄い納得した次第です。

Medeski #- | URL | 2012/06/11 14:17 | edit
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